ええまちづくりのええ話

講演
生活支援コーディネーターの行き詰まりを打破する考え方と戦略の立て方/2019年度 行政職員向け研修 基調講演

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 社会政策部長 主席研究員

岩名 礼介 氏

「地域づくり」に法則はない

この研修会での講演のオファーのご相談を半年前にいただいたのですが、一回断っています。「総論では、もう話すことはないよ」という気持ちでした(笑)。

今はとても難しい時期だと思います。生活支援体制づくりが始まって早い自治体は4年目に入っています。概要や概論といったことはかなり聞かれていると思います。その一方で全体に共通したソリューションはありません。こういった研修の場で話を聞いて、「なるほど、これでやろう!」ということは言えないと思います。

 

今日、皆さんに伝えたいことは、生活支援体制整備事業を単体で考えることはやめた方がいいということです。

もちろん住民主体で進めていくことは生活支援体制整備事業において重要です。地域づくりの理想というものは、どこまでも高く語れます。しかし、やり方は本当に地域によって違います。

例えば介護サービス事業所が地域づくりに果たす役割というテーマも十分考えられるわけです。

今、小規模多機能型居宅介護(以下、小規模多機能)が増えてきていますが、いろんなタイプがあって、中には地域に溶け込んで住民自治を先導するような事業所も出てきている。

 

しかし、皆さんの地域で介護事業所に地域づくりをやってもらおうとしてもうまくいくとは限らない。

「こうやればこうなる」という法則的なものはありません。

今日は事例報告がこの後にありますので、ここでは概要を整理したいと思います。

 

地域という「土」にはいろんな人や組織が有機的に混じり合っている

もともと生活はいろんなものでできていますし、地域には様々な役割を持つ人がいて、そのことを表しているのが植木鉢の絵です。葉っぱは専門職、土は地域と整理できます。

土はいろんなものが混じり合ったごちゃまぜの状態ですから、その土をつかんだ瞬間、そこに何が含まれているか説明できる人はいません。

地域はいろんな趣味趣向を持った人たちが混じり合っていつも化学反応を起こしています。地域は有機的なんです。

土の種類は土地によっても違うから、どんな土かによって葉っぱの育ち方も違います。

葉っぱ(専門職)の勢いも、土(地域)に依存する部分があって、豊かな地域ほど葉っぱはイキイキと育ちます。

つまり、専門職は専門職本来の取組にどんどん集中していけるし、先ほど介護サービス事業所が地域づくりに参加していくという話をしましたが、葉っぱと土が茎の部分でつながっていて、そこに位置取りをしている小規模多機能も今いっぱい出てきています。

もう一度、地域に共通の価値観や道徳観を獲得するには、どのようにしたら良いかということを考えて、その中で小規模多機能を活用しつつ地域づくりをしている事業所もあります。

 

地域にどんな人がいるかによって取るべき方法が違うということです。

葉っぱも変わってくるし、皆さんの活動自体も違ってくる。

土の部分を耕すことを生活支援体制整備事業と言っているわけですから、生活支援コーディネーターは「土いじりが専門」の人、土をいかに豊かにするかということを日々考えている人と言えますね。

葉っぱは在宅医療・介護連携推進事業として、地域支援事業のなかで取り組まれているということです。

 

しかし、いろいろやってみたが成果が出ないという自治体の声を聞くことは多いです。

あえて4つの事業を、役割や機能で整理し直したのが、このスライドです。

地域支援事業にはこの4つの事業に加えて、地域ケア会議があります。

ここで言いたいことは、この4つは排他的になっておらず、お互いに重なっている、ということです。

 

横の楕円は対象者、「誰を」支えるかで整理できる事業。

上は認知症の人を総合的に支援する事業です。

下は介護予防・日常生活支援総合事業で、軽度者、虚弱高齢者が対象です。軽度の人を介護予防とか生活支援の面で総合的に支援する事業だといっているわけです。

 

縦の2つの楕円は「誰が」中心になって仕組みを作るかということです。

左側は葉っぱの人たちが中心になってやる事業。

右側の縦の楕円は土の人たちが中心になる。

厳密にいうと、右側の生活支援体制整備事業の中には専門職も含まれています。専門職も地域の一員ですから。左側は専門職が中心です。

 

横の楕円は「誰を」なので客体、縦の楕円は「誰が」なので主体です。

主体×客体でこの事業が構成されているので、専門職が認知症を支えるとか、専門職が軽度者を支えるというストーリーはあるはずです。

たとえば認知症初期集中支援チームというのは、専門職が認知症の人を支える事業と意識できるし、C型(短期集中型サービス)というのは専門職の連携。これを在宅医療連携と言われていますが、それでは狭いんです。

 

もっと大事なことは、専門職多職種連携です。

複数の職種が手をつないで軽度者を支えれば典型的なC型だし、複数の専門職が手をつないで認知症の人を支えれば認知症初期集中支援チームだし、地域のいろんな資源が組み合わさって軽度者を支えれば体操教室とかB型(住民主体の活動支援)とか言われていることなんです。

 

どの事業も全部つながっているということです。

これを理解すれば、生活支援整備事業を単体と考えるのでなく、最終的にはどこかにつながっていく。つまりストーリー性があるということに気づくことができると思います。

 

さまざまな事業を俯瞰し、「ストーリー」を見つけること

生駒市はいろんな実例でよく出てきますけれども、この絵に落とし込むと、どこで何をやっているのかよく分かります。

地域支援事業全体を見ないといけない立場の方、とくに行政職の方は一度ご自身の地域でやっていることをここに落としこんでみて、事業間でつながりがあるか、ストーリーがあるか、何のためにやっているのか、を確認してみると良いのではないでしょうか。

 

これは生駒市にヒアリングをして私たちで落とし込んでいったものです。

 

生駒市はC型からスタートしています。

C型というのは専門職による軽度者向けの短期集中サービスですが、ずっとやっていられるわけではありません。プログラム終了後につなぐ場所が必要になります。

「左から右にどうやって転換していくかがテーマだ」ということが分かったからこそ、いろんな体操教室を展開するようになった。

やっているうちにだんだん住民互助が生まれて、それを地域ケア会議で共有する。

この一連の流れの中で、地域ケア会議自体がC型を中心に対象者のアセスメントをしっかりとしていく。

 

ここが一番重要なつながりですが、短期集中のC型をやっていたらその中に認知症の方もいるということに気づくわけです。

そこから認知症の施策につながったり、あるいは入退院支援のマニュアルを作っていたら、その中に総合事業の話が全然入ってないということに気付いて、マニュアルと総合事業をつなぐ。

なぜ生駒はこういったことをできたか、と考えることがすごく重要で、成果に結びつくかどうか、のポイントです。

 

どういうシナリオで地域が変化をしていくのか、それを理解するためには単体の事業だけをみていてもダメです。複数の事業を俯瞰することができる人やタイミングが絶対に必要だということです。

そのシナリオがどう生まれるのか?を説明しているのがこのスライドです。

 

これは「戦略」と難しく言っていますが、要は「ストーリー」です。

全国で先進事例といわれている自治体はいっぱいあるのですが、どこもシナリオがしっかりしている。

 

去年1年間、戦略性が高いとか、先進事例と言われている自治体さんを訪問して、一番注意してヒアリングしたのは、「どうやってそのシナリオを作ったか」です。

そこで分かったことは、最初から全てのシナリオを作っていた人はいない、ということなんです。やりながらシナリオを組んでいってます。

 

たとえば短期集中で軽度の人を対象にやっていたら認知症の人もいるな、と気づく、この人はどうやって生活しているんだろうというところからシナリオがスタートしている。

みんな個別のケースなんです。良いシナリオは個別のエピソードからできている。

小説家と同じで、自分の経験の引き出しの中からスタートし、それをどうやって膨らませるかはシナリオライター次第なんです。

つまり、専門職としての個別支援の経験がベースになっている。一人ひとりのエピソードとか、一人ひとりの困りごとがあると思います。

 

協議体の中で、一般化して抽象化して「地域の課題はこれだと思います」という話になりがちだけれども、それを最初からする必要は全然ないわけです。

あそこの誰々さんが困っている、この人をどうやったら助けられるか、ということから良い事例はスタートしている。

 

ミクロとマクロを行き来することの大切さ

先日、阪南市のまちづくり協議会の会長の話を聞いてすごく感動しました。

近所にいる糖尿病の人が全然病院に行かない。どんどん悪化していく。その人を助けるにはどうしたらいいかということで、お医者さんや看護師さんなど、いろんな人を集めて話し合っていたそうです。それが医療介護連携だとおっしゃる。

ただ、その人を一例として普遍化はできない。同じ人が何人もいるわけではないので。

でも、何例かやっていけば、必ず共通点があります。そこに気づくために個別ケースを皆さんやっているわけです。

 

だから地域ケア会議もただケース分析をしていても、あまり意味はありません。

大切なのは個別のケースを積み上げていったときに、「こういうことが必要ではないか」というシナリオが浮かぶかどうかです。大事なのはアイデアです。「こういうのあったらいいんじゃない?」ということです。

 

ただ、それを永遠にやり続けるかというとそうじゃなくて、やはりマクロも見ないといけない。

「これって意味があることなんだろうか?」と統計を見る必要もあるし、行政の皆さんはマクロとミクロを行ったり来たりする必要があります。

良い取組だと思ってやっていたけれども全然認定率も下がらないし、窓口には相変わらず同じような人がやってくる。

なぜこうなるのかなということでもう一度ミクロに戻る。

行ったり来たりを億劫がらずにやることが重要です。それは生活支援コーディネーターであれ、医療介護連携であれ全部一緒だと思います。

 

愛知県豊明市の地域ケア会議は有名ですが、「学びの場」として彼らは位置付けています。

ミクロケースをきちんと分析し、そこから必要だと思うものにトライする。

そのときに、統計データというマクロもきちんとみる。

ある人のケースから発案しているけれども実際に仕組みにするときには「そういう人はどれくらいいるんだろうか?」ということをデータ、KDB(国保データベース)も使って彼らは徹底的に調べています。この行き来を意識するということが大切だということを覚えておいていただきたいと思います。

 

生活支援コーディネーターは孤立しては絶対ダメです。

ここは、行政職員の方に強く言いたいポイントなんですが、高齢者とか福祉の枠をどれだけ外れるかが、生活支援コーディネーターの行き詰まりを打破するにはとても重要だということです。

 

地域支援事業の中の重なりのことを言いましたが、外側にもいくらでもあるはずです。

商店街の活性化が大きな課題になっている地域だってある。そういうところは「高齢者の問題なんて関係ありません」なんて絶対言わないですよね。

地域のコミュニテイFMやケーブルTV、行政の福祉部としては今まで付き合ってこなかった商工会やJC(青年会議所)、ライオンズクラブ、なんでもいいんです。地域の中にグループはたくさんあります。町内会だけなんてことは絶対ないです。

ここは突破口になると思うので、お話ししておきたかったことです。

 

20178月に、さわやか福祉財団の「住民主体の生活支援推進研究会」の事務局を担当して提言書を執筆していますが、今読み返しても古くはなっていないと思っていますのでよかったら参考にしてください。

 

 

いかに行政が地域づくりに関わるか、という基本の考え方が書かれています。ぜひこれも参考にしていただければと思います。

 

 

 

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