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急速に高齢化していく大阪を「ええまち」にするカギは「互助」と「プロボノ」

若者からシニア層までオール大阪で住民主体の「介護予防」や「生活支援」などの活動を応援する「大阪ええまちプロジェクト」。その仕掛け人である大阪府介護支援課長の菱谷 文彦氏の講義をご紹介します。

*この記事は、2017年7月19日開催、社会課題の最前線で活動する各分野のスペシャリストをゲストに迎え、その深い知識と洞察を得て、「楽しく」「まじめに」”ホント“のところを見つめる<大人の社会科見学in OSAKA 「高齢社会のホントのトコロ」の内容をもとにしています。

-社会保障費をめぐる現状とは?-

〜医療費と介護費の現状

はじめに制度の現状について説明します。
医療には診療報酬、介護には介護報酬があります。診療報酬は2年に一回、介護報酬は3年に一回改定します。また、介護は3年に1回、医療は6年に1回、事業計画を策定しています。
今年は、まさしく6年に一度の医療・介護の計画の同時改定を行う年。そして、計画の見直しに合わせ、来年度からは診療報酬、介護報酬も変わります。そのため、今年は医療、介護について考えていかなければいけない年と言えます。

次に政府の財政状況について。平成29年度、約97兆円の一般会計歳入総額のうち、34兆円は国債と地方債を合わせた公債。一般歳出(*2)の6割弱は社会保障費で占められており、約33兆円かかっています。
(*2)一般歳出とは、一般会計歳出総額のうち、国債、地方交付税交付金等を除いたもの。
社会保障費はその全ての負担を税金で賄っているわけではありません。平成28年度のデータになりますが、保険料が約6割、税金は約4割となっています。また、給付の内訳は、大きいものから順に年金、医療、そして、介護を含む「福祉」になっています。

社会保障の給付と負担の現状
図1

社会保障費のそれぞれの伸び率ですが、年金の伸び率は比較的大きくありません。人口構造が予測でき、それを見越した制度設計となっているからです。今後、大きな伸びが予測されるのは医療費と介護費であり、とりわけ介護費の伸び率の方が高くなるだろうと予想されています。
一方、必要な社会保障財源を確保するために国が実施しようとしたのが「社会保障・税一体改革」。これは消費税を5%から10%に引き上げ、5%の増収分を、4%を財政再建へ、1%で社会保障を建て直しすることが予定されていました。しかし、消費税の増税は二度に渡って延期されている状態で5%の増収には至っていません。

-高齢化社会が意味すること-

〜時々病院、ほぼ在宅の暮らしを考える

人の生涯を通じて給付と負担のバランスを見ていくと、まず子どもにはお金がかかりますが、成長するに従って緩やかになり、高齢期にもっとも給付がかかります。一方、負担が大きいのは就労している世代です。
生涯でみた給付と負担のバランス
図2

家族形態の変化に注目すると、昔は孫も含めた三世代同居も多かったですが、今は高齢者の単身世帯が増えています。
また生涯を終える場所も変わっています。昔は自宅で亡くなる方が多かったのが、今は病院がほとんどです。ところが、最期を迎えるのはどこが良いですか?という質問には「できる限り自宅で」という回答が多く、ほとんどの高齢者が住み慣れた我が家で人生を全うすることを希望しています。
ライフサイクルも変わってきています。昭和36年は60歳で定年退職して余生10年強を過ごすという時代でした。それが今は65歳で退職しても男性で15年以上、女性に至っては20年以上生きることになります。

ライフサイクルの変化

図3

平均寿命が延びるのは良いことです。しかし、2001年から2013年にかけて、男性は+2.14歳、女性は+1.68歳平均寿命が伸びていますが、健康寿命の伸びは男性が+1.79歳、女性が+1.56歳に留まっています。すなわち、平均寿命の伸びに健康寿命の伸びが追いついていないのです。そんな中、2015年から2040年にかけて平均寿命は、更に男性で+2.52歳、女性で+2.64歳伸びていくことが見込まれています。
高齢者の数が少なく、平均寿命が短かった時代は、病院で長期入院している方がいても持続可能な社会だったかもしれません。しかし、21世紀はそうはいきません。何らかの医療などを受けながらでも、可能な限り、本人が望む限りにおいて、在宅で暮らし続けられるような社会、「時々病院、ほぼ在宅」を実現していく必要があります。
その一方、医療や介護を必要としている人達を支える専門職の人数も不足していくことが見込まれています。介護人材を育成していくことも大事なことですが、人口減少社会において、介護人材を増やすことばかりを考えるのは現実的ではありません。
専門職だけでなく、「互助」が重要になってくるでしょう。地域の中での支え合いの力も借りながら、「地域包括ケアシステム」を地域ごとに構築していく必要があるのではないでしょうか。

-大阪府が抱える介護施策の課題-

〜要介護認定率の高さ、要支援1、2の軽度者の多さ~

大阪府の介護の状況にはいくつかの特徴があることが分かっています。介護費が大きい順に並べると、全国的には、①特養、②デイサービス、③老健施設、④訪問介護の順になることに対して、大阪府では一番に「訪問介護」が来るなど、「居宅サービス」に大変介護費がかかっています。

大阪府の介護費の構成(総介護費用の内訳:年額)
図4

また、厚生労働省の分析によると、大阪府は要介護認定率が一番高く、被保険者一人あたりの介護費(*2)も全国で一番高いです。
(*2)被保険者一人当たり介護費は、次の3つの要素:①「介護サービス利用者の一人当たりの利用額」、②「認定者の中で介護サービス利用している人の割合」、③「要介護認定率」の掛け算で算出します。

被保険者一人当たりの介護費が高い理由については、①介護サービス利用者の一人当たりの利用額や、②認定者の中で介護サービス利用している人の割合が高いわけでもなく、③要介護認定率が高いことが原因になっていることがわかっています。
年代別での要介護認定率をみると、男女とも、60代、70代、80代、いずれの年代でも全国で一番高い状況となっています。ただし、要介護度別にみると、全国平均との差分の約6割は要支援1,2の軽度者が占めています。要支援1,2の方は、自分で立ったり座ったりという動作はできますが、爪切り、買い物といった日常生活の一部ができなくなってきていると言われています。
要支援1,2になる原因をみていくと、関節疾患、転倒、骨折、高齢による衰弱などが約5割を占めています。加齢とともに心身の機能が低下して、要介護状態や死亡の危険性が高くなった状態のことをフレイル(虚弱状態)と呼んでいます。このフレイルの原因は閉じこもり、低栄養など、複数の要因が絡まっていますが、適切な介入と支援を行うことで、生活するための身体機能の維持や向上ができる方も多数いらっしゃられると考えられています。
すなわち、大阪府の高齢者のQOLを改善するとともに、要介護認定率を改善していくためには、軽度者のケアマネジメントを見直していく必要があります。この際、こうした軽度者が多い実態と、居宅で訪問介護サービスを多用している実態との関係性をよく見ていく必要があると考えられます。

また、大阪府の要介護認定率が高くなっている原因は、単身世帯率、所得状況などいろんな要因と関連しています。例えば、65~74歳の前期高齢者の要介護認定率と就労率との間には負の相関がみられるようです。健康でないから働けないのか、働かないから不健康になるのかは一概には言えませんが、「就労」を社会参加の一つの形と捉えた場合、大阪府の前期高齢者は「社会参加」に関する課題を抱えていると言えるのかもしれません。

前期高齢者(65~74歳)の就業率と要介護認定率の関係性
図5

府内市町村だけの分析にはなりますが、軽度肥満者が多い自治体は介護認定率が高い、喫煙率が高い自治体は介護認定率が高い、検診受診率が高いと認定率は低い、といった健康意識の差による違いも現れているようです。
では、高齢化することで認定率が高まるのでしょうか。日本全国で傾向を見ると正の相関が現れていますが、大阪府に着目すると相関関係は薄いことがわかっています。
次に、2010年から2015年にかけて、何パーセント高齢化率が進展し、何パーセント認定率が上がったかを見たのが次のグラフです。これを見ればわかるように、全ての都道府県、府内市町村で高齢化は進展している一方で、要介護認定率の伸び率には差異があります。むしろ、認定率が下がっている自治体さえあります。自治体ごとの介護予防や適切なケアマネジメントの取組状況によって、高齢者の健康状態に差が出ていると言えるのかもしれません。

要介護認定率伸び率と高齢化伸び率【2010年→2015年】
図6

-大阪府における対応の方向性-

〜高齢者の社会参加が自立的な介護予防につながる

一番大切なことは、高齢者のQOL(Quality of Life)を高めることです。

大阪府では、特に、状態像が悪化し始めた要支援1、2の軽度者に対して、状態像の維持・改善のために必要なサービスが提供されることが重要であって、介護度を悪化させかねないようなケアが提供されていないかをよく見ていく必要があると考えています。
例えば、入浴が難しくなってきたからといって、はじめから、デイサービスでの入浴サービスの利用を促す「お世話型のケアマネジメント」ありきではなく、まずは、なぜ入浴が困難になっているかということのアセスメントをきっちり行っていくことが重要です。お風呂に入りにくくなっている原因が、下肢筋力が低下しているからなのか、下肢筋力が低下しているのは低栄養が原因だからなのか、そもそも低栄養なのは義歯があっていないので食事が十分に取れない、というようなことがないのか、を分析した上で、その原因に合わせた対策を考え、本当は自分でお風呂に入りたい高齢者を、自分の力でもう一度お風呂に入れるようにする「自立支援型のケアマネジメント」こそ、本当に求められているのではないでしょうか。
こうしたアセスメントは、ケアマネさんが一人で考えるのは難しい場合もあるでしょう。このため、大阪府では、「地域ケア会議」の場で多職種連携の様々な視点から原因分析を行ってもらい、適切なケアプランの作成につなげていってはどうか、と考えています。
また、フレイル(虚弱状態)を未然に防止するためには、高齢者の健康意識を高めることに加え、積極的な社会参加を促していくことも重要だと考えています。
「大阪ええまちプロジェクト」では、高齢者の社会参加をどう促していくのかということに取り組みます。高齢者の方々に地域で活躍してもらう機会を作っていくことで、高齢者の方々にとっての居場所と出番、役割ができてくれば、結果として介護予防にもつながるのではないか、と考えています。例えば、高齢になるにつれ、だんだん難しくなってくるゴミ出し・買い物などの生活支援ニーズに関する地域課題に対して、地域の高齢者が担い手として楽しみながら住民主体型サービスの提供に関わっていってもらうことで、参加者自身の社会参加と介護予防が図られ、なおかつ、地域における互助の創出を通じて、結果として、介護ニーズ等も減らしていくことが可能になれば、理想的と言えるでしょう。
総合事業の目的は、まさしく、介護予防と高齢者の社会参加を両立しながら、一方では、地域において必要とされる生活支援サービスを産みだしていけないか、というものです。少し虫がよすぎるかもしれませんが、地域において、高齢者の居場所と出番を作っていくことが、これらのカギになってくるだろうと考えています。

一方、総合事業の実施に当たっては、住民主体サービスをどのように掘り起こしていくか、どのように住民にアプローチをすれば良いのか、という課題があり、従来のお役所仕事とは異なるスキルが求められていると言えるでしょう。地域に潜在している住民の互助活動を掘り起こし、住民主体型サービスにつなげるために配置された「生活支援コーディネーター」は、ともすれば地域で孤立し、支援のノウハウも必ずしも十分ではないのが実情ではないでしょうか。
こうした現状を踏まえ、大阪府では、今年度、地域における「住民主体型サービス」の創出・拡充を支援するため、先進NPO、社協などが一体となって取り組む事業「大阪ええまちプロジェクト」を始動させることとしました。

具体的には、広域的な保険者(市町村)支援策として、先進NPO、社協等が一体となって側面から支援(中間支援)を行うことで、好事例やノウハウを集積した上で、HP等で横展開していくことを考えています。
中間支援の体制としては、企業人等が培った経験・スキル等を活かしたボランティア活動「プロボノ」の着眼力と実務力を活用した「プロジェクト型支援(伴走型支援)」を大きな柱に据えています。
一方、プロボノ支援の事例だけではなく、大阪府社会福祉協議会、ボランティア協会、日本アクティブライフクラブ、寝屋川あいの会、といった大阪府内で継続して活動を続けられている先輩団体が、地域貢献団体の悩み事の相談を受けて解決する「個別相談型支援(随時対応型支援)」も並行して行っていく予定です。
また、生活支援コーディネーターに対しては、ブロック会議の開催やSNSによる交流等も通じて、更なる連携強化や好事例の共有等によるスキルアップを目指していきたい、と考えています。

行政だけでなく、生活支援コーディネーターだけでもなく、社協やサービスグラントさんだけでなく、プロボノも高齢者も、オール大阪で「互助」を作り出していくための「仕掛け」の一つになればよい、と考えています。
是非、この大阪ええまちプロジェクトで先例を作っていくことで、事例共有を図っていくとともに、「互助」創出に向けた機運が少しでも高まっていけばよいと考えています。
こうした取組みにあたっては、企業等で活躍されている「プロボノ」さんの着眼力、実務力こそが頼りであり、大阪を「ええまち」にしていく活動での活躍に大変期待しています。

資料出典

図1 平成28年9月15日付け経済財政諮問会議社会保障ワーキング・グループ資料3-1より
図2 平成24年版厚生労働白書P16より
図3 平成24年版厚生労働白書P150より
図4 介護給付費実態調査(平成27年5月〜平成28年4月審査分の累計)
図5 (総務省)H22年国勢調査、(総務省)人口推計(26年10月)、(厚生労働省)H26年介護保険事業状況報告
図6 地域包括ケア「見える化システム」を活用してグラフ化

当日利用のスライドはこちら

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