第2回ブロック会議 約20年間かけてきた移動支援への情熱と取り組み
2018年3月24日
大阪府内の高齢者の介護予防、生活支援、生きがいづくりなどに関わる市町村担当者、生活支援コーディネーターなどが、住民主体の互助の具体的な活動事例を学びながら、情報共有と関係者間のネットワーク強化を図る第2回ブロック会議(中央)が開催されました。住民主体の互助活動の事例として、特定非営利活動法人アクティブネットワーク(大阪府茨木市)の代表理事・遠藤準司さんをお招きし、その活動についてお聞きしました。
満足に外出できない方の願いを叶えたい。その想いが私を福祉の世界へ導いてくれた。
大阪ええまちプロジェクト事務局スタッフ(以下、事務局):特定非営利活動法人アクティブネットワークの概要についてお聞かせください。
アクティブネットワーク遠藤さん(以下、遠藤):1997年に高齢者・障がい者を対象とした外出支援組織として始まり、1999年に大阪府から特定非営利活動法人の認証を受け「特定非営利活動法人アクティブネットワーク」になりました。2000年からは介護保険制度の居宅サービス並びに居宅介護支援事業を開始し、幅広い事業分野を展開。現在大きく2つにわけると、訪問介護やデイサービスなどの「介護保険事業」と、移動が困難な方の外出を支援する「障がい者福祉サービス事業」をしています。その傍らで、立ち上げ当初から有償ボランティアによる移動サービスの運営にも取り組んできました。
事務局:団体の立ち上げ当初の有償ボランティアによる移動サービスとは?
遠藤:もともと高齢者や障がい者、移動困難者のための社会支援を旗印に立ち上げました。移動制約者に福祉車両を使ったサービスは、身体障害者手帳や介護保険の給付を受けている人が対象になります。例えばエレベーターのない団地の5階に住んでいて移動が困難な方を「1階まで背負って下ろして、ヘルパーの方にお渡しするまで」というような、介護保険でカバーできない部分で困っている人たちを支えてきました。
事務局:そのような活動を始めたキッカケとは何ですか?
遠藤:特別養護老人ホームの経験が衝撃的でした。当時は介護保険が始まっていなくて、まだ“措置の時代”、当時も利用者の人権はありましたが、今のように利用者が主体的に決めて行ける時代ではありません。やがて利用者と接する機会が増え「外出したい」というニーズを聞くようになりました。しかし、外出すること自体が困難な時代です。外出をお手伝いしているうちに私は「もっと自由に外へ出られる世の中をつくりたい」と思いました。
事務局:遠藤さんはもともと福祉関係に携わっておられたのですか?
遠藤:元々は建築の設計などをしていましたが、「施設の人権や移動は権利だ」と私は思っています。その思いは怒りに近いような感情もあって、活動するエネルギー源になっています。
その頃の私といえば、社協でボランティア登録をして施設ボランティアをしていました。夜はアルバイトをして生計を立てる、そんな生活を2・3年続けていました。
高齢者や障がい者の外出を支援し、安心できる地域づくりをめざして。
事務局:どのようにして活動の基盤ができていったのでしょうか?
遠藤:活動開始当初の外出支援は主に人的な派遣のみでしたが、全くの無償ではなく、受益者の方から一部負担をいただいて活動していました。当初は任意団体で信用度もなく、移動支援の事業だけを進めることは難しかった。そこで自家用車(福祉車両)による移動支援活動を目指すべく、2000年から介護保険の在宅サービスを開始しました。介護保険制度が一つの契機となって「ようやく基盤ができる道筋がみえそう」といったところでしょうか。
私たちは高齢者や障がい者の外出を多面的に支援し、日常生活から生活の余暇まで、年齢や障がいの程度を超えて、自由に安心して外出できる地域づくりの実現に寄与することを目的としています。
最大の課題である人材不足が、活動を停滞させている。
事務局:基盤は整ったとしても、運営、経営に課題があったのですか?
遠藤:移動サービスの利用が増えれば増えるほど、資金繰りは大変になっていきました。結局、福祉有償運送を登録してから3年間は休止状態でしたが、その間に東日本大震災があり、石巻市の団体に車両2台を寄贈しました。スタッフが石巻に長期間滞在して、現地で移動サービスの立ち上げを支援しました。これを機に福祉有償運送を再開したのですが、現在、その事業は縮小傾向にあります。収益事業と非収益事業のバランスをとることが大切だと痛感しています。
事務局:遠藤さんのように、20年かけて培われた知恵を地域で活かしていくという事が求められるのではないかと思いました。今、最大の課題とは?
遠藤:活動上の最大の懸案事項は人材不足です。ボランティアも、仕事も、人が集まりません。それによって活動が停滞しているという状態です。やはり私たちは、今回大阪ええまちプロジェクトでプロボノ支援していただいているような“広報”に課題を抱えています。このように大阪府の事業としてプロボノの支援が受けられる取り組みは非常に心強いです。移動支援のボランティアに参加している方々は、定年退職をした人です。運営面では道路運送法や介護保険も絡んでくるので、1つの団体で解決していくのは難しいでしょう。そのため同じような志を持つ団体とネットワークを組んで情報や課題を共有することも必要だと感じています。
事務局:人材不足は介護の現場、ボランティア、経営とか組織運営の部分の人材という意味も含まれていますか?
遠藤:経営面に置いてもプロボノワーカーにアシスト支援してもらえるような機会があれば助かります。
行政も多様なサービスを地域で展開するには移動支援が必要だと考えている。
事務局:移動支援を取り巻く行政の状況はいかがでしょうか?
遠藤:2014年度の厚生労働省のガイドラインで、移動支援が訪問型サービスDに入りました。総合事業の中でも移動サービスの位置づけについて要望を出してきたわけですが、すでに2006年に一般財源化されおり、介護保険制度から移動支援は外されているわけです。
では地域包括ケアを進めていく中で「国は移動支援が全く必要としていないのか?」といえばそうではありません。多様なサービスを地域で展開するには移動支援が必要だと考えています。
全国移動ネットが自治体に対して参入意向調査をして独自にヒアリング調査を行った表をご覧下さい。
介護保険、道路運送法の類型を縦軸と横軸で整理をすると、訪問型サービスBを実施している自治体は少なく、道路運送法の解釈が難しくて進まない状況です。ただ2018年11月から大阪府太子町が訪問型サービスDのモデル事業を始めます。福祉有償運送となると登録や許可が必要ですが、住民の助け合いでは自家用自動車で登録不要の車を使うことになるだろうと思います。
また国土交通省が高齢者の移動手段の確保に関する検討会を3月に立ち上げて、中間とりまとめが公開されています。この中で自家用自動車を使った送迎活動について、法律できちんと位置づけていこうという話になっています。これにより総合事業の中で移動サービスが広がってくるのではないかと思います。住民の助け合いで暮らしの足を確保していく時代に向かいつつあります。
事務局:厚生労働省は地域の互助を認めてほしいと言っていて、それを国土交通省は認めないというやり取りが続けられてきたように見受けられますが、これは大きな変化ですよね?
遠藤:たしかに以前はそうだったのですが、地方の公共交通機関も利用者が減っています。これまで住民の生活を担っていた公共交通機関が衰退する中で、事業者だけでは地域の生活が成り立たないことを国も十分に理解している。どこまでも無償運送というわけにはいかないが、良い方向へ向かっていると思います。
事務局:アクティブネットワークとして、地域や行政と連携していますか?生活支援コーディネーターや協議体はどう映っていますか?
遠藤:地元の茨木市も努力してくれていますが、まだまだこれからという状況です。これまでの自分の活動を振り返ってみると、登録で福祉有償運送をやるのは、オーバースペックだと感じています。福祉車両を揃えたり、運転研修は必要だと思うが、助け合いという観点からみると自家用車を中心に移動サービスを実施する方が良いと思っています。
自治体も移動の必要性は理解しており、計画に盛り込んだり、要綱に落としていくという方向性はあります。ただ、実施要綱などを作成する段階になるとどうすればいいか分からない。有償の定義についても「この場合は有償で許可登録がいる」、「こうすれば無償で許可がいらない」といった線引きが難しいんですね。茨木市は協議体のメンバーが多く、企業も積極的に協議体に入ってくれています。
大阪ええまちプロジェクトでは、アクティブネットワークの「ちょっとそこまで、の移動をお手伝い。運転ボランティアの輪を広げるサイトを立ち上げよう。」を応援しています。
アクティブネットワークは、大阪ええまちプロジェクトの先輩団体として、福祉有償運送の取り組み経験から、地域での移動支援立上げを支援します。