ええまちづくりのええ話

大阪府内の地域団体の活動事例や、行政職員や生活支援コーディネーターの研修の発表も広く掲載。
団体の活動の参考にしたり、市町村の仕組みづくりに役立つ記事がたくさんです。

初めて福祉部局に異動になった僕が、具体的なアクションを起こすきっかけになったのは、一日がかりで「地域課題」と向き合う大阪ええまち塾でした。

2019年5月27日

2018年度から始まった「大阪ええまち塾」は、地域の活動団体を午前中に訪問し、その体験をもとに午後から参加者ご自身の地域課題に照らし合わせながら何をしていくのか考える「実践型研修」の場だ。

大阪府内の市町村行政担当者や生活支援コーディネーター、地域で活動する団体等を対象としており、たんなる現場見学に終わらず、参加者それぞれの地域課題解決へのヒントを見出し、具体的なアクションにつなげていくことを狙いとしている。

 

果たしてどのような成果を上げているのか。これまで2回の「塾」に参加した豊能町役場生活福祉部健康増進課の田中久志さんにお話しをうかがった。(取材日:2019年4月17日)

 

 

異動して最初の1年間で気づいた地域の課題

田中さんが現在の部局に異動になったのは3年前。国が総合事業の制度をつくり、それに準じて各自治体が動き始めた頃だった。

現在では家事援助などB型サービスの設計・委託、認知症サポート、成年後見など地域包括支援センター業務、協議体や生活支援コーディネーターとの連携など、地域支援事業全般を計画策定から実施までほぼ一人で担当している。

 

「福祉部局への異動は初めてで、介護保険制度そのものをさほど分かっておらず、『総合事業って何?』という感じでした。事務作業をこなしながら、最初はとにかく情報収集して仕事への理解を深めるインプットが中心でしたね」

 

そんな田中さんが地域の課題に気づき、行動へのきっかけをもたらしたのは介護保険計画策定のための「住民アンケート」集計に携わったことだった。

 

「高齢者の外出頻度を問う項目で、介護認定を受けていない人は54%が毎日外出しているのに対し、要介護の認定を受けている人はわずか24%、ほとんど外出していない人も多いという現実。これは良くないんじゃないか、と思ったんです。それで漠然とですが、高齢者が気軽に出かけていけるカフェ、居場所のようなものをつくれないかと考えました。」

 

大阪ええまち塾のチラシにピンときたのが、行動開始のシグナル

異動して1年目で課題が見え、2年目に入って動き出したいと思っていた矢先、田中さんの目に触れたのが大阪ええまち塾のチラシだった。

 

「まず現場訪問というのにすごく惹かれました。池田市の『はっぴーくらぶ』さんが取り組まれている居場所づくり、介護予防への取り組みに特に関心を持ちました。活動エリアである伏尾台は、高齢化率が約41%、坂の多い地形など豊能町に非常に似ている。実際にこの目で現場を見て、いろんな人の話を聞き、ナマの情報に触れたというのがすごく大きいです。自分が考えていたことが『その方向で良かったんだ!』と自信が持て、具体的な行動につながりました」

▲はっぴーくらぶ代表の菊池さん(真ん中の女性)とええまち塾生のみなさん

 

 

地域で動き出すために、田中さんが大阪ええまち塾で体感したもう一つのインパクト、それがワークショップだ。

 

「現場を見たナマの感覚がある状態で、午後から参加者同士で気づきを共有するんですね。その後にいつまでに、何をやるか、目標を立てて、それを発表し合います。自分がここまでやるんだと宣言することによって『やるぞ!』っていうピンと背筋伸びる感じになりました。あのまま『現場を見て良かったな』で帰っちゃうと、せっかく得られたヒントが日々の仕事に追われて埋もれると思うんですよ。」

 

周りを巻き込み、壁を乗り越え、「昼下がりのカフェ」実現が見えてきた!

ワークショップで田中さんが宣言したのは「昼下がりのカフェ」開設。

高齢者が自分たちの家の近くで集まれる通いの場を、町内にたくさんつくろうという計画だ。

▲ええまち塾での田中さんの宣言

 

職場に戻った田中さんは早速、地域包括支援センター、社会福祉協議会、生活支援コーディネーターといった周りの人たちに、塾で得た情報と、居場所づくりへの志を共有した。もともと共通の課題認識を持つ人たちは「いいね!」「やろう!」とすぐに実現への機運は高まった。

 

コミュニティサロンは各地で展開されているが、そのなかで「昼下がりのカフェ」はどのような位置づけになるのか。その計画を詳しく聞いてみた。

 

「居場所づくりの必要性を認め、国は人口1万人に10箇所という基準を出しています。豊能町の人口が約1万6千人なので16ヶ所のカフェ開設を目標としました。初年度にまず3箇所を目指します。

場所はどこでも良いのですが、住民主体なので自分達で場所を決めていただいて、運営はリーダーがおこないます。週1回、通いの場として集まって、介護予防になるような脳トレや体操などをしていただく。それ以外はお茶飲んでおしゃべりするだけでもいいし、さまざまな市民活動などいろんなことをしてもらってかまわない。そしてひとつのカフェにつき年間6万円の補助金を出すという仕組みです。」

 

次なるステップにちょっとした壁が待ち構えていた。地域資源をつなげたり、新たなサービスを生み出したりする生活支援体制整備の推進チームとして町内に形成されている「協議体」での反応だ。

協議体のメンバーは福祉事業所、老人クラブ、各種ボランティア団体で構成されている。田中さんが「昼下がりのカフェ」計画を話したところ、「リーダーはすぐに見つかるのか」「一体どこでやるんだ」とやや悲観的な反応も返されたと言う。

 

その壁を田中さんはどう乗り越えたのだろう。

 

「叶うという字は、口に十と書きますよね。10回言葉にして伝えれば願いは実現するという意味。僕はそれを信じて協議体の方々に何度もカフェへの協力をお願いしました。」

 

協議体のメンバーも「地域を良くしたい」という気持ちは同じなので、田中さんの熱意が「伝染」し、やがて「できそうな場所さがしてみるわ」とか「リーダーやってくれそうな人を当たってみるよ」といった地域の種まきを協議体が引き受けてくれることになった。

どうせやるならゴールを決めようということになり、町内16箇所のカフェ開設という目標が決定し、「昼下がりのカフェ」開設は実現の目処が立った。

 

▲協議体での会議の様子

 

大阪ええまち塾には同じ地域で活動するメンバー一緒に参加するのがお勧め

もともと思ったことは積極的に発信する「アウトプット型人間」を自認する田中さんだが、そんな彼を具体的なアクションプラン作成と実行まで、力強く後押ししてくれたのは大阪ええまち塾への参加が大きかったと言う。

 

インタビューの最後に、今後も開かれる大阪ええまち塾への参加を検討している方々へのメッセージをお願いした。

 

「僕は日程の関係で単独での参加になったんですけど、地域団体の方、生活支援コーディネーターの方、行政職員とかセットで参加するってすごく良いと思うんですよ。僕は塾で得た経験を持ち帰って、周りの方に伝えていきましたけど、同じものを見て、同じ現場で感じ合えれば、情報共有もとてもしやすい。現場の空気を感じるということは非常に大切な事だと思う。

多分、普段お仕事されていて皆さんいろんな課題をお持ちだと思うんですね。それをどう掘り下げていったら解決に向かえるのか、という時にぜひ大阪ええまち塾に参加していただいたら何かヒントが得られると思います。

得られたヒントを自分の町に落とし込んだ時にどういう風にそれを活かしていくのかっていうのを考えるのも僕は楽しかった。すごくためになったのでぜひ参加していただきたいですね!」

 

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