ええまちづくりのええ話

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地域みんなの力を集結する取り組み 〜支え合いの地域づくりに向けて〜/2019年度 生活支援コーディネーター養成研修 板橋区 事例紹介

2020年4月17日

住民が主体となった地域づくりを進める上で、基盤整備や組織・ネットワークづくりにおける生活支援コーディネーターの役割を改めて考える機会をつくることを目的に、生活支援コーディネーター養成研修が開催されました。

本レポートでは、2020年1月27日に開催された研修の中から、東京都板橋区の第1層生活支援コーディネーター太田 美津子さんからの事例紹介をお伝えします。

 

社会福祉法人 板橋区社会福祉協議会  経営企画推進課 地域包括ケアシステム推進係 太田 美津子さん(第1層生活支援コーディネーター)

 

「大変なことやるね」と言われながら、第2層の協議体を立ち上げました

東京都板橋区社会福祉協議会の太田と申します。

社会福祉協議会(以下、社協)で元々は権利擁護事業を担当し、個別支援を10年やっておりました。その後、サロン活動の担当を約4年、平成27年から第1層の生活支援コーディネーターとして今の係に配属されました。職員は常勤が私を含めて4名、事務担当が1名の5名体制でやっています。

東京では板橋区のような第2層協議体の立ち上げ方は珍しく、当初は「板橋区は大変な事を始めたね」と言われましたが、住民の皆さんの気合で今の盛り上がりがあるという状況です。

板橋区は東京23区の北西部に位置し、人口は約57万人、高齢者数が約13万人、高齢化率が約23パーセントです。都市部のわりには町会、自治会が残っており、その単位で第2層協議体を設置していて、全地域18圏域で動いています。

私たちは「板橋区版AIP」と呼んで地域包括ケアシステムへの取り組みを進めています。AIPは「年を重ねても安心して住み慣れたまちに住み続ける」というAging in Placeの略です。

総合事業と生活支援体制整備事業はAIPの重点事業に位置付けられており、生活支援体制整備事業を社協が受託しています。医療介護などの専門職から地域の住民一人ひとりまで、さまざまな人たちが力を合わせて高齢者の暮らしを支える仕組みができていること、それが板橋区AIPのめざす地域像です。

 

住民主体の取組のため、第2層生活支援コーディネーターを協議体メンバーから選出

一般的に第2層の生活支援コーディネーターを社協や地域包括支援センター(以下、包括)が受託をし、構成員を選定して協議体を設置、運営していく。東京ではこういった形で専門職の立場から住民の支え合い活動を促していくパターンが多く見られるかと思います。地区社協など基礎組織が既にある場合はこれでも良いかもしれません。

板橋区の場合は、基礎組織がないので、ゼロから作り上げていくイメージで始めました。

各地域で開催した地域づくりセミナーに参加した方々が話し合って第2層協議体の構成員の選出から協議体の設置を決めていくという形です。

さらに第2層の生活支援コーディネーターも協議体の中から選出します。

住民が選出されている地域も多数あります。全てを住民や関係機関等の多様なメンバーが話し合いで決めていくという形で、本当の意味での住民主体という取組をしていく上で非常に重要だと考えています。

板橋区では、平成28年から30年の3年間で区全域18地域に協議体を立ち上げました。

事業を受託した1年目の平成27年の時点では「総合事業でいろいろサービスを作るイメージなんだろうか」と思いながら区役所に行っていろいろ調べたりしていましたが、今ひとつピンときていませんでした。

さわやか福祉財団のセミナーが平成28年2月にありまして、そこに区の担当職員を無理やり誘って参加し、住民の方と一緒に作り上げる形だということを確認しました。

2年目からは、区の担当者と何度も話し合って決めた方向性に沿って、事業を本格的に開始。平成28年に5地域、29年に8地域、30年に5地域と、平成31年1月には第2層協議体を全18地域に設置しました。

 

行政職員を巻き込み、8名体制で57万人の板橋区をカバー

区民57万人の板橋区は広いので、第2層SC協議体の設置を4ブロックに分けて支援しています。現在18地域の協議体の構成員は約400名を超えています。研修会や連絡会を各ブロックで実践。

しかし、第1層生活支援コーディネーターは5名体制なので、全部の地域に出ていくには人数が足りません。そこで区の所管課の事業担当3名を巻き込み、8名体制で動くという状況をつくりました。

 

第2層協議体の立ち上げには広く住民に声をかけ、セミナーと複数回の準備会を開催し、事業の必要性を丁寧に説明します。ほぼ毎日、電話やメール、直接面談で行政と打ち合わせをしまして、担当者がガッチリ手を組んで動いたというところが大切だったと思います。制度理解のためのセミナーと1回目の準備会はさわやか福祉財団に協力いただきました。

 

特に留意した、地縁組織のキーパーソンへの事業説明と、地域に合わせた進行

各地域で必ず最初にセミナーを行うのですが、私たちが力を入れたのは町会、自治会、地縁組織への周知です。板橋区は町会、自治会の加入率は50パーセント前後で、町会を拠点にした地域活動が根強いです。町会長や民生委員などの主要なメンバーにはセミナーの前に1、2回会って説明をするという丁寧な対応を心がけました。

 

1回目のセミナーでは、カードゲームを使用して参加型のグループワークを実施。協議体のイメージを広げつつ、地域の支え合い活動などについて意見交換をしました。

2回目の準備会では、参加者が十分に理解できていないまま進めてしまうと、あっちでもこっちでも怒る人が出て、これは大変だということで、進め具合を地域ごとに変えました。

当初の予定ではセミナー1回、準備会2回くらいでスムーズに協議体が立ち上がるイメージを持っていましたが、そんなにうまくはいかず、準備会を5回ぐらいやった地域もありました。プレ協議体というのを試しにやった地域もあります。

板橋区の第2層協議体は18地域に設置されていますが、そのうち5地域はまだ生活支援コーディネーターが選出されておらず、第1層の生活支援コーディネーターがその役割を暫定的に担っています。

 

住民同士の意見対立を恐れず、話し合える土台をつくる

協議体には、町会と民生委員、老人クラブなど、それぞれ異なる組織の主要なメンバーが出てきますので、構成員同士で意見がぶつかったりすることがあります。

しかし、それを超えて本気で話すことで「地域のために一緒にやっていこう」いう気持ちになり、メンバー間の絆が確実に深まっている印象を受けています。

これからは住民活動をなくしては福祉が成り立たないので、福祉の専門職の方は、他の専門職や住民に対して距離を取るのではなく、距離を縮めるぐらいの意気込みで地域に飛び込んでいく必要があると思います。専門職もできないことは「できない」とはっきり発言し、一度怒られてもうまく関係を作っていくことが大事なのかなと思います。

 

第2層協議体の福祉の専門性を高めるためには、住民の方が何でも自由にやっていいとするのでなく、生活支援コーディネーターが気をつけて見ていくことが必要ですし、専門職と住民との距離をつくらないよう気をつけ、全部をつなげていくことがとても大事です。

また、協議体には多様なメンバーが参加していますが、お手伝いをしてくれたり、オブザーバー的に参加する協力員という方が、たくさんいればいるほど協議体が盛り上がっていきます。

協議体の取組例として、まず地域情報の共有があります。

チラシや広報紙をつくったりしながら周知をしています。さまざまな地域活動を見える化したマップや、支えあい活動を紹介するガイドブックを作っている地域もあります。地域ニーズの把握ということでアンケートを取ったりもします。イベントを企画する地域も出てきました。

 

社協の地域支援として、地域の事業をひとまとめにして盛り上げようという「地域応援プロジェクト」も推進してきました。基本の事業を通して協議体、生活支援コーディネーターの専門性を高める機会をつくっています。

 

生活支援コーディネーターとして活動するための大切な4つの心構え

生活支援コーディネーターは、専門職と地域を繋ぐという役割を意識して活動しています。また、かなり手間暇のかかる方法で地域づくりを進めています。そのために大切にしている心構えを4つにまとめてみました。

地域づくりは結果が出るまでに非常に時間がかかるものと受け止め、目先の成果よりも、継続性を重視しています。これを行政に理解していただくことも大事です。

地域に丸投げするのではなく協議体の第1層生活支援コーディネーター、社協職員、行政職員が必ず参加をし、「手を引きません」と宣言をしました。

また、地域らしさを尊重し、事業の大枠から外れなければ「自由に進めてください」と伝えていますが、大きくずれそうになったら、たとえ協議体の中で怒られたとしても、軌道修正をすることも必要です。

 

最後になりますけれども、専門性を高めていくための各種研修など、フォローアップは必要です。板橋区ではどこの地域の皆さんも学びながら横に繋がって、皆で話すことができる連絡会を開いています。

第2層生活支援コーディネーター連絡会では、会場が熱気で暑くなるぐらい参加者が集まりました。

板橋区ではPR用のぼりが流行りで、他にもベスト、帽子、名刺といったものをつくる地域も増えています。モノから入ることで仲間意識を高める効果があり、お互いに自慢し合うことで、いい意味で地域間の競争が生まれています。

 

第2層生活支援コーディネーターのフォローアップとして連絡会の他にも編集会議、企画会議など何かあるたびに集まり、私たち第1層も入って話をします。

専門職との合同の学習会も開いています。地域の皆さんはヤル気満々なので、さらに多様なメンバーに参加していただき、支え合いの輪を広げ、皆さんの笑顔とともに板橋区を盛り上げていきたいなと思っています。

 

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