ええまちづくりのええ話

事例紹介
地域に出る覚悟を決め、委託者として主体的に関わる/2019年度 行政職員向け研修 萩市事例紹介

2019年10月28日、國民會館(大阪市中央区)にて大阪ええまちプロジェクト「行政職員向け研修」を開催しました

 

本レポートでは、山口県萩市による取組事例紹介をお伝えします。

 

登壇者:

山口県萩市福祉部高齢者支援課 課長 池永美杉氏

萩市社会福祉協議会地域福祉課相談支援係 係長 伊藤美智江氏(生活支援コーディネーター)

むつみ元気支援隊 隊長 山田和男氏

 

コメンテーター:

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 社会政策部長 主席研究員 岩名礼介氏

 

(以下、敬称は略しています。)

 

できる人が できるときに できることをやる

山口県萩市福祉部高齢者支援課 課長 池永美杉氏

 

池永:萩市は1市2町4村が平成17年3月6月に合併してできた市です。城下町のある観光地、あるいは世界遺産明治日本の産業革命遺産のうち、5つの構成資産を抱える歴史的な街というイメージがあるかもしれません。合併時に「萩の七色」という歌を作ったくらい、いろんなカラーを持つ自治体です。

 

合併当時の人口は6万人、高齢化率30%でしたが、今では人口は4万7千人を切り、高齢化率は42.6%になりました。今日ご紹介するむつみ地域は人口が1,384人、高齢化率56.3%です。

 

萩市の中心部以外の地域では、平成20年頃から小地域福祉活動を行政ではなく、萩市社会福祉協議会(以下、社協)が先に始めました。新しい総合事業が始まる以前から、社協は地域づくりに取り組んでいたということです。

 

萩市は第2層の生活支援コーディネーターを社協に委託していますが、協議体の構成メンバーに行政も入るようにしています。3年間、私はすべての地域の協議体に行政職員として参加していました。

 

協議体には地域の多くの皆さんに関わっていただきますが、人々の肩書きは地域によって全く違います。社協が地域のことをよくご存知なので、前向きな意見が出てきそうな人、地域のことを考えてくださりそうな方を巻き込んで関わっていただくということをとても上手にされていました。

 

萩市の人口は今後も減少し、2040年には3万人を切り、2060年には2万人を切るというのが市の推計です。

現状に目を向けてみますと、近所の方が集まる小規模のサロンは数が年々減ってきています。担い手、あるいは参加者である高齢者の方が転出したり施設に入られたり、亡くなられたりしてサロンそのものの維持が難しくなってきています。

 

今後も持続可能な仕組みづくりをしていくために、社協と一緒に方針を考えました。

小さな活動団体をたくさん作るのではなく、おおむね小学校区である圏域に1つにする。小さなサロンをなくすと言っているのではありません。「もしなくなってしまっても基幹的な団体が実施するサロンがあるからそこに参加できる」という方向ですね。

 

これが協議体の開催実績になります。

 

 

平成27年は22回、私が高齢者支援課に配属された平成28年からは年に90回前後でした。私は各地域のことをよく知ろうと思って全部出席しました。

 

私は実は人見知りです。会議に出れば文句を言われるんじゃないか、あるいは人口減少の話をして悲観的な雰囲気なったらどうしよう・・・と、いろんなことを思いつつ地域に飛び込みました。

 

3年経ちましたが、行政の職員として地域に飛び込むにはやっぱり勇気がいるということ。でも、それがないと生活支援体制整備事業は無理だということ。そして覚悟は必要だなと思いました。

 

地域づくりをするのに、住民の方々は相当の覚悟をされています。

 

農林漁業に従事されている方が多いので、主な担い手には定年がなく、生涯現役。その方々は覚悟をもって臨んでくださるので、私も地域の皆さんの気持ちに寄り添う覚悟が必要だと思いました。

そして行政の職員が得意とする情報収集もしなければいけない。そこは冷静に進めていくのが重要だと思いました。

 

行政が得意なことは行政がやる。行政に集まる情報を上手に交通整理して「この情報を今、地域の方にリリースすると、上手に活かしてくれるな」というふうにやっていく。

そして、委託先である社協に丸投げしないということです。3年間、2人3脚で一緒に歩んできました。

 

 

行政が先頭を歩かず、旗振り役にはならないということも大切です。

地域の特性を活かさないといけないので「皆さんこっちですよ」ということは絶対にしない。ゆるーく見守るということです。

 

協議体も地域によってやり方が違います。地域の中で皆さんが不安に思うことを、社協が上手に地域福祉講座という形にまとめていきます。

 

この下の写真はむつみ元気支援隊が自分たちの活動を地域の人によく知ってもらおうということで、学校の先生、保育園の先生を巻き込んで寸劇をされました。

 

 

結果として通所型サービスは13、訪問型サービスが9、誕生しました。新しい総合事業の通所サービスBは、いろんな地域の方が工夫されています。

 

 

真ん中の上の写真はスタンプカードです。上段右は、この地域のニーズとして買い物支援があるということで、通いの場、集いの場にJAに頼んで移動販売車に来ていただいています。

 

皆でわいわいご飯を食べるという場。これも地域の方の発案です。行政が「昼食提供してくださいね」と言ったわけではありません。

団体当番制という工夫をされている地域もあります。「今日のサロンの担い手は◯◯団体の◯◯さん」「次のサロンのごはんをつくるのは民生委員の◯◯さん」というふうに地域のいろんな団体総出でやっておられます。

 

訪問型サービスBの取組では、「ちょっとした手助けサービス 家族の支援を断ち切らない!!」というスローガンを掲げておられます。これも行政が言ったわけではありません。「家族がいる人のことは、家族が支援するのが当たり前でしょ」という地域の方の思いから自然発生的にできたルールです。

 

協議体では「この地域ならこれができる」という方法を一緒に考えました。そしてそれを受けて、萩市としては補助金の制度を設けました。また、公用車の貸し出しをしました。

これも萩市から地域に車を1台渡すから自由に使いなさい、ではないのです。

 

実施団体の方から「自分たちは活動を頑張る。ただすごく広大な面積なので、移動手段がない」と、「送迎が必要。車をなんとかしてくれんかね」という声があったので、公用車を7台購入しました。税金、車検代、ガソリン代は市が負担しております。

 

あと活動拠点が公民館や公の施設になることが多いので、必要に応じて施設の改修などをしております。

 

 

「できる人が できるときに できることをやる」と書いた紙がむつみ元気支援隊の活動拠点に貼ってあります。この言葉があるから細く長く団体が活動できているのだと思います。

 

行政職員、生活支援コーディネーターが同じテーブルで話し合うことの大切さ

 

萩市社会福祉協議会地域福祉課相談支援係 係長 伊藤美智江氏(生活支援コーディネーター)

 

伊藤:むつみは萩市の中でも端の方にある、旧むつみ村といわれた小さな地域です。

むつみ元気支援隊は「むつみで安心して暮らす」いうテーマで、総合事業が始まる前にできた組織。平成22年6月に社協では、小地域福祉活動事業を進めるにあたり、いろんな分野の「この人なら」という人に声をかけてまいりました。

 

むつみのなかには吉部と高俣という2つの地区があるのですが、吉部地区に小地域委員会というものを設立して半年くらい話していきました。しかし委員さんだけで話すとなかなか前に進めることは難しかったため、地域の方にアンケートをとることになりました。

「何が困る?」という程度のアンケートだったのですが、学校にも協力してもらって保護者には配布、回収をしていただきました。

 

高齢者はアンケートが苦手な方も多いので、老人クラブの集まりやサロンなどで聞き取りという方法で行いました。

残りの世帯は委員さんが直接配布、回収しました。

 

アンケートではいろんな不安とか要望が出てきましたが、一番望まれていたことは、「気兼ねなく集まれる場所」「皆が集まる場所」が欲しいというものでした。

このときはじめて行政の職員さんに相談をしました。

役場・郵便局・診療所がある建物を使えるようにできないか、とお願いをしたところ、行政の職員さんの頑張りで市長に直接要望書を出すことになりました。

 

建物を改修して使えるようになり、その1部屋を「ひだまりの里」と名付けて、9名の委員さんは張り切って「毎日誰かがいるようにしよう」と在駐をされました。

課題を解決するには人が必要です。人口の少ないむつみ地域ですが、同じ思いの仲間を増やそうと、「むつみを元気にするボランティア募集」というチラシを配布しました。

 

 

そして「できる人が できるときに できることをやる」というモットーでむつみ元気支援隊が平成25年8月に立ち上がりました。

 

組織はできたのですが、サービスを受け入れるにはきちんとした体制が必要であること、やってみないとわからないこともたくさんあったので、そのたびに相談をいただきました。

 

皆さんは、マニュアルづくり、当番、作業、サロン担当、チラシを作る人というそれぞれにできることを役割としています。

 

現在、むつみ元気支援隊の隊員は51名。年齢層は30代から90歳代です。

月曜サロンを運営されている方は93歳。

いくら歳をとってもやれることがあるというのがこのむつみ元気支援隊のいいところだと思います。できないときには「私は今日できません」とはっきり言える関係性を作っておられます。

 

平成27年に社協職員として生活支援コーディネーターになりましたけれども、事業を進めていくのに保健師さん、行政の職員さん、と同じテーブルで議論できることが、一番の強みだと思っています。

 

支え合いのインフラを、どう作っていくか

 

岩名:すべての地域でむつみ元気支援隊のように腹を括って「よっしゃ!やろう!」という人ばかりではないと思います。

市としては小さな圏域でやっていくと決めたとしても、一つ一つの地域のニーズが大きくなって、やる気のある人が活動を始めるハードルが逆に高くなるということはなかったですか?

 

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 社会政策部長 主席研究員 岩名礼介氏

 

池永:できることは地域によって全然違います。

むつみ元気支援隊の他にも先進事例が何箇所かあって、それらを協議体で紹介する時、「真似しなくていいですよ」と言います。

サービスを始めること自体が難しいと感じる地域では、「サービスを作らなくていいですよ」と言うこともあります。

サービスを作るのが目的ではなくて、今後地域をどうしていくか協議体の中で話していく過程で、できるのならサービスを作られたらいいし、タイミングが合えば補助金や、公用車を貸し出すことはできますよ、と伝えます。

 

岩名:ありがとうございます。山田さんにお聞きしたいのですが、話がきたときにチャンスと思われたのか、大変だなと思われたのか、正直な感想をお聞かせいただければと思います。

 

山田:正直、大変ですけど、私たちが動かないとどうしようもないという切羽詰まった状態でした。

むつみ元気支援隊 隊長 山田和男氏

 

合併して13年、毎年55人くらい亡くなって、生まれてくる子どもが3年に1人。小学校も約30人。我々住民が動かないと、行政に頼れないという切羽詰まった時期でもあった。たまたまそのときに定年退職された人が「やろう」と前向きだったんです。

 

岩名:その時はもともとお知り合いだった人たちでつながったのですね。10年後、20年後という先々を考えると、今40代、50代の人たちに継承が必要と思うのですが。

 

山田:それがいちばんの問題です。いちばん若いメンバーは地域おこし協力隊で大阪と千葉から来た30代。東京からお嫁さんに来た人もいます。

ただ、それぞれ仕事があるので土日に協力してくれています。

今実際に活動している人の平均は73歳くらい。私は62歳で若い方です。いちばんの問題は今の30代、40代をいかに引っ張るか、「できるときにやってくれ。無理せんでいい」と言ってます。

 

岩名:町内会といった既存の組織があると思いますが、意思決定をするときに「町内会を通さずにやるの」という意見はありませんでしたか?

 

山田:ありませんでした。我々は平成22年から動いており、婦人会の方、老人クラブの方、農業界の方、そういった分野の代表者9人で始めたんです。

 

岩名:委託者の覚悟を持って池永さんが主体的に参加しているというのはポイントになっていると思いました。

たとえ委託者が、わからなくても一緒に考えようとしているかどうかというのは、受けている側からすると非常に大事なことだと思うのですが、伊藤さん、どう思われますか。

 

伊藤:そうです。一緒に来てくれて、一緒のテーブルで話してくれて、みんなの話をきちんと聞いてくれる。「結果はちょっと待ってね」はもちろんありますが、ダメでも答えは出てきます。

「これを言っても難しいよね」という話もあるんですが、それでも言える関係があるってことがいちばんの強みだと思っています。

 

岩名:まさに孤立しないということだと思います。

市が地域にまかせっきりにしないことが、重要だと思います。

あと、これはすごいと思ったんですが、小学校区を単位に1つ協議体を作るという戦略をとられています。

 

池永:7つの圏域の中で小学校区ごとに分けて、今16あります。

 

岩名:これは真似していい地域と、真似してはいけない地域があると思います。

これを大都市でやったらうまくいくかどうか分かりません。

大きな街になると価値観の異なるいろんな人が住んでいるし、生活のスタイルも違う。マンション暮らし、あるいは一人暮らし、勤めでずっと地域にいなかったという人もいる。

地域に合わせて作るというのは実は大きな学びじゃないかと思います。

 

次に運営資金面について、山田さんに教えていただきたいのですが。

 

山田:1年の補助が8万円と11万円です。

最初は社協の赤い羽根の募金5万円と総務省からの軽のワゴン車1台でした。

今は30分100円で有償サービスですが、当初は無料でした。

ただ、頼む方が「無料では・・・」と言われて、なんとか有償でできるようになりました。あと会費はサービスの利用者も提供者も年間500円です。

 

岩名:地域のインフラ、例えば水道の基本料金みたいなもので、使っても使わなくても基本料金として会費は払うということですね。

地域支援事業はインフラ的発想でやらないと、使う人だけが負担ということにするとうまくいかない。1回幾ら、何人で幾らという細かいことを記録しなくてはいけない。

それよりも地域自治として育てた方がいいというステージまで成長していけると良い。

これはサービスづくりではなく、住民自治の再構築をやられているんだなと思いました。

それから住民の方々が自らの言葉で作ったルールというのは重要だと思います。

 

池永:「家族がいる人のことは、家族が支援するのが当たり前でしょ」ですね。

 

岩名:そうです。これを役所が言うのでなく、住民から出てくるということがすごく重要なことです。

あと、アンケート調査をされたということですが、調査票を配って書いてもらっているわけじゃなくて、一軒一軒回って話を聞いて、それを記録する紙がアンケート用紙になっているということ。

ここでのポイントは一人ひとりと対話したということです。郵送ではわからないことを対話で聞き取っているはずなんです。

地域の方に「皆さん、何かをしてください」と言っているのではなくて、関心持ってもらうところまでをプラットフォーム化しているということです。

学ぶところが沢山ありました。中山間地域での取組モデルの1つの形だと思います。

 

 

ええまちづくりのええ話へ戻る