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ええまちづくりのええ話

大阪府内の地域団体の活動事例や、行政職員や生活支援コーディネーターの研修の発表も広く掲載。
団体の活動の参考にしたり、市町村の仕組みづくりに役立つ記事がたくさんです。

「いっしょにやろう」が自然に生まれる「物語」というコミュニケーションツール/市町村向け地域づくり研修 講義の概要

2022年1月28日

2021年10月22日、地域づくりの主役である地域住民による活動を、市町村職員や生活支援コーディネーターがいかに効果的に連携・協働するかをテーマに「市町村向け地域づくり研修」をオンラインで開催しました。(参加者数:55名、参加市町村数:19市町村)

当日は、講義と演習(グループワーク)を織り交ぜた方式で展開され、本記事では講義部分をとり上げてご紹介します。

 

ゲスト講師/東京都立大学 人文社会学部 人間社会学科 准教授  室田信一氏

東京都出身。日本の高校を卒業したのち、学部と大学院修士課程をニューヨーク市立大学ハンター校で過ごす。大学院修了後はニューヨーク市内にあるセツルメントQueens Community Houseにて移民コミュニティのオーガナイザーとして勤務し、2005年に帰国。

日本帰国後は活動拠点を大阪に移し、同支社大学大学院に進学。大阪府社会福祉協議会の社会貢献支援員や大阪府茨木市のNPOにてコミュニティソーシャルワーカーとして勤務。大阪大学での特別研究員(日本学術振興会・PD)を経て、2012年4月より現職。専門は地域福祉の実践研究やコミュニティ・オーガナイジング※。

※ 仲間を集め、その輪を広げ、多くの人々が共に行動することで社会変化を起こすこと。

 

住民主体の地域づくりを後押しする「物語」

今回は、住民主体の地域づくりにおいて、とても有効なツールになる共感を生み出す「物語」<ストーリー・オブ・セルフ>についてお伝えします。

 

住民との関係性が基盤となる生活支援サービスとは

生活支援サービスや総合相談窓口を実現できるのは、協議体、プラットフォーム、ネットワークがあってこそです。そしてその基盤となっているのは地域住民との関係性です。住民が集まって動きを起こすような組織を作るには、「よし、いっしょにやろう」となる気風が生まれることが大事です。

そのうえで、生活支援サービスを整理してみましょう。

左から「公的サービス」、次に「生活支援サービス」、右に近隣の自然な助け合いや支え合いといった「従来の相互扶助」を位置づけます。

生活支援活動は、左の公的サービスの劣化したものではなく、従来の相互扶助がよりシステム化したものと捉えたいところです。

では、従来の相互扶助がもっている特徴を地域でどうコーディネートし、システム化していくのがよいでしょうか。

 

「物語の共有」は、共感を生み行動を促進する大切な要素

私たちは、物語が共有されたときに心変わりが起こります。

ある見守り活動をされている住民さんに話を聞いたときのことです。3年前に80代、90代の方の孤立死が続いたそうで、「そんなことがおきる地域にしたくない」、という想いをお持ちでした。孤立死という残念な出来事がきっかけとなって、まわりの人たちとともに見守りの活動を立ち上げるという動きにつながったわけです。

しかし、何かが起こらなければ動機にならないかといえばそうではありません。「こうなってほしい」という物語があれば良いのです。

そこからコーディネーターの力によって働きかけを行い、住民のみなさんの中に覚悟が生み出された結果として、生活支援サービスといった新たな活動ができてくると、ゆるがない取組になります。そこに芽生えるものを自治力といいます。住民主体で地域を変えていける力です。

行動が生まれるときには、2つの側面が結びついていることを認識することが重要になります。

©︎コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン

  • 戦略:どのように行動すればいいのかについて頭で考えるということ
  • ナラティブ(物語):なぜ行動するのか、その動機について心で感じるということ

 

地域で「これをやりましょう」と話したとき、「なんで自分が手伝わなきゃいけないの?」という反応であれば、動機が足りていない証拠です。「なぜやるのか?」というナラティブ(=物語)要素が伝わると、行動が起きやすくなります。

同じ活動でも「やらされている感覚」と、「(自分の意志で)やる感覚」では大きく変わってきます。それは物語が共有されているかの違いです。それこそが共感なのです。

重要なことは「価値観を行動の源泉にする」ということです。

価値観は、自分の経験や体験を通して築かれるものです。一緒に活動してほしいとき、相手に価値観を押し付けると逆効果になることがあります。行動を促すのは、相手の価値観にはたらきかける「物語」です。

 

相手の価値観には働きかける物語の構造

物語には、必ず「筋」があります。映画でも小説でもアニメでも、主人公に困難がふりかかり、それを打開するために、いかに行動をとるか、その選択をして結果が導かれます。聞き手は主人公に感情移入して追体験することにより、その人の感情を経験することができます。「困難、選択、結果」が価値観に働きかける物語をつくるのです。

こうした枠組みで物語を語る事例として、米国の大学院生のジェームズ・クロフトによる、性的少数者についてのスピーチ動画を用いて紹介します。

スピーチの内容は、3つに分類されます。

  • ストーリー・オブ・セルフ:自分自身の話で、なぜ自分がその活動に関わっているのか、その問題意識の原点となる出自や体験、価値観について語ること
  • ストーリー・オブ・アス:自分を含む多くの人(コミュニティ)が共有する問題意識について、その基盤となる価値観について語る
  • ストーリー・オブ・ナウ:その問題の緊急性について。なぜ、今、行動をとらなければならないのか、その具体的な内容も含めて語る。

©︎コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン

アメリカの大学院生ジェームズ・クロフト氏のスピーチ動画はこちら

(日本語字幕は、You tubeの設定ボタンから「字幕>日本語(自動生成)」を選択ください)

 

この動画ではLGBTでいじめを受けていることについてスピーチしています。

LGBTについて一般の方にはわかりづらい。そこで動画でも「ひとりぼっちという気持ち、みなさんもありませんか?」と、自分の物語(ストーリー・オブ・セルフ)を語った後に私たちの物語(ストーリー・オブ・アス)に切り替えている様子が分かると思います。

また、ストーリーを通して語ると、場面がビジュアルで浮かんでくるため、共感を生み出し価値観を伝えやすくなります。

 

組織づくりを一歩前進させる、物語を利用した関係構築

さて、価値観に次いで、関係構築の原理についてお話しします。

みなさんは、どんなときに相手と「関係性を構築できた」と感じるでしょうか。

より関係性を強められるのは、例えば会話の中で「実は自分も」と関心を示して相手の価値観との共通点を話すときかなと思います。

図の左と右に人がいます。二人の持つ「関心」と「資源」が結びついたとき、「共通の資源」になっていきます。

©︎コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン

 

例えば、左と右の二人が、お互いに子ども食堂を作りたいという関心があるとします。料理が得意な人と、広いスペースを持っているという人同士がいる場合に、価値観が共有されれば、異なる資源(料理が得意な人、広いスペース)を共有でき、交換経済という循環する関係(=料理が得意な人と一緒に広いスペースで子ども食堂を運営できる)になります。

このように関心と資源が交換されるとき、価値観の共有によってはじめて関係性が強くなります。関係とは価値観を共有することに根ざしています。その価値観とは、お互いのストーリー、特に人生における経験を通して得られたその人の想いを知ることによって把握することができます。ポイントは「なぜ?」と尋ねることです。

先ほどの子ども食堂の事例も、一方は、自分の子育て経験から、ほかにつらい想いをしている人を助けたいと思っている。もう一方は、一人暮らしで家に広いスペースがあり、寂しいので人が出入りしていてほしいというストーリーがあったとします。お互いの目指すところは違ってもうまくいくか?そういう場合は、価値観をすり合わせする必要があります。

©︎コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン

 

では、地域での関係構築にあたって、同質な人と異質な人と、どちらが重要でしょうか。

同質な人とは進めやすいですが持っている資源がだんだん似てきてしまいます。一方で異質な人の場合はいろんな資源が集まって、より大きな力になります。そして異質な人こそ、どんな価値観でつながるかが大事になります。

また、地域では「○○さんが言うからやる」ということは多いと思います。これは「私的関係」と言えます。これに対し、価値観に基づいて「この目的に向かっているからやる」というものは「公的関係」と言います。共通の目的を達成するための組織を作っていくためには公的関係を構築することが重要になります。

 

関係構築のための会話のステップ

1対1の関係構築には、会話のステップがあります。

それは①注意、②興味、③探求、④交換、⑤コミットメントになります。

©︎コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン

 

① 注意

なぜアプローチしているのか?を相手に伝えること。

例えば「以前少し話した時に、もっと詳しく話したいと思っていました」などと伝え、話を聞いてもいいと感じてもらいます。

② 興味

目的を明確に伝えること。注意しなければいけないのは、なかなか本題に入らず遠回りになると、何を話したいのか分からなくなります。

③ 探求

「相手がどんなことを大切にしているのか」をさぐるような質問をしていきます。

相手の価値観を探るような質問から共感で会話が進んでいくと、価値観が見えてきます。

④ 交換

例えば「そういうことでしたら、民生委員の〇〇さんでしたら相談できますよ」という形で、〇〇さんという資源を相手が示してくれると、互いの関心と資源が結びつきます。

⑤ 約束

次にいつ会って何をするのか等、具体的なアクションを決めます。

 

この中では、探求の部分で本音を語ってもらうことにつなげていくために、探求(=相手の価値観を探る)ということが重要になります。

しかしこれらはあくまでも、予定通りの巻き込み方をすることが目的ではありません。ぼんやりとした関心から結びつきを見つけようとする、何か一緒にできないかなという段階で話を始めることが関係構築のポイントです。

本日の講義では、住民主体を進める上で有効な「物語」と、物語を利用した「関係構築」についてお伝えしました。ぜひ皆さんの地域で実践を通じて活用いただけたらと思います。

 

※コミュニティ・オーガナイジングの研修プログラムについて、詳しくはNPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンのホームページをご参照ください。

 

 

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