ええまちづくりのええ話

大阪府内の地域団体の活動事例や、行政職員や生活支援コーディネーターの研修の発表も広く掲載。
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迷える生活支援コーディネーターは、まず100人を訪ねて話を聞き”自分なりの理想のイメージ”を持とう/大阪ええまち塾 塾長インタビュー

2020年2月20日

「大阪ええまちプロジェクト」では、2018年から実践型の研修として現場見学と気づきの共有の場「大阪ええまち塾」を開催。

行政職員・生活支援コーディネーター・地域団体の方が、大阪府内の「地域課題解決に取り組む活動をしている団体(先輩団体)」を訪ね、実際に試行錯誤を重ねながらすすめてきた過程を学び、そこで気づいたことを互いに共有し、自分たちの地域でのアクションにつなげてきました。

2年間に渡り、塾長(ナビゲーター)を務めてくださった 株式会社TRAPE-トラピ-CEO の鎌田大啓(かまた・ともひろ)氏に、参加者に共通する悩みやアドバイスについて話を聞きました。(取材日:2020年1月27日)

 

鎌田氏プロフィール

Cheif well-being designer

作業療法士として病院勤務後、吹田市にある医療法人の介護部門センター長を務め「自立支援」を軸とした介護サービス(訪問看護、通所リハビリ、ケアプランセンター)を展開。「ひと」「環境」「活動」の要素を新たにつなぎ合わせて本質的な価値を生み出すWell-beingデザイナーとなるべく、2015年に株式会社TRAPE(トラピ)を設立。

Q:「大阪ええまち塾」のナビゲーターを2年間務められて、いかがでしたか。

「何をすべきかわからない」という生活支援コーディネーター、行政職員は多い

1年目の参加者も、2年目の参加者も、そしてこれまで多くの地域で出会ってきた人たちも、みんな「同じ悩み」を抱えていると感じました。

 

生活支援コーディネーターや、行政職員で総合事業や生活支援体制整備事業を担当することになったばかりの方は、「意志ある住民」とのつながりがなく「自分はいったい何をするべきなのか」と悩みがちなんです。これは地域づくりに限らずなんですが、「自分はどんな状態を理想とするのか」という<イメージを持てるようになる>ことが大切だと思います。

 

100人を訪ね、話を聞く。その人たちが<笑顔になる状態>をイメージしよう

地域とつながりがまだ薄いと感じるならば、「何をするか」の内容を「とりあえず100人を訪ねて話を聞く」にしてもいいと思います。相手は他の生活支援コーディネーター、福祉関係者、医療関係者、担い手であるNPO、ボランティア、当事者など、全部違う職種や立場の人だとなおいいです。とにかくたくさんの方から話を聞いていくと、それぞれから聞いた話がだんだんと繋がってきます。そのうえで、現時点で「自分が理想の状態とはこんな感じかも」と「地域住民の幸せ(Well-being)」をイメージする。

「自分が聞いた限られた範囲の話だけで、理想のイメージを固めてしまっていいのか」と不安になるかもしれませんが、日々いろんな人に話を聞いて活動する中で、「何が地域の人にとってHappyなのか」は常に更新していけばいいんです。

見えている範囲で、「軸」を持ち、それをアップデートしていったらいいんです。

 

「課題を探す」より「アセット(強み・長所)を知る」つもりでやると、「コーディネート」がうまくいく

地域で話を聞くときには、課題を聞いて回るのもよいのですが、「アセット」―いろんな人の強み、長所や、「こんな状態がHappy」ということを聞いていくのがいいと思います。あれもある、これもある、という気持ちになったほうが、「何かが足りない」と感じた時に「ん?この問題はアレでなんとかできるんちゃう?」と自然に思えるようになります。

自分の理想の状態をイメージしながらヒアリングすると、より理想に近づく情報が得られると思います。

 

「あれもない」「これもない」ってネガティブな情報ばかり集めて向き合っているだけだと「・・・もうあかんわ」ってなってしまいますからね(苦笑)。

 

地域づくりは「こうやればいい」という正解が明確にあるわけではありません。

どこかの誰かが自分の地域に対して正解を示してくれるわけではないので、これまで繋がってきた地域の人が笑顔になれるってことに合わせてやっていくといいと思います。

 

Q:先輩団体となるような実践者の皆さんは何が違うのでしょうか?

当たり前に失敗し、その都度やり方を「更新」している

今、先輩団体さんたちが活動している地域は、周囲からは「当初から想定していたセオリーに従い、順調に伸びてきた」ように思われがちです。でも、本当は彼らもいっぱいいっぱいで、失敗もたくさんしているんです。

「地域をよくしたい」というような大きな理想は持っておられて、そこは変わりませんが、実際の活動のなかでは失敗することを前提に、そのとき繋がってきた人たちや状況にあわせて常に軌道修正をしているんですね。

まずは自分の理想を持って話を聞いていく。そうすることで、人が見えてくる。人が繋がってくる。先輩団体さんたちは、そうやって人と出会うなかで、やりたいこと、やれることが更新されていったってことなんです。

 

だから、成功している人たちの共通点であり、まだ成功していない人たちとの違いとは「失敗をしてきたか」「失敗を恐れないか」ということだと思いますね。

 

「自責」の姿勢は、「対話」から生まれる

成功している団体・地域は、皆さん「自責」の姿勢です。「自責」の姿勢を持つには、やっぱりいろんな人との「対話」が必要なんです。

自分の地域の人たちともですが、他の地域の行政職員や生活支援コーディネーターや団体と、対話の場を持つこと。

対話って、別に自分の中に明確な答えがなくてもいいんです。いろいろ言い合ってもいいんです。とにかく何か言う。そのなかで一定の結論を出すみたいなことが大事なんです。

わからないならわからないっていう結論が出たね、でいいんです。次にじゃあ何がわからないんだっけね?という感じでいいんです。

 

「大阪ええまち塾」でも、行政、生活支援コーディネーター、担い手となるNPO、それぞれの立場から色んな意見や情報が出てくるから、それが自分の気づきとなった参加者も多いと思います。その「多様性」は、塾を出て地域に出るともっといっぱいありますけど(笑)。

 

ええまち塾2年目の最終共有会での様子 立場や状況の違う人たちとの「対話」から生まれた「気づき」がぎっしり

 

Q:生活支援コーディネーターが「成功」するには?

「実績」を考える前に「生活支援コーディネーターとは何か」の深堀りを

「生活支援コーディネーターとしての実績がない」と焦る人も多いのですが、できていないことにネガティブになるのではなく、「生活支援コーディネーターとは何か」をしっかりイメージできるようになることのほうが大切です。

 

生活支援コーディネーターの役割が自分の中ではっきりしていないのであれば、もっと周囲とミーティングを重ね、対話することが大切だと思っています。それがわかってないのにアクション起こしても、「できない、わからない」となってしまいがちです。

 

「生活支援コーディネーターがこの地域で何をするべきなのか」が自分と周囲でイメージできれば、もっといい「コーディネート」ができると思います。

 

うまくハマっている生活支援コーディネーターは、「他責」ではない

生活支援コーディネーターとして活躍できているかどうかも、やっぱり本人のマインドが「自責の念」か「他責の念」にあるかだと思います。

「他責」とは、「国や行政に言われたから○○をやります」とか「○○をすることになってるのにしない人がいる。やらない・やれないほうが悪い」といった姿勢。

 

「自責」は、先ほどもお伝えしたように「地域住民の幸せ(Well-being)について、自分なりのイメージ」がちゃんとあり、それに向けて、自分の役割は何か、どう動くかをイメージできるか。そしてやろうとしていることが自分の地域にとって、本当に支え合いにつながるのか?とか、それぞれ役割がどういう社会を作っていくのか?地域住民の幸せ(Well-being)を生み出しているのかという観点が大切です。

 

やはり、全体をひっくるめて見ていかないといけません。

たとえば、介護予防のために体操やります、という企画があったとして、参加者が少ないとしたら「参加しない人が悪い」と考えるのではなくて、それぞれの人が不活発になっている要因を知る必要があると考える。

 

たとえば「息子が家にずっといるので外に出られない」という方がいるなら、「もし気が向くなら、息子さんも一緒に行けますよ」とか、「かわりにその時間、親御さんが安心できるようにサポートに入ることもできますよ」などと話をする。

ケアマネジメントじゃなく、ライフマネジメントの考え方でアプローチする必要があるんです。それが本当の地域づくりのあり方、コーディネーターなんじゃないかと思います。

 

「自責」ではあるべきだが、自分がガムシャラにやるということではない

ただ「自責」というと、自分がとにかく汗水たらしてガムシャラにやらなきゃ、と思ってしまうかもしれませんが、そうではないんです。

生活支援コーディネーターが地域の強み(Strength)を作るんじゃないんです。強みを持っている人はすでにいるので、その人に話を聞けばいいんです。

「間接的にものごとを知る」でもいいので、「みんながつながったらHappy」「Happyだという声がどれだけ自然に集まって来るか」ということを成功の指標のひとつにしてもいいくらいなんです。

 

Q:生活支援コーディネーターに必要な行政の支援とは?

その地域に特有のことなのか、日本全国困っていることなのか?を切り分ける

生活支援コーディネーターが地域で話を聞いていくと、もちろんその地域特有の課題もあるんですが、日本全国に共通する課題も多いんです。

「たとえば」と例示して言える出来事は、日本全国で共通しています。でも、全国で共通しているなら、それはもう「その地域の課題」じゃなくて「日本の仕組みの課題」なんですよね。

 

例えば、生活支援コーディネーターが「補助金が出るから、介護予防の担い手をしてみませんか」と地域住民に問いかけても、多くは「申請書の書き方がわからない」「制約が多い」「報告書の書き方がわからない」と、利用してくれない。これは、地域の問題ではなく、国や行政のしくみの側の問題です。

 

そこで、「これがルールだから、慣習だから」と押し付けたりあきらめたりしがちですが、そここそが課題として捉えて、自分たちが解決していくという気概が必要なんです。可能性を潰さない社会にするためそこを変化させてなきゃいけない。地域のみんなが利用しやすい仕組みになるよう、あきらめることなく発信し、行政にも働きかけなければなりません。

 

そのためには、何に困っているのか、ということを関係者みんなで共有し、やり方を変え、それを発信していくっていうことが大事なんです。その動きが広がれば、みんなが「地域の課題」だと思っていたことの何割かは解消されていくのではないでしょうか。

 

行政は「対話の場」をコーディネートし続けること、これが最重要

そういう声は、「対話」のなかから出てきます。

行政は国の方針を受けて「これをしましょう」と決めるのではなく、「大阪ええまち塾」のような、様々な立場の人が参加し交流することで、個々の参加者の姿勢が「他責」から「自責」に変化するような「対話」の場づくり、演出をひたすらにやるのが大切だと思います。

 

「大阪ええまち塾」最終報告会の様子 生活支援コーディネーター・地域団体・行政職員とさまざまな立場の人が一堂に。

 

参加者の経験によってはその場で響く人もいるかもしれないし、変わるタイミングは人それぞれです。それでも繰り返しひたすら提供するっていうことが大切。根気のいる作業ですし、漫然としていたら予算の確保は難しい。

 

そこは「好意的に受け止める人がどのくらい増えたか」など様々な指標をあらかじめ設けておいて住民のメリットとなる数字が「Before/After」でどれほどよくなったか、定量的に数値化して見せていくことも大切です。

 

というイメージが大切で、「ビジョンを相手に合わせて伝える力」をもって、違うカルチャーを持つ人たちと「対話」し、受け入れる必要があります。

 

上司の理解がないときは、外から取り上げてもらう方法もある

「現場が頑張っても、上司が総合事業を理解していない」という声もよく聞きます。

 

たとえば「わがまちや団体に取材や視察が来る」という外部の力を働かせるというのも一つの手段です。

そうすれば、「取材依頼が来たんだけど、これ、どういうこと?」と、事業への理解が深まっていくでしょう。

だからこそ、地域住民が「いいね!」と思えることを地域と協力してやっていくことが大切で、それを頑張っていれば、「大阪ええまちプロジェクト」のような市町村を超えたところからの視察があり、それが広がり、メディアなどに取り上げてもらえる機会があるかもしれません。そうなるように対話や発信をしていくのです。

 

実は、国だってガイドラインどおりきちんと守ってやっているところではないところを成功モデルとして紹介したりもしますよね(笑)そのぐらい、誰にも正解がないってことです。

 

「とにかく地域の方々が本当に笑顔になれば、私たちが次のモデルになれるんだ、モデルになりましょうよ」と上司をぜひ説得していただければと思います。

 

 

Q:これからの地域活動に関わる皆さんにアドバイスをお願いします!

若い世代の課題を解決する活動も。パートナーシップを発揮しないと継続しない

よく「次世代の地域の担い手がいない」という言葉を聞きますが、今やっていることが未来ある若い方々にとってポジティブな内容じゃないなら、継続は難しいでしょう。

地域を巻き込むと言いながら、結局は高齢者が高齢者を巻き込んでいるだけになっているのであれば、次世代に担い手がいないのも仕方ありません。

 

若者世代の課題からスタートする活動があってもいい。若い世代は経験が少ないから、年長者が若い人に経験を伝える役割を担う。それで気づいた若い世代が、行動する、というパートナーシップを組めばよいんです。

入り口は多種多様であればあるほどいいと思うんですけど、地域づくりを考える時に「高齢者」「自治会」にしか入り口がないなら、これからの担い手は減っていく一方でしょうね。

 

若い世代も楽しんで地域活動とか地域と関わる場をつくる。それが彼らにとってネガティブではなくてポジティブなんだ、という場ができれば、未来を感じることができると思います。

 

健康も、経済、雇用、教育も全部つながっているんです。

人、空間、場所、それらは全部、人の「良く生きる」に影響しています。

地域のひとりひとりの強みにあわせて、役割をつくっていくというのが、生活支援コーディネーターの仕事だと思います。

 

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