ええまちづくりのええ話

イベント&レポート
住民の「思い」を守り立てて実現する パートナーシップのありかた【行政職員研修 基調講演】

2020年10月23日、大阪ええまちプロジェクト「行政職員向け研修」を開催しました。

地域特性にあわせた多様なサービス創出が求められる総合事業において、地域にあわせた住民の互助の広がりにつながる施策立案の過程を学ぶ機会として、事業に関わる市町村職員・生活支援コーディネーターの皆さんが参加されました。
当日は、会場参加=27名、オンライン参加=69名の参加者数でした。

 

基調講演/株式会社エンパブリック 代表取締役  広石 拓司 氏

東京⼤学⼤学院薬学系修⼠課程修了。
シンクタンク、NPO法⼈ETIC.を経て、2008年株式会社エンパブリックを創業。
「思いのある誰もが動き出せ、新しい仕事を⽣み出せる社会」を⽬指し、地域・組織の⼈たちが知恵と⼒を持ち寄る場づくりと、社会課題解決型の事業開発や起業に役⽴つプログラムを提供している。
近著「ソーシャル・プロジェクトを成功に導く12のステップ」
東京都⽣涯学習審議会委員、慶應義塾⼤学総合政策学部、⽴教⼤学⼤学院などの⾮常勤講師も務める。

株式会社エンパブリック


大阪には「大阪ええまちプロジェクト」がありますが、東京では「東京ホームタウンプロジェクト」が進められています。私はその中で、主に東京都の生活支援コーディネーター研修や体制づくりのお手伝いなどに関わっています。

東京の各地の生活支援コーディネーターもつまずきがちなところは同様で、住民の方に動いてほしいと思いつつも、なかなかスムーズに誘導することができないという点です。
行政におまかせなのか、住民に丸投げなのか、二つに分かれがち。しかし、それでは住民主体は生まれません。

そもそも住民主体ってどういうことでしょう?


思いを持っていながら動けないのはなぜ?

地域づくりに取り組む上で、私たちが大切にしているのは、実は「多くの人は思いを持っている」ということです。身近な問題に気づいて、「なんとかならへんかな」「こういうふうにしたらいいのに」と。ただ、その人たちがなぜ動かないのかを考えてみると、「自分ひとりでしないといけない」と考えていると動きづらいのです。

周りに「いいね」と言ってくれる仲間がいると声をかけやすいですね。自分の思いを口にしたり、動き始めたりできる人は、近くに力を借りやすい仲間がいる人だと気付きました。

活動づくりというと事業計画を立てることを最初に考えがちですが、実は「仲間づくり」のプロセスがすごく大事です。ということで、私たちは日常的に助けてくれる人を見つけ、増やしていくための取り組みをしてきました。

新しい活動ってどう生まれるの?

地域には「こんなのあったらいいのにな」という思いがたくさんあります。。その表に出されていないニーズ(潜在ニーズ)を把握することが新しい活動への第一歩です。

そして、それを実現するためのリソースがどこにあるのかを明確にします。自分、企業、市役所、制度などです。

地域で困っている人とできる人をつなげることで、新しい価値が生まれ、それを継続できる仕組みとして定着させていくことで、地域に変化(ソーシャルイノベーション)が起きるのです。

地域の人が自ら動くことを支えるために

地域包括ケアシステムの始まりは、医療・介護・保健の連携が中心でした。最初はケアマネージャーが中心になって総合的に「サービス提供」を行っていました。

そこから地域の人との関わりを広げているのが総合事業です。例えば介護予防・生活支援でいえば、予防は本人でなければできませんし、助け合いは住民がそれぞれで動くことだからです。

研修に参加のみなさん(行政職員、生活支援コーディネーター、地域包括支援センター職員)は活動づくりや社会支援づくりに苦労されていると思いますが、地域づくりではサービス提供の発想から、「地域の人が自ら動くのを支える(Community Empowerment)」という発想に転換していくことが大切です。

いろんなつながりを見直してみて、「誰と誰が出逢うことによって新しいことが生まれるか」を守り立てることを考えていただきたいのです。

専門家主導から住民主体への移行を考える中で、大切なポイントとなるのが、専門家と住民のそれぞれの強みと苦手があることです。

地域住民の強みは、元気な人から要介護の人まで、時間や状況を超えて、小さな変化に気づける関わりを持てることです。ただし住民には専門性がなく、その人のできる範囲での対応になってしまいます。

地域活動では、「自分のできることをする」ことが大切だと言われます。
この言葉は、ともすると「自分一人のできる範囲で動く」ことだと理解されがちです。そうすると、地域課題のような難しい問題には何もできないと感じてしまいます。

しかし、大切なことは、住民も専門職も「一人では、できない」という自覚なのです。
地域で必要とされていることがあるが、「自分達では、できない」からこそ、すでにある地域のグループと連携し、異なる立場、専門の人といっしょに活動していくという可能性が生まれます。
自分のできること、できないことと、他の人のできること、できないことが組み合わさって地域に活動が生まれていきます。

一人でできる範囲で活動してもらうのも良いですが、小さな活動で終わってしまいます。
実現したい絵(ビジョン)を分かち合って、「そうか、私はこの中でこの役割(ポジション)をできるんだな」と認識してもらってコミュニケ―ションしながら動いていくのが、地域包括ケアの時代の地域づくりとして大きなポイントだろうと思っています。

専門職と住民の視点が違うことを自覚する

住民の方が「専門職の方が言っていることの大切さはわかるけど、難しい」と消極的になることがあります。
専門職は、見てきた多くの個別ケースから、未来の想定ができます。
住民のことを思って「やがて介護になったら大変ですから、今のうちからちゃんと予防しておいてくださいよ」「住民の中で助け合いをつくってくださいね」と一生懸命言ってしまいますが、住民側は身に起きていないことは必要性を感じられず、自分の課題として考えられない人が多くいます。

行政、住民とも、「高齢期にも安心して暮らせる地域になってほしい」という同じ思いをもっているのですが、こうした「すれ違い」が起きている。
だからダメなのではなく、その「すれ違い」がとても大事で、地域ケア会議や協議体が必要になってくる理由です。

地域ケア会議は、専門職の課題発見から始まります。個別ケースの課題を総合的にみて、今から必要なことを地域で考えていくことができます。専門職の視点の強みを活かしていくのです。

圏域では、個別だけでの対応が難しい地域課題を、中央では、地域課題に対応するための政策立案をします。

協議体は、地域の暮らしを知ることから始まります。この街で「そもそもみんなどうやって暮らしてるんだっけ?」という住民の日常生活の視点を活かすのです。
第2層生活支援コーディネーターは、地域の声を各主体が聴き合い、何が必要か、多様な主体がどう協力していけるか?この街でいきいきと暮らすには?といったことを考えます。
第1層生活支援コーディネーターは、地域での暮らし、助け合いを進めるのに必要な仕組みは何かを考えます。
例えば「高齢者が集まっている場所ってどこですか」と聞いて「昼カラオケにみんな集まっているよ」という声が出れば、生活支援コーディネーターはカラオケ店と組む、などといったことができます。
みなさんと楽しく話しながら「地域でこんな認知症の人の問題があるんだけど、どう思います?」と聞くと「それ大変やん、みんなで助けてあげたらええやん」と、日々の暮らしから、少しずつ地域に目を向ける気持ちを醸成していくのが協議体に必要な部分になると思います。

地域づくりやコミュニティーワークは、個別援助(ケースワーク)と別物のように考えがちですが、「地域の一人ひとりを助ける」という目的は同じです。

 

実は個別援助できているからこそ見えてくる課題があるのです。

目の前の課題への対応を考えるだけでなく、「これから悪化しないように何が必要か?」「今元気な人、今介護している人はどんな気持ちで取り組んでいるのかな?」「悪化を防止するには?悪化する人の増加に備えるには?」といった潜在的ニーズ、中長期視点へと考えを広げていくことが地域づくりにつながり、それが個別援助の充実にもつながっていく。
このように個別援助と地域づくりの相互作用が大切だということを、専門職間でも、専門職と住民の間でも共有していけたらいいなと思います。

「コミュニティー アズ パートナー」のありかた

住民と専門職との目指したい関係性について考えてみましょう。

健康づくりにおいて、コミュニティーを専門職の直す患者(クライアント)として捉える「コミュニティーアズ クライアント(Community as Client)は専門職が「助けてあげる」視点です。
このあり方では、個別に解決、指導はできても、広がりをもたらしません。

その課題に対して、アメリカの地域保健で出てきた言葉が、住民と専門職との関係を「コミュニティー アズ パートナー(Community as Partner)」です。
地域をともに健康をつくるパートナーと捉えることで、その地域ならではの解を住民とともに創っていこうという考え方です。

このような接し方の違いによって、例えば計画づくりが変わります。
これまでは専門職がアセスメントをして課題を設定して、住民に「この課題を解決しましょう」という動きが一般的でしたが、情報収集やアセスメントの何が問題か/何が大切かの段階から、プロセス全体に住民に関わって考えてもらうように変えていくのです。
そのプロセスに住民に参加してもらう場が、協議体です。その中で住民が自分たちの意見をもって参画できると、主体的な活動が生まれやすくなるでしょう。

専門職と地域住民といった、視点や考え方の異なる主体が集まる活動を“ソーシャルプロジェクト”と呼んでいますが、これを成功させるポイントがあります。
「サイクル型、循環型」で考えていくことです。

まずは、「膝詰めの対話」によってお互いを分かり合うことで「信頼関係」ができます。
中には反発してくる方がいます。
その方は、実はずっと地域でがんばってこられたことを理解してほしいのかもしれない。そういった方の話も熱心に聴きましょう。
反発するぐらい熱心に考えている人だったりしますから、強い協力者になってくれることがあります。

 

信頼関係を構築したら、「ためしに小さいことをやってみよう」とワークしてみると、今まで知り得なかった地域のリソースと出逢え、また取り組む過程で個々の得意な役割が見えてきます。
できたことを確認しあうことによって住民の自信になり「今度こういうことやっていこうよ」と次のサイクルが回り始めます。
お互いに学び合える仲間ができると、結びつきが強くなりますね。

このように、3か月単位で一周するぐらい小さくPDCAを回す「サイクル型、循環型」で取り組むとうまくいきます。一気に始めよう、早く結果を出そうとしてしまいがちですが、3か月単位で少しずつ関係性を深め、活動の階段をあがっていくと考えると進めやすいでしょう。
ソーシャルプロジェクトの成功例として、狛江市があります。

狛江市の事例はコチラ

(講師:広石氏の「株式会社エンパブリック」のサイト内の記事が表示されます)

地域のこと理解してもらうために、体験ヨガ体操、武道をやってみました。住民が楽しんでいた様子から、どうすれば続くかを一緒に考え、計画しました。
そして、最初は参加者だった住民の方たちに、事務局がフォローしながら住民自身の運営で4回の体操教室を試行したことで「私たちやってきたんよ」と自信を持ったことで、住民は活動を始め、今年で2年になります。新型コロナの影響下でも続いています。

住民主体に大切な事 ~決めるのは住民、最初のフォロワーになろう~

住民主体に移行するうえで大切なことは、まず現状を理解してもらうことです。それには体験がすごく大事。「サロンをやりましょう」といっても、開催したことのない人や参加したことのない人には伝わりません。試しにやってみて「楽しい!」「運営できるわ」という感覚を持ってもらうことが大事です。

体験も、単なる参加者としてではなく、主催する体験をしてみる。
そこで「私、できることあるわ」と気づけた地域や活動は続きます。小さく始めた人がいたらフォローしてあげてください。

一方で、専門職から動くときは、例えば体操をはじめたら、住民の仲間をみつけていく。すると、私も私もと参加者が増えてきます。
大切なのはフォロワーです。専門職が広げようとせず、住民と共に動きましょう。住民が動きはじめていたら、最初のフォロワーに専門職がなってください

そこで住民との関わり方として意識したいことがあります。
今まで多かったのは、「やってください」というコンプライアンス型、動かそうとするアドヒアランス型でした。住民への指示、誘導です。
理想的なのは、対話を通して共同意思決定を行う「コンコーダンス型」です。

する、しないも含めて住民が決める。良い活動も、住民には「しない権利がある」ことを受け入れましょう。

したくないならそれで終わりではありません。専門職と住民は話し合い続ける必要があります。

無理、したくないと言う人も、誰かが取り組んでいる姿を見て気が変わってくることもあります。
このように継続的コミュニケーションがすごく大事です。よりよい生活に向けて、イエスマンだけでなくて、NOの声も聴いてみると相互理解が深まります。
考えが調和していき、最終的に共通の意思決定が生まれます。
これが住民主体ということです。「決めるのはいつも住民」です。

地域のことは、だれもが最初は他人事です。

でも、この地域の現状や、困っている人がいることを知ることで、住民なりの考えが生まれます。専門職の人が聞いてくれて、「自分はできそう…」と思い始める。支えられながらやると決めれば、動き出せるのです。
住民の「いいね!」「できる!」を盛り上げるプロセスを、地域でも取り組んでいただけたらと思います。

参加者からの質疑応答/事例について

参加者から、会場参加・オンライン参加ともに、パソコンやスマートフォンから「Slido(スライドゥ)」という投稿・投票・アンケートができるクラウドツールを使って集めました。

Q:住民のモチベーションをどう上げたらよいか?

例えば、「住民同士でつながりを持ちましょう」と言っても、つながりをもつ目的ではつながれません。まず顔を合わせる、一緒に作業することです。なかなか参加型になってくれませんという場合は、「みんなで活動を見学に行きましょうよ、困っている人の話しを聞いてみましょう」と体験共有に持っていくとよいですね。

 

Q:趣味的サークルはたくさんあるけど介護予防的ではない…?

実は、意味づけって大事です。

「好きでやっているだけなのよー」と言っていても、思いを聴いて、さらに「実は地域でこんなことが起きていて、この活動って地域に役立っていると思うんですよね」という話をしていくと、「そうそう、そういうことしたかったのよ」といったように深い思いが引き出されることもある。

趣味的活動に見えて、思いがあるんじゃないか、地域にとって本人も気付いていない意味があるんじゃないかと考えて聞いてみる。そこで地域の課題と出逢ってもらい、何ができるかを考えられるようになると、地域の課題解決型活動へのステップアップにつながることがあります。

 

Q:生活支援コーディネーターのKPIにサービス活動の拡充を設定すると、設置がすすまないのでは?

サービス活動を作ったというKPIに加えて、サービス活動に繋がるプロセスのKPIを設定することも大切です。

この1年間を通してどれだけ住民と接点を持ち、結果的に自分たちが発信したい情報が何人に届くのかといったKPIを持つと確実に増やせます。カラオケサークルとネットワークを持てば確実に30人に届くなどです。

地域づくりでは、活動が生まれたというアウトプットの結果だけでなく、プロセスが進んでいることも結果として捉える視点を共有することが大切です。

 

Q:若い人の参加をどう促すか?

現状で仲良くできているところに、無理に新しい人を入れようとすると転校生みたいな感じでなじめないことがあります。その時は、現状で活動している人に「受け入れてもらえませんか?」と声をかけ、既存メンバーから新しい人に積極的に声をかけるなど、あたたかく迎える姿勢を作ることも大事です。

一方で、住民にもいろんなニーズがあります。自分たちで新しい活動を作ったほうが楽しいという声もあります。テーマやスタンスが少しずつ違う活動もそれぞれ共存したらいいし、連携しあって役割分担でやっていくのもいい。無理して一つに集約しなくてよいと思います。

 


最終的に「住民が関わる、参加する、居場所を見つける」ということがいちばん大事です。どれだけ住民がつながり、コミュニケーションできているのかを見ていただきたいですね。

そしてしっかり話を聴いて、ニーズ・資源を把握し、その次に体験を通じてどう動いていくのか。既存の活動をどう意味づけてステップアップしてもらうのか、というように、段階的に整理してもらえたらと思います。


 

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