会社の仕事から人生の仕事へ プロボノでゆるやかなライフシフト~3人のストーリー
2017年9月22日
団塊世代が75歳を迎える2025年。
世界に先駆けて誰もまだ見ぬ超高齢社会の到来を前に、新しい時代を切り拓いて行く日本のこれからのシニアの生き方、暮らし方、社会との関わり方に注目が高まっています。
本レポートでは、「会社の仕事から人生の仕事へ プロボノでゆるやかなライフシフト 3人のストーリー」と題し、ご自身の本業で培った経験やスキルを活かして地域活動やNPOを応援する「プロボノ(※1)」のプロジェクトへの参加経験を持つ方、地域団体としてプロボノの受入れの経験を持つ皆さまにお話を頂きました。これからの時代の社会との関わり方について、3人のストーリーはどのように展開されたのか。セミナーの様子をお伝えします。
当日の開催概要はこちらのページからご覧いただけます。
※1 プロボノとは・・・職業上の経験・知識・専門スキルを生かした、新しいスタイルの社会貢献活動のこと。企業人やクリエイターなどの社会人、アクティブシニアまで幅広い世代からの参加が広がっています。 |
今どきの50代、60代 社会との関わり方 ストーリー①
久木 勝三 (ひさき かつみ)さん 企業に務めた後、大阪市鶴見区緑地 域の地域活動団体の代表としてNPO 法人化。学童保育事業の実施など仕事の経験を活かした地域活動を展開している。 |
地域活動とのかかわり、プロボノとの出会い
私は40年ほど前に学校を出て広告代理店に入社しましたが、父親が倒れて、実家に帰ることになりアパレルの製造会社の実家を継ぎました。その頃、親が民生委員をやっていたので、自分が継ぐという所から地域との関わりを持ちました。今はNPO法人緑・ふれあいの家の理事長をしています。
一番最初の地域との関わりは、地元の小学校がきっかけでした。教室の窓ガラスを全て割られてその中でダウンを着て凍える手で勉強していました。これは学校だけでなく、地域にもいろんな責任があると思い、自分としてできる事があるのではないか?と感じました。平成23年頃の話です。民生委員をやっていたこともあって、学校をなんとかするために自分たちで何かできないかと考え、行政、地域の方と関係をもち、いろいろ考え悩みました。最初は親のやっていたことを引き継ぐくらいの軽い気持ちで入っていきましたが、自分の価値観、人生観からも次第にやってやろうという気持ちになっていきました。
地域に入っていくと今までの仕事とのギャップはありました。会社勤めの頃は海外に行くことが多く、海外からみて日本は素晴らしいなと思うことが多くあったので自分たちの国、自分たちの地域をしっかり守らなくてはならないという責任感を持つようになりました。そういう意味で、30年ちかく親がやってきた民生委員など地域への関わりに間違いないと思うようになりました。
民生委員というだけではなくさらに一歩地域活動に関わっていくようになったのは、町会の方から「経理だけでもいいから見てくれ。」と言われ、だったらちょっとやりましょうかと言ったのがきっかけです。その後、会長の方が倒れてしまい自然と更に地域への関わりが増えました。しっかりと地域に目を向け関わっていくようになってからは本当に大変でした。地域には課題がたくさんあります。一人ではどうにもならない程でした。鶴見区の区長さんに相談して、いろんな人の力を借りていきました。その中でプロボノさんの力も借りながら、一つ一つやっていきました。地域でいつまでも任意団体ではダメなのだ。地域でも収益化できないといけない。そのような思いから地域活動協議会という協議体が出来上がり、自治団体としては初めてNPO法人を作りました。
地域にあった3つの課題と行った対策
地域の中で掲げていた課題は3つです。
1つは子ども。子どもを安全に良い環境で勉強させたい。子育て世代を応援したい。
2つ目は高齢化。地域としても対策したい。
3つ目は防災、防犯。地域のインフラを高めたいと考えていました。
特に子どもについては、非常に優秀なプロボノさん3人に入ってもらって、今でも繋がりを持っています。子どもたちが放課後、安心して過ごせる環境を自分たちの手で作ろうと、大阪市の事業である児童いきいき放課後事業に応募しました。今大阪市内の5つの小学校でいきいき放課後事業をやっています。2025年に団塊の世代が後期高齢者となるという問題は確かに大変なのですが、高齢化しても元気でボケなければいいのです。そんな健康な人を地域で作っていけばいいと思います。その為に、地域で連携していける場づくりをやっています。
どの課題に対応するにしてもやはり、資金、人材、拠点の問題があります。ヘルスケアセンターを作ったり、特別養護老人ホームに交流スペースを作るなどを本格的に展開しようとしています。今までは福祉士に入ってもらっていたのですが、これからはトレーナーさんにも入ってもらわないといけないのですが、地域には担い手がいない状況です。地域で色々な取り組みをしたいのですがネックになるのは人材。そして補助金の問題、補助金だけで事業を継続することはできないのです。活動自体を事業化しなければと考えています。プラスマイナス0でやっていける活動をしたいと思っています。自分ができることは物事を前に進めるために必要な人をコーディネートすること、いろんな人に助けてもらいながら実現を目指しています。
今どきの50代、60代 社会との関わり方 ストーリー②
橋本 敏夫 (はしもと としお)さん 電気機器 メーカーで社内システム開 発等を担当、定年退職。 在職中から 主に青少年育成活動ボランティア等 に 従事。鶴見区・榎本地域の情報発 信にてプロボノ参 加。 |
仕事の経験を生かしたプロボノ(※1)との関わりと工夫
会社のシステム構築に関わっており、大型の汎用コンピューターの要件定義をしてテストをし、プログラムして立ち上げるということをやっていました。40代からずっとボランティアをやっていましたが、プロボノと出会い、2013年に大阪市鶴見区の榎本という地域のホームページの立ち上げのプロジェクトに参加しました。プロボノのチームは若いメンバーが中心で、私は全体の進行を担当、他メンバーが要件定義をして進めていきました。ご支援先となる地域の方は年代が一緒なので、要件定義で訪問する時には窓口役となりお悩み事をアドバイスしていきました。ご支援先にウェブが分かる人材は揃っておられたので地域団体が自分たちで変えながら運営できるソフトを入れるのがいいのでは、と決定しました。
仕事ではないプロジェクト中で自分よりずいぶんと若い人に思うように動いてもらうのは難しかったです。会社では命令はできますが、ボランティアなので命令はできない。命令してしまうと会社になってしまうので、「待つ」ということをしました。納期を守るためには命令したい、と思うこともありましたが、こちらから催促するのでなく「待つ」。「できるのか?」ではなく、やんわりと伝えるように心がけたり、支援先とも仲良くなりコミュニケ—ションもスムーズだったので、支援先からチームに進行について言ってもらうようなこともしました。
趣味も楽しみながらボランティアを楽しむ
現在、ボランティア活動は天保山にある地域活性化を目的とした協議会で、住吉神社の船を再現するプロジェクトに参加しています。大阪港150周年のお祭りなどで再現した船のパレードを実現したいと思っています。会社に勤めていたときは土日だけボランティアをしていましたが、今は月三回程度の参加、それ以外の時間はヨットに乗り遊んでいますが、ボランティアも続けて、両方を楽しんでいます。
今どきの50代、60代 社会との関わり方 ストーリー③
小玉 秀美 (こだま ひでみ)さん 教育関係の書籍編集を経て 現在フ リーで校閲など。フリースクールを運 営するNPO団体のコピー作成などを プロボノとして担当。プロジェクト後 も継続支援を行っている。 |
プロボノの関わり方
大阪育ちで、現在は奈良で過ごしています。元々は出版社で編集しており、今はフリーでデザインをしたり校閲をしたり、会社に属さない働き方をしています。プロボノに出会ったきっかけは東日本大震災の時に何かしたいという気持ちがあり、プロボノをネットで見つけて、登録したことです。今までボランティアに関心がありませんでしたが、結果的にはプロボノをやってみてよかったです。そのあともご支援先のNPOさんと関わらせていただいて、コピーを書く、ということをしていました。それもあって今も別のNPOをお手伝いしていまして、声をかけられるとついつい参加してしまいます。
初めてのことにもチャレンジ。刺激が得られるプロボノ活動が自分のためになっていると実感。
私がかかわったプロジェクトの支援先は事業規模の大きなNPOでした。ダウン症の子ども達にダンスを教える事業が一つ、不登校の子ども達も通えるフリースクールを市と一緒に運営している事業が1つ、あとは地域の施設の指定管理を通じてまちづくりを進める3つの事業を並列して取り組んでいる団体でした。多岐に渡る事業があるものの、ぱっと一目で一言で何をしている団体なのか分かるよう、ウェブサイトの情報整理をして欲しいというのが支援先のニーズでした。サービスの利用者の他にも行政などとの関わりもある団体なので、見た人に信頼してもらえるようなウェブサイトを作ろうということで、私自身は文章を書いたり、印刷物を作ることが本業なので、その経験を生かすという事になりました。プロジェクトが始まってから思ったのは、コミュニケーションが必要だということです。他のメンバーが皆さん若かったので、自分の言いたいことを言ってしまいます。そこで、自分が間に入って、逆に団体が伝えたいことをチームに伝えるような役割を担っていきました。そうしているうちにプロボノチームの中での自分の居場所作りができました。コピーライターで参加したのですが、それだけに縛られず、やれることは何でもやることになりました。チーム内のウェブデザイナーと仲良くなり、最終的にコーディング(プログラミング言語を用いてプログラムのソースコードを記述する作業のこと)にも関わって手を動かしてやることにもチャレンジしました。
今までフリーで仕事をしてきましたが、プロボノを通じて、考え方や年代、職種も様々な人と関わって、最初はやりにくかったのですが、やったことのないことも「やってみて」と言われてやったことが良い刺激になりました。NPOのこともそれまではよく知らなかったのですが、ダウン症、不登校の話を現場で聞き、関わっていくうちに興味を持ち、子ども達にも関わるようになって世界が広がっていきました。今話題の子ども食堂の見学にも行き、そこにいらっしゃる職員の方、来ている方と話をして、自分の知らない世界を知ることは自分にとっていい経験です。また次はどういった団体に関わるかわからないですが、面白い経験をさせてもらえたらよいなと思って活動しています。プロボノって誰かのためにやるのでなく、自分のためにやらしてもらったのだと実感しています。
私は一人で仕事をしていたので、人との関わりが自分としては上手ではありませんでした。そこに年齢、考え方が違う人とチームとして一つのものを作っていかないといけない。ミーティングをするときに、誰かが欠けてしまう、とか、急に行けないと言われるストレス、やり取りの中でもストレスはありました、チームの中で色々な事情で抜けざるを得ない人も出て最初のメンバーで最後まで走り切って「成功だ!」という形では終われなかったので心残りもあるのですが、それも一つの形だなと思います。
地域活動、社会活動 続くコツ、続ける極意
橋本)子ども達をヨットに乗せるプロジェクトに関わっていましたが、自分のグループ、他のグループなど、いくつかのボランティアグループができて統制が取れない状態でした。それに苛立っている人もいましたが、でもボランティアなんてそんなものです。そんな状態をどうやればうまくいくのか、楽しみながらやればよいと思っています。焦ることはない。ボランティアをするなら楽しくやるしかない。参加することは楽しいものだ。そういう気持ちをいつも持っています。
プロボノの経験を一言でいうなら、「知行合一」。
煎茶を趣味でやっていて、煎茶は陽明学なのですが、この中で知行合一(ちこうごういつ)という言葉があります。意味は、行動しないと知識だけでは何の意味もないということ。知識は正しい行動を伴って初めて知識があることになります。行動をおこしていけば、色んなことが知れる、どんどん知識が増えてくる。プロボノに参加するといった行動に移せば知識がついてくるということなんだと思います。
久木)どんなことをやっていても5:5、4:6の割合で反対される方はいます。その状況をどう切り拓いていくかは自分の判断にかかっていて、正しいと思ったら、反対する人がいたとしても自分がやる、という思いをいつも持っています。組織ができ上がってくればみんな対等ですが、組織が形づくられるまではリーダーシップがいると思います。自分がしっかりしなければ、誰も後ろについて来ない。そこは、きっちりやらなくてはならない。自分で決断しなくてはいけないのです。
また、プロボノさんと関わった地域団体として、プロボノさんに入ってもらうなら地域の場作りが必要です。
・入ってもらいやすい場作りをすること。
・また本音で話し合うこと。
・白黒はっきりつけること。
それが、プロボノのチームと最後までいい関係を作っていける方法です。
小玉)私はプロボノの経験を一言で言うとしたら、「新しい自分に出会えるチャンス」
いろんなところに参加することで自分の世界が広がっていきます。その中で、自分が思ってもみなかったことに興味を持つ自分に気づくことになりました。子ども食堂のことを知ると、余った食料をどうにかそこに繋げられないか、と思ってしまうし何よりものの見方が変化します。何か一つ興味を持てば、それを調べよう、そして繋げようという気持ちになりました。
これからボランティアや地域にかかわっていく人たちへのメッセージ
小玉)私の義母は小さなことですが、近所の子ども達に自分の得意な洋裁でカバンを作ってそれで喜ばれて、交流も広がっています。できることから、好きなことから、自分にとって簡単なところから始められるボランティアがよいのではないかと思います。
橋本)どのように手を抜くかを考えて欲しいです。会社の仕事ばかりせずに遊びとかボランティアに参加する、これは人生の経験です。会社ばかりでなく、そういった領域にもぜひ一歩、入って行ってもらいたいです。
久木)いずれ自分の住まいや地域の環境を整備していくことが本当に必要になると思っています。今まではトップダウンの社会でしたがこれからはトップダウンではいけないのです。我々が自立して立ち上がっていかなくてはならないのです。そこでどうするか?というと自分たちが暮らす自分の地域から立ち上がっていくことが自然なのではないでしょうか。
オール大阪で地域の高齢者の介護予防、生活支援、社会参加を担う地域団体を応援する大阪ええまちプロジェクトでは、地域のために何かしたいと思う皆さまのプロボノへのご参加をお待ちしています。参加方法や過去の事例などについてご案内する説明会の開催情報はこちらをご覧下さい。