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ええまちづくりのええ話

大阪府内の地域団体の活動事例や、行政職員や生活支援コーディネーターの研修の発表も広く掲載。
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協議体を継続的に活性化させる運営方法について/2023年度 生活支援体制整備事業に係る充実強化研修 吹田市事例紹介

2024年4月4日

2024年124日に、「生活支援体制整備事業に係る充実強化研修」を大阪市内で開催しました。

研修プログラムでは、吹田市における協議体の運営プロセスについて、社会福祉法人吹田市社会福祉協議会の新宅太郎さん(第1層生活支援コーディネーター)に具体的な事例をお話しいただきました。

 

現在の生活支援体制整備の状況について

吹田市は大阪府北部に位置し、人口382,491人の中核市で、高齢化率23.7%の地域です。

1層生活支援コーディネーターは私1名と、令和5年度から第2層生活支援コーディネーターが2名配置されました。地域包括支援センターは行政が運営する基幹型が1ヶ所、委託での運営が15ヶ所となっています。

吹田市では第1層協議体を「すいたの年輪ネット」という愛称で呼び、年3回開催しています。第2層協議体は市内を6つのブロックに分けた「地域ケア会議」を兼ねて運営するかたちになっており、第3層協議体は「地域検討会」という小学校区単位での活動をしています。

これらの協議体がどのような経緯で成り立ち、現在どのように運営、連携しているかを説明していきます。

 

協議体運営が負担にならないために

吹田市のプロセスをお話しする前に、生活支援コーディネーターであるみなさんの中には、協議体で毎回の開催時にどのような話し合いをするか悩まれている方もいらっしゃるかもしれません。

 

「この話題はもう議論したから、次は何を話したらいいか」

「話題がないので時間をもてあましそう」

 

生活支援コーディネーターそれぞれの中で「協議体がなぜ必要なのか」ということが腑に落ちていないと、次第に協議体の運営自体が負担になり、協議体そのものが自分にとって邪魔な存在になりかねません。そうならないためには、「なぜ協議体は必要なのか?」今一度納得できる理由を自分の中で落とし込む作業をしたほうがいいでしょう。

 

協議体を過去・現在・未来までひと続きのものとしてとらえる

吹田市では平成28年度から現在まで第1層協議体「すいたの年輪ネット」を年3回開催してきました。協議体メンバーは2年間で1任期となっています。

下の資料のように、これまで第1層で取り組んできた内容を中心に時系列で把握できるようにしています。更新された内容を4ヶ月ごとにメンバー全員で毎回共有するので、前回話し合われた内容が今後どのように動いていくのかがイメージできますし、任期が変わったとしても表を見ればこれまでの流れがわかります。

のように協議体とは1任期、1回ごとの話し合いが単発で完結するものではなく、前後で連続している活動のうちの1回という意識で全員が参加できるようにしています。

 

1層から第2層、そして第3層へ、小さなエリアでの活動を重視

令和2年度、3年度ではコロナ禍で協議体の活動を制限せざるを得なかったため、相談対応以外の活動はほとんどできませんでした。生活支援コーディネーターが自ら動かなければ、まちづくりに関わることはできません。

このときオール吹田で集まれないのなら、もっと小さいエリアごとに集まって話し合おうという声が上がり、小地域での活動が始まりました。

そこで話し合われた内容は第1層協議体に報告し、第1層協議体からまた小地域へ提案をフィードバックするということを繰り返すうち、小地域での取り組みを増やしていこうという合意形成が生まれ、第2層生活支援コーディネーターが配置された経緯があります。

「小地域をまとめるコーディネーター(第2層)が必要だ」という声は私からではなく第1層協議体のメンバー内から自然に上がったものです。その声を行政のほうで受け取っていただいて、令和5年度より第2SCの配置につながりました。

吹田市の場合、第2層圏域は6つのブロックに分かれています。しかし1つのブロックにおける生活圏域が広いため、ブロックごとに意見を出していただいても「わがこと」になりにくい面がありました。

そこで、より「わがまち」のことに寄り添った意見を出しやすい小学校区単位での協議体、第3層協議体「地域検討会」が発足することになりました。

この第3層協議体のメンバーとして、下の図のようなさまざまな組織や団体が関わっています。それぞれ地域によって協議体の開催時期や頻度に違いはあるのですが、地域ならではの特色のある団体がメンバーとして参加しています。

 

協議体運営で意識されている5つのこと

1層も第3層も協議体の運営では同じことを意識しています。

 

1.まずは「ワーク(グループワーク)」、その意図するところは議論の活性化です。生活支援コーディネーター主体で「こんなことやりました」と報告することがゴールではなく、参加者に議論を促して意見を出してもらうためのワークであり、出てきた意見をコーディネートすることが目的です。第1層では毎回グループワークが主体になっています。

なぜこれを重視するのかと言えば、参加する委員と生活支援コーディネーターが一体化した協議体を目指しているためです。

グループワークがあれば一言も喋らずに帰るという人はいなくなりますし、「自分の意見が実際に反映されている」「この協議体は自分にとって大切な場所」と、わがこととして主体的に捉えてもらえます。そのためにもワークは必要なものだと思います。

 

2.「協議体に連続性をもたせる」、その意図は先ほどもありましたように、何をしてきたかがわかるようにすること、参加した委員が吹田市の取り組みに自分の意見が反映されているという実感を持ってもらうことです。また今後の取り組みはこうなりそうだという展望を持ってもらうということも意識しています。

 

3.「可視化させる」、2の続きで委員にとってわがことになるような資料作り、アウトプットするということです。

これは新しい活動の創出につながることも期待されます。学校の部活と同じで練習しても試合や発表する場がないと、練習のための練習になってしまいモチベーションも上がりません。

話した内容が資料などで見える化されるようにすることは、第3層協議体のような小さなエリアでも重要だと思っています。

 

4.「参画する」、誰か一人だけがしゃべっているという状況ではなく、みんなが主体となって参加している状況です。

吹田市では「助け愛隊」という高齢者ボランティアによる高齢者の生活支援の取り組みがあります。「助け愛隊」のネーミングやルール作りは協議体の中で行いました。そこに主体として関わったんだという委員の思いが大事だと思います。

 

5.最後は「Win-Win」です。関わった方たち、団体さんのWinとなるように、そして自分たちのWinも大事ですし、吹田市のWinとなるようなコーディネートを意識しています。

自分が主体となって活動することで自負心が生まれるので、他の方へ意見を求めたり、活発な議論を誘発することでよりよい活動への参画へとつなげることが期待できます。

 

このようなキーワードを意識しながら活動を循環させることが協議体運営にとって大事だと思っています。

 

協議体の運営を、晩ごはんのメニューを決めるプロセスに例えると

みなさんは家族と晩ごはんのメニューを決めるとき、どうしていますか?

家族と話し合って、いろんなメニュー案が出て、結果的にカレーライスになりました。では、どんなカレーライスにしますか、材料は?というような、さまざまな議論が入る余地があり、そういうプロセスを経て、晩ごはんにカレーライスを食べるという結果になると思うんですね。

 

協議体においてはどうでしょうか?

「体操が必要」「担い手を集めないと」「生活支援、移動支援、どうやって協議体で回そう」「みんなで考えてもらったらいいんじゃない?」…。

意見は聞いているつもりでも、実は持っていきたい答えは決まっていませんか?

答えがすでに「A」に決まっていたとすると、「今はその時じゃない」「担い手がいない」「やっぱりBじゃなくてAだよね」となっていませんか?

 

晩ごはんのメニューを決めるプロセスでいえば「初めからカレーライスありきになっていませんか?」ということなんです。

毎回「何食べる?」という議論はとても時間がかかります。

しかしそのために2025年を見据えて、2015年から生活支援体制整備事業が始まりました。メニューがまだ決まっていなかったからこそ、合意形成をもとに生活支援の仕組みから話し合うということが行われてきたのだと個人的に思っています。

 

吹田市の第3層協議体「地域検討会」立ち上げ例

まず担当となる生活支援コーディネーター(SC)とコミュニティソーシャルワーカー(CSW)が、立ち上げ対象となる地区を決めます。

高齢化率などのデータを集め、詳しい資料まで用意するかどうか検討します。フランクに議論したい場合は、資料なしの場合のほうが身構えずに参加しやすいと思います。逆に、論理的な説明や言語化が必要な場合は資料を用意したほうがいいと思います。

 

次に生活支援コーディネーターとCSWが地域包括支援センターの担当者と打ち合わせします。

地域包括支援センターで把握している相談内容の傾向を聞き、もし介護予防事業に注力している事業所があれば「地域検討会」へ参加してほしいという要望を持っているということも共有しておきます。

 

そしてここからが協議体のスタートとなります。

いきなり全員集めるのではなく、社会福祉協議会に近い団体(福祉委員会など)や福祉事業所に集まっていただき、生活支援コーディネーターが知っている情報を話すのではなく、まず地域の様子をヒアリングします。

そこでCSWや地域包括支援センターとともに、今後参画するメンバーをどうするかなどの意見の出し合いや話し合いをします。

その後、地域の各団体・組織の代表者とともにミーティングを行います。ここでキーワードを出していき、関連しそうなものはグループ化してテーマとしてまとめ、それぞれのテーマに優先順位を決めていきます。

優先順位が決まったら、5W1H(日程、場所、誰がなど)を決めます。こうして仕組みづくりができていきます。

活動実施の段階で、ここでの担い手となるのは地域検討会のメンバーです。各団体から代表者を2名出しても、全体では10人以上にはなりますので、各団体の負担感も軽減されます。

 

活動にあたっては、生活支援コーディネーターが都度メンバーの意見を集約しブラッシュアップしていきます。

 

3層協議体メンバーが連携し、アプリを使ったスタンプラリーの実施

このような地域検討会における取り組みの例として、五月が丘地区の「よりそい隊」があります。「よりそい隊」は2018年の大阪北部地震で吹田市災害ボランティアセンターで活動した大阪大学の学生有志がコロナ禍の高齢者等の生活状況を懸念して吹田市社協に相談したことがきっかけとなり発足した地域検討会の愛称です。その後、地元の福祉委員会、就労移行支援事業所、地域包括支援センター、障がい者相談支援センターが加わり一緒に検討しています。

令和5年度の活動について検討している中、地域防災、多世代交流、認知症支援、高齢者・障がい者の社会参加等がキーワードとして出されました。丁度その時に吹田市が「徘徊高齢者SOSネットワーク事業」で活用している「みまもりあいアプリ」にデジタルスタンプラリー等の機能が追加されたため、「よりそい隊」でも活用しよう!となりました。

今回取り組んだ「防災まちあるき」は、昨年度高齢者の健康促進・社会参加を促すことを目的としたスタンプラリーを「みまもりあいアプリ」を活用してブラッシュアップしたものです。

この取り組みに「よりそい隊」参画各団体が役割分担し必要な準備を整え、アプリを使ったスタンプラリーという、一見複雑そうな取り組みができたという事例です。

これは地域検討会での活動が続いていたことがベースとなり、参画メンバー同士のつながりで今までやったことのない取り組みも行えるようになった好事例だと思っています。

 

さいごに

将来を見据えて今何をすべきか、現在は過去の実績からどういうかたちでできていて、それを未来につなげるにはどうすればいいか、それを考えるのが生活支援コーディネーターの役割だと思っています。

議論や運営のプロセスは見過ごされがちですが、現場での支援や活動の背景には、そういったプロセスも影響しているということを考えながら、吹田市で取り組んでいきたいと思っています。

 

参加者からの質疑応答

Q.新宅さんがこれまで協議体を運営してきた中で、苦労されたことはありましたか?

 

A.新宅さん:苦労はもちろんありました。過去の経験ですが、企業と一緒に何らかの取り組みを行う場合、このような「カレーライス理論」によるプロセスの進め方は通じませんでした。

企業には目標とするゴールがあるため、住民主体の場合とは逆のプロセスになると思います。いろんな方の話を聞いて進めていく、それによってゴールがどこになるのかわからないという状況になるため、そのやり方では企業との連携は難しくなります。

また住民主体の話し合いの場での「閉じ方」についても苦労してきました。住民の皆さんの話を聞きながら「今は押すとき、引くとき、待つとき」と、その時その時でどのように話し合いを閉じれば良いか、考えながら進めています。

そして吹田市の地域検討会も、36ある小学校区のうち、立ち上がっているのはまだ3分の1程です。できるところからやっていくようにしています。

紹介した事例やプロセスは、吹田市の風土に合ったやり方かなと思います。もし参考になりそうであれば真似していただいて、それぞれの地域に応じたやり方で取り組んでいただければと思います。

 

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