5年の経験から学んだ「真」の住民主体とキーパーソンとの出会い方/2022年度 生活支援コーディネーター養成研修 葛城市事例紹介
2023年3月31日
生活支援コーディネーターの役割や地域への関わり方の基礎を学び、参加者同士で情報共有することで、各地域での活動に活かしていくことを目的に、生活支援コーディネーター養成研修を開催しています。
2023年1月24日に開催された研修では、奈良県葛󠄀城市の第1層の生活支援コーディネーターである、葛󠄀城市社会福祉協議会の田口研一郎氏を迎え、支え合い活動の実例を通し、就任5年目のコーディネーターとして特に初任者の方にお伝えしたいポイントや、地域へのアプローチ方法についてお話をいただきました。
田口 研一郎 氏
社会福祉法人葛󠄀城市社会福祉協議会
奈良県葛󠄀城市第1層生活支援コーディネーター
主任ケアマネジャーから生活支援コーディネーターに
ひとえに生活支援の基盤づくりといっても、生活支援コーディネーターの初任者の方は、様々な資料を読んでもすぐには理解できないこともあるかもしれません。
生活支援コーディネーターとして「何から始めればいいのか?」と、戸惑いを感じる場面もあるのではないでしょうか。
私は5年前に生活支援コーディネーターになるまで、デイサービスで8年間勤め、ケアマネジャーを経て、主任ケアマネジャーとして勤務しました(現在もケアマネジャーを兼務中)。徘徊している方を地域住民の方に保護していただくなど、住民の皆さんによく助けていただきました。
しかし、その一方で住民の方の意識には地域差もあり、「もっと多くの地域に支え合いが広がればいいな」という思いがありました。
主任ケアマネジャーも、生活支援コーディネーターも地域に関係する点では同じです。生活支援コーディネーターとしての新たな仕事はワクワクした気持ちで始まりました。
生活支援コーディネーターの具体的な役割とは?
5年前、生活支援コーディネーターに就任したとき、奈良県内では生活支援体制や協議体等がほとんど整備されていない状況でした。
“生活支援体制整備事業は介護保険が財源。だから、行政の予算で「通所型」と「訪問型」のサービスの類型に沿って、数や種類を増やして、住民にやってもらえばいいんですよね”
当時まだ県内での生活支援コーディネーターの役割に対する認識は、このようなイメージが強かったのではないでしょうか。
厚労省の資料には『市町村はこの例を踏まえて、地域の実情に応じた、サービス内容を検討する』とあります。この非常に重要な文言を見落としてはいけません。
生活支援コーディネーターと住民の間の「思い」の違い
「地域の実情に応じた、サービス内容の検討」とは、どういうことでしょうか。
実際に奈良県であった、生活支援コーディネーターと住民の間でサービスに対する認識の違いやギャップが生じてしまったケースを紹介します。
ある地域の生活支援コーディネーターが、先行事例を元に自分たちが実現したいサービスを検討していました。積極的に住民にサービスの内容を提案し、生活支援コーディネーター主導でそれを形にしていきました。
いざサービスを運用開始すると、住民からは、
「やれと言われたけど、広がらない」
「行政や生活支援コーディネーターによる周知やPRが足りてないのでは?」
「利用者が総合事業の対象でなければ利用できないのか?」
「制度の内容が理解できない」
など、住民からさまざまな不満や疑問があふれ、活動はしりすぼみになっていました。
地域住民の声に、まずは耳を傾けよう
地域の困り事は、住民の方が一番理解していて、住民の方自身が解決策をコーディネートするのが理にかなっています。そのため、住民の声をベースに、生活支援コーディネーターが寄り添う姿勢が良いと考えています。
つまり、生活支援コーディネーター主体でスタートするのではなく、地域住民の生の声を元に、どんなサービスが必要かを検討してもらう、ということです。
生活支援コーディネーターは、必要とあれば住民に聞き取り調査をする、また相談や情報提供などで住民に協力するものの、住民の方自身が主体性を持って動いてもらうことで、住民が地域の問題をより細かく把握していきます。
その上で住民は、自分たちで実現可能な「仕組み」を形にしていきます。
「住民の皆さんにまかせて、そんなに上手くいくのだろうか?」
当たり前と言えばそうなのですが、各地の地域性や人も違うため、生活支援コーディネーター研修で聞いた話や事例をそのまま他の地域でやろうとしてもやはり上手くいきません。
大切なのは、まず自分が学んだことの中で、自分が活動する地域の住民の思いや声とマッチする部分だけに注目すること。もうひとつは、住民の方の思いと声を聴き、寄り添うことです。
住民の声と言っても、住民の方が自発的に生活支援コーディネーターへ知らせてくれることはまずありません。その声を引き出すために、生活支援コーディネーターにとってはコミュニケーション力が本当に大事になってきます。
コミュニケーション力をアップするために、「面接技法」を勉強することをお勧めします。
住民の方の何気ない一言の中には、その人の持っている思いがあります。
「〇〇さんにはこういう思いがあるんですよね?」そういう会話から、住民の方の気づきにつながっていきます。
葛󠄀城市の概要について
ここからは葛󠄀城市での事例を紹介していきます。
奈良県葛󠄀城市は県中西部にある市で、文化遺産や歴史ある町並みの中に住宅地が広がっています。市の人口は約3万7千人、高齢化率は平均で28%(11.3%〜50.6%)、年少者率は約15%です。大阪府との県境を挟んで、南河内郡太子町と隣接しています。
協議体は第1層が市内全域、第2層は広域の2つの中学校区に分かれてスタートしました。ただ、学校区の圏域があまりに広すぎて困っている方の「顔」が見えづらく、ニーズを捉えられず、何年も支援が行き届きませんでした。
そこで、小地域の自治会単位という、住民の「顔」が見える近さに第3層という新たな支援の基盤を作りました。
第3層で困っている方のニーズを把握することでその地域共通の課題が浮き上がり、第2層、第1層へとつながっていくイメージです。
【事例紹介】東和苑ささえ愛会
疋田東和苑地区にある、第3層の「東和苑ささえ愛会」は、住民主体で活動する、会員制の有償ボランティアグループです。地区の世帯数は約330世帯。高齢化率は約39%、年少者率は約10%です。
「東和苑ささえ愛会」はもともと、第3層(小地域単位)での「あんしん会議」立ち上げから始まりました。その支え合い活動の取り組みを、段階的に追っていきます。
― 老人会会長の危機感「地域住民の暮らしぶりがわからない」―
ある地域で、前日まで自転車に乗って出かけるほど元気だった高齢者の方がいらっしゃいました。そのお宅の雨戸が朝から閉まっていることに「異変」を感じたご近所の方が、体調が急変しているご本人を発見。救急搬送 されましたが数日後に亡くなられました。
地域の方たちは、こうした出来事を「よくあること」で終わらせませんでした。高齢化が急速に進む中、「ご近所同士で普段からの暮らしぶりを知っておくべきでは?」という思いや危機感が、老人会会長や民生委員にはありました。
こうした思いは日頃、民生委員や地域包括支援センターと連携する、社協と生活支援コーディネーターへ、地域の課題としてつながっていったのです。
―「あんしん会議」立ち上げへ ―
そうした思いを受け、私は自治会、民生委員の方たちへ向けて「地域住民の方みんなで危機意識や課題を共有する、話し合いの場を設けてはどうでしょうか?」と投げかけました。
こうして地域課題を話し合う「あんしん会議」が定期的に開催されるようになり、その中で救急キット「あんしんキット」の各戸への設置に向けて動き出しました。
キットの名称やデザインだけでなく、キット内容の決定から制作、各戸への訪問と設置まで、すべて地域の民生委員と住民の皆さんで協力して行われました。
葛󠄀城市の他の地域でも、キットの設置は広がっています。それぞれの地域でキットの名称も内容も、住民が独自に決めたものとなっていて、大切に使ってもらいたいという住民の思いが込められています。
― 聞き取り内容を受けてボランティアが結集、そして勉強会開催へ ―
あんしんキットの設置について自治会通信などで周知し、独居世帯以外にも設置希望者を募り、民生委員が各戸を訪問して設置を進めました。
また、高齢者が家に閉じこもっていないかどうかなど、独居世帯だけでなく、家族と同居している方にも、その暮らしぶりについて聞き取りが行われました。
聞き取りした内容を集約すると、買い物、通院が困り事のほとんどでした。他に庭木の剪定や草刈り、ごみ出しなど、さまざまな課題も見えてきました。
こうした課題の解決のために、有志のメンバーが集まって検討が続けられ、支え合い活動ボランティアグループ「東和苑ささえ愛会」立ち上げに向け大きく動き出します。
「東和苑ささえ愛会」を住民が具体的な形にしていく過程では、生活支援コーディネーターが住民の皆さんと、より専門的な内容の勉強会を開きました。生活支援体制整備事業において、制度上「何ができて、何ができないか」の理解を深めていただきました。
― 有償ボランティアの基本的な仕組みづくりの経緯 ―
当初、無償では頼みにくいということで、謝礼を渡す方もいたため、有償で依頼を受けることになりました。かかる費用は1回500円(ワンコイン)です。
制度上、車での移送自体を有償にはできないため、移送の対価でなく生活支援と一体的に実施するということで有償での依頼を可能にしました。
保険は、任意保険に福祉サービス総合補償、送迎サービス補償をプラスしています。
こうして2022年4月から、なんでもワンコイン(500円)の支え合い活動として、移動支援のほか、さまざまな家まわりの仕事の依頼を受け、受付・相談、ボランティアの調整、料金の請求・実績などの事務まで、すべて住民が実施しています。
「東和苑ささえ愛会のような、有償ボランティアの活動はどこまでやるべき?」
すべての高齢者の移動支援や、家事・身辺援助を住民の力でやることがこの活動の目的ではありません。
バスなどの公的な交通網や、介護サービス業などの事業者主体の高齢者向けサービスがすでに存在しています。ただ、これらは使える人も限られていて、できるサービスもそれぞれ限定的です。
住民主体の移送・外出支援、有償ボランティアは、既存のサービスとサービスの狭間を埋めるものとなります。行政や事業者、医療関係者とともに地域の高齢者の暮らしを守っていくもの、と理解する必要があります。
サービスとサービスの狭間で活用される支え合い活動の実際
東和苑ささえ愛会の2022年4〜9月期の活動実績は、外出支援が約8割にのぼりました。
特徴的なのは、介護保険ではできない部分の支援となる「病院や施設への面会と手続き」です。
要介護の夫を持つ妻からの依頼事例:
「要介護の夫が認知症で特養に入所した。コロナ禍の中で誰とも顔を合わせることがなく、助けてくれる人がいない。自分自身が要支援状態で面会に行けないので連れて行ってほしい」という依頼でした。
ヘルパーさんから買い物支援を受けている方の依頼事例:
依頼者は「庭先に植える花を買いに行きたい」ということでした。ヘルパーさんは生活必需品にあたらない花などは買えないためです。
こうした支援はサービスとサービスの狭間を埋める支え合い活動だからこそできるものでした。
レアケース?行動力のある住民と出会うには?
有償ボランティアの立ち上げは、行動力のある住民の方たちがいたからこそ可能だったと言えます。
このような住民の方たちに出会うのは、かなりレアなケースだと思います。
では、どうすれば行動力のある住民と出会えるのでしょうか?
それは出会えるまで、地域に出続けることです。
支え合いの基盤を作るために第1層でも第3層でも、どんな人でも関係なくコミュニケーションを取っています。5回、10回、20回でも地域に通う場合もあります。
コーディネーターの仕事の基本はネットワーク作り
研修会に出ると、先行事例を聞いて「どういう仕組みを作ったの!?要綱は?財源は?」などの質問が飛び交います。
「仕組みを作って動かしているのは、地域の住民の方たち。私は何もしていません』
こうした答えが、どこの自治体に行っても生活支援コーディネーターから返ってきます。
では、生活支援コーディネーターは何をしているのでしょうか?
地域のイベントに顔を出し、住民とコミュニケーションをはかるなど、関係性作り、ネットワーク作りをしているんです。地域に顔を出すことで、さまざまな支援の基盤が作られます。
地域に顔を出して、説明会を実施しても、成果が出ないのはなぜ?
生活支援コーディネーターとして、説明会など、住民を集めてイベントを行います。すると自分の中で、『仕事やりました感』と今後への期待感が出てきます。しかしそんなときは、たいてい期待通りに物事は進まないんです。
説明会のような、生活支援コーディネーターが一方的に話したいことを話すイベントでは、住民とコーディネーターの間で双方向の会話が生まれにくく、その場で何かすごいことが起きることはありません。
でも、これは大切な種まきです。種をまかないと、いつまでも地域に芽が育ちません。もし参加した住民の方の中で、1人でも気づきを持ってもらえたら素晴らしい成果となります。
生活支援コーディネーターは地域住民といつ会話すればいい?
説明会で40分講演したその後、住民の方とのアフタートーク・雑談に1時間半をかけることもあります。
アフタートークという、集まった人の声を直接聴けるこの距離感が大事なんです。
移動支援を必要としている地域なのに、支援がないと言われる地域もあります。しかし実際よく見てみると、ご近所同士で車に相乗りしている。こういう支え合いがすでにあるんですね。アンケートなどでは可視化、数値化できない支援が存在します。
委託元である行政から「成果物」や「作った資源の数」などの結果を求められたら?
『地域づくりは時間がかかります』だけでは、何の指標もないため、誰も納得してくれません。生活支援コーディネーターの活動を見える化することで、自分たちの活動をデータと言葉を使って説明できるようにしておきましょう。
例えば…
業務日誌に、何の目的でどこに訪問したか、分類して記録を積み上げていく。
1か月ごとに、訪問回数、面談回数と人数、講座参加者数、資源開発の会議の数などを集計し、報告会に提出する。
などです。
こうした日々の記録とデータ作りによって、説得力のある報告を行うことができます。
新任で生活支援コーディネーター1人の場合、仕事に関する情報はどうやって集める?
生活支援コーディネーターは、独りぼっちということはありえません。
生活支援コーディネーターの業務関連の情報はネット検索などでも事足ります。重要なのは、それらの情報に加えて、実際に現場の関係者に連絡をとってみることです。
葛󠄀城市は県境で大阪府の太子町と隣り合っています。私も市の協議体が始まり、運営方法がわからなかったとき、太子町の社協を訪問して、協議体ってどうなっているのか見せてください!とお願いをしに行きました。
移動支援の勉強会についても、すでに支援に取り組んでいた太子町の協力を仰ぎました。
情報収集も大事ですが、それはいつどこで使えるのかをあらかじめ考えるべきです。あまり頭でっかちになりすぎないように注意が必要です。
新任で就任したら自分1人、前任者も1人だった場合は?
人事異動で前任者から引き継いだ場合、前任者の異動先との連携が取れ、支援の幅が広がるかもしれません。
また他職種では、コミュニティソーシャルワーカー、主任ケアマネジャー、医療従事者、リハビリテーション職など、地域づくりに関わる数々の専門職がいらっしゃいます。
ひとりで抱え込まず、主役である地域住民と、他職種の皆さんとうまく連携を取るようにしていくことがポイントです。
生活支援コーディネーターの仕事で失敗したときどうすれば?
私たちはたくさんの失敗をやらかしてきました。
食料品店と協力して実施した「買い物バスツアー」では、住民からの参加者がたったの6人でした。
これは完全にやらかしてますね。しかし、いつも心に留めているのは、結果を分析し視点を変える『リフレーミング』をすることです。
人が集まらなかった、という結果は何を意味するのでしょうか。
住民の皆さんに「ツアーに参加しなかった理由」を聞いたところ、「集合場所まで遠かったから」、「荷物を持って歩けないから」という意見が出ました。
この地域は集団での買い物支援のニーズがなかったんです。それはつまり、個別の移動支援を希望している、そのニーズがある、ということを示しているわけです。
視点を変えることで、結果を失敗と捉えるのではなく「地域の求める方向性に1歩前進できた」と、住民と共通の認識を持つことができます。
地域の住民の方と信頼関係を築くためには、絶対に住民に失敗体験を与えないようにすること、そしてこうしたリフレーミングの手法が、生活支援コーディネーターにとって重要です。
最後に
生活支援コーディネーターは、地域住民の思いと声を聞き、寄り添って支え合いのカタチを作るお手伝いをするクリエイティブな仕事で、決まったやり方もない、とらわれる必要もないと思います。
住民の思いや声から始まった支え合いのカタチが、たとえどんなカタチのものであれ、住民の暮らしの質を向上させるものならば、なんでもチャレンジしていいんじゃないでしょうか。
今日こんな人と出会えたなぁ、という感謝の気持ちで、いつも仲間の生活支援コーディネーターと話し合っています。ぜひ、私たちとまだ見ぬ出会いを求め、心躍る冒険(地域)に出かけましょう!
【参考資料】