優しくささえ合うための地域資源を、集めて伝えて助け合う「住まいみまもりたい」(大東市)/大阪ええまち塾 第2回レポート
2019年11月11日
「元気出まっせ体操」で全国的に注目されている大東市。
2017年からは「自分のできること・得意なこと」で、要支援1・2の方の暮らしを支える「生活サポーター」の活躍により、安心して住み続けるための住民同士の支え合いの活動が拡がっています。そこには「住民主体」を推進するための細やかな気配りや工夫がありました。
※本レポートは、現場訪問や参加者同士の交流を通じて、実践につなげていく「大阪ええまち塾」の2019年第二回訪問をもとに作成しています。(訪問日:2019年9月3日)
「やってみよう」の気持ちから行動へ ハードルを低く・入り口を広く
人口12万人余り、高齢化率26%の大東市で、介護保険外の生活支援サービスを提供する「生活サポートセンター」を運営する「NPO法人 住まいみまもりたい」。
2016年から市の補助事業として、市の養成講座や出前講座を受講した「生活サポーター」と一緒に、高齢者の暮らしの困りごとへのサポートをしています。
「担い手不足」が課題なのは、大東市も同じですが、「民生委員や自治会など、すでに積極的に地域活動に参加している方に、これ以上何かをお願いするのは、とてもハードルが高い。」と、代表の吉村さん。
吉村さん:
「生活サポーター講座」を始めた年は市の広報で案内した効果もあり、関心をもつ市民の方にたくさん参加いただけました。
問題は2年目から。
まず、こちらから働きかけて「関心を持ってもらう」ことからスタートですので、「ちょっとでも関心のある人がいれば、どこへでも行きますよ」と出前講座を開催。町会や体操の会場など、人の集まるところへ積極的に出向きました。
中でも、吉村さんが「生活サポーターに関心を持ってくださるのでは?」と鋭く切り込んだターゲットの一つは、フィットネスクラブに通っているシニア層。
「地域のために何かできればいいけれど・・・」と思いながらも、今は地域との繋がりがなく「仲間を作れたらいいな」と思いながらフィットネスクラブに通っているのでは、との考えからでした。
そこで、午前中のレッスン後に出前講座を開催。
養成講座を1時間半とコンパクトにしているので、「ちょっと空いた時間でできますよ」と伝え、入り口のハードルを低く・広く設けて、まずは登録へつなげたと言います。
短時間の講座で生活サポーターに登録ができることは魅力ですが、いざ活動をする際に、十分に行き届いたサービスが出来なかったり、トラブルになったりはしないのでしょうか?
吉村さん:
養成講座でお伝えするのは、活動の背景にある「介護予防・日常生活支援総合事業」の話と実際に行くときの注意事項です。
以前は2日間の研修をしていましたが「ちょっと、何かやってみよう!」と思った方には登録へのハードルが高いな…と。まずは短時間の講座を受けていただき、登録後に「認知症の方のケアにも関心があるわ」・「介護予防のことをもっと知りたい」と思った方には、しっかりした講座を市が用意していますので、そちらの受講を案内しています。
きちんと学びたい方には、次のステップが用意されているのです。
入り口は広くとも奥行きを深く。サポーターとして活動される方の関心に合わせて、無理のないように工夫されていました。
「できること」で未来の自分のために
生活サポーターに登録する際には安心して活動できるよう、初めての活動時にはコーディネーターが同行して、最初から最後まで一緒に作業をするなど、支援体制ついてもお伝えしているとのこと。
吉村さん:
生活サポーターさんには、登録の際のサポート内容は「自分のできること」を挙げてもらっています。その内容を見た上でコーディネーターが依頼をします。
また、コーディネーターだけで事前に利用者宅に伺い、サポーターが出来る支援内容かどうかを見極めています。難しそうなら地域包括支援センターともう一度相談します。なぜなら、有償とはいえ、ボランティアの範囲でできることかどうか、が大切ですから。
また、養成講座で伝えるメッセージにも、工夫がありました。今のささやかな行動が安心して暮らし続けられる未来につながるのだと感じてもらえれば、との思いです。
吉村さん:
「介護保険を利用する人が増えれば、介護保険料が上がりますよ」という説明を加えて、活動することで介護予防につながるのだと、自分のこととして伝わるような表現を心掛けています。
また、生活サポーターは、謝礼金以外に「時間貯金」として、自分が生活支援を受けたくなったときのための時間として貯めておくことができ、また、その場合、優先してサポートを受けられることも伝えています。
自分が生活支援を受けたくなったときには支援が必要となる高齢者の数は増える見込みなので、「いざという時に優先してもらえるのなら、将来の自分の為に」と考えますよね。
また、大東市の生活サポーターには、高齢者だけでなく、大学生の登録者もいるのが特徴的ですが、彼らには活動の魅力はどう伝わっているのでしょうか?
吉村さん:
これまでサークルなどの活動に参加したことがない学生さんが、生活サポーター養成講座を受けて実際に活動してくださったんです。就職活動でもその経験を伝えてアピールでき、内定にもつながったと聞きました。
その話がゼミの担当教官に届き、大学での出前講座の開催となり、大学生の登録へとつながりました。
大学生にとっては、生活サポーターの活動が、学校以外での社会との接点となる良い機会となったのです。
では他に、実際に活動されている方にとってはどうでしょうか?
当初は生活サポーターとして、現在は事務局のスタッフ・コーディネーターとして活躍する前川さんからも、体験をお話しいただきました。
前川さん:
私も30年以上に渡り専業主婦でした。家事をしても家族からわざわざ「ありがとう」と言葉をかけてもらうことはなかったです。活動への参加のきっかけは、自身の親が大阪市内で、地域の方に支えていただきながらの生活しており、「ありがたいなぁ」という気持ちで、自分もこの町で何かできることをしたいと思い、生活サポーターに登録しました。
活動を通じて、お家に伺い掃除をしたら「綺麗にしてくれてありがとう」とお礼を言われたのです。
この活動で、感謝してくれることに喜びを感じているのと、これまでは分からなかった社会や世の中の勉強をさせていただけていると思っています。
今はスタッフとして、来てくださるサポーターさんに、このことを伝えていきたいと思っています。
実感のこもったお話を、参加者も折々頷きながら聞いていたのが印象的でした。
「自分ができるかどうか」を考え、「楽しみにしてもらう」工夫を
しかし、担い手不足と言われる中で、こういった気持ちの住民さんとどのようにして出会えるのでしょうか?
吉村さん:
何事も自分に置き換えて「自分が参加できるかどうか、やってみたくなるかどうか」と考えるようにしています。
忙しい方に押し付けすぎない、少しでも興味があれば説明を聞ける機会を設ける、入り口のハードルを上げすぎない、活動することへの魅力を分かりやすく伝える、最初の活動へ同行し、安心してスタートできるようにするなど・・・。
吉村さんは、自分だったら何を不安・不便に感じるかを考えておられました。
加えて、サポーターとしての活動報告や精算といった事務手続きのために事務局へ来訪が必要な場面においても、工夫をされていました。
吉村さん:
月に1回の茶話会を開催し、その時に活動費を精算しています。茶話会ではお茶を飲むだけではなく、手芸などもして、季節のお飾りを作ったりもしています。
「わざわざ月1回換金に来る」というより「サポーターさんが楽しみとして換金に来てもらえる」ように考えて生まれた行事です。
半年に1回開催する発表会のような音楽イベントも皆さん楽しみにしています。会の準備や予算は事務局の負担です。「補助金をイベントに使うの?」と聞かれることもありますが、「これがきっかけでみんな来てくれて、精算と活動報告の業務に人手がかからずに済みます。(サポーターの家を)1軒ずつ回って精算・報告を受け取るのはとんでもない手間ですよね。」と答えています。
月4,000円程度ですが、大事な活動経費です。
自立した暮らしのための「知っときゃ安心」 民間事業者だけの協議体!?
「ちょっとのことならやってみよう」「楽しみもあるから行ってみよう」と行動を起こしやすくする工夫を盛り込むことで、サポーターを増やしてきましたが、これからの課題と次へのチャレンジについて、話題が広がりました。
吉村さん:
地域包括支援センターから相談・依頼を受けていますが、最近ではサポーターでは対応が難しい案件も増えてきました。
このような場合には、必要に応じて「民間事業者のサービス」を活用することも含めてサポート内容を検討しないと、本当に実現したい「自立した暮らし」につなげるサポートにならないのではとの考えです。
吉村さん:
ケアプランを考えるケアマネは、この町に住んでいないことも多く、市の広報や情報を隈なく知っているわけではありません。
そこで、地域ケア会議で「民間サービスを含めた、地域の資源集を作ろう!」「それを協議体でつくろう!」となりました。小地域ケア会議には自治会が入っていましたので、そこで地域の困りごとを明らかにする役割を担ってもらい、協議体は民間事業者で構成し、地域資源の整理・発信をすることにしました。
民間事業者だけが集まる協議体と聞いて、参加者も「え?」と驚いた表情。
でも、実は吉村さんご自身が第一層の生活支援コーディネーターであり、生活支援コーディネーターとして地域ケア会議に参加し、地域課題を把握することで、協議体との連携を図っているとのことでした。
吉村さん:
地域ケア会議で話題になったことを、協議体で取り上げ、既存のサービスでの解決方法を考えたり、同じ悩みの方に知ってもらうための広報に繋げるというのが大東市の協議体の在り方です。
協議体には、地域課題をよく知る地域住民の代表として自治会が入ることが前提のように思われていることも多いようですが、大東市は課題を小地域ケア会議で把握した上で、協議体では地域資源の把握に注力し、お互いの活躍しどころを考えて「連携」しながら地域づくりを進める体制でした。
その説明には、参加者も新たな発見があったようです。
協議体に参画している薬局による配達サービスの一例として、
・処方箋をFAXして薬を頼んだら、重たい日用品の買い物も一緒に配達してくれる
・薬局が運営する配食サービスの週1回以上の利用で、販売する商品の配達をしてくれる
等の事例紹介をいただきました。
他にも、コードレス掃除機のレンタル等、サポーターに依頼せずに「自立した生活」をおくるため活用できる民間サービスで、まだまだ知られていないものがあり、そういった情報が協議体を通じて共有できたとのお話もありました。
吉村さん:
今後は、喫茶店との連携を考えています。
民間企業の方にとっても、高齢者の暮らしぶりを細かく知り、新たなサービスを作ることは欠かせないでしょうから、協議体を通じてお互いのことをよく知る場になればいいと思います。
「担い手」としてすでに地域で活躍されている方ではなく、今は繋がりがない方にも、自分の健康や楽しみを充実させながら、地域との接点も作れるよう少し時間を使ってみませんか?と活動の魅力を伝える。
「自立」につながる民間サービスの活用方法・情報を取りまとめ、ケアプランに生かして、住民の困りごとの解決に繋げる。
これまで王道と思われていたやり方以外で、住民の支え合いが生まれる要素に気づいた時間でした。