まちづくり・地域活動を進めるコツは「データの活用」〜未来をみつめるために我がまちを知る〜/大阪ええまち調査隊 成果発表会より
2024年2月16日
地域課題について話し合う際、ついつい発言力のある人や目立った事例に注目してしまうこともあるかもしれません。
そんなときこそ、地域の現状を客観的に知ることが大切です。
そこで、インターネット上から誰でも入手できる国の調査・統計データや、市町村が実施している住民の意識調査・ニーズ調査の結果などを用いて分析することで、地域づくりの話し合いのためのよい材料となる可能性があります。
「大阪ええまちプロジェクト」の新たな取組として実施された「大阪ええまち調査隊(※)」での2023年10月1日の成果報告会のエッセンスをもとに、データを活用した地域づくりのポイントをお伝えします。
(※)「大阪ええまち調査隊」は、府内の市町村を対象に、地域単位(町会・小学校区・中学校区…など)で、地域の過去・現在・未来の人口構成や既存の調査(高齢者実態調査、健康意識調査…)の結果データを分析し、「これからのええまちづくり」に向けた地域ごとの特徴を掘り下げ、可視化していく試みです。
INDEX
1.泉北ニュータウン「茶山台」の事例/特定非営利活動法人SEIN 宝楽さんによる特別講座
2.「大阪ええまち調査隊」での四條畷市・八尾市のデータの読み方&講師からのアドバイス
泉北ニュータウン「茶山台」の事例/特定非営利活動法人SEIN 宝楽さんによる特別講座
特定非営利活動法人SEIN・宝楽陸寛さんは、大阪ええまちプロジェクトでは「大阪ええまちアカデミー」のアドバイザーも務めていますが、地域の中では、泉北ニュータウンにある茶山台の連合自治会副会長でもあります。
今回は、特別講座として「ご近所でのコミュニティづくり~データを⽤いた地域との対話 いったいどうする?~」と題し、宝楽さんが8年間に渡り関わっている「茶山台」の事例を紹介いただきました。
特定非営利活動法人SEIN(サイン)/コミュニティLAB所長
プロジェクト型ファシリテーターとして大阪府南部(主に泉北ニュータウンなど)においてNPOや市民と企業・行政が協働で地域課題を解決し、人やまちが元気になるコミュニティづくりを進めている。
「このままではヤバい…?!」の共通認識を持つ―住民基本台帳データからわかること
私が連合自治会副会長を務める茶山台では、
・(小学校通学時の)子どもの見守り隊減少で登下校コースが減少
・花壇清掃が任意制に
・連合役員はみんな後期高齢者で、活動は縮小傾向
・単位自治会の解散・連合自治会からの脱退
などの変化がみられます。
こんなときに「なんか最近、うれしくない知らせが多いねぇ」と個別の問題として捉えるのではなく、同じ地域で同じような問題が繰り返されていく可能性があるのかないのか、深掘りしていく必要があります。
たとえば、誰でもインターネット上からも閲覧・ダウンロードできる住民基本台帳のデータを使うと、人口構成の将来予測が可能です。茶山台団地の年齢別の人口構成を確認すると、10年の間に7%以上も高齢化率が上昇しており、その傾向は続くということが見えてきます。
まずは落ち着いて、国勢調査から、自分たちの10年後に近い地域を探してみよう
「どうしよう、何か打ち手を!」と焦ってしまうと、ニュースになっている他の地域でやっている方法や事例に倣いたくもなりますが、規模や課題があまりにも違う地域のことを参考にしてもうまくいきません。
そこで参考になるのがデータです。たとえば、全国のニュータウンの国勢調査結果をもとに、各地域の高齢化率を横軸に、18歳未満の家族がいる世帯の割合を縦軸にプロットしてみましょう。
すると、平均値を基準に、左上(A)の象限は子どもの多いニュータウン、右下(C)の象限は限界集落に近いオールドニュータウンと呼ばれる地域の分布となり、自分たちのまちが、全体でどのあたりに位置するかが見えてきます。
この分布図において自分たちのまちの今や10年後の予想値に近い地域の事例があれば、その取組を参考にすることができます。
ただしオールドニュータウンだからと言ってすべての地域で高齢化しているわけではありません。同じニュータウン内であっても、小学校区で課題が異なることがあります。
住民基本台帳のデータをもとに、高齢化率を縦軸、今後5年の子ども人口の伸び率を横軸にプロットすると、茶山台は高齢化率が高いものの、子ども人口の伸び率も高くなるので、似た傾向の地域の事例を参考にするとよいでしょう。
1つ失敗例を共有します。茶山台だけでなくニュータウンの他の地域についても、要介護者の人数や免許返納率、スーパーのマッピングなど国勢調査以外の調査データも用いて、買い物困難対象エリアを割り出し、買い物を助ける事業の提案をしたこともあったのですが、データで示して提案するだけでは、人は動かず事業化しませんでした。
データを住民や関係者に共有することに加えて、この状況をふまえた上で「誰のため」に「誰が動くのか」をコーディネートする主体となる人が必要ということがわかった経験でした。
地域活動の「冷気循環」と「暖気循環」
様々なデータを見ていく中で、ある地域では、じつは働き盛りの世代が多く、地域活動に関わっている割合が高いということが見えたとします。でも「じゃあ、働き盛りの人たちにもう少し動いてもらおう」と考えるのは早計です。
たとえば、自治会運営でよく聞かれることですが、役員は抽選制という形では、役員になっても「引継ぎ資料だけ渡され、情報は断片的。当番制でやる気も出ず、1年だけ我慢…」となりがちです。それが年々繰り返されるうちに、地域活動の活気が低下していく「冷気循環」になってしまいます。地域活動では「冷気循環」にならないよう「暖気循環」を起こすこと―つまり体験の共有としてお隣さんやご近所さんの顔を知って話をしていくことで、「私もやってみよう」という内発的な動機付けにつながってきます。
データをもとにした一手 地域の声の⾒える化 × コミュニティビジネス開発 事例
高齢化率が高いながら、子育て世代が多い茶山台では、「住民の得意を持ち寄るコミュニティを」という目標を設定して、2015年に団地の集会所に「茶山台としょかん」をつくりました。
有志がDIYで本棚を作って本の寄贈を募ると、少しずつ集まり、いまは500冊の蔵書があります。
そうしてオープンした“としょかん”は、いろんな人がかわるがわる集う場所となっていきました。
いろんな人が気軽に集まれる場所ができたことで、次第に「買い物に困る」「一人暮らしなので話ができるカフェが欲しい」「リノベしたい」など、住民のさまざまな声が集まりました。
そうして不要なものを手放して、必要なものを持ち帰る「0円マーケット」、地域のいまを伝える『図書だより』の発行とポスティング、持ち寄り晩ごはん会など、旧住民と新住民、世代が違う人同士が出会う小さなコミュニティがいくつも生まれていったのです。
そして、多くの人の声を集めてみんなで未来を考えようと、2018年に茶山台団地で「暮らしに関するアンケート」を実施しました。
こういうアンケートの結果を分析する際に、よくあるのは「重要度は高いけれど、満足度が低い」項目から優先的に着手するという方法です。たとえば茶山台で全体集計してみると、全世代に共通するのは「防災」という結果になります。しかし、これを世代別・ライフサイクル別に見てみると、かなりニーズが異なることが見えてきました。
「全体として多い声」や「声の大きな人」だけで判断するのではなく、地域住民で分析データを元に、違いを認識して話し合ったことで、互いのニーズを踏まえたうえで、コミュニティビジネスとして、みんながうれしい「お手頃価格のお惣菜屋さん」をすることに決まりました。
その後、お総菜屋さんオープンにかかる資金集めには、クラウドファンディングをやってみよう!とやってみたものの、資金は集まらず「クラウドファンディング」としては失敗。
でも、納得して決めたことだからか、「足りない分は自分たちでやってみよう!」と有志が集まりDIYでお総菜屋さんを作り上げていったのです。
すると、みんなで手作りしたその場所には愛着が生まれ、その場所でさらに小さなコミュニティがいくつも生まれました。ここでは「DIYでみんなで作る!」という「暖気循環」が起こっていきました。
そうこうしているうちに、なんということでしょう!下がり傾向だった「若い世代の新規入居率」がV字回復していったのです。
団地内で空いていた部屋が埋まっていったことが話題となり、空き家やニュータウン再生といった社会課題解決のモデルケースとして「PR アワードグランプリ 2019」でグランプリを受賞することができました。
そしてさらに、2022年には建築士・社会福祉法人の理事長・お片付けのプロのインフルエンサー・社会福祉士の住民たちによって「特定⾮営利活動法⼈団地ライフラボat茶⼭台」というNPO法人まで誕生しました。
「⽇本⼀、多様な幸せを実現できる団地にしたい!」をミッションにソーシャルビジネス・課題解決事業に取り組む団体などが⼊居し、団地で起こる様々な課題に“みんなのアイデア”で解決していく場所を茶山台の中に作っていき、今後は「成年後⾒⼈の実施」「団地内モビリティ」「アップサイクル/リサイクル事業化」「レンタルスペース事業化」等の事業に取り組んでいこうという動きになっています。
「大阪ええまち調査隊」での四條畷市・八尾市のデータの読み方&宝楽さんからのアドバイス
宝楽さんの講座の後は、「大阪ええまち調査隊」による成果報告です。
この日は、四條畷市と八尾市のデータ分析に取り組んだ参加者の成果報告に対し、講師として宝楽さんからアドバイスをいただきました。
四條畷市チーム「地域への愛着と社会参加指数に相関はあるか?」
四條畷市は、人口約5.5万人、世帯数約2.5万世帯、高齢化率は約26%です。
「住民の健康度と日々の過ごし方の関連性について、全市6小学校区ごとの地区別に、健康や介護予防の意識や関心の傾向を地域ごとに分析し、隠れたニーズを明らかにしたい」という意図で、分析に取り組みました。
2020年を基準として住民を100人換算したわかりやすい人口推移のほか、市が行った住民意識調査から「地域への愛着と社会参加指数の相関」などが掘り下げられました。
分析では「(個人で、地域への)愛着が高い人ほど、仲間がいないことが障壁となり社会参加できていない」「愛着が高い人ほど、世代間交流の場を望んでいる」という仮説が見えてきたそうです。
講師からは、「一般的に地域で頑張っている人ほど、多世代交流を強調する傾向があることに注意が必要かもしれません。」と意外なアドバイスがありました。
「働き盛りの世代の夫婦の大半は“役員をさせられること”を警戒している可能性があるため、最初から多世代を混ぜないほうがよいこともある」として、まずは「愛着度が高い人だけピックアップして、同世代で地域に同じ思いの人をつなぐ出会いの場をプロデュースする」、 「頑張っている人同士をつなぐようなまちづくり・市民大学をやってみるなどして、プレイヤーが『ひとりぼっちじゃないよ』と感じられる機会をつくるのも手です」と、経験者ならではの視点の共有がありました。参加者からは「地域への参加は、<入り口は広く、出口も広く>、ですね」と名言が飛び出たのでした。
八尾市チーム「社会参加と健康 関心・行動との関連性はあるのか?」
八尾市は、人口26万人、世帯数約12万世帯、高齢化率は28.3%です。
「『わがまち』を考える対話に向けて、代表5小学校区でまちにくらす人の、今後の状況と変化の具合(人口動向、高齢化率など)と地域ごとの社会参加と健康づくりへの意識・行動・関心の傾向を分析したい」という意図で、人口動態と、高齢者実態調査から健康や日常生活と関連するデータの分析などが行われました。
講師からは、「データの分析から得られた住民像を、『ペルソナ化』するのは話を進める上でとても良い」と評価していただきました。
一方で、データを小学校区などに細分化していくことで信頼できる母数が得られない場合は、地域の民生委員さん・校区福祉委員会さん・地域包括支援センターといった地域に密着している方々と一緒にデータを見ながら、情報を補足していくとよいとの助言をいただき、参加の皆さんは納得の様子でした。
また、「ある地域では高齢男性が今後20年ほどでぐっと減ってしまいそうで心配だ」という参加者からの意見に、講師から「孤立やフレイルを防ぐ必要がありそう」として、地域活動に高齢男性をうまく巻き込んでいる事例の紹介をしてくださいました。
生駒市にいくつかある「まちのえき(複合型コミュニティ)」のひとつでは、各家庭から出る不用品を定期的に公園で回収しつつ、高齢の男性たちが集まって修理できそうなものは修理してみて、直せたものは「もったいない市」に並べて誰でも自由に持ち帰れる場にしているそうです。壊れた家電を修理したものの「重くて持って帰れへん…」という人がいれば、別の誰かが「持って行ったるわ!」と手を挙げるなど、さまざまな交流が生まれているとのことで、「単身高齢男性の社会参加モデルは、他の地域も結構やっているから、参考にしてみるといいかもしれませんね」とのヒントもいただきました。
地域活動では「これをやろう」から入らず、現状の把握と共有のフェーズが大切
地域課題の解決をしようとするとき、「これをする・したい」(実行)、しかし「お金/人手/場所がない」(設計)となりがちです。しかし宝楽さんは、分析→共有→設計→実行というフェーズを持つことが大切ですと強調します。
「暖気循環」をつくるためには、住民が「わがごと」として捉えるためにも合意形成がとても大事であること、そしてデータを用いるときには
・その調査は、誰のために誰が動くための数字なのか?
・そのためには、誰のどの事実を伝えるのか?
・問題構造をつかむために、思い込みやニュースで判断しない
といったデータ分析の重要ポイントを強調して伝えてくださいました。
関連記事の紹介
「大阪ええまちプロジェクト」では、府内の市町村職員や生活支援コーディネーターの取組のヒントにつながる各種研修プログラムやサポートも実施しています。
データ活用で見えてくる地域の姿と住民主体の地域づくりを後押しする方法/2023年度市町村向け地域づくり研修会から(講師:川北秀人さん)