ええまちづくりのええ話

大阪府内の地域団体の活動事例や、行政職員や生活支援コーディネーターの研修の発表も広く掲載。
団体の活動の参考にしたり、市町村の仕組みづくりに役立つ記事がたくさんです。

総合事業は独自の制度を作ることができる、だから面白い/2018年度 行政職員向け研修 防府市事例紹介

2019年2月5日

2018年10月30日、府内の行政職員を対象に「先行事例に学ぶ! 総合事業サービスB 型の事業化と運用について」と題して研修会を開催しました。

本編では、「防府市独自の住民主体サービスとその作り方」の内容をお伝えします。

山口県防府市高齢福祉課主幹中村一朗さん

 

まず実例をご紹介するほうが、防府市の住民主体サービスの作り方をご理解いただきやすいかと思います。

防府市では「幸せます健康くらぶ」(以下、健康くらぶ)を月に2回やっています。

 

市・地域・法人・企業が協同し、総合事業のサービスA・B・Dを組み合わせた独自サービスを開発

社会福祉法人のバスが地域10箇所くらいを回ります。まずイオンに行って介護予防体操をおこないます。

最初は別の場所でやっていたのですが、イオンから「会議室を貸してあげるよ」いう申し出をいただきました。

ここで介護予防教室をやった後、皆でご飯を食べて、イオンで買い物をするという流れです。

 

行政としては「本当は週に1回やれればいいんだけどな」という思いもありました。しかし、地域の方々が月1回か2回でいいとおっしゃった。

市の専門職なんかは「1週間に1回やらなければ介護予防の効果がない」などと言いましたが、地域の方が2回でいいと言うなら2回でいいんです。

結果どうなったかというと「介護予防教室って楽しいんだ」ということが分かったので、地域にたくさん介護予防の場できた。私の勝ちです(笑)。

 

健康くらぶの参加料は、食事代別で1回500円。対象地域の向島地区からイオンまで公共のバスで行って帰ると760円かかりますが、参加料はサービスの1割負担として250円と損害保険料・雑費という構成です。

参加者は、要支援の方はもちろんですが、65歳以上の元気な方でも準備とか見守りとかの手伝いをしていただければ参加が可能です。

 

 

健康クラブの仕組みは、介護事業所にはサービスAの単価として利用者1人当たり2250円で委託。何をやってもらうかというと介護予防教室と、その後の見守りです。

それを2人でやっています。参加者が20人くらいいても2人です。

イオン防府店からは、先ほど申し上げた通り会場を提供していただいています。

そして障がい者の施設を運営している社会福祉法人からバスを出していただいて、訪問サービスDで燃料のお支払いをしている。

最後に地域住民には、介護事業所が2人でやっている見守りにもう少し人がいるので、見守りの補助とかいろんな準備、そして地域の意見の掘り起こしとかも含めて、意見集約をしていただきます。

こうした全体を行政がフォローする形で、通所サービスBに見立てて補助を出しているという仕組みです。

 

このサービスは介護事業所、社会福祉法人、イオンの3者でもできるのですが、見守りとかが結構大変で、それなら地域の力を借りたらいいよね、ということです。

地域だけでもこういった活動はできるかもしれませんが、地域だけでやるのも大変なので協働するという形でやるのが、皆がいい関係になるのではないかと考え、こういう形でやっています。

 

健康くらぶは、私の思いつきではじめました。平成28年に今の部署にきたのですが、最初の年は予算がありませんでした。テストを5回くらいやりましたが、予算なしです。

 

地域のニーズをいかに拾い上げるかが勝負 —防府市オリジナルのサービスが立ち上がるまでのエピソード

防府市のサービスの作り方を紹介するために、平成28年度に着任して健康くらぶを立ち上げるまでの私の心の内をちょっと聞いていただこうと思います。

「総合事業って、独自の制度を作れるんだ」ということで、「おもしろい!」というのが私の感想でした。

もう一つは「介護保険はもう限界と考えられているんだな」という思いもありました。

そして、やる気があるところとないところでは、これからどんどん差がついていくというふうにも思いました。

 

引き継ぎの際に「介護予防教室を100箇所作れ」という指示を受けました。「めんどくせえな」「やってらんねえ」と思いました。

介護予防教室を作れとか、地域づくりをしなさいとか、これって行政のニーズなんです。

基準緩和型を作りなさいと言われても、下手な作り方をしたら事業所は黙ってないですよ。

「住民主体サービスを作れ」と言われても、地域は忙しくてそんなことやらないだろうと思いました。

 

介護予防教室を100個作れと言うなら「大きな介護予防教室10個作ったほうが早い。まず1個大きなのを作ろう」と考えました。

100個というのは歩いて行ける所につくれということです。歩いて行ける所に100個作るより、大きいのをつくって送迎した方が早い。そのためには送迎が必要ですよね。

 

でも、送迎するなら事業所に絡んでもらわないと困るなと。

事業所と地域を絡めたら、そこは住民主体サービスになるのかなと。

どうせ大きな介護予防教室やるんだったらイオンでやればみんな喜んで来てくれるかなというイメージでした。

 

私は、着任して2ヶ月ぐらいで総合事業の説明会をしなくてはいけなかった。

勉強しながら総合事業の事業者に説明するわけですが、「こいつ何をしでかすつもりなんだろう」という感じで、事業者の顔がすごく恐かったですね。

私は「絶対に今が大きな変革期なので、この変革期に乗っていかないところなんて確実に負け組でしょ」と、きつい言葉で言いました。地域とか住民に主体的にサービスをやってもらおうということは、事業所にとっては単純に自分たちの取り分が減るということです。

そこで「新しいものを作っていきましょう。いいやり方がないか、一緒に考えましょう」という話をしました。

行政としても事業所がダメになったら困るわけですから、一緒に考えようぜ、という感じで話をしました。知恵があったら出してよと、かなり煽ったんです。

それで、誰もついてこなかったらいいやと思ったんですが、先にお話しした事業所、通所サービス連絡協議会の会長と副会長が「中村さん、面白いですね。なんかやりましょうよ」と言ってくれました。味方ができたと思いました。

 

この段階で健康くらぶの素案は、頭の中にできていました。

これを移動支援の必要な中山間地域で話をしてみようと思った。一方的にこちらの思いを伝えました。

しかし、行政がこれやりたいということを伝えても地域は動かない。アイデアを出したがやる気がない。だめかなと思いました。

その時にちょうど向島地区から「閉じこもり予防の地域ケア会議があるので中村さん来ませんか」と声がかかりました。

行ってみると、そこの民生委員はすごい活動熱心なんです。

ちょうど社会福祉法人の施設長がいらっしゃって、「中村さん、なんかやることないですかね」と言ってくださった。

「マイクロバス出せない?」って言うと「ああ、いいですよ」と。

じゃあ、健康くらぶはできるなと思って地域の人に「やりませんか」ときくと、「やろうよ」となった。

それでテスト実施をしたという流れです。

 

要綱づくりはテストの後に--とりあえずやってみる

行政のニーズだけでは地域は巻き込めないので、住民が目の前の問題を解決したいなと思うことに手をつけることが大事です。

健康くらぶの場合は、地域ケア会議で話し合った「閉じこもりの方をなんとかしたいね」というテーマの中から「買物難民」という言葉が出てきた。

じゃあ地域のニーズと行政のニーズを合わせたものだったらやってくれるんじゃないかという流れで、それを地域ケア会議から協議体の形にもっていき、そこで提案をし、テスト実施をして、その後でみんなで検討しました。

最初から協議体で「こういうことをしませんか」と話してもなかなか意見は出てこないですが、実際にテストをやってみて検討するということでいろいろなアイデアが出てきて、それを形にして要綱を作りました。要綱を作ったのは最後です。

向島地区で健康くらぶを始めることで、「無理だ」と言っていた中山間地域も手をあげられて、今、そこをやっていて、4つめができようとしています。

今年度は「ほうふ・てごネット」という取組をテストでやっています。

これも専門職と地域をつないで高齢者の困りごとを解決する仕組みを作ってみようというものです。地域住民が「てご(お手伝い)」をすることで高齢者の「ちょっとした困りごと」を解決するという仕組みです。

 

まず専門職(ケアマネジャー、地域包括支援センターなど)にお願いして、高齢者の困りごとを集約して市につないでいただきます。介護専門職の目で見て、高齢者の自立支援につながる困りごとです。

「保険内のサービスとしてできないことをやってもらえると助かるなあ」とか、訪問事業所が「事業を効率的に運営するためにちょっと手伝いをしてもらいたい」ということを市役所にもってきてもらいます。

それらのお困りごとを、たとえば老人クラブが母体だったり、介護予防教室が母体だったりするような団体、自治会、個人のボランティアというところとマッチングしていこうという取組です。

老人クラブとかサロンとか介護予防教室をやっていらっしゃるところに「こういうことをやりませんか?」という働きかけを本年度テスト実施しています。

 

生活支援コーディネーターの質を高める「てごネット」の挑戦

なぜ私がてごネットをやりたいと思ったかといいますと、もちろん高齢者の自立支援の困りごとを解決するというのが目的なんですが、介護専門職と地域を結びつける仕組みというのが案外ないと思ったからです。

地域包括ケアシステムを構築していくためには、専門職と地域が繋がらないと絶対できないはずなんですね。

だけど、それがあまりできていない。訪問事業所の事業効率を上げたいなとか、ケアマネジメントの中でインフォーマルサービスをとか、考える人があまりいないので「こんなやり方もあるよね」「地域に投げることもできるよね」という問題提起です。

 

それから、高齢者の社会貢献活動への参加による「生きがいづくり」も当然やっていければなと考えています。

実は、私が最初にやりたかったのは、ここなんですね。

 

 

てごネットという仕組みを作るために、生活支援コーディネーターが地域を回っていろいろ話をするんです。

その過程で「生活支援コーディネーターの資質が上がればいいな」と考えました。

「皆さんの市町村で、生活支援コーディネーターをどのように養成していますか」「どういうふうに支援していますか」「各生活支援コーティネーターは悩んでいませんか」と言いたいわけです。

防府市は生活支援コーディネーターをしっかり育てるために、こういった取組をやっていこうとしています。

てごネットはうまくいかないかもしれませんが、これまでの活動の内容が、生活支援コーディネーターの質を充分に上げてきたので、とりあえずは成功かなと思っています。

 

とにかくやってみることかなと思っています。

てごネットは今、地域から異論がどんどん上がってきている。私は炎上が大好きでして、炎上する中から住民の言葉をいろいろ引き出しています。

噴き出すくらいの方が、いろんな意味で引き出せる、そこから何か作っていけるんじゃないかと。

 

てごネットがうまくいくと、来年度は、そこから訪問Bが40団体できたりするかもしれません。

40できたらちょっと自慢できるなあと思ったり、やっぱりいらないかなと思ったりもします。

いろんなところで報告していますので、これからも注目していただけたらと思います。

 

 

ええまちづくりのええ話へ戻る

この記事を読んだあなたへのオススメ記事
この記事を読んだあなたへの
オススメ記事