住民主体のサービスは行政職員の工夫、考え方次第で充実できる/2018年度 行政職員向け研修 八王子市事例紹介
2019年2月4日
2018年10月30日、府内の行政職員を対象に「先行事例に学ぶ!総合事業サービスB 型の事業化と運用について」と題して研修会を開催しました。
本編では、「介護予防・日常生活支援総合事業~八王子市の取り組み紹介~」の内容をお伝えします。
八王子市の取り組みをご説明させていただく前に、なぜ私がここに呼ばれたのかということを自分なりに考えてみました。八王子市は特段、何か目新しいこと、形の見えることをしているわけではなく、先進的なことをしているという意識はあまりありません。
何か新しいでかいものをつくるのではなくて、住民主体のサービスを広げる上で自治体、行政の職員が工夫すればできること、考え方ひとつで充実させることができ、支えることができることを伝えたくて、今日この場に立たせていただきました。
八王子市がやっていることは「そんなに難しいことではないじゃないか」と感じ、ご自身の自治体に戻って考えていただくための材料になればと思っています。
八王子市での総合事業の実施状況について
八王子市は比較的自然に恵まれた都市で、人口は56万人を超えており、平成27年4月から都内初の中核市になりました。八王子市のもう一つの特徴は有数の学園都市であり、市内に21の大学を有し、それが大きな社会資源になっています。
平成30年度に入り、人口自体は減少に転じています。一方で65歳以上の高齢者の人口は年々伸び続けていて、本年度は148,677人、要支援・要介護認定者数は27,121人という状況になっています。大阪府の認定率から見れば低いのかもしれませんが、東京都の中では比較的高い方になっています。
今日は住民主体の取り組みがテーマですので、八王子市の地域資源、社会資源について話したいと思います。
八王子市は民生委員の数が平成29年度で449人、NPO法人の数が279、高齢者サロンが140箇所。
数だけ見れば多いように感じるのですが、国が求めるおおよその目安からするまだまだ高齢者の通いの場というのは少なく、この3倍、4倍くらいつくらないと足りないという状況です。
八王子市は27年度に総合事業の検討が開始され、28年3月に総合事業に移行しました。
当初は訪問サービス、通所サービスともに従前相当サービスのみでスタートし29年度になってから多様なサービスの訪問A、訪問Bをスタートしました。現在では加えて訪問C、通所のB、Cを試行実施している状況になっています。
住民から叱られた経験で、誰でも自由に参加できる柔軟な制度設計ができた
住民主体のサービスについて八王子市は全国からよくお問い合わせいただくのですが、「すごく柔軟な制度をとっていますね」と言われます。
特段縛りごともなく、誰でも自由に参加できる制度になっていて、「それでいいのでしょうか?」という問い合わせもよく受けるのですが、応募要件は本当にシンプルです。
「個人ではなく団体」という制約は設けてはいるのですが、「要支援の認定を受けている方を含む65歳以上の高齢者に対して生活支援サービスを提供していただく」ことのみを決めているだけです。
ただ、これを構築する過程で、非常に我々も悩みました。総合事業の検討を開始した平成27年度に出された国のガイドラインを読み込み、書かれている内容を住民に「やりませんか」と伝えたことがあります。
すると、「私たちは要支援の受け皿になるために活動しているのではない」「自分たちの地域に必要だと思うからやっているだけ」「ガイドラインか何か知らないが、その枠組みにはめるんじゃないよ」とひどく叱られました。
叱られたことが良い経験になりました。それがなかったら、「これをやってください」「あれをやってください」という組み立て方をしたことでしょう。総合事業のガイドラインが出る前から、住民たちは自ら課題に気づいて動いていたんです。
シンプルに徹した要綱
何をするかという内容については、地域ごとに特性があって、決して一つに絞れるものではないということにも気づきました。そのことを踏まえ、まず平成29年度に訪問Bの試行実施をしました。住民が今やっている活動にどれだけ効果があるのかを知るためです。
その結果、住民たちはすでに自ら地域課題に気づき、自分たちがやりたいようにやっている。そのやっていることが地域の住民たちにとってとても良い効果があることが分かりました。
身体的に良い効果があるということだけではなくて、どちらかというと精神的に良い効果がある。それは「自分は一人で暮らしだけれども、地域の方が来てくれることで、自分が地域の中で孤立していないという安心感が湧く」という内容の住民の声にあらわされていました。
このサービスの本当の良さは地域のつながりを強めていくことにあるのだと気づきました。
要綱はとても簡単に作りました。
要支援の方がご自宅で生活する上で困っていることがある、それを助ける支援であればどんな内容でも良いですよ、というものです。
また、活動を支援するために補助金も交付しますので、ご自身の活動の幅を広げてください、という主旨で、参加したいと思っている人は、誰でも参加できるような要綱もつくりました。
補助金の財源は地域支援事業交付金なので、食料費やボランティアへの報酬等に使うことはできないけれども、それ以外の経費であれば比較的大目に見ていきます、という柔軟なものです。
住民主体の活動を幅広く応援した事例--男性も集まる居場所づくり
この補助金を活用した取り組みを一つ紹介したいと思います。住民主体の通いの場「café かじやしき」です。
財源は、訪問Bの補助金と合わせて、ランチを提供して得られた売り上げや、生活援助の実働謝金で賄っています。
もともとは訪問による生活支援を単発で行なっており、事務所も持たず、対象も限定して細々と活動されていました。
しかし、我々の補助金が交付されるということを受けて、そのお金を家賃に当てて拠点をつくろうということになり、空き家を借りました。そのことで、生活支援に出ていくだけじゃなくて、地域の方が来てくれてつながりができる場所が生まれました。広いスペースもあるので、介護予防の体操教室もできます。
男性の利用者が4割と多い理由は、麻雀、将棋、囲碁といった趣味活動をいっぱい展開しているから。麻雀をやる日には朝から並んで、卓を取り合うようにして使っておられる。やがてベテランが教える側になり、別のボランティア活動にも加わるといった、良い循環が生まれています。
訪問Bという視点だけで捉えると「ちょっと組み立てが違うんじゃないの」と思われることもあるかもしれないですが、われわれは生活支援を中心に、住民主体の活動を幅広く応援することを目的としていたので、補助金を活用して活動が充実したこと、何より楽しく元気に活動している姿をみて、素敵な補助金の使い方だと思い、紹介させていただきました。
大切なのは広報、大学とも連携して地域団体のPR動画を制作
八王子市が大切にしてもう一つのことは普及啓発、つまり広報をしっかりやることです。
先ほど少しお話しした試行実施の中で、地域で一生懸命活動していてもなかなか住民に伝わらないという課題が浮上しました。担い手も高齢化が進んでいて、次代の担い手がいないというお話もいただきました。
これを行政としてどう支援していけば良いのかと考えると、やはり普及啓発ということになります。一例ですが、八王子市の市報で特定のテーマに着目した特集号が組めるので、この中で住民主体の取り組みを毎年詳しく紹介し、地域の中で住民主体の活動が進んでいるということを周知しています。
また、大学と連携して地域の団体活動を紹介するPR動画をつくってもらいました。
私が皆さんの前で30分話すよりも地域の人に説明するには非常に効果的で、この動画を5分流せば、「私たちの地域で必要とされていることは、ことはこういうことなんだ」「堅苦しく考えることはないよね」というように意識の転換をはかるのに有効です。(八王子市のホームページ及Youtubeでも公開中)
サービスBの利用料は、それぞれの団体運営に必要な料金で設定
9月現在で17団体が訪問Bに登録いただいています。スタートした平成29年度は6団体、1年ちょっとで11団体増えました。これからまだまだ増えてくるだろうと思っているところです。
ケアマネジャーの皆さんから「訪問Bを使うといくらかかるんですか」とよく聞かれるんですが、利用者負担は団体それぞれで異なります。
住民が自分の団体を運営するために必要なだけ実費として利用者負担を設定してくださいというお願いをし、調整した結果が料金になっているので、無償でできるところもあればそうでないところもあります。
「できるところからスタートしましょう」というスタンスですから、支援の内容も千差万別。大工仕事が得意で、家の屋根が直せるとか、壁紙を貼り直したりできるボランティアもいます。特に男性はDIYが好きな方が多く、で皆さん楽しく活動しており、生きがいにもつながっているようです。
自発的で主体的な住民の活動を引き出し、支えるために
住民主体の活動は、自治体が「これをやってください」と決めるものではないと私は思っています。これが八王子の考え方の特徴です。
地域の方々が、「自らの地域課題を知り」、「自分でも何かできるかもしれない」と思っていただくための“気づき”を促すことはすごく大事だと思います。それに気づいて「これをやりたい」と声が上がったところに全力で支援をしていくというのが我々行政の大切な役割だと思います。
ガイドラインばかり読んでいると「これやらなきゃ」という思いにとらわれることもあろうかと思うのですが、実はそうではなくて、地域の現状に合わせて地域の住民たちが主体的にやれることをしっかりと応援していくということだと思います。
活動量を増やすため、集中的に「食べる」ことの課題を支援
八王子市の他の取り組みとして、訪問型Cを今、試行実施しています。
楽しく食べて健康にということで、愛称を「食楽訪問」としています。歯科衛生士、管理栄養士、言語聴覚士の3人がひとつのチームになって食べることを中心にケアします。
住民、地域の方、高齢者の方が元気に活躍していただくためには何より活動量を増やしていただかなければいけない。
活動量を増やす一番の根っこは食べること。“食べること”を中心に、ケアマネを含む専門職と連携して食べることの課題を集中して改善していくため、訪問型サービスCとして取り組んでいるところです。
地域の情報が増えても迷わない「地域包括ケア情報サイト」を立ち上げ
地域の情報が増えれば増えるほど、住民はどういうサービスがあり、どういう使い方をしたらいいのか分からなくなってきます。それを解消する一つのツールとして八王子市は2018年8月に「地域包括ケア情報サイト」を立ち上げました。
地域包括ケアという名前の通り、医療や介護の事業所の情報はもちろん、地域の住民主体の活動情報、介護予防の観点から高齢者の方が参加できる講座、生涯学習などの講座の情報とか、サークル活動、多様な通いの場、高齢者向けのイベント情報も集約し、横串にさして検索できるような仕組みになっています。
基本チェックリストも掲載しており、ウェブ上で設問に答えて欲しい情報を取得することもできます。
八王子市は住民主体サービスをまだ始めたばかりですので、これからもっともっと住民の意見を聞いて、住民主体のサービスをさらに使いやすいものにしていかないといけないと思っています。
住民主体のサービスを進めるには生活支援体制整備と密着に連携しなければいけません。
そのためには生活支援コーディネーターの力が必要不可欠です。生活支援コーディネーターの機能強化、生活支援体制整備の充実に力を入れる必要があります。
協力いただける民間企業も地域には多くありますので、そちらの力も借りながら、今後さらに充実させていきます。