「お互いさまリーダー養成講座」が切り開いた 住民主体のサロン運営(東京都武蔵村山市)/大阪ええまち公開講座「生活支援コーディネーターの地域づくり事例紹介」
2019年8月29日
2019年6月6日、I-siteなんば(大阪市浪速区)にて、地域づくりに役立つ実践的ノウハウの紹介を目的に、「大阪ええまち公開講座」を開催しました。
「生活支援コーディネーターの地域づくり事例紹介」にご登壇いただいた東京都武蔵村山市の岡村美花さんによる事例紹介をお伝えします。
岡村美花さん 武蔵村山市社会福祉協議会 武蔵村山市南部地域包括支援センター 東京都の多摩地域北部に位置し、人口約72,000人。高齢化率は26%という武蔵村山市で、平成27年に第1層生活支援コーディネーターに任命され、体操、脳トレを行うサロンを立ち上げる。 サロン拡大に向け、住民の担い手を育てる「お互いさまリーダー」養成講座を導入、「お互いさまサロン」を市内42箇所に広げる。歩いて通えるよう「70カ所」のサロン展開を目指している。 |
東京都武蔵村山市は東京都内で電車が走っていない唯一の市。人口は7万2千人、高齢化率は約26%、昭和40年にできた大きな団地の高齢化率は51.2%になっています。
先祖代々の農家の方、バスで立川に出るサラリーマン世帯と、いろんな人たちが混ざっている地域で、高齢になって長い時間歩けなくなると、どこに行くにも困ってしまうという場所でもあります。
市内には4つ地域包括支援センター(以下、包括)があり、第2層の生活支援コーディネーターは各包括の職員が兼務しています。
まずは都内の事例を視察、「これだ!」と思ったイメージを市の職員や住民とも共有
私は南部地域包括支援センターに所属し、第1層生活支援コーディネーターにも任命されています。任命された当時、「地域づくりをしなさい」と言われたけれども、何からやれば良いか分からず、まずは都内の助け合い活動をしている団体を視察しました。
文京区の「こまじいのうち」を見た時に、「これだよね」と市の職員と話し合い、まずこのイメージを住民の人たちに知ってもらうところから始めました。
市内全域で「まちづくりフォーラム」をやったり、「これからどうして助け合いが必要なのか」「どういうことをやっていきたいのか」と話をしてきました。
私はもともと看護師として介護予防活動をしており、高齢者が楽しく集まれるように、ゲームとコーラスと手芸の会を10年くらい前に立ち上げました。
毎月、そこに集まって来られる方たちに「1年間は私たちがやるけれど、それ以後は自分たちで継続してください」とお願いし続けました。
1年経って見事に自主的な活動になって、何年も活動は継続したのですが、だんだん歳をとって会場に来られないという人が出てきました。
そこで、歩いて通えて介護予防の効果も期待できる場として、私が元々の担当地区であった大南で ”「お互いさまサロン」おおみなみ”を2016年に開設し、地域の方と話し合いを重ねながら、毎週脳トレや体操を行ってきました。
これまで3つのサークルをつくった経験から、このサロンもやがて住民の自主的な運営に切り替わっていけるだろうと思っていましたが、歩いて通える半径200mのエリアだと、3分の1くらいは要支援認定を持っていたりとか、90歳を超えた方もいて、なかなか住民主体の活動にならなかったのです。
第三者も巻き込み、話し合って始めた「お互いさまリーダー養成講座」
住民主体の活動に変えていくための課題について、東京ホームタウンプロジェクトに相談をしました。
プロジェクトアドバイザーの方がサロンを見学され、話し合いを進めたところ、「市民の中には、もっと活動したいという人がいっぱいいるはず」という話になり、「お互いさまリーダー養成講座」を始めることにしました。
予算がなかったので、講座では各包括の看護師や保健師が講師になってもらいました。
講座の参加者に対して、「どうしてサロンが必要なのか」「皆さんに何をしてもらいたいのか」など、サロンを作ることになった背景や目的、介護予防の実践の話、サロンをつくる手順、さらには具合が悪くなった人がいたときにどのようにすればいいかといった具体的な事例の話を2日間、座学で聞いてもらいます。
そのあとサロンに3回実習に行っていただき、運営のお手伝いをしてもらいます。終了した方には修了証と「お互いさまリーダー」の名刺を作ってその方に差し上げます。
年に2回この講座を開催しており、今は130名ほどのリーダーが活動しています。リーダーはいろんな交流会に参加し、サロンで使う脳トレドリルを作ったりしています。
「お互いさまリーダー」が中心となり、住民主体の活動へ
2年間、”「お互いさまサロン」おおみなみ”は、住民主体での運営に切り替えることができませんでしたが、リーダーさんたちが「皆が担い手なんだから、皆でやろうよ」と言ってくださり、話し合いを重ねた結果、すべての参加者が総当番制で何かできることをやるということになりました。
住民主体に移行して2年目を迎えています。
今では市内に42カ所のサロンができました。1カ所だけが包括主催ですが、残り41カ所は住民主体で運営しています。
銭湯の脱衣所、特養の集いの場、老健のスペース、お寺の保育園など会場はさまざま。
ダイエー武蔵村山店では無料の送迎バスを出してくださり、店舗1階で月に1回サロンを運営しています。また、体操だけではなく、歌や手芸を主にやるところも増えています。
いつまでも安心して暮らせる地域でありたいとの思いから、2025年までに歩いて通える場所に70カ所のサロン開設をめざしています。
住民の方からは、「あそこの銀行で場所を借りられるよ」「あそこの場所を借りることができるから」など、どんどん言ってきてくださって、企業や福祉関係の方、幼稚園、保育園などいろんな方が協力してくださっています。
協議体では、サロンを起点とした生活支援を始めようという話が出ています。
第2層の生活支援コーディネーターや協議体メンバーがその地域の住民アンケートをとり、その結果から、「まずは包丁研ぎからやろう」「ゴミ出しからやろう」と話し合っているところです。
Q.住民にわかりやすく伝える時のポイントについてお聞かせください。
この活動で学んだことは、「これをしたいので、この手伝いをしてください」とダイレクトに伝えることです。
リーダー養成講座の時は「これからこれだけの数のサロンをつくりたい」「こういう思いでつくりたいのでお手伝いを」とダイレクトにお伝えするように心がけています。
また「総合事業」「生活支援体制整備」と言っても、「何のこと?」となりがちです。武蔵村山市の財政には十分な余裕はないですし、人材も不足しているので、ヘルパーさん不足でシルバー人材センターが家事支援などに入っています。
「これからどんどんヘルパーさんが足りなくなるということが起こるから、そうなる前に皆で助け合わないといけないんですよ」というように、できるだけ分かってもらえる言葉を使うように心がけています。
Q.リーダー養成講座でサロンに3回実習に行くということでしたが、その中で起こっている出来事とはどのようなことでしょうか?
今までの活動では運営側のスタッフがどうしても限定されてしまって、その人がいなくなると終わってしまうというパターンでした。
サロン運営側の方が普段は家から出てこられない人を誘い、それがきっかけで手伝いをしてもらえるようになることもありました。
自分たちでサロンを立ち上げようとする方は「あそこのサロンでこういうやり方をしていたので、参考にしたい」と言われます。そのサロンを見ていない人がいると「じゃあ、あなたも見てきてよ」と働きかけて情報共有や人間関係ができていきます。
Q.リーダー同士の人間関係は、養成講座の前からあったのでしょうか?
養成講座は、最初はあまり人が来なくて、仲間が仲間を呼ぶという状態だったのですが、回数を重ねて行くと「誰も知り合いがいないけれど、興味があって来ました」という方が多くなりました。
サロンに行ってやり方を見たら「私にもできるんじゃないか」と感じてくださる方が増えています。
Q.ここだけはしっかり押さえておく方がいいというポイントをお話いただけますか?失敗談もあれば、併せて教えてください。
最初に包括がモデルとしてつくったサロンは、周りの人に「いつになったら住民主体になるんですか?」と言われてました。
力技で進めてしまったところもあって、「どうしよう、このままだとなくなっちゃうかも」といろいろ思いながら活動していました。
ある時、「答えは住民が持っている」ということに気づいたんです。
東京ホームタウンプロジェクトのアドバイザーから「座れる人はみんな担い手だから」と言われたことがきっかけでした。
心の中では、「座れたって足が不自由な人もいるし、危なっかしい様子の方もいるし…」と思ったんですが、「皆でここをやりましょう」と住民の方が訴えかけてくれた時に、90代の方が「私これならできる」と言ってくださったり、「総当番制にしましょう」と言ったら「当面はなかよし3人組でグループにしてください」など、住民の方たちから前向きな意見が出てきました。
住民の皆さんが「これをやりたい」と思わないと続かないということを実感しました。
Q.行政との合意形成やコミュニケーションで、心がけていることはありますか?
大きな市ではないですし、第1層・第2層といっても、包括で一緒に働いている仲間なので、しょっちゅう電話やメールで連携しています。
それに市役所も同じフロアなので、何かあったら常に相談や報告をしています。
住民がいろいろ活動している中で「これがあればいい」「こうしたい」というニーズが上がってきます。それを市の職員にも伝えて解決に向けて動きます。
市も寄り添って、一緒に地域を作っていこうとしてくれていると思っています。
Q.リーダー養成講座のカリキュラムはどのようなものなのでしょうか?
テキストをつくり、それに沿って進めます。まず市の職員の方から、今の国や市の状況を伝え、お金も人も十分ではないということを理解してもらった上で、武蔵村山市はこれだけのサロンを立ち上げたいということを話します。
その後に私から、リーダーの役割を話します。
そして次に、サロンを立ち上げるためには場所も必要だし、人も必要だし、決め事がこれだけ必要という話をします。
最後に各包括の職員から、健康寿命を延ばすための活動、サロンでできること、緊急時の対応、実習の話をして2日間の講座は終わります。
Q.リーダー講座のサロン見学では、サロン側、見学側、どのようなところに重点を置いて進めていきますか?
サロン側には、実習生を受け入れることで、だれにでも開かれた活動にしていただき、可能であれば、実習生の中から新たなリーダーを見つけて、仲間にしてもらいたいと思っています。
また、新たなリーダーに自分たちの経験を伝えることで、自分たちのスキルアップや活動の見直しの機会にして欲しいと考えています。
実習生側は、サロン経験がない方には、サロンとはどのような活動で、どんな運営をしているのかという基本を知っていただくこと、サロン経験者には、自分の活動との違いや新たな活動のヒントを得てもらいたいと考えています。
実習は見学ではなく、あくまで実習なので、自身もサロンの担い手として、サロン開始前の準備から後片付けまで運営者と一緒に活動していただくようにしています。
実習最終日に、活動の意向アンケートを記載してもらい、気持ちが冷めないうちに各包括の第2層コーディネーターから活動へのお誘いもしています。
Q.リーダー養成講座の広報はどのようにしていますか?
市報、チラシなどで広報しています。
サロンの補助金の要件にサロンに2人以上のお互いさまリーダーが所属していることが含まれているので、今まではそれほど広報しなくても参加者は来るようになりました。
Q.リーダー養成講座の後、名刺を渡すという話がありましたが、他にモチベーションを高めるためにやられていることはありますか?
女性の受講者の方から「名刺をもらってどうするんですか?」と言われたことがあります。
ずっと主婦をしてこられた方は、はじめはピンとこないんですね。
でも、サロン見学に来た人に「ここが連絡先です」と名刺を渡すとか、交流会でリーダー同士情報交換する時に名刺を交換するとか、だんだんそれがステイタスのようになってきます。名刺を持つことで活動していることの自信になっているのかなと思います。
また、女の人が多くて参加しづらいという男性には、脳トレドリルの計算問題を考えていただいたり、印刷や製本が得意な方にも仕事をお願いしました。
そして、ドリル制作に関わった方の名前をドリルの表紙にフルネームで記載します。ドリルはいろんなサロンで使っているので、「ああ、あの人が作ったんだな」と分かる仕組みです。
お互いさまリーダーとして関わってくださる方には、社会的に自分の居場所を示すものであったり、社会への貢献を示せるものがあればいいですねと、話し合った結果生まれました。
Q.運営費はどうされていますか?
お互いさまサロン立ち上げ支援、運営支援のための補助金を市から出してもらいます。
月1回以上、1回90分以上、リーダーが2人以上在籍、要件を満たせば4年間の条件で年間5万円を上限に補助金が出ます。
補助金がなくなった後の支援として、サロンを開催すると介護支援ボランティアの手帳にスタンプを押して、それをためて次の年に換金できるようにし、運営に役立ててもらおうと考えています。
Q:サロンを立ち上げたが高齢者ばかりで担い手として頼める方がいません。若年、ファミリーなど担い手になれそうな方々と接点を持てないのですが、何か良い手段は無いでしょうか?
去年1年かけて、4つの包括で3回ずつ「まちづくりセミナー」を開催しました。
開催頻度は月1回、3ヶ月間。同じ地域の住民にグループになってもらって、課題に感じること、あったらいいことなどを話し合いました。
やはり共通の課題は居場所づくり。「居場所をつくるためにどうしたらいいの?」という話をして、最後に協議体メンバーになりたい人に手あげてもらい、協議体を立ち上げてきました。
「包括主催のサロンに担い手が見つからない」という話を協議体の方たちにすると、「地域でそういうことを知らない人がいっぱいいるはずだから、もっと狭い自治会単位でまちづくりセミナーをやろう」という話になって、協議体メンバーが主催者になり、手分けしてチラシのポスティングしてくれました。
集まった人たちと「ここでサロンをやりたい」ということで話し合いをしてもらいまして、そこから「じゃあサロンやるよ」という人が7〜8人出てきました。
その人たちと何回か検討会をやって、包括主催のサロンを住民主体にシフトするということを今徐々にやっています。
「自分は40代だけど、死ぬまでこの地区で住みたいと思っているから、今サロンをつくっておけば歳をとった時にここに住み続けられる」と参加された方もおられます。
少しずつでも活動に加わる人を一人でも増やしていけたらなということで協議体メンバーと活動しています。
地域にもう一度投げかけてみるのはどうでしょうか。
ポスティングをすれば、読んではくれているはずで、こんなことをしているというのはどこかに残っていると思います。
Q.これから、地域でめざしていることを教えてください。
ありがたいことに、皆さんが一緒にやっていこうという意思を持ってくださり、サロンを増やせています。
そのお手伝いをしながら、生活支援にサロンを結びつけていきたい。うちの市はシルバー人材の人口当たりの登録者数が日本一で、それだけ人材がいるということなので、サロンがいっぱい増えてそこから生活支援を展開できればいいなと考えています。