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ええまちづくりのええ話

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子どもが高齢者支援の担い手になる「子ども福祉委員」で、みんなが住み続けたい街に(阪南市)/大阪ええまち塾 第1回レポート

2019年8月21日

担い手不足に悩みがちな高齢者の生活支援ですが、大阪府の最南端の市、阪南市で、府内外から注目を集めている取り組みがあります。

市内の小・中学生が高齢者の生活支援の担い手として活躍する「子ども福祉委員」は、社会福祉協議会が校区福祉委員・民生委員等の地域の協力者とともに進める活動。民生委員からの地域情報に加えて、子どもたち自身が「誰かのためにできること」を発見、足を運んで困りごと解決に取り組んでいます。

桃の木台校区で「子ども福祉委員」の取り組みを進めている校区福祉委員会副委員長の藤本恵津子さんと、「子ども福祉委員」の立ち上げに関わり活動をバックアップしている阪南市社会福祉協議会(以下、阪南市社協)の猪俣健一さんにお話を伺いました。

写真左)猪俣健一さん  写真右)藤本恵津子さん

本レポートは、現場訪問や参加者同士の交流を通じて、実践につなげていく「大阪ええまち塾」の2019年第一回訪問をもとに作成しています。(訪問日:2019年7月30日)

 

難しいことは言わない。「みんなのチカラで助けて!」と呼びかけた

子どもたちが自ら高齢者の生活支援や困りごと解決に取り組む、その自主性のある活動を、どのように呼びかけて始めることになったのか、とても気になるところです。

2017年5月。桃の木台校区にある”飯の峯中学校”の全校集会に藤本さんを含む校区福祉委員2名、阪南市社協職員である猪俣さんが参加し、全生徒へ「子ども福祉委員」のチラシを配布して募集をしました。

 

藤本さん:地域福祉のため、といった難しいことは一切言いませんでした。伝えたことは、私たちも年とってきたし、みんなのチカラで助けて!ということでした。

 

この集会を受けて12名の申し込みがあったそうですが、生徒は自分だけで参加の意思を決めたのでしょうか。

 

藤本さん:保護者の了承は必要なので、子どもたちには、「ちゃんと保護者の方の了解もとってきてね」としっかり伝えました。

 

絶対に、大人から答えを伝えない・指示をしない

全校集会から約1ヶ月後、9名が集まり「これからやりたいこと」を出してもらいました。子どもたちから出てきたのは、お掃除・イベント・リサイクル・赤ちゃんのお世話・お年寄りのお手伝いなど。特にお年寄りを助けたいという意見が多かったそうです。

 

藤本さん:「お年寄りを助けたい、これはどう進めるといいかな?」と問いかけると、「じゃあ直接いったらいいやん」という意見が子どもたちから出てきたので、高齢者宅を訪問することになりました。

 

その後、夏休み期間中に3日をかけて、民生委員さん同行のもと、高齢者の方々の困りごとや夢などのインタビューを実施。「額縁を変えたいけど、高いところも怖くなってきたから」という話を聞いて、その場で早速困りごとを解決した事例もありました。

 

藤本さん:すぐできることでしたし、子どもたちは、「ボランティアって簡単にできるんやな」と言ってました。

 

さらに約1ヶ月後の9月。それぞれがやりたいことの思いを共有し、地域での困りごとや求められることを実感。「困っている人の思い・夢をかなえたい」「役に立つ人になりたい」という思いから、自分たちの活動に「夢かなえ隊」というグループ名をつけました。

藤本さんや猪俣さんは、民生委員や社協職員という立場で子どもたちの取り組みをサポートしていますが、決めるのは全て子どもたちです。

 

藤本さん:私たちはあくまで子どもの言葉を受け止めるだけ。「ああしたらいいやん」「こうしたらいいやん」とは絶対に言わないようにしています。それが私と猪俣さんとの約束事です。ボランティアですし、やらされたら楽しくないですから。

 

高齢者の夢を叶える、ちょっとした気づきと行動で相手を元気にする取り組み

「夢かなえ隊」の支援を受けた高齢者の方が元気になる。そんなエピソードも紹介いただきました。

 

「もう一度、オークワ(ショッピングセンター)で買い物したい」

ご主人が亡くなられてから10数年。普段は車椅子生活で、買物などの外出が難しくなってきた方の夢を叶えるために、7名の子どもたちが集まりました。子どもたちは事前に車椅子の操作など一通りの練習をしました。

オークワでは、服を選んだり、食品を買ったり、依頼者が3年もの間ひとりではできなかったことをすることができました。そのときに起きた藤本さんにとって印象的な出来事を教えてくださいました。

 

藤本さん:オークワに到着するまでの車中、子どもたちはおばあちゃんの話を聞いてくれていたんです。「この辺りには、美味しいスパゲティ屋さんがあるんよ。よく孫と来てた。また行きたいなぁ」という言葉をある男の子が覚えてくれていて、「夢かなえ隊」のみんなに「おばあちゃん、スパゲティ屋さん行きたいって言ってた」と話してくれたんです。すると「せっかくオークワに来てるんだから、食材を買ってパーティしよう!」という声が上がり、その日のうちに、スパゲティパーティをすることになって、おばあちゃんもとっても喜んでくれました。

私は、ちょっとした言葉に気づいてくれたその男の子に感動しました。

 

次にその方の「トマトを育てたい」という願いを叶えるために、「夢かなえ隊」で菜園を作りました。子どもたちはシフトを組んで、朝夕と毎日水やりをするようになったそうです。

 

藤本さん:おばあちゃん、本当はトマトが苦手なんです(笑)。「なんでトマト作りたいん?」と聞くと、「トマト作ったらみんなに持って帰ってもらえるやろ」って(笑)。毎日の水やりが結果的に高齢者の安否確認にもなりましたし、子どもたちが来てくれて、それが楽しみでおばあちゃんも元気になっているんです。

 

子どもたちに起こった前向きな変化、活動も他の地域へ広がっていく

飯の峯中学校から始まった取り組み。徐々に阪南市の他の中学校でも活動が始まってきました。

その広がりをきっかけに「子ども福祉委員」に参加する子どもたちが一堂に会する機会として、「子どもボランティアサミット」を2018年12月に開催。参加した子どもたちの意識にも変化あることが明確に分かりました。

 

猪俣さん:人の目を見ることができない。顔を見て喋ることができない。そんな子が、活動に参加してからは、目を見てしっかり話せるようになった。そういった子どもの変化もあって、学校からも「子ども福祉委員」は必要な取り組みとして理解してもらえています。

 

2019年度には、市内全域にも展開し、3中学校、1小学校でも取り組むことになりました。合計で74名の子どもたちが参加するまでに「子ども福祉委員」は広がっています。

 

 

猪俣さん:藤本さんのような方が増えていってくれると嬉しいですね(笑)。「子ども福祉委員」に関わった子どもたちが、前向きにボランティアに参加して、街のみんなが元気になるきっかけになる。そしていずれ将来、阪南市に住んでもいいな、とか、子育てが終わったら民生委員としても地域活動に参加してもいいな、って思ってくれたら。そんな循環ができればいいなと思っています。

 

 

ええまち塾 塾生との質疑応答

 

Q:高齢者からの依頼を受けたあと、まずやることは何でしょうか?

猪俣さん:まず窓口となっている民生委員さんと一緒に現場を下見に行くようにしています。話を聞くだけでは分からないこともありますし、子どもの安全面の確保のためです。子どもたちの力でできることを慎重に確認します。

 

Q:最終的に子どもたち自身ができる・できないの判断をしているのでしょうか?

藤本さん:子どもたちと民生委員さんが一緒になって判断していますが、できないことはハッキリとできないと言いますね。対応できない場合は別の機関に繋いだりします。それは大人の役割です。

 

Q:どんな方からの依頼でも受けるのでしょうか?

藤本さん:基本は民生委員からの依頼ですが、「くらしの安心ダイヤル事業(災害時要援護者登録制度)」に登録している方を対象として民生委員と子どもたちでチラシを配っています。登録者は主には独居の方や高齢者夫婦といった方々です。

 

Q:子どもたちの「この現場に行きたい!」というのは立候補なのでしょうか?

藤本さん:「こんな依頼が来ているけど、行きたい人!」と声をかけて立候補してもらってます。

猪俣さん:最初はみんなで決めていたんですが、それができたのも10人くらいまで。今は20人を超えているのでチームを分けました。アンケート調査チーム、保育園へのニーズ調査チームなど。各チームのニーズ把握は、企画者が主担当になって話し合いをして進めてくれています。

中学生は、いつ・どこに集合して・何を持ってきて、という段取りはできますけど、小学生だと、その段取りは大人がサポートしていますね。

 

Q:活動の中で子どもたちへ支援が必要と思われるとき、どういうタイミングで支援するのでしょうか?

藤本さん:子どもたちから「助けて」「どうしたらいい?」という声があったときに、手助けをします。

猪俣さん:例えば、オークワへ買い物に行くにも、現地までどう行けばいい?と子どもから声が上がった時に車を出したこともあります。子どもたちのボランティア活動支援ということで、社協の車を活用しました。

 

Q:藤本さんが「子どもに担い手になってもらいたい」と思ったきっかけは何だったのでしょうか?「子どもに助けてもらう」という発想はなかなか出てこないと思うのですが。

藤本さん:いま子どもがボランティアする場所がなかなかないですよね。

私は幼少の頃、ボーイスカウト・ガールスカウトといった活動に参加していました。引っ込み思案だったけれど活動に参加することで自分が変わった体験その経験は中学生・高校生になった時も残っていて、無理なく自然にボランティア活動に参加できていましたので、子どもの時のボランティア経験って大事だな、と。

あとは阪神大震災の時に、中学生や高校生が活躍していたことが記憶に残っていたんです。大人ばっかりでなく、子どもたちの活躍の場を作ればいいやん、と思っていました。

 

Q:学校の全校集会では毎年話をしているのでしょうか?

藤本さん:集会に大人が出向いたのは1回だけです。次からは、子どもたちが勧誘をするようになりました。1年生の教室にも出向いて活き活きとやっている活動を紹介してくれています。活動をしてきた成果を新聞にして校内掲示板に貼り出したりもしてくれてます。

 

Q:どのように学校や教育委員会とのパートナーシップを結んできたのでしょうか?

猪俣さん:まず学校については、PTA会長を担ったこともある藤本さんからの提案、というのは学校側も前向きに関わってくれている大きな理由になったと思います。

また、阪南市と社協と一緒になって作っている地域福祉計画に、新たな担い手の創出のために「子ども福祉委員」の取り組みについても掲載していましたし、桃の木台校区の五カ年計画の中にも入れていました。

教育委員会には、「子ども福祉委員」は思い付きの取り組みでなく、行政も一緒に計画を立てているものであることをお伝えしました。そして協議の上、モデル校を選定し、進めさせてもらいました。

藤本さん:学校の先生や教育委員会の皆さんの仕事が増えない形で進めるように気をつけています。学校を通して取り組んでいるということで、保護者の皆さんからは安心してもらえていると思います。

 

Q:子どもたちはボランティア保険に入っているのでしょうか?

藤本さん:入っています。桃の木台校区の取り組みでは、校区福祉委員が負担をすることになりました。年間500円の保険です。

猪俣さん:子どもたちは校区福祉委員の一員というわけではないのですが、同じ桃の木台で活動している仲間ということで了承いただいています。

 

Q:桃の木台校区の取り組みは、藤本さんが中心に環境を作ってきて、グイッと後押しをしてこられたパワーを感じます。他の校区に広げていっているときに、その校区の担当の方が、私は無理だ、とならなかったのでしょうか?どういう工夫があったか教えてください。

猪俣さん:阪南市には、藤本さんのような活動家が20人くらいいるので、どこの地域でも熱心に活動してくださっていますから、その点は大丈夫でした(笑)

これまでずっと地域の方の思いを聞きながら、社協側でなければできないところをサポートして、活動にかけるその思いを大切にしてきました。

あとは、逆に学校側から、「やりたい!」と手をあげてくれた事例もありました。

ただ、いざ地域に説明をしにいくと、普段から熱心な活動をされていて忙しい状況ということもあって最初は前向きな返事はもらえなかったんです。「子どもがやりたいと言っているんですよ。その環境を作るのは大人の責任です!忙しいのは分かりますけど、社協もサポートするのでなんとかやってもらえないでしょうか」と思いをぶつけたこともありました。それでもなかなか理解はしてもらえなかったので、子どもたちの初回ミーティングに来てもらうことにしたんです。

そのミーティングでは、20人くらい集まってくれた子どもたちが「地域の人にいつもお世話になっているから恩返ししたい」「お年寄りの人たちを助けたい」という思いを自分の言葉で語ってくれました。百聞は一見にしかずですね。参加してくださった地域の方は「これはとっても良い活動や!」と言ってくれました。そこから全面的に子どもたちの取り組みを受け入れてくれるようになりました。

 

Q:藤本さんは、今後、桃の木台校区がどんな地域になってほしいと思っていますか?

藤本さん:自分が歳とっても楽しく過ごせるように。今は自分のための基盤づくりをしている気持ちです(笑)。別の地域に引越しをするというのは、今住んでいる地域が楽しくないというのも理由の一つだと思うんです。

若い世代も帰ってくるような街にしたい。そんな思いを持って夏祭りやひとつひとつの取り組みを進めています。自分のため(笑)ですけど、この思いに乗っかって一緒にやってくれる人がいるのは嬉しいです。1人ではできませんから。

 

Q:最後に地域活動での取り組みにアドバイスなどあればお願いします。

藤本さん:自分たちが企画してやることなんだから失敗を恐れずにやってみるのが良いと思うんです。当たって砕けろ。失敗したらどこがダメだったんだろうと考えて前向きにやっていく。

やってる側が楽しそうにしないと人は集まってこないですよね。しんどいこともありますけど、絶対にそんな顔は出さないように。楽しいところだからおいでよ!と言い続けていきましょう。

 

気づきを広げ、深掘りする午後からの約1時間30分のワーク

10時から12時過ぎまで、「子ども福祉委員」の取り組みをじっくり聞くことができた午前の部でした。

午後からは、ええまち塾ナビゲーターの鎌田さんの進行のもと、午前中の話から得られた気づきを共有。対話を通して、阪南市で子ども福祉委員の活動が広がっている要因を、細かい要素に分解していきます。

活動を主体的に進める藤本さんの考え・姿勢。藤本さんと猪俣さん、それぞれの立場での役割分担と連携。周囲の関係者との関わり方。など。約1時間の対話を通して、午前中の気づきをさらに深いものに落とし込んでいきました。

最後に30分ほどかけて、それぞれの地域で、いつ・誰と・何のアクションをするのか検討し、塾生同士で共有します。皆さんに共通していたのは、「まず、今日得られた気づき・ヒントを地域でともに活動する仲間に共有する」ということでした。

 

2019年度の大阪ええまち塾、1回目の現地訪問。参加した皆さんはそれぞれが得られた知見を元に、ご自身の地域でひとつひとつ着実に取り組みを前に進められようとしています。

 

大阪ええまち塾に参加するには

現場訪問や参加者同士の交流を通じて、実践につなげていく「大阪ええまち塾」。

現地訪問は、2019年9月3日(火)住まいみまもりたい【大東市】、9月27日(金)びーの×マルシェ【豊中市】と続きます。

 

地域での活動に何かヒントを得たい。他地域の事例を知りたい。仲間と一緒に今の活動を一層進めたい。いろんな思いを持たれている方はぜひ「大阪ええまち塾」への参加をご検討ください。

 

大阪ええまち塾の詳細・参加申し込みはこちらから

 

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