生活支援体制整備事業の基礎 〜地域の基盤づくり〜/2025年度 生活支援体制整備事業に係る研修(基礎研修)
2025年10月8日
2025年6月20日に、大阪市内で開催した「生活支援体制整備事業に係る研修(基礎研修)」では、生活支援体制整備事業の基本的な制度内容の講義、行政職員及び生活支援コーディネーターそれぞれの役割、地域へのかかわり方等を学び、今後の事業の推進に活かしていただくことを目的として実施しました。
本研修では、さわやか福祉財団の目﨑智恵子さんから、なぜこの体制整備事業が始まったのか、その必要性、そして行政職員、生活支援コーディネーターがそれぞれの立場でどう考えるべきか基礎的な説明をいただきました。
講師:目崎 智恵子(めさき ちえこ) 氏
公益財団法人さわやか福祉財団 共生社会推進リーダー
1. はじめに:生活支援体制整備事業の背景と目的
さわやか福祉財団は「新しいふれあい社会の創造」という理念のもと、全国で地域づくりを進めています。私は、そのさわやか福祉財団で活動しつつ、2015年の事業開始当初から地元の群馬県高崎市(人口約37万人の中核市)で、第1層の生活支援コーディネーターを10年間務めています。現役のコーディネーターとして、皆さんと同様の立場であり、行政や厚生労働省の関係事業にも関わってきましたので、その経験も踏まえてお話しできればと思います。
今日の研修の目的は、生活支援体制整備事業の基礎を理解していただき、各職場で生活支援コーディネーターと行政が一緒に事業を進める体制を築くということの大切さを理解してもらいたいということです。ぜひ職場でも伝達や共有をしてほしいと願っています
2. 生活支援体制整備事業が始まる背景
日本の人口は2008年をピークに減少しており、特に75歳以上の後期高齢者が増加しています。赤い点線が高齢化率を示していますが、全国的に高齢化が進んでいます。皆さんもご自身の市町村の動向を確認することが大切です。
高齢者人口の増加と介護認定率
75歳以上の人口は2000年以降、急激に増え続けています。75歳以上では約3割の方が、そして85歳以上ではなんと6割の方が介護認定を受けています。
現在、全国で100歳以上の方は9万人を超えており、2050年には50万人規模に達すると言われています。一人当たりの介護給付費は、85歳以上の年齢で急増します。
令和2年度末には介護を受けている人が682万人となり、この21年間で約2.7倍に増加しています。皆さん自身も、身内や親戚に介護が必要な方が増えていることを実感されているのではないでしょうか。
地域包括ケア「見える化」システムの活用
厚生労働省の地域包括ケア「見える化」システムでは、要介護認定の状況、人口、高齢化率など、ご自身の市町村の状況を確認できます。ID登録が必要ですが、ぜひ一度ご覧になってみてください。
参考URL:https://mieruka.mhlw.go.jp/
市町村ごとの状況比較
政令都市の大阪市と中核市の高崎市で比較してみると、傾向が異なります。高崎市は要支援1, 2の人が少なく、要介護1が多い傾向にありますが、要支援の方は少ない状況です。高崎市には通いの場が非常に多く、そこへ繋ぐ取り組みも進んでいます。大阪市は要支援1、 2の方が多いですね。軽度者に対する介護予防・生活支援の取り組みにつなげていく視点を持つことが重要です。
介護人材の不足
2020年以降、介護人材の不足が深刻化しています。高崎市でも、合併した元村の地域では、デイサービスが閉鎖し、ヘルパーもこの地域には来ていただけなくなっています。そしてケアマネジャーも不足している現状があります。皆さんの市町村でも同様の声が聞かれるところもあるのではないでしょうか。
第9期計画の段階で約25万人、団塊の世代の子どもたちが高齢者となる2040年には約57万人もの介護人材が全国で不足すると推計されています。
高齢者増加による地域課題の発生
高齢者が増えることで、地域では様々な課題が発生します。2030年頃になると、高齢者の5人に1人は認知症になると言われています。一人暮らしや高齢者夫婦のみの世帯が増えています。これにより、認知症の周辺症状として記憶障がいや見当識障がい、行動障がい等が見られる方が増えますが、それを支える担い手が不足しています。高崎市でも孤独死が増えており、地区によっては毎年数件発生している地域もあります。
このような困りごとを抱える高齢者の情報を共有し地域で支え合うことを考えることが、生活支援体制整備事業を進める上で非常に重要です。
一人暮らし高齢者では、ゴミ出しができない、帰宅困難、買い物に行けない、通院できないといった生活上の困難が増加しています。特に買い物や調理、免許返納後の通院も大きな課題です。少子高齢化が進み担い手の減少により介護職1人に対して有効求人倍率が4を超える。医療福祉の現場で試算すると生産年齢人口の5人に一人が医療福祉現場で働かないと回らなくなると予測されています。また、不足する人材の確保を自社で行うことが難しい場合に、人材紹介会社を利用すると多額の費用が掛かっています。
社会保障費と地域力の低下
高齢化の進展に伴い、要介護認定者と介護保険料は増加し続けています。2040年頃には、基礎年金世帯で介護保険料と後期高齢者医療保険料の合計が1万7千円程度になると試算されています。これは、高齢者だけでなく私たち現役世代にも関わる問題です。
また、町内会や自治会への所属意識が希薄になり、AIやデジタルの普及で回覧板を回さない地域が増えています。基盤となる地域社会そのものは、少子高齢・人口減少社会が進展する中で、自治会・町内会の加入率は減少し続け、地域で課題を解決していくという地域力やお互いに支え合い、共生していけるような地域の福祉力が、弱くなってきています。これにより、高齢者の見守りや安否確認が困難になる状況です。
元気な高齢者の社会参加の必要性
まだ元気な高齢者、例えば現在の60歳から65歳の方々は、まだまだ働けると感じているはずです。
高齢者と呼ばれる時期になっても、地域の中で役割を持ち、生活していけるような暮らしをしていく必要があります。元気な高齢者の社会参加や介護予防を、助け合いの活動に活かしていくことが求められています。
3. 地域包括ケアシステムと生活支援体制整備事業
「地域包括ケアシステム」はよく耳にする言葉ですが、その本質を理解することが重要です。
少子高齢化、単身・夫婦のみ世帯の増加、要介護認定者や認知症患者の増加、介護の担い手の減少等の状況があり、住まいを中心に、医療・介護・生活支援・介護予防が一体的に提供される仕組みづくりを市町村ごとに作っていきましょうということが地域包括ケアを構築するために必要な要素です。
ですが、生活支援・介護予防の部分がなかなか展開できていなかったので、市町村の事業として進めようとH27年度に生活支援体制整備事業が開始されました。
地域の実情に応じた支え合いの仕組み
地域包括ケアシステムは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい人生を最期まで続けることができるよう「医療・介護・予防・住まい・生活支援」が一体的に提供されるシステムです。保険者である市町村や、都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げると示されています。
地域包括ケアシステムの目的は、ひとり暮らしや要介護状態・認知症になったとしても、住み慣れた地域で、地域との関係性や信頼関係の中で尊厳ある地域生活が続けられるような仕組みで、医療・介護の連携はもちろんですが、本人らしく暮らすための買い物やちょっとしたお手伝いなどの生活支援や、自分らしく暮らせるための効果的な介護予防の視点を大切に取り組むことが大切です。
団塊の世代が後期高齢者となる2025年(今年)、地域包括支援センターの職員の方は、急激な介護相談の増加を実感されているのではないでしょうか。生活支援体制整備事業が始まってすでに10年が経過しています。皆さんの市町村の生活支援体制整備事業の進捗状況はどうでしょうか。
生活支援体制整備事業は、総合事業を作ることが目的ではなく、地域包括ケアシステムを推進しながら市町村独自の支え合いの仕組みを作っていくことです。そのためには、地域の様々な力を組み合わせていかなければなりません。皆さんも、一人暮らしや要介護、認知症になったとしても、住み慣れた地域で、信頼関係のある友人や知人に助けてもらったり、介護が必要になったとしても、ちょっとしたことは助け合えるような地域で暮らし続けたいと思いませんか。高齢者の介護予防や社会参加という視点で地域の支え合いの仕組みづくりを、住民主体で多様な方々を巻き込みながら作っていくことが大切です。
地域支援事業と生活支援体制整備事業の位置づけ
地域支援事業は、被保険者が要介護・要支援状態になることを予防し、社会に参加しつつ地域において自立した日常生活を営むことができるように支援することを目的とし、地域における包括的な相談、及び支援体制、多様な主体の参画による日常生活の支援体制、在宅医療と介護の連携体制、及び認知症に対する支援体制を一体的に推進することが目的です。ですので、生活支援体制整備事業は、地域支援事業全体との連携が重要です。平成27年の介護保険法第6期改正前までは、地域支援事業の柱は地域包括支援センターの設置だけでした。
改正後には、要支援1, 2の軽度者のデイサービスやヘルパーの部分が、介護保険の一律給付から市町村の事業に移行しました。これが「総合事業」と呼ばれています。
また、地域支援事業の中の「包括的支援事業」が拡充されました。これは、消費税増税分を社会保障に充てる動きの中で、地域包括支援センターの設置だけでは困難な状況を鑑み、地域包括支援センターを支援する事業を強化することになりました。具体的には、認知症、医療・介護連携、個別ケア会議の充実、に加え、生活支援体制サービスの体制整備すなわち生活支援体制整備事業になります。したがって、地域包括支援センターの職員は、この事業と連携していくことが非常に重要になります。
多様なサービス創出の必要性
住み慣れた地域で自分らしい生活を送るためには、総合事業の生活支援や介護予防サービスだけでなく、ニーズに合った多様なサービスや活動(通いの場、見守り、安否確認、外出支援、買い物支援など)を創出していくことが市町村に求められます。
これらの活動を創出するためには、高齢者の社会参加・介護予防の視点から、様々な分野に高齢者が参加できるような活動が求められています。そして市町村は、多様な生活支援・介護予防サービスが利用できるような地域づくりができるよう、委託や補助・助成という制度的な位置づけ(介護予防・日常生活支援総合事業)を作っていくことが必要です。
令和6年度の改正と総合事業の見直し
昨年8月に総合事業の見直しが行われました。その中で、総合事業の構成は、「サービス・活動事業」と「一般介護予防事業」からなります。サービス活動事業にはサービス・活動A、B、C、Dといった形態があります。
令和6年度の改正要綱では、指定、委託、補助・助成などお金の出し方が異なることを明確化し、対象となる人も具体的に記載するようになりました。市町村の総合事業担当者は、このガイドライン改正をよく読み、理解していただきたいと思います。
※詳細は厚生労働省介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン(概要)を参照ください。
3. 市町村主体で進める生活支援・介護予防体制の構築
生活支援体制整備事業は、生活支援コーディネーターの配置と協議体の設置により、市町村が中心となって、多様な主体による多様な生活支援・介護予防サービスの提供体制を構築し、地域の支え合いの体制を推進していくものです。
「地域の多様な主体」とは、元気な高齢者をはじめとする多様な地域住民、民間企業、福祉事業者などが担い手となり、地域で生活支援や介護予防などの活動に取り組む団体を指します。「団体」とは、特定の法人格を持つものだけでなく、地域のボランティアな活動団体も含まれます。市町村の特徴に合わせた地域の支え合いの地域づくりを推進することであると厚生労働省のガイドラインにも明記されています。
生活支援・介護予防サービスの意味
「生活支援・介護予防サービス」という言葉は、提供される「サービス」というイメージが先行しがちですが、地域のサロン活動、見守り、安否確認、外出支援、買い物支援、調理支援など、地域の多様な生活支援・介護予防活動を意味します。制度の枠組みだけに捉えがちですが、地域の多様な活動も含んでいると認識することが重要です。
生活支援体制整備事業の実施内容
生活支援・介護予防サービスの資源開発やネットワーク構築等のためのコーディネート機能を果たす者【生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)】の配置や地域の多様な主体により構成される生活支援・介護予防サービスに関する企画、立案、方針策定等を行う場【協議体】の設置があります。
そして多様な主体による多様な生活支援・介護予防サービスの提供体制を構築し、地域の支え合いの体制づくりを推進することです。
簡単に言えば、地域の中で様々な介護予防・生活支援等の支え合う活動をしている人たちが集まって話し合いをする場が「協議体」であり、それぞれを繋ぎ、一緒に地域づくりを推進してくれる人が「生活支援コーディネーター」です。アイデアを出し合い、何ができるかを企画・検討する場が協議体です。皆さんの市町村でこのような話し合いが行われているでしょうか。
4. 生活支援コーディネーターの業務と共創
生活支援コーディネーターの業務の目的は、資源開発、ネットワーク構築、ニーズと取り組みのマッチングです。
資源開発と担い手の育成
地域に不足している活動は新たに作っていく必要があります。元気な高齢者が社会参加し、自身の介護予防につながる視点で様々な活動に参加するように促すことも重要です。また、今ある活動に参加する人を増やしていくことも大切です。そして、元気な高齢者をはじめとする多世代の人々が、地域に不足している活動をともに作っていくことが資源開発です。
ニーズと取り組みのマッチング
地域の中で困っていることがあれば、今ある活動に繋いでいくことも重要です。生活支援コーディネーターは、「地域支え合い推進員」と言い、地域の支え合いを推進する人です。様々な地域住民や多様な人々との対話を通じて、ネットワークを構築し、関係者間で現在の状況や将来の地域のあり方について共有することが重要です。
多様な価値観の尊重と共創
様々な人々とネットワークを組む際には、それぞれの価値観や強みが異なることを認識し、互いを尊重しながら、皆で協力して活動を作り上げていくことが大切です。今回の改正では「共創(共に創る)」という言葉が強調されています。地域の様々な人々が共に力を合わせて事業を作り上げていこうと国も言っています。特に企業との連携も推進しています。
「共創」とは、「多様な立場の人たちが対話をしながら新しい価値を共に作り上げていくこと」とあります。様々な人たちが一緒に考えて、「こういうのがあったらいいね」というものを作り上げていく作業を皆で行うことが、今回の改正で特に言われていることです。
生活支援コーディネーターの具体的な業務
第1層はaからd、第2層は、aからeまで取り組むことが記載されており、生活支援コーディネーターの業務内容も具体的に示されています。生活支援コーディネーターの方、そして行政で事業を担当されている方は、これらの内容をしっかりと確認してください。
高齢者の困り事や関心事、地域の多様な活動の情報収集と見える化。活動創出に向けた企画、立案、実施方法の検討。担い手となる人材の養成、組織化。具体的な活動のマッチング。
これらは第1層、第2層ともに実施します。それに加え第2層の生活支援コーディネーターは、支援ニーズと生活支援・介護予防サービスとのマッチングも行います。介護度が高い方や認知症の重度の方には難しいかもしれませんが、軽度の認知症の方でも地域の担い手になり得ます。
実際に高崎市では、要介護1の方でも地域でボランティアをしているケースがたくさんあります。介護が必要になったからといって地域から切り離すのではなく、「地域の中で自分らしく生きるためには何が必要か」という視点を持って、地域全体を捉えることが重要です。
生活支援コーディネーターと多機関連携
令和6年度の改正では、高齢者を含む多世代の地域住民、生活支援・介護予防サービスの実施者(事業所だけでなく、見守りをしてくれる地域の方々や地域包括支援センター、市町村も含む)、これらを繋げる生活支援コーディネーターが、円滑な連携のもとで共に必要な活動を創っていく役割が特に強調されています。事業開始当初は、生活支援コーディネーターが一人で動くことが多く、仲間がいない、孤立しているという声が多く聞かれました。
しかし、今回の改正で市町村及び地域包括支援センターは、適切に生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)との緊密な連携のもとで、 サービス・活動事業としての事業化等を進めること。また協議体は、生活支援コーディネーターのコーディネート業務を支援し、多様な主体間の情報共有及び連携・協働による体制整備を推進することと明記されました。
介護が必要な人の主体的な社会参加
今回の改正のもう一つの大きなポイントは、コーディネート業務の実施に当たっては、高齢者が、単に地域の生活支援 ・介護予防サービスを享受するだけでなく、「自分自身の関心や選択を踏まえて」、自分事として地域の多様な活動に主体的に参加することを促すよう取り組むことです。
5. 協議体の目的と役割
協議体は「会議体」ではありません。生活支援コーディネーターを補完する役割を担い、多様な主体間の情報共有や連携協働の場です。参加者が単に議題について結論を出す場ではなく、様々な人々の活動を互いに知り、連携できる体制をしっかりと構築する場です。生活支援コーディネーターを組織的に補完し、できることは何か、企画・立案・方針を協議する場です。協議体で行う内容は、生活支援コーディネーターの業務とほとんど変わりません。
地域づくりにおける意識統一
協議体では、「地域づくりにおける意識統一を図る場」として、参加者全員で話し合い、どのような地域を目指すのか。この地域に住んでいて困らないためにはどうあるべきかといった共通の目標を地域の中に作っていくことが重要です。
既存組織の活用と視点の明確化
協議体を立ち上げるのは大変だと感じがちですが、例えば校区福祉委員会など、既存の様々な福祉活動団体組織があります。それらの既存の組織を活用することも可能です。ただし、活用する際に重要な視点は、高齢者の介護予防、生活支援、社会参加、そして繋がりづくりです。この既存の会(例:校区福祉委員会など)の参加者がこれらの視点を理解し、既存組織の活動の情報を共有し、定期的に話し合いの場を設ければ、それが協議体でもあります。
この話し合いの場には、地域包括支援センター、行政、社協の職員も参加し、5年後、10年後の地域のあり方、地域の困り事、ニーズ、資源について話し合います。既存の活動を活かすことも重要であり、様々な活動が行われている場所にどんどん繋いでいくことも大切です。
「お互い様」の意識醸成
既存の活動は積極的に応援し、困り事はお互い様で助け合うという意識の醸成が重要です。「やってあげる」という支援だけでは、担い手が減ってしまいます。いずれ私たち自身も助けてもらう時が来るのだから、今お互い様でできることをやろうという気持ちを醸成していくことが大切です。このような意識を育てることで担い手が増え、もし地域に支え合う活動がなければ、様々な人々と手を取り合いながら作っていくことが重要になります。
定期的な情報共有の場としての協議体
月に1回でも、地域ごとに、地域の支え合い活動をしている方々(民生委員、自治会長、地域のボランティア組織など)が集まり、それぞれが抱えている、高齢者の困りごとの情報を共有し、その困り事に対してどんな支えがあるかといった情報知り、お互いがつながっていく場が協議体です。このような協議体での話し合いは定期的に行われますが、会議だけでなく参加者は普段は各自の活動や所属組織に戻って活動しているため、所属組織の中でも様々な情報を共有してもらうことが重要です。
協議体だけで完結させず、参加者の周りにいる方にも「ニーズを調べてほしい」「どんな資源があるか聞いてきてほしい」といった宿題を出すことも有効です。例えば、民生委員の活動や老人クラブの活動について、協議体で話を聞いてみると、意外と知られていないことがあります。
ある事例では、隣に一人暮らしの高齢者がいるのに民生委員が来てくれないという話がありましたが、よく聞いてみるとその方が69歳だったため民生委員の担当範囲ではなかったということが判明しました。この地域では、民生委員は70歳以上の一人暮らしの方支援を行っているからです。このような情報が協議体で共有されるだけでも、その方も見守りをだれがしようか、だれか頼める人はいないのか聞いてみようと横の繋がりができて助け合いに繋がります。
協議体の場は、参加者同士の活動内容を知ることで、参加者同士のネットワークが構築されます。また、協議体での話し合いを通じて、地域の既存組織に情報提供を行ったり、担い手の育成を共に考えたりすることで、協議体自体に直接的な興味がなくても、地域の活動に参加する人が増えることがあります。
新たな活動の創出と共創の地域づくり
ある事例では、ボランティア募集のカードを受け取った男性が社協を訪れ、生活支援のボランティアをするようになったというケースがあります。このように、わずかな情報でも、それがきっかけとなって人が動き出し、社会参加や担い手の創出、新たな活動に繋がることがあります。
そして、どうしても足りない活動があれば、生活支援コーディネーターが一人で創るのではなく、皆で話し合い、どういう活動をしていくか、ルールややり方を決めていくことが重要です。そして、多様な主体が関わることによる「共創の地域づくり」にも繋がっていきます。
地域総動員の支え合い
これまで行政が喫緊の課題を、サービスを提供して利用してもらうという構想でしたが、それだけではもう間に合いません。地域の皆さんができることを積み重ね、地域の助け合い活動を増やしていくことが重要です。皆さんが地域の中で話し合う際には、地域の情報を共有し、信頼関係を築くことが大切です。些細な世間話でも構いません。地域の生活情報を共有したり、聞き合ったりすることで、その中から困り事を解決するアイデアが生まれます。
地域の中には多様な人々がいるからこそ、多様なアイデアを持っています。担い手が見つからないという声もありますが、意外と眠っている担い手は存在します。働きかけていないだけです。一人ひとりとしっかりと手を取り合うことが重要です。例えば、一人ひとりと信頼関係が構築されれば、その方の周りにいる人とも繋がることができます。このような信頼関係を築き新たな担い手を掘り起こしていくことが大切です。
担い手と資源の掘り起こし
ニーズや担い手の掘り起こし方、資源の把握方法についてもマトリックス形式で資料に示していますので、第2層の生活支援コーディネーターの方は活用してみてください。活動創出のポイントも記載されていますので、ぜひ参考にしてください。
6. まとめ
①今後の高齢者支援に向けて
今後の高齢者支援は、住民だけでなく、様々な活動と連携しながら取り組むことが重要であり、関係者の足並みを揃えること、すなわち「コレクティブインパクト」の概念のように、同じ目標に向かって同じ目線で取り組むことが重要です。図に示す生活支援体制整備事業に欠かせない要素の内容がポイントになるのでご参照ください。
″助け合い″(地域で実施する介護予防の生活支援)と総合事業の部分がどのように異なるかを図で示していますので、ぜひご確認ください。国が示す協議体は、テーマ別でも構わないとしています。地域のニーズが見えてきた時に、テーマ別に話し合うことは重要です。最初から私たちがテーマを決めて話し合いを強要するのではなく、困り事からテーマが生まれるようにすることが、住民にとって「自分ごと」となるために重要です。
②連携と事業推進のポイント
行政職員の方も積極的に現場に足を運び、生活支援コーディネーターを孤立させないように心がけてください。地域包括支援センターや行政の方々には、特に地域支援事業の連動に視点を置き取り組んでいただきたいと思います。市町村では、地域ケア会議に生活支援コーディネーターも参加できるよう進めていくと良いでしょう。
③生活支援体制整備事業の目的と意識
生活支援体制整備事業は、介護保険事業の地域支援事業に位置づけられています。その大きな目的は、介護保険における要介護認定が非該当であるものの何らかの支援が必要な高齢者や、要支援1, 2レベルの軽度者の介護予防に資する地域づくりと生活支援体制の整備です。個別の支援の視点も重要ですが、地域の皆さんを信じ、協議体と連携しながら資源開発に取り組む意識が重要です。協議体活動をする際の6つのポイントも資料にありますので、ご確認ください。
今日は体制整備事業の基礎についてお話しさせていただきました。
ありがとうございました。