大阪がさらに「ええまち」になるのに必要な「互助」を進めるために(大交流会2018第1部より)
2019年1月7日
2018年2月28日、マイドームおおさか(大阪市中央区)にて大阪ええまちプロジェクト「大交流会」が開催されました。
大阪府内で活躍するさまざまな地域活動団体、各地の生活支援コーディネーター、行政担当者、アクティブシニア、企業人など多様な皆さまが一堂に集う大交流会。この日は220人の方にご来場いただきました。
【第1部】では大阪ええまちプロジェクトの取り組みのご紹介、多彩なゲストをお迎えしたパネルディスカッションがおこなわれ、ご登壇いただいた方たちの興味深いチャレンジや、多くのアイデアに富んだ取り組みに、ご来場の皆さまは真剣に耳を傾けていただきました。
パネルディスカッション
3名のパネリストのみなさまをお迎えしまして、2025年超高齢社会に向けた大阪の課題をテーマに地域に求められていることを議論していきました。
また大阪が「ええまち」になるにはどう取り組んでいけばいいかのヒントをたくさんご紹介いただきました。
ゲスト(五十音順):
翁川由希氏(さわやか福祉財団)
勝部麗子氏(豊中市社会福祉協議会)
三和清明氏(NPO法人 寝屋川あいの会)
モデレーター:嵯峨生馬(認定NPO法人 サービスグラント)
日本一高い要介護認定率?私たちの現状とこれからの「大阪ええまち」
嵯峨 錚々たるパネリストの皆様にお集まりいただきまして、まず大きな視点で「大阪のこれから」を展望していきたいと思います。
今、2025年問題と言われておりまして、2025年になりますと団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となり、特に大阪を含めた都市部では高齢化社会の加速が問題となります。
こうした問題への対策が大きなテーマとなっているわけですけども、翁川さんの「さわやか福祉財団」は全国各地のこれからの高齢化に向けた課題に日々向き合っていらっしゃると思います。
まず現在における高齢化の現状、福祉政策、福祉をめぐる動向、状況からご説明いただけますか?
翁川 私自身は北海道、関西の一部地域を担当しておりますが、さわやか福祉財団としての全国的な活動状況を踏まえてお話しさせていただきます。
全国的に少子高齢化が進んでいる状況です。地域での勉強会などに参加させて頂くと、若い世代の方はお仕事があり出られないとか、地域の様子をうかがっても「子どもの声が聞こえないよね」というお話を耳にすることが多くなってきた印象を持っています。
高齢化傾向の中、一人暮らし高齢者も増えていきます。
高齢に伴って起こる病気とか障がいとか、こうしたことにも備えておく必要があると思いますし、認知症も身近な病気になると言われています。今からできる備えをしておくことが必要かと思います。
大阪は要介護認定率が全国で最も高い、という話もありますね。
「払っているから認定を受けておこう」「介護保険を使ってみよう」と介護保険を身近で安価なサービスと思ってしまうのかもしれませんが、介護保険を申請する方、利用する方が増えていくとやっぱり負担も増えていきます。
2015年に介護保険給付費が1人あたりどれくらいかというと157万円くらいでした。
2017年は1月の時点で1人あたり180万くらい。地域での勉強会で参加者に、「将来どこで過ごしたいですか?」と聞くと「施設に入るよ」と笑顔で答える方が結構いらっしゃるんですけど、施設に入る方、介護保険を使う方が増えると、見えないところでどんどん負担がふくらみます。
制度的なことや、少子高齢化をはじめとする社会状況を踏まえ、地域でどう生活するのかを考えたときに、みなさんが将来どういうふうに年を取り、どこで最期を迎えるのか、一度考えてみることが必用なんだと思います。そのうえで、やはり地域のなかで自分らしく生活するというのが幸せなのかな、とも思っています。
最期まで住み慣れた地域で安心して過ごせるように…それを実現するのは、地域で隣近所やお友達とのつながりを大事にするとか、ちょっと困ったときに地域のなかで助け合える関係を作るとか、そういったことも必要だと思います。地域の皆さんと一緒になって地域のことを考えるということがいま求められていると思っています。
嵯峨 ありがとうございます。今のお話にあった、大阪は要介護認定率が全国で最も高くなってしまった原因、理由は何でしょうか?
翁川 「使わなきゃ損でしょ!」と、よく地域の方が明るく話されているのを耳にします。
そうおっしゃる背景には都市部に住んでいて、困ったときに誰に助けてもらうのか?を考えたときに公的制度に安心感があるからではないか、と感じます。
嵯峨 サービスが身近にあるので、利用が進んでいる、ということが、見えないところで問題を大きくしているのですね。
地域活動を活発にするためには「生産性と役割」が必要
嵯峨 大阪では介護保険を申請する方が増えている、そういう問題もある一方で介護予防や地域における互助が進んでいる地域もありますよね。
そこで勝部さんにお伺いしたいのですが、大阪で互助といわれる動きが進んでいる事例ですとか、まさに「大阪ええまち」の取り組みへの事例をご紹介いただけますか?
勝部 はい。豊中市は集合住宅に住むひとが人口の66%に達しています。
いわば土のないところに暮らしている方が多いのですが、地域の活動に呼びかけても特に男性はなかなか出てきてくれない、参加してくれない、ということがありました。
そこで取り組み始めたのが「豊中あぐり」なんですけども、これは宅地を農地にして、宅地で野菜作りをしています。すると1年間で70人の男性に参加していただきました。定年退職後の男性です。
助け合い、ということから始めると、参加するまでのハードルが高く感じてしまうようで、まずは仲間づくりからつながっていくことで結果として、じゃあみんなでやってみようと、入っていきやすい部分があるようです。
サロンについてはお茶を飲むサロンだけではなく、もっと多様なものにしようという取り組みがあります。
今やっているのは「内職ひろば」です。みんなで集まって内職をやる。すると1回来て100円払うのではなく、1回来て内職して200円もらって帰るとか、こういう発想を変えた取り組みですね。生産性と役割についてどういうものがあるのかということです。
助け合いをしてください、ではなく自分が参加できるものをいかに作っていけるか、ということが結果的に互助につながっていくのではないかと考えています。
嵯峨 ありがとうございます。生産性と役割ですね。
特に男性の社会参加への要因ではこの生産性と役割の2つがセットになっていることが地域へ参加していただくキーワードとなっていると言われています。
勝部 そうですね。またこの農地で作ったさつまいもで、もうすぐ焼酎ができます。
従来型の福祉だけを入口にしていくとどうしても限られたひとたちしか入ってこないことがあります。
もうひとつ、福祉便利屋事業を今年始めたんです。
アンケートを全戸配布し、スーパーにアンケート回収ボックスを置いて回収しました。10人、20人、50人と仲間が増えていくと活動もやっぱり楽しくなります。15分200円で助け合う、ちょっとした手間仕事をやっていただいています。これは男性の方の参加が多いです。
こういった活動に参加したいと思っていた方たちが実は多かったのでは、こちらからの呼びかけがまだ届いていなかった人たちがたくさんいたんだなと、可能性は持たないといけないなと、励まされた取り組みでもありました。
地域の中で互助が進んでいくためには、私自身ひとりでやっているのではなく、協議体のなかで助けてくれるひとがいっぱいいます。こうした一個一個の行事に対して、小さなチームをそれぞれ作り、その中でメンバーが色々なアイデアを出してくれます。このような活動の進め方をしています。
嵯峨 勝部さん、ありがとうございます。
では三和さんに大阪で互助が進んでいる事例などをお伺いします。
三和 平成27年4月に介護保険の新制度が始まり、平成28年4月スタートの大東市を皮切りに阪南市、茨木市、羽曳野市、枚方市、寝屋川市などが総合事業のサービスBをスタートしました。
私たちはその前からNPO法人「寝屋川あいの会」の活動を始め、その後「寝屋川サポートセンター」もスタートさせていました。平成29年4月に寝屋川市が私たちのこうした活動を踏まえた上で、住民主体の訪問型サービスBを発表しました。
寝屋川市は私たちの活動を活用できたわけですが、このサービス開始までに私たちは活動員を増やすことを考えました。
平成29年3月に私たちは3日間にわたり活動員養成講座を開き、約150人の方に参加していただきました。こうしてサービス開始に備えました。
まずは活動をするひと、受け皿を増やし、その活動において行政との信頼を築いた上で、自信を持って行政が新しい福祉サービスを展開する、という流れを作ることが大事だと思います。
大阪府は社会福祉協議会が「住民参加型在宅福祉サービス」に取り組み、活動を進めております。こうした取り組みも大阪ではおこなわれていますので、互助への動きが遅れているとも進んでいるとも言えませんが、これからの3年間がポイントではないかと考えております。
勝部 大阪府では平成10年から小地域ネットワーク活動というのをやっていますね。
小学校区ごとにふれあいサロン、会食会、子育てサロンとか見守り活動というのをやってきたというベースがあります。
でも月1回の会食会だったり、サロンといっても頻繁に活動しているわけではないということがあったんですね。何かプラスアルファの活動ができないかと思っていたんですが、今年からそれぞれの小学校区ごとに、いわゆる通所型の施設では5人集まり、一般介護予防といって体操などをやることを広めていきました。
要支援1や2の人たちがこれからサービスからはずれていくときにセーフティーネットが必要ですよね。
それで例えば友達が多くない人でもどこかに受け皿としてのサロンがあれば、ということで小学校区ごとにやって行こうという声がけをしました。
週一回、みんなそれで集まるだろうかと思って始めたら、今どこも人が溢れています。それぞれの地区ごとに50人ぐらい毎週集まってきて「ぐんぐん元気塾」という名前でやっています。
「貯筋通帳」を持って通ってもらうというちょっとしたことなんですけども、今年始めたばかりですが900人ぐらいの人が参加してくださっています。
そしてこれをきっかけに助け合いも始まっていきますので新たな人たちにどうやって参加を呼びかけるか、こうしたことにもっとチャレンジをしていかないといけないと思っています。
嵯峨 ありがとうございます。
翁川さんのほうからもし大阪以外の事例で参考になるものがあればご紹介いただけますか?
翁川 思いのほか大阪にも互助の取り組みがあると思うんですね。
都市部だから難しいだろうという思い込みもあるのかもしれませんが、今朝、堺市の方にうかがいましたら、地域で住民のみなさんが楽しんでやっている活動がたくさんあって、こういう活動を見える化し、共有したことがまた第一歩だねと関係者の方と話していました。
今、支え合い助け合いを広めるということで生活支援コーディネーターが全市町村に配置されていて、地域の住民さんと話し合いながら地域の中でどんなことをやっていけるかを、誰を誰と、どこにつなげるかなどを考えながら、取り組みを始めています。
楽しさを感じ、自分の力を地域に活かせることを実感した方は動き出しているように思います。
新しい互助の広がりと「大阪ええまち」への取り組み
嵯峨 今日はお集まりの皆さんもいろんな地域で活動されていらっしゃると思います。
それぞれの立場もあって、こことここが繋がっていないとかもっと活動を広げたいとか、もがいていらっしゃることもあると思います。
これから大阪で互助や助け合いが広がっていくためにはさらにどのような支援策が求められているのか、 地域活動が広がっていくためにどうすれば良いのか、今日ゲストの3人の方がそれぞれの地域にいらっしゃれば良いのですが、そういうわけにもいきませんよね。
大阪の各地域が活性化するためにどうすればいいんでしょうか?
三和 やはり地区での生活支援コーディネーターと社会福祉協議会。これを確実に各市町村で作っていってもらう、確実に動けるようにしていただくこれがまず第一。
大阪の場合はCSW(コミュニティソーシャルワーカー)といった仕組みをうまく活用して生活支援コーディネーターが確実に動けるようにするということが大事です。
また各市町村の行政と社会福祉協議会が連携をし、一心同体になっているところは取り組みが進みます。住民がどっちに聞いても同じ答えが返ってくるからです。
そうしてNPOや各団体にお声がかかってきますので、実際の助け合いの動きへとつながります。
いろいろと活動にも段階があると思いますが、ひとつはこれから団体や活動を立ち上げようというところ、そして立ち上げたもののうまくいかないというところ、この2つですね。
これから立ち上げるという方は、思い、ミッション、ビジョン、これをきっちり明確にしていただきたい。そうすれば私たちも支援しやすい。
それから立ち上げたもののうまくいかないというところ、これはやってみるといろいろ問題があるんですね。そうした悩み、この悩みを一体誰が解決できるのか、ということですね。
例えばコーディネーターの方が利用者のお宅に行って問題が起こってどうしたらいいのか、こういった悩みを誰が解決するのかということです。
そういうことは、やはり先輩NPO、先輩団体などがサポートしていかなければいけない。それぞれの段階に応じた悩みの解決をサポートする体制を整えておかないといけないと思います。
嵯峨 ありがとうございます。
互助という言葉は住民同士の助け合いを意味するものだと思っておりましたが、団体同士の互助と言いますか、いろんな地域団体が交流する中から、横のつながりで学び合い教え合いすることで元気になってくるということもあるというお話だったかと思います。
勝部 私たちの協議体はいろんな方が入っていただいているんですけども、それは当事者、介護者の会の方、事業所の方、施設の方などです。
そうして何が生まれるかと言いますと、例えば買い物困難地域があった時に、移動販売車が行っても車を停める場所がない。そうしたら施設がありますので施設の駐車場に止めてくださいと。こういったことがいろんなところであります。
また元気な高齢者だけでなく認知症の高齢者にも居場所が必要です。
「注文を間違えるレストラン」というのがありますね。うちでは「注文を間違える居酒屋」というものをやっています。
このように当事者が社会参加をする。いろんなひとが参加できることは何なのか考えていこうということでやっています。
「安心サポーター」というのは、1時間800円で募集をかけておこなっています。今年だけでも百数十人が研修を受けています。
また人材バンクのようなものを設置して能力のあるひとを集めています。例えばヨガや体操、ピアノの教室をやっていた先生とかに参加してもらい、ひとつのサロンを使って教えていただく。
入口は福祉以外の社会参加から来ていただいて、いろいろな取り組みにつなげているということです。
それから「びーの×マルシェ」という、空き家を無償で借りて、店舗も経営しています。商業団体連合会から品物を出してもらって、ひきこもりだった若者が働いています。地域が持つ力を掛け算していけることを実感しました。
支え合い、サービスの担い手作りというものを全面に出しすぎると負担感が大きいために「私たちがそんなことまでやるの?」という気持ちが先に立ってしまいます。
あなたがやっていることが地域に生かされる、というところの切り口から始めるのがすごく大事だと思うんですよね。
高齢者の方たちが福祉の活動とマッチしないこともあったり、また定年後の男性の居場所というのが本当に大事になってきます。
実は50代ぐらいから考えたほうがいいと考えているので、少し下の年齢層を対象に「豊中あぐり」のジュニア版を作ろうと思っています。
お金を使って遊ぶのではなく、集まって楽しくやれることを多様に作っていくなかで助け合いが始まる、と思っています。
嵯峨 ありがとうございます。住民同士が支え合い助け合い、介護予防につなげる、その担い手としてこれまで地域活動を支えてきた人たちにいよいよ大きな出番が回ってきています。
住民同士、地域同士が横につながり、広がることで「大阪ええまち」になっていくことは間違いないと思っております。
登壇者の皆さま、本日はどうもありがとうございました。
【第1部】は、ご登壇いただいた皆さまの熱い思いと、さまざまなアイデアやヒントに満ちた興味深いたくさんのお話があり、会場に来られた方たちがじっと静かにお話に集中している雰囲気があり、充実した時間となりました。
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