プロボノが関わることで、その団体らしさが形になった「音楽サロンくつろぎ」パンフレット制作事例 / 豊中市でのプロボノ事例を聞く【いきてゆくウィーク2021】
2022年2月1日
2021年11月7日から13日まで開催された「いきてゆくウィーク2021」。大阪府豊中市での高齢者の社会参加・介護/福祉をベースに、さまざまな方が参加・学びを深めるイベントでした。
そのコンテンツの一つとして、11月10日には豊中での2団体のプロボノ事例についてのトークライブを開催。ゲストは、それぞれの団体からの代表者・プロボノワーカーのみなさんです。このレポートでは、「音楽サロンくつろぎ」とのパンフレット制作事例のトークのサマリーをお伝えします。
ゲスト:
吉田 寛子 さん(くつろぎミュージック合同会社代表)
プロボノワーカー:青柳 智子さん、板越 希さん、宮前 加奈子さん
聞き手:槙野 吉晃(認定NPO法人サービスグラント)
「音楽で自分の人生を豊かにしよう」というミッションを持ち、小さな子どもからシニアまで幅広い世代向けの音楽教室や、市民参加型コンサートの運営を行っている『音楽サロンくつろぎ』(現・くつろぎミュージック合同会社。以下、「くつろぎ」)。
音楽教育だけに留まらず、出会ったサロン会員同士で自主的に企画できる「くつろぎクラブ」の活動などによって、高齢者同士の繋がりを生み出しています。2018年のプロボノプロジェクトで、団体紹介パンフレットの制作を行いました。
今回のトークライブでは、サロン会員の方々が「勝手にパブリックビューイング」と銘打って、視聴に参加。みなさん高齢者であり、普段はオンラインイベントに馴染みがありません。トークライブは、そんなみなさんがZoom視聴を体験する、良い機会になったようです。
ゲストスピーカーである吉田さんに手を振り、終始、和やかな雰囲気。その様子からも、高齢者の方々がくつろぎを「居場所」として捉えていることがよく伝わってきました。
プロボノ支援に申し込んだきっかけとは
くつろぎには、それまで使用していたパンフレットがありました。しかし、よりコンパクトに持ち運びしやすくしたいという思いから、リニューアル制作を検討。プロボノ支援を活用し、パンフレット上のキャッチコピーや台割(※)の制作を行うこととなりました。
※台割…冊子制作にあたり、どのページにどんな内容を配置するかを示した設計図にあたるもの。
プロジェクトの進め方
くつろぎのプロジェクトは、『ママボノ』チームで実行されました。ママボノとは、育休中であったり、子育てで仕事を離れたのち復職を目指していたりする女性たちがプロボノワーカーとして参加することです。
プロジェクト初期段階は、まずはチームメンバー同士の顔合わせから始まりました。続いて、代表である吉田さんとチームとが顔合わせ。吉田さんは、初めてチームと会ったときのことを思い返し、次のように語られました。
「みなさん明るく良い方ばかり。小さなお子さんを抱えながら、こういった取り組みに参加するんだという熱い思いが伝わってきて、刺激を受けました」(吉田さん)
いよいよ具体的な取り組みを進めるにあたって、チームメンバーは実際にくつろぎに足を運び、様々な関係者へのヒアリングを行いました。そして見えてきた、強み・抱える課題・パンフレットによって解決できることについて、チームメンバーで整理を行います。
このヒアリング工程は、時間が掛かるものの、現場の生の声を感じられ「醍醐味」と言える部分です。トークライブの中では、プロボノワーカーのみなさんから、ヒアリングについてこんな感想が語られました。
「会員さんや運営スタッフの方、チャレンジセンター(※)の方など、様々な方にヒアリングさせていただきました。その結果分かってきたのは、くつろぎに関わった人が『必ず笑顔になる』こと。それは、他の団体と比べて優れているというように相対的に評価されることではなく、くつろぎにしかできないことだと感じました」(板越さん)
※チャレンジセンター…豊中市と豊中商工会議所が連携し運営する、地域産業支援の拠点。
「会員さん自身がくつろぎの運営を自分ごととして捉えていて、『吉田先生のために頑張りたい!』という気持ちのある方ばかりでした。それが本当に素晴らしく、チーム一同、何とかパンフレットに落とし込みたいと考えました」(青柳さん)
プロボノプロジェクトでは、良い意味で「よそもの」であるプロボノワーカーが関わります。ヒアリングでは、吉田さん本人から聞くのとは違った関係者の声を聞けたことも、プロジェクトのメリットでした。
また吉田さん自身も、チームメンバーからのヒアリングに影響を受けたと言います。
「改めて、どうしてくつろぎを作りたいと思ったのか、今後どういう風にしたいのかなど、質問を受けて自分なりに頭の中が整理されました。そこで言語化されたことが、以後の事業に活かされています」(吉田さん)
関わり合い、問いかけられる中で、改めて「くつろぎらしさとは何か」が浮き彫りになっていきました。
プロジェクトの最終局面、チームから台割のご提案を行う打ち合わせでは、初めに、くつろぎの強み・課題など整理した情報を吉田さんへ共有。パンフレットのコンセプトを提示した上で台割を提案し、太鼓判をもらうことができました。
そうして成果物として台割を提出したあとはデザイナーの方に引き継がれ、無事、パンフレットの完成に至りました。
プロボノによる支援の成果とは
プロボノで制作したパンフレットは、サロン会員の方々の様子が分かる写真などを掲載し、温かみのある色づかいになっています。吉田さんが周囲の方にパンフレットを見せると、「温かいくつろぎらしいね」という声をもらうこともあり、好評だったそうです。
くつろぎは、2018年当時は吉田さんが個人として行っていた事業でしたが、2021年4月に「くつろぎミュージック合同会社」として新たなステージを迎えました。合同会社の設立後も、吉田さんは必ずこのパンフレットを持ち歩かれています。音楽サロンくつろぎの機能、事業を始めた背景・思いを伝えるために、一番使いやすい資料であるとのことです。
プロジェクトについて、プロボノワーカーのみなさんは次のような感想を語りました。
「参加当初は『会員を増やす』ことがニーズなのかなと、漠然と考えていました。でもお話を伺うと、吉田さんが目指していることはそれだけではない。人と人の繋がりを作ることによって、『孤立』という社会課題の解決に取り組まれているのだと分かってきました。
パンフレットは、そんな吉田さんの素晴らしい人柄や、くつろぎの良い雰囲気を伝えるためにこだわって作成しました」(板越さん)
「育児中は孤独で、社会から置いていかれているような感覚があり不安でした。何かしたくても、小さい子を連れて『どこに行ったらいいか分からない』『迷惑をかけるのではないか』といった気持ちを抱えている中で、見つけたのがママボノ。ああ、これだったら大丈夫かもと思い、参加しました。
プロジェクトを介してくつろぎの方々や他のママボノメンバーと出会えたこと、また『ママになっても自分らしく頑張ろう』とモチベーション高く挑める場所があったことが、当時とても嬉しかったです」(青柳さん)
「育休中って、『大人と話す機会』がありません。とにかく大人と交流したい思いから、ママボノに参加しました。くつろぎが、音楽を通して地域のために活動されている姿に刺激を受け、また、それぞれに得意分野を持つママボノメンバーと出会うことができて、すごく良い経験になりました。
まさに現在も第二子の育休中なのですが、再度ママボノプロジェクトに参加しています」(宮前さん)
また、チームとくつろぎとの関わりは、実はプロジェクト完了後にも続いていました。2019年にくつろぎがコンサートを企画した際、吉田さんからお声かけをされ、チームメンバーでハンドベルの演奏を披露されたとのこと。
くつろぎやカラオケボックスに集まって練習し、みなさん熱く打ち込まれたそうです。本番には、みんなでお子さんをおんぶ・抱っこしながら、演奏されました。
プロジェクトを通してくつろぎの方々とチームメンバーがお互いに関わり合い、出会ったからこそ成し得た成果物・経験。
このトークイベントにおいても再会を喜びあう姿が印象的な、温かな関係を築かれたプロジェクト事例でした。
いきてゆくウィーク2021とは
「いきてゆくウィーク」は、豊中市で約20年にわたって開催されてきた「いきいき長寿フェア」をリニューアルし、2021年度から実施しています。
高齢者の社会参加、介護/福祉をベースにしながら、さまざまな方が参加し、学ぶことができるイベントです。
令和3年度(2021年度)は、新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みて、オンライン(一部、展示会については現地開催)で実施。
▼市ホームページ
https://www.city.toyonaka.osaka.jp/kenko/kaigo_hukushi/tyoujyu-fair/ikiteyuku.html
令和4年度(2022年度)は、10月30日(日)に「いきてゆくフェス2022」として開催します。
イベントの詳細は、市ホームページで配信されていますので、ご覧ください。
▼市ホームページ
https://www.city.toyonaka.osaka.jp/kenko/kaigo_hukushi/tyoujyu-fair/ikiteyuku_2022.html