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ええまちづくりのええ話

大阪府内の地域団体の活動事例や、行政職員や生活支援コーディネーターの研修の発表も広く掲載。
団体の活動の参考にしたり、市町村の仕組みづくりに役立つ記事がたくさんです。

長期的なかかわりで育む住民主体の地域づくり/2021年度 生活支援コーディネーター養成研修 岬町事例紹介

2022年5月10日

2022年1月24日に、「生活支援コーディネーター養成研修」(全体研修)をオンライン開催しました。

今回は、社会福祉法人 岬町社会福祉協議会 岬町第1層生活支援コーディネーター 中家裕美さんによる事例をご紹介します。
中家さんは6年にわたり岬町で生活支援コーディネーターとして、住民主体の地域づくりをともに進めてこられました。

岬町の現状と地域の概要

岬町は、大阪府の最南端に位置し、令和3年9月末現在で人口15,080人、世帯数7,458世帯、高齢化率39.4%という、大きな市から見れば、第2層圏域にあたるような小さな町です。

平成28 年6月に、第1層生活支援コーディネーターを1名配置、7月には生活支援・介護予防サービス協議体(第1層)が設置されました。

第1層協議体には、自治区長連合会、民生委員、介護事業所、シルバー人材センター、施設などから代表1名を行政が選定。社協からも声をかけて地区福祉委員などのボランティアさんに入ってもらいました。
企業さんは入っていないのですが、19団体25名で協議体を運営しています。
そのような大所帯なので第1層の協議体で一つのことを創っていくのは難しいと考え、視点を変えて、顔の見える情報交換の場、団体と団体のつながる場ととらえて活動しています。カタチに捉われずに地域に添ったものを一緒に創ろうという考えでした。

現在は、協議体から派生して住民主体で活動する団体がどんどん増えています。立ち上がった団体が他地区での立ち上げに力を貸してくれている状況なので、今後は第2層、第3層をしっかり固めたいと考えているところです。

岬町では小学校区単位を第2層レベル、自治区単位を第3層レベルと位置付けて住民主体の地域づくりが進んでいます。住民さんが「自分のところは第2層だ、第3層だ」と認識されて主体的に活動されています。
地域によって体制は様々ですが、高齢化率40%を超えているある小学校区では、第2層協議体として地区全体で取り組みながら第3層レベルの自治区単位につながるよう、既に立ち上がっている団体が、他団体の立ち上げを応援してくれています。

 

住民の「やりたい」を大切に、楽しみながらともに活動

第2層レベルで平成30年3月に初めて発足したのが、地域のワークショップ「赤提灯」です。男性にも参加してもらえるよう、お酒を楽しみながら地域のことを考える会を地区福祉委員会が主催で開催し、現在も継続しています。

このワークショップの参加者の中から、自分たちの自治区でも同じように開催したいと声が上がり始まったのが「地域を知るBAR」。隣接する淡輪10区、11区が共同で開催しました。ここでは、他地区から参加のAさんというカリスマ住民に出会うことができました。
協議体ありきの体制にこだわらず、まず想いのある人と人をつなげることに徹し、そのあとで協議体につなげるようにしました。住民の中には「どないかせなあかん、けど、どうしたらいいか方法がわからん」と想いがあります。生活支援コーディネーターは、その想いを大切に、方法について情報提供を行い、活動に導いていくことがカギになると考えています。

 

活動に活かせそうな地域の社会資源は…?

住民主体の活動に際し、町内で活用できそうなアセット(社会資源)4点に着目しました。
① 接骨院前の広場
② 道の駅
③ 赤提灯 「どないしたらええん会」
④ 岬町の助成金

①については、「地域を知るBAR」で出会った淡輪6区のAさんの息子さんが所有している接骨院跡地を活用できないか、というところから話し合いを始めました。使用交渉と同時に近所の方4名を連れてきてもらいました。
「なんで人のためにせなあかん」という方もおられましたが、「ご近所が困った時だけ助けるという関係でなく、日頃から楽しく元気に暮らしコミュニケーションしながら信頼関係をつくりたい」と伝えました。
接骨院前の広場に面している道は、小学校の通学路でもあります。だれでもできるラジオ体操をしながら子どもの見守りができるのではないかと提案すると、否定的だった方も「こういうことでいいんや」と気づきがあったようで、新しい活動につながりました。

また④については、当初は活動資金がないことを伝えていたところ、Aさんが「いいよ、出すよ!」と活動してくれていました。この住民の努力や活動は絶対に行政に伝えねばと考え、伝え続けました。コロナの影響もあり行政との関係性が変化したことで、5年目でようやく助成金が出るようになりました。行政のバックアップがあってこそ地域の活動はやりやすくなると考えています。

 

サービスづくりではなく地域づくり

第3層にあたる淡輪6区の地域を考える会「わくわく会」の活動内容についてお伝えします。

 

① ラジオ体操
・開催日:毎週月曜日 7:30~雨天中止
・期間:4~11月(冬季12~3月は身体に堪えるので開催しません)
開催実績は29回、参加者はのべ298名になっています。

② みまわり隊
地区マップを作成することで、見回りの必要性を認識。そこから「みまわり隊」が結成されました。2~3名ペアで月1回、好きな時間に地域を回っています。訪問から困りごとなどのニーズを収集しています。

③ 喫茶店わくわく(モーニング)
ラジオ体操のあと、寄って喋りたい、お茶を飲みたいとの要望から生まれました。「以前からやりたかった」という住民さんを中心に、接骨院跡のプレハブで開催しています。
毎週月曜9:30~15:00開催、料金は300円。コロナ禍で閉鎖していた時、毎週来てくれていた方の孤独死がありました。開催していたら早く気づけたかもしれない。その後悔から、現在はコロナ禍でも感染対策を十分に行いながら続けています。

④ 一緒に行こう会(買い物支援)
みまわり隊を行うことによって、住民さんが地域課題を把握するようになりました。
「道の駅(地域のアセット)に新鮮な魚を買いに行きたい」という声があがりました。声をあげた方の地区から「道の駅」へは車で5分ですが、コミュニティバスでは迂回するために1時間かかることがわかりました。買い物に連れていく有償活動のしくみを早急に作るため話し合って「一緒に行こう会」という買い物支援が立ち上がりました。

 

別の住民主体活動を行なっている団体の中に人権協会の方がいたご縁もあって、岬町全体で支え合いの活動を広く進めるために人権協会が主催で福祉有償運送の講習会を開催してドライバーの育成を行うことができました。
一緒に行こう会のリーダーとわくわく会の会長が個人所有の車両を提供し2台で運行しています。令和3年7月より、毎週木曜に「道の駅みさき 夢灯台」と大型スーパー「トライアル」への買い物支援を実施しています。令和3年11月現在の実利用者は 10名です。

このように、自分たちが住み慣れた地域で最期まで楽しく元気に暮らしていくために、出てきた課題を住民さんと一緒に丁寧に対応し、支援やサービスではなく協働で地域づくりを進めています。

 

 

写真左から2番目の方は90歳で卒寿を迎えられています。いきいきとカフェのスタッフをされています。
真ん中の写真は、コロナ禍で夏の盆踊りができなくなって寂しいな、という声から、喫茶わくわくの開催日に、三味線・太鼓が得意なスタッフさんが、演奏を始めて急遽盆踊りが始まることもあって、その様子を写したものです。
コロナ禍の中でも十分な感染対策を行って楽しく活動されています。

さいごに、生活支援コーディネーターとして心がけていること
住み慣れた地域で最後まで楽しく元気に暮らしていくために、支援やサービスという言葉でなく、ひとつずつ丁寧に「住民と協働で」進めています。

 

 

公益財団法人さわやか福祉財団 ふれあい推進事業
新地域支援事業 担当リーダー 目﨑智恵子さんより ポイント

とても温かい雰囲気が参加者のみなさんに伝わったと思います。
生活支援コーディネーターとして長期的にかかわる中で、一人一人を大切に、小さな活動から町全体での取り組みまで、住民を主体とした活動がたくさん生まれてきています。
第1層協議体設置の体制にもかかわらず、住民さんが第2層、第3層と認識して活動しているのがすごいことだと感じました。大きなエリアでまず住民と話をしつつ「この課題を解決するにはこのレベルだな」とエリア定め、住民さんと一緒に解決方法を考え、住民が主役になれるように、生活支援コーディネーターとしてバックアップされているところが、すばらしいです。

他にもお話しの中で大切なポイントがたくさんありました。
研修に参加されている皆さんは、「Aさんのようなキーマンがいたから」と思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、コーディネーターとして地域の現状を知り・住民との関係を丁寧につくってきたからこそキーマンとなる人と出会え、また、いろいろな団体からのバックアップも得られたと思います。そして、生活支援コーディネーターとして、住民の想いや努力を行政に伝え続け、行政のバックアップを得たことは、住民活動の促進にもつながっています。

事例のなかで、地区マップを作成することで、見回りの必要性に気づき「みまわり隊」を結成し、訪問からニーズ把握を行うことで、解決方法を話し合い行動するという、小さな成功体験を積み上げています。
このように、ひとつひとつの課題を解決するための活動をつくるプロセスは、皆さんの地域でも活かせると思います。

生活支援コーディネーターとして、住民がどうしたらいいだろうかと考えるとき、さまざまな情報を集め、住民さんにその情報を提供してくことも生活支援コーディネーターの大切な役割のひとつですね。

 

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最後に中家さんからは研修への参加者に向けて「誰が何と言おうと、私は私のやりかたでやっていけばいい、と思います」というエールを送っていただきました。

事例発表後には、他地域とのグループワークを行い、助け合い創出に向けた生活支援コーディネーターの役割や今後の戦略・計画がシェアされ、日頃から情報交換ができるような横のつながりを作る機会となりました。

 

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