データ活用で見えてくる地域の姿と住民主体の地域づくりを後押しする方法/2023年度市町村向け地域づくり研修会から
2023年8月22日
大阪ええまちプロジェクトでは、府内の市町村職員や生活支援コーディネーターの取組のヒントにつながる各種研修プログラムやサポートを提供しています。
超高齢化・少子化に加えて人口減少も進むこれからの時代・社会を前に、地域の力を引き出し、住民主体の地域づくりを積極的に後押しするためには、「データ活用」によって地域の近未来を予測し、地域の現状と課題・リスクに我が事として理解し、「協働」によって予防策を取りながら、住民とともに未来の地域像を考えることが地域づくりにとって重要です。
2023年度に2回にわたり行われる「市町村向け地域づくり研修会」では、地域づくりの材料として「データ活用」の意義や必要性、分析手法、また地域へのフィードバックについて、講師に川北秀人さん(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)をお迎えし、講義とグループワークを通して参加者の皆さんが学んでいきます。
本記事では、2023年6月16日に大阪市中央区で行われた第1回目の研修での川北さんの講義内容から、大阪府内の高齢化の現状・予測と、地域への伝え方をお伝えします。
INDEX
少子高齢化と、ゆとりのない社会を乗り越える地域づくりに向けて
地域への伝え方のヒント:データだけでは気づけない背景や情報を補う
講師プロフィール
川北秀人氏
IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表
京都大学卒業後、(株)リクルートに入社。広報や国際採用などを担当し1991年退社。その後、国際青年交流NGOの日本代表や国会議員の政策担当秘書などを務め、1994年にIIHOE設立。大小さまざまな社会的な事業や市民活動のマネジメント支援を毎年100件以上、社会責任志向の企業のCSRマネジメントを毎年10社以上支援するとともに、NPOと行政との協働の基盤づくりも支援している。
https://blog.canpan.info/iihoe/category_7/1
少子高齢化と、ゆとりのない社会を乗り越える地域づくりに向けて
私の本業は、社会事業家(課題・理想に挑むNPO・企業)の支援です。
地域福祉の専門家でもない私が、なぜ地域づくりに携わっているのでしょうか?
私がよく仕事で関わっている、秋田県や島根県の人口の推移を見ますと、終戦直後の昭和25年(1950年)以降、70年間にわたり人口が減り続けています。
大阪府の都市部にお住まいの方には、「人口減少」と言われても、それほど切実な感覚はないと思います。しかし大阪・東京含め、日本全国どこでも共通している問題があります。それは「小家族化」です。小家族化が進むと、当然ながら、大家族や3世代世帯を前提とした社会システムが機能しません。
小家族化が進んだことを表すわかりやすい例として、NHKの「きょうの料理」という番組があります。番組開始当初の昭和30年代は、5人分の分量を作っていました。それでも番組には「分量が少ない」という意見が視聴者から寄せられていました。当時は、夫婦と子ども3人に祖父母をあわせて家族7人、という世帯が多かったからです。
昭和40年代以降は「核家族化」が進み、家族4人構成を標準世帯として想定した生活様式が浸透していきます。家電も乗用車も4人用を標準として作られるようになりました。
この「4人標準世帯」が崩れたのが2010年でした。同年の国勢調査で、世帯あたり人数の比率は、1人(独居)が最多になりました。現在、日本の約5580万世帯のうち、最も多いのが1人世帯で、全体の38%を占めます。大阪府は41%と全国平均より高いです。今「きょうの料理」は2人分の分量でやっていますが、番組には「分量が多い」というクレームが来るそうです。
わずか60年ほどの間に、大家族や3世代世帯が当たり前の時代から、すでに小家族化が進み単身世帯も多くなったという前提に立ち、くらしや地域の実相に合わせて、支え方も進化する必要があります。昔ながらのやり方を変えずに続けている行政や自治会・町内会では、だんだんと地域を支えられなくなっているのです。
これまで私がNPOやボランティアなどの社会活動支援を通じて感じたのは、「時間的余裕」がなければ、地域を支える活動もボランティアもできないということです。
地域や団体で活動をする人も、自分の家族を支える人が自分以外にいないという状況では活動ができない。ゆとりがない、これが東京や大阪の状況です。この状況を変えなければ、というのが、今の私の基本的な問題意識です。
今、私たちが地域づくりに取り組むためには、これまで当たり前とされてきた考え方を変えていく必要性があるということ、そして地域課題の解決や地域づくりに、多くの団体や住民が協力して取り組んでいくことができる仕組みづくりにはどのようなものがあるか、ということについて、この研修のご参加者の皆さんに今後検討していただきたいと思っています。
地域づくりの目的は「人と人との関係の密度を高くしていくこと」
「まちづくり」という言葉の中にある、町、街、まち。これらの違いは何でしょうか?
町は区域や面積を表し、街は建物の集まり、そして「まち」は人と人との関係の豊かさを指しています。つまり「まちづくり」とは、人と人との関係を豊かにしていく営みのことです。
一方、日本各地には、人が少ないにもかかわらず、元気な地域があります。
これはどういうことか。私がこれまで見てきた中で、元気な地域の特徴は、「人の交流する密度」=「人『交』密度」が高いことです。住民同士の関係、交流しようという姿勢が違うんですね。
昭和の半ばまで、地域の行事や町内会や自治会が全国に広がった背景には、世帯人数が増えていったこと、そしてお祭りや地域清掃などの行事を通じて、地域に交流を促す必要があったからです。
一方、現在は、単身世帯が増えたことに加え、近年のコロナ禍という交流が制限された中で、孤立が加速したことを誰もが感じています。地域においては、オンラインやオフラインでの安否確認や、誰が食事を届けるかなどといった支え合いが必要になりました。
このように、今の「まちづくり」には、単身世帯で家庭内で支える方がいない状況の中、地域でどうやって支え合いを作っていくかが重要だと言えます。
2つの高齢化とは
高齢化については、人の高齢化だけでなく、インフラ・ハコモノの老朽化、つまり公共施設の更新時期が迫っていることが深刻です。
インフラやハコモノの法定耐用年数は、おおよそ50年です。国土交通省によると全国の主な橋の3分の2は、2033年にその50年を過ぎます。水道管もトンネルも、50年を超えるインフラの比率が増えており、これからは、そういった老朽化したインフラ等を維持するだけでなく、作り変えるためのお金も必要になってきています。
人の高齢化も、福祉や医療にかかる費用の増加に結び付きます。全国の自治体(市区町村)では2005年から2015年までに歳出が15%増えたのに、職員数は14%減りました。職員1人あたりの業務負担が29%増えた計算になります。
この傾向は、これからも続きます。今から10年、20年後に、さらに業務が増えて職員数が減るのに、これまでと同じように業務ができるかと言われれば、できるわけがないですね。
ですから人もインフラも高齢化していること、自治体の業務が増えていることを住民に向けて発信し、地域づくりをどのように進めていくのかを一緒に考えていただきたいのです。
私が、地域で研修や勉強会を行う際には、これまでの20年間と、この先20年間の予測も含めた人口・世帯構成の推移と、これまでの財政状況の推移を併せて、住民はもちろん、市長や役所の職員にも見ていただいています。人やインフラの高齢化・老朽化は誰にも止められないこと、財政状況が急に変わることもないということを、市民の立場から説明しています。
人の高齢化は第二幕へ
日本の高齢者(65歳以上)は、昭和45(1970)年に人口総数の7%を超え、「高齢化社会」に入りました。ここからを高齢化第一幕と呼ぶならば、2015年には大きな転換期を迎え、第二幕に入りました。高齢化率は上がり続けると同時に、要介護度の低い前期高齢者、つまり、自治会長や民生委員など地域づくりの主役である「元気高齢者」が、減り始めたのです。
さらに2025年には、70歳までの定年延長が始まり、前期高齢者の半分が現役のままとなり、地域デビューがさらに遅れてしまいます。
このように、同じ高齢化とは言っても、その年齢構成の変化によって、まちづくりの前提が変わってしまっているのです。
今後、2020年から2030年まで、前期高齢者、つまりまちづくりの主役は18%減り、85歳以上は34%増えていきます。その85歳以上の約4人に1人が要介護3以上です。地域でお世話される人は増え続けるのに、お世話する人は減っています。大阪府内でも民生委員が足りていないのは、こういう背景があるからです。
大阪府のこれまでの20年と、これからの20年(世帯数・年代別人口の推移から分かること/大阪府の高齢者・後期高齢者の置かれる状況)
大阪府の人口・世帯構成の「これまで」と「これから」について、2020年から前後20年を詳しく見ていきましょう。
先述のとおり、地域活動の担い手となる世代(15歳〜74歳)の人口は減り続ける一方、85歳以上の人口は大幅に増え続けます。すると、地域の自治会やその役員の役割・作業は増えます。現状のまま活動を引き継いだ場合、自治会長さんの負担は、2010年と比べると、2030年には2.6倍に増加するだろうと予測されます。
さらに指摘しておきたいのは、空き家率です。人口が減れば世帯数も減っていくため、空き家も増えると推測されます。2020年は6軒に1軒の割合だったのが、20年後には4〜5軒に1軒の割合になります。適切に管理されていない空き家は、防災などさまざまな問題になる可能性があります。
次に就業構造を見ると、2000年に始まった介護保険制度に基づいて介護系の職に就いている方は20万人近くに及びます。今後、2040年までに要介護度の高い85歳以上が倍増することから、介護職も大幅に増やす必要がありますが、今後は人口減少に伴い就業者数も減り、他業種も深刻な人材不足に直面していることや、財政面から見ても、きわめて厳しいと言わざるを得ません。
団塊の世代が全て75歳以上となる2025年の大阪府を概観すると、次のようになります。
・高齢者率は?
→28.5%(全国より5年遅いだけ)
・75歳以上は?
→124.3万人(府民の7人に1人)
・ヘルパーなど、福祉の担い手は、あとどれだけ必要か?
→要介護率が同じならば、2040年にかけて倍増、あと3万人必要。
・社会保障(医療・介護)費を抑えるには?
→ 高齢者の健康は地域の資源であり、健康は資産として増進させる取組が必要
・生産人口は?
→2010年に比べ9%減 ⇔ 後期高齢者は54%増
・老朽化した「道、橋、公営住宅、上下水道、施設・公園」の修繕・更新にかかる費用はどう考える?
→ 人件費・扶助費・公債費に次ぐ「第4の義務的経費」
大阪府の後期高齢者のくらしと、いま取り組むべき課題
大阪府の後期高齢者(75歳以上)のみで構成される世帯(施設入居者は除く)が、全世帯に占める比率(画像内の最下行「後期世帯率」)は、2000年は25軒に1件でしたが、2020年では8軒に1軒。私の予測では2030年には6軒につき1軒という割合になります。こうなると、もはや民生委員さんたちだけの目では届く範囲にはとても収まりません。だからこそ、地域で、自治会で、福祉や防災に最も力を入れる必要があるのです。
後期世帯率の全国平均は、10軒に1軒で、大阪府の高齢者率は全国と比較して高いわけではないのに、なぜ後期高齢者のみの世帯の比率が高いのか?
それは、単身の後期高齢者(「後期高齢者単身(75歳以上の独居者)」)の割合の高さが理由です。2020年は325,983人(26.2%)ですが、ここには施設入居者は入っておらず、本当に一人暮らしの方の人数です。島根や秋田など三世代同居比率が高い県ではこの割合が10%程度で、家族での助け合いも期待できますが、大阪はそうはいきません。
2020年の「後期高齢者単身」の325,983人のうち、84,034人が男性、241,949人が女性です。独居後期高齢者に占める男性と女性の比率は、全国平均で1:3.5です。しかし大阪府の場合は男性の独居率が全国より1割も高いです。男性が孤立死する割合は女性の約10倍であり、男性の後期高齢者の独居の多さに対応するには、男性が地域活動に参加する「出番」が必要です。
大阪府内にも、高齢男性たちが自分たちで居場所を作っている事例があります。
大阪市北区中津地区の地域活動協議会では「カフェ・コンパーレ」という、高齢男性らが自分たちで毎週土曜に寄り合いカフェを開いています。なぜそんなことをしているの?と聞いてみたところ、「サロンにいきたくない、体操させられる、歌を歌わされる、コーヒーは美味しくない、誰がいくねん!」という声でした。「カフェ・コンパーレ」では何もしなくてもいいカフェとして、歌や体操もなし。新聞を読んだり、碁や将棋をしたりと、各自で楽しんでいます。
一方で男性の3倍にのぼる女性の独居後期高齢者について、同年齢層の男性と比較すると女性の運転免許の保有率は低く、買い物や通院のアクセスの利便性が高くない地域では、移動や買い物を支援する活動を促す必要があります。
このような状況だからこそ、介護予防などで活動する第1層・第2層のコーディネーターのみなさんには、ご自身の役割に自信を持って取り組んでいただきたいです。周りの方には、今やらなければ、将来の財政や地域の持続可能性が厳しくなるということを、根拠とともに伝えていくべきです。
地域への伝え方のヒント:データだけでは気づけない背景や情報を補う
イギリスの看護師フローレンス=ナイチンゲール(1820年-1910年)は、クリミア戦争時に看護師団のリーダーとして派遣され、看護活動をしながら、戦地における陸軍兵士の死亡原因を調査した、社会起業家であり統計学者でもありました。
ナイチンゲールが行った調査の結果、兵士の多くが戦闘による傷ではなく、傷を負った後の治療や病院の衛生状態が十分でないことが原因で死亡したことが明らかになり、それが現地での看護や、看護師の育成の必要性を、女王をはじめとする政府や軍の上層部に理解させるきっかけとなりました。
地域住民への伝え方で重要なことは、相手が主体的に判断し実践できよう促すこと。このため、相手の考え方や取り組みを否定するのでなく、目の前で起こっていることの背景には何があるのか、今後起こりうると予測できることはどんなことか、を根拠とともに正確に伝えることが大切です。
例えば、病院に行って診断を受けると、診断結果やカルテにはいろいろな客観的データが書かれています。それらのデータが何を示しているか、専門家にはわかりますが、誰もが理解できるように伝えるには、そのデータを補う情報が必要です。
同年代の方と比べて体脂肪率がどれだけ高いか、という相場感や、このまま放置するとどれだけの確率でどんな状況が予測されるのかなどを示していくと、理解や判断、そして実践が促されます。
地域も同じです。
今、地域の方々に説明しなければいけないのは、高齢化・人口減少と小家族化の同時進行が深刻化していること、一方で、自治体職員数は減っているのに、その業務量は増え続けていることです。
地域への伝え方:初めに問いかける/適切な規模のデータで見せる
ここからは、公開されているデータの利活用について、事例とともに、どのように地域へ伝えていくかのポイントをお話ししていきます。
まず初めに、データを使って説明する際には、聞く方が自分事として受け止めやすい規模感(市区町村単位や字単位)や例えを使うのが効果的です。また、項目ごとにデータを見せて説明を続けるだけでなく、途中で「みなさんのお住まいの市や地区が、この先どう変わるでしょうか?」といった、まちの未来像を問いかけるのも効果的です。
具体的には…
1.◯◯(地域・地区)の2020年時点での世帯あたり人口は、何人?
2.◯◯の高齢者率は、2025年時点で、全国平均に比べて何年進んでいる/遅れているでしょうか?
3.高齢者の独居率は2020年時点で何%?全国や他の地域と比べてどれぐらいちがうでしょうか?
4.要介護3以上の後期高齢者は2020年から2030年まででどれだけ増えるでしょうか?そのために自治体が負担する額は、いくらくらい増えるでしょうか?
というようにクイズ形式にすることも良いです。
2020年の日本・大阪府を「100人の自治会」として見ると?
各地区の推移の標準として、2020年の日本を「100人の自治会」として人口・世帯構成の推移を見てみます。
人口総数はこれまで微増から微減へ、しかし世帯数は増え、そのほとんどは単独世帯です。これからは人口総数が急速に減少し、前期高齢者(65歳〜74歳)も増えず、85歳以上は増え続けます。
では、2020年の大阪府を「100人の自治会」に例えるとどうなるでしょうか?
その大きなポイントは、85歳以上の人数が、2020年から2040年までの間に2倍になること。人口総数との比率で見ると、現在は4/100(25人に1人)、2040年は8/88(11人に1人)となります。
その背景には、団塊の世代が、2035年に85歳に達することがあります。要介護度が変わらなければ、自治体の負担も倍になります。私が、官民総力を挙げて今すぐ介護予防を進めてほしいと各地でお願いするのは、こういった過去の実績と今後の予測、「これまで」と「これから」のデータに基づいています。
次のグラフは、横軸に高齢者率、縦軸に世帯あたりの人数を取り、全国平均の推移と、2020年の各都道府県をプロットしたものです。
グラフ全体の真ん中を通る赤と黄色の線は、全国平均値を、過去の実績と将来の予測を5年ごとに表示しています。
大阪府の世帯あたりの人数は、少ない方から数えて3番目(東京1位、北海道2位)、高齢者率も低い方から7番目ですが、世帯あたり人数が少ないことから、核家族化を通り越して独居が進み、もはや家族でこどもや高齢者を支える状況ではなく、地域で支える段階だと言えます。
このグラフに、大阪府内の各市区町村をプロットします。
豊能町、千早赤阪村のように高齢者率が非常に高い地域もあれば、大阪市北区や中央区のように高齢者率は高くない一方、独居が7割近くにまで達する地域もあります。
北区や中央区の「世帯あたり人口1.6人前後」という状態では、いざという時は、家族ではなく、もちろん行政でもなく、地域で「ケアするのもケアされるのもお互い様」という感覚をしっかり持って暮らしていく必要がありますよ、ということを住民に理解してしてもらう機会づくりが重要です。
ここでは示していませんが「昼夜間人口」のデータも、総務省が公開しています。
高齢者率が高い地域、つまり都市の周縁部では、「昼夜間人口比率」も問題です。
「昼夜間人口比率が低い」ということは、すなわち「昼間は都市部に通勤する人口が多い」ということ、つまり昼間は若い人が少ないのです。そのとき、防災や福祉をどうするのかという難しい課題が出てきます。
だからこそ、防災と福祉は「地域づくりの1丁目1番地」と位置付けて、同時に進めていくことが重要です。
地域への伝え方:阪南市のデータのグラフ化を例に
では、阪南市を例に取り、少し詳しく説明します。
上述のクイズは、現在の地域の立ち位置や今後に向けた傾向を伝えるものです。
上のグラフは、横軸に高齢者率、縦軸に18歳未満の同居世帯率を取り、青い点が阪南市の「字」にあたる地域で、線で結ばれた赤い印が同市の1995年から2020年までの実績、さらに黄色の印と線が、2025年以降の予測の推移です。このように同市では、これまで進んできた高齢化と少子化が、今後もスローダウンしながら進んでいると理解できます。
2020年の全市平均値(赤いひし形)で赤い線で十字線を引きます。
すると、左上から時計回りに、A.子どもが多くて高齢者の少ない地域、B.子どもも高齢者も両方多い地域、C.子どもは少ないが高齢者は多い地域、D.子どもも高齢者も両方少ない地域、と4つの区域に分けることができます。
こうして見てみると、例えばAの「桃の木台」とCの「箱作」では人口・世帯の構成に大きな違いがあるにも関わらず、市として同じ内容の施策を押し付けてしまうと、地域の実態に即さないということが起きてしまいます。このような問題を起こさないように、地域の実情を踏まえた施策づくりを促すのが、私たちの役割です。
グラフの赤いひし形付近を拡大します。
2020年の全市平均のより右下の「箱作」は、阪南市全体の2030年付近にあり10年ほど先の市の姿(少子高齢化がさらに進んでいる)にいます。「山中渓」はさらに10年進んでいます。すると「箱作」は「山中渓」の取組を学ぶことで、未来に向けて今、何をすべきかを考える機会になります。
このように、全市平均や、他の地域との相対比較をすることで、自分たちの地域の置かれている状況を、相場観を持って理解することができるようになります。
このグラフは、横軸が高齢者率、縦軸が高齢者の独居率です。
全国平均と比べると、右上の「尾崎町六丁目」は、高齢者率も高齢者の独居率も高い。こうした地域では、災害時の避難には介助者が必要になることは間違いありません。日頃から福祉と防災が一体となって、配慮や対応を進めていく必要があります。
他県の「地域カルテ」の活用事例
このように、地域カルテのような資料作成では、対象となる各地区だけではなく、近隣など他の地域のデータと比較して見られることが大事です。「わが地区は5年後、現在の◯◯市と同じ状況になりそうだ」など、他の地域と比較して、相対的に理解できるように説明します。
岐阜県関市の地域カルテは、これまで私が各地の講座でお話してきた内容をそのまま盛り込んでおり、これから地域カルテを作ろうとされる方にもとても参考になると思います。
このように、データは判断と実践を促すためのものであることから、過去のものを集めてくるだけではなく、将来予測や「次に何をするべきか」など、聞く側が次のアクションにつなげられるように整えることが大切です。
参考:各地域の地域カルテ
・岐阜県関市の地域カルテ
例:安桜地区…「血圧リスク」が全市平均より高い→「喫煙率が全市平均より高いのが原因かも?」など、図やグラフで見てすぐわかるようにまとめられている。
https://www.city.seki.lg.jp/0000018161.html
・滋賀県甲賀市の地域カルテ
https://www.city.koka.lg.jp/15113.htm
・愛知県豊田市の地域カルテ
https://www.city.toyota.aichi.jp/shisei/jichiku/1037159/1053954.html
おわりに
データは人間ドックと同じで、集めることに意味があるのではなく、活用することにこそ意味があります。ところが、データはすでにあっても有効利用されていない場合がほとんどです。みなさんの部署でも、さまざまなデータが眠っているはずです。
地域や部署に戻ったときに、現在の人口・世帯などの傾向を説明した上で、健康や防災などそれぞれのテーマに応じたデータ分析を提示していくといった進め方は、ぜひ実践で身につけてください。
どのような切り口や組み合わせであれば、理解や判断が進みむかは、地域によって、住民によって違ってきます。わが地区の「まちづくり」には何が優先されるべきか、また人と人の関係を豊かにしなければ「まち」に何も積み重なっていけないということに、目を向けていただくために、みなさんにはこれから、データを活用した提言をしていただきたいと思います。
今日は長時間にわたり、大変熱心にご参加いただき、本当にありがとうございました。