ええまちづくりのええ話

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行政マンは前に出ない、手を出さない。 それでも住民が自発的に動ける仕掛けとは?

2018年2月6日

大阪府内の高齢者の介護予防、生活支援、生きがいづくりなどに関わる市町村担当者、生活支援コーディネーターなどが、住民主体の互助の具体的な活動事例を学びながら、情報共有と関係者間のネットワーク強化を図る第2回ブロック会議が開催されました。

住民主体の互助活動の事例として、協議体「SASAE愛太子」の運営に行政担当者として携わる太子町健康福祉部高齢介護課の小泉さんにお越しいただき、住民の皆さまとの関わり方、住民互助活動の立ち上げ方、運営のポリシーなどについてお伺いしました。

太子町健康福祉部高齢介護課 小泉さん(中央)

 

太子町は面積がせまく、端から端まで車で10分。高齢化率が27.3%、65歳以上の人口が3,727人、50歳未満と以上の女性の方がちょうど半々くらいになっていて、窓口に来られる方はおばあちゃんが多いです。一般介護予防の通いの場が8ヶ所、介護予防の自主グループ数(週1で自主的に体操などを行う)が25ヶ所。あと1ヶ所立ち上げると目標達成というところです。

今は介護を担当していますが、以前は総務政策の企画部門にいまして、町会・自治会など何でも担当していた上に、ゆるキャラも担当していたことがあります。たくさんの子どもが集まる場所で太子町の説明をするときに太子町の場所を、バナナで例えるとバナナのお尻やで、と言うようにしていました。

この件についてはYouTubeで「太子町 地図」で検索してみてください。

「お願い」して参画してもらっている人がいない

「SASAE愛太子」この名前は第1層の協議体の愛称です。運営は全面的に僕が担当し、1層コーディネーターは社会福祉協議会の貝長さん。僕は対抗して0層コーディネーターと自称しています。そのことについては、あとでお話しします。

太子町の協議体の特徴は委嘱して参加してもらっている人はいないことです。会長、副会長、定数や任期などは設けていないので、いつでも参加してもらえるというシステムにしています。お願いもせず、任期も決めず、本当に運営できるの?と聞かれることもありますが、無理やり協議体に引っ張ってきているわけでなく、納得してみなさん参加していただいています。何を話し合う場所なのか理解し、自分の意思で参加されていらっしゃいますし、こちらから何か誘導することはなく、目標を持って取り組んでいらっしゃいます。

SASAE愛太子のネーミングは参加している住民さんが投票で決められました。

Sがスマイルとサービス、Aがアンチエイジング、Eがエンジョイで、愛は愛、太子は町の名前を取ったということらしいです。

平成28年にこの事業の担当になったのですが、どうしていいのかわからなかったのでセミナーに何回も参加し、医療経済研究機構の服部さんの話も3回くらい聞きました。そこでわかったのは「自分らで考えてやってね」ということでした。

平成29年4月に協議体をキリよく立ち上げたいという目標以外はノープランでしたが、とりあえず地域に出ていこうと始めたのが、「地域づくりからの支え合い勉強会」です。過去に町会自治会を担当していたという経験があったので、抵抗なく地域に入っていくことができました。

勉強会の後に研究会を3回開催して、その後、今年の4月に協議体を立ち上げました。6~7ヶ月しか経っていませんが、住民主体の移動支援サービスをやるところまで、ましてや要綱を作るところまでできるとは考えていなかったのですが、個性的な協議体になっていると思います。太子町では従前相当と訪問型サービスDしかないのでいびつな形ですが。

 

協議体の前身、住民有志の勉強会と研究会

平成28年6月からはじめた勉強会には37町会700人が参加してくれました。48町会ありますが開催を希望しないところでは開催していません。

最初は、48箇所もまわるの?といわれましたが、結局はこれが一番近道だったなと思います。

勉強会で何をやっているかというと、「知る」「考える」の2つ。

「知る」については、国勢調査で大字の単位で人口動向がわかるので、人口減少のスピードを実感してもらいます。

次に「考える」では、町内に住んでいる、さわやか福祉財団の元インストラクターさんから提供していただいたゲームで、助け合いの擬似体験をやってもらうということをしています。勉強会の場では、行政に対して不満を抱えてらっしゃる住民さんから怒られてしまうということもありますが、しっかり話を聞いて、ちゃんと返すことができれば、納得していただけます。

 

勉強会の開催とともに、協議体を立ち上げる前に研究会を3回やりました。

研究会では、全員有志で20名ぐらいの参加でワークショップをしました。

その時に、優先的に取り組んでいく生活課題を自分たちで話し合って4つ設定され、ハードル高いものもあるのですが、「移動手段」、「集いの場」、「買い物支援」、「町会自治会の活性化」の4つになりました。

有志で参加した方が自分たちで考えられて、「SASAE愛太子」が立ち上がりました。

この組織は、意欲のある住民、2層と3層の生活支援コーディネーター、行政、社会福祉協議会、地域包括支援センター、意欲のある職員によって構成されていまして、僕が今の部署から異動しても地域貢献や自己研鑽、ボランティアに意欲があれば参加することができる仕組みになっています。

 

「地域づくりからの支え合い勉強会」から意欲ある住民を吸い上げてくる流れが、結果として地域から協議体に住民をスカウトするような形になっています。

 

0層コーディネーターとは?

僕がなぜ0層コーディネーターと言っているかというと……。福祉部門だけでは地域包括ケアという大きなテーマを推進できません。

生涯学習、子育てや色々なセクションと協働しないといけないので、横断的な組織が必要と考えました。

それで、全部局横断しての会議体に、社協の局長と1層コーディネーターを入れて会議体を作りました。

平成28年の8月にすぐ立ち上げて2ヶ月に1回やっています。

行政では担当割りを重視するのでこの会議体を実施するまでの調整には時間がかかりました。

行政評価では数字的にいつまでにどのくらいの効果を出すのか、ということを言われますが、この取り組みはそういった類の話ではないことをまずわかってもらうようにしました。

最初は要項を作って無理やりに集まってもらいましたが、何回も諦めずに説明しました。

今は理解をしてもらえて1つの会議体として進めることができています。

 

情報を全員に随時共有しながらやっていくということで、街をあげての地域づくりに繫げていっています。

社協と行政内部のコーディネートを自分が担当し、住民向けは1層コーディネーターが担当してやっているという感じです。

 

SASAE愛太子 の活動について

今年は2ヶ月に1回集まる日を設け、1回目は4大テーマの設定、2回目に4大テーマのうち移動手段から取り組むことにしました。

3回目は円卓会議(後に解説あり)の報告、4回目にプロボノチームにFacebookの立ち上げ支援をして頂きました。

先日、「地域づくりからの支え合いフォーラム」で取組みの発表をしました。

 

基調講演は全国移動サービスネットワークの遠藤さんにお願いをしました。

活動報告、パネルトークは住民さん自らやられるということで、目標を持って活動されることになったことと、訪問型サービスDを自ら考えて取り組み始めたので、その報告をされていました。

フォーラムのチラシの裏面に、日付が2025年になっている「太子介護未来新聞」を掲載し、そこで好きなこと綴っています。

介護認定率が極端に下がっている様子とか、移動支援を目玉にやっているので、免許返納しても安心して暮らせるよ、などを書いています。

 

取り組むテーマごとに設置する円卓会議

SASAE愛太子はゆるい雰囲気で雑談もしながら情報共有するのですけど、そこであがってきたテーマは、共通の課題を抱えるメンバーが有志で取り組んでいこうというのが「円卓会議」です。外部からの有識者や専門家にも加わってもらいます。今は移動外出支援の円卓会議があり、住民さんが自ら具体的にすすめています。

 

円卓会議では、4つのステップに沿って活動を具体化に向けて進めています。

ステップ1で自分たちの地域の再調査をします。

漠然とした感覚で進めるのではなくて調べてみるとか、移動外出のセミナーに参加したりしています。移動支援を学ぶセミナー参加するために、一緒に九州も行きました。

ステップ2ではセミナーで学んだことをメンバー全員で話し合います。

町域が狭いので端から端まで車で走っても、ガソリン1リットルは減らないけどガソリン代の領収書どうする?などが話題に出ています。

そしてステップ3ではサービスを推進するための要綱を住民さん自ら作っています。

そして、いよいよステップ4で11月からモデル事業としてやり始めています。

円卓会議で他に具体的に話し合われている内容をご紹介しますと、集いの場から乗り合わせて買い物へ行くケースでは、自分の車で移動支援するよ、とおっしゃる集いの場の主催者がいたり、また、乗っている時は支援される側だけど、降りたら他の方の買い物支援をするよ、という人もいたり、総合事業に該当するような住民の互助そのものの話が出てきています。

その他、老人クラブのゲートボールクラブなどを集いの場として見立てて考えた時に、夫婦でゲートボールに参加していたが、ご主人の身体の調子が悪くなり、車が運転できなく行けなくなったので、乗り合わせできる仕組みがないだろうか?といったことが話し合われました。

訪問サービスDを自分たちで研究されていて、簡単にいうとハンドルを握っている間、補助金はないのですが、乗る前、降りた後の付き添い支援のところで、往復1,200円でやっていこうと11月から取り組みを始めています。

協議体に参加している住民さんは、買い物支援の充実に向けたことを考えていきますが、訪問型サービスDができることでそことの連携も考えたい、とおっしゃられています。

 

町会・自治会の活性化に向けた研究については、ボランティアポイントといった話題も出ていますが、広報紙を自分たちで配布されているので、配布する時に安否確認も一緒にできるのではないかなどこれからも色々な動きが期待できそうです。

 

プロボノによる支援を受けて

Facebookなどの新しい広報ツールを使って、情報を届けたいターゲットは10年後の担い手、中学生を対象にアプローチをしていきたいというのが、プロボノ支援を依頼するにあたって最初に意図しているところでした。

発信される住民さんはFacebook初体験の人たちです。プロボノ1DAYチャレンジでは、Facebookページ自体を経験するところはできて、スマホから投稿したものが画面で見られたら、オォーという声が上がり、刺激はありました。

またそれだけでなく、何を投稿すべきか、Facebookのリスクのことなど、Facebookとは何か?というところから説明して頂きました。

1DAY本番当日だけでは、Facebookページの立ち上げまでには至りませんでしたが、本番後のサポートもいただき、テスト画面の立ち上げまでは進むことができました。

中身の充実をすることができれば始められそうというところまでは来ているので、これから使っていけるようにと動きつつあり、来週からFacebook立ち上げの円卓会議が始まります。12月には立ち上げたいということで進んでいます。

プロボノチームの支援は非常に助かりました。Facebookページの立ち上げをするということにも燃えてらっしゃいます。

 

行政マンとしてのポリシー

住民主体の互助を進めるという今回の事業において、行政担当者の自分としてポリシーとして初めから貫いているのが、前に出ない、先に手を出さない、ということです。訪問型サービスDの要綱作りも、放っておいたら住民さんが自らがんばるので手を出さない、メニューを用意しない、できあがるのを信じて待っています。また、否定はしないことも大事だと考えています。

もう一つ大事なことは、定期的に一緒にご飯食べたり、打ち上げをしたりする、ということです。

うちの協議体は住民さんしかいないので、利害関係がないのでやりやすい一方、企業さんが入っていたら気軽には難しいかもしれないですけど、定期的に懇親会を行うようにしています。家族のようにすごく仲が良いです。

 

質疑応答

質問:

地域で協議体などを立ち上げているのですが、地域でキーになる方の見つけ方というのか、前段で勉強会を重ねるなど、接する機会になるようなものを企画していかなければいけないのでしょうか?

 

回答:

いきなり飛び込んで行ったというのが正直なところなのですが、社協さんの協力は大きかったと思います。

私が、社協に2年くらい出向していたので、条件が恵まれていたのですが、さらに、役場の業務で町会自治会と区長会を担当して地域との繫がりがすでにあったのでそこはハードルなく入っていけました。

 

質問:

社協さんの協力……と美しくまとめたなと思うのですが、実際、市町村の担当と社協さんの関係を作るときに、太子町さんはどういうスキームで動かしたのですか?

 

回答:

平成17、18年くらいに僕が社協さんへ行っていた時期がありますが、当時は町と社協のコミュニケーションは十分とは言えませんでした。今は協力しあい、共通の目標をもっていてとても仲がいいです。

生活支援コーディネーターは社協さんに委託しているのですが、役場の高齢介護課の隣に席を用意して、座ってもらうようにしています。

実は、年間の90日は横に一緒にいるという契約にしてもらいました。

私たちもやったことない(体制整備)事業なのに、丸投げして成果だけ求めるのはマナー違反だと思うのです。

協議体は僕がやるから、コーディネーターの貝長さんは僕の横に座る、太子町は直営包括も持っていて保健師の林さんと3人トリオで一緒に座っているということでチームワークはいいですね。

 

質問:

町内の皆さんが自分たちでやっているということなのですが、町民の人はほっといてもそんなに自立しないだろう、と思うのですが……。

 

回答:

町民さんが優れているということではなくて、こっちから飛び込んでいったらウェルカムと言ってくれて、ほとんどの人はよう来たねぇ、とおはぎ出してくれたりするわけです。

たとえ、突き上げがあっても傾聴するというスタイルはあります。

しっかり聞いてからじゃないと、こちらから言いたい事も言わない。

まず聞く、そこからの対話だと思うのです。

キーとなる人も自然に出てくるのです。

実は埋もれていて絶対にいる。

見つけたら連絡先も聞いて帰るということをしています。

体験ゲームはもの凄く利いています。

町会さん同士もお隣さんのことを知らないけど、ゲームの仲で助け合いが成立する瞬間があって面白いなと思います。

 

質問:

太子町行政の中では、住民さんの意見を聞いてどうするの? 町内会よりも議員や部課長さんの意見を聞く方がよいのでは? といった話は出なかったのですか?

 

回答:

議会にも区長会にも関係者のところには全部話をしにいきました。

ゲームについても町長、副町長もやっていますし、全部に説明して町会も全部まわっています。

基本的に体験ゲームをやったら自分ごとになるのですよね。

各地域でやった時にも体験ゲームでも、否定的な意見も出ましたけど、そこで出し切っているので、協議体になった段階では文句は出ていません。

 

行政内の横断的な組織については、違う部局営業に行っています、通知だけ出しても伝わらないので。

うちの課長がその辺りに長けていて、一緒についていって同じ役所内でも協力を取り付けています。

その上での実現している横断的な会議体なので、組織内の営業活動は必要だなと思います。

 

質問:

協議体をうちでも立ち上げているのですけど、サービスになかなか繋がらない、事業として繋がるのが難しいという部分がありまして、何かヒントを教えていただければと思います。

 

回答:

おそらく総合事業の事業化のことをおっしゃっていると思うのですけど。

うちのスタイルとしては、必ずしも事業化しないといけないみたいなノルマはありません。

訪問型サービスBに相当するだろうなという活動は太子町内に2箇所ほどあるのですけど、補助を出さなくても自立して回ってらっしゃるので、あえて制度の中に埋め込まなくてもいいと考えて、手を出していないです。

 

自分たちで課題設定して、解決手段として町会自治会内のチケット制での移動支援など色々検討した結果、総合事業も1つの解決のツールとして使いたいという結論を出されたので、今回、訪問型サービスDは立ち上げましたけど、訪問型サービスBについては既存でやってらっしゃるので、制度化はしていないという状況です。

なかったらない、サービスに繋がらなかったら繋がらない、総合事業を使って解決しなければならないというノルマはないので、別の手段で解決できればいいという思いでやっています。

 

質問:

ご自身の業務の何割位をこの事業に割いていますか? 勉強会の開始は時間外や休日もありですよね。

 

回答:

他の業務と兼任しておりますので、2割~3割といったところでしょうか。

SASAE愛太子を立ち上げる準備期間となった平成28年度は、もう少し時間を割いていたと思います。

ただ、SASAE愛太子や地域づくりからの支え合い勉強会で地域を訪問するのは、平日の19時以降や土日となることがほとんどです。

 

質問:

体験ゲームについてもう少し教えてください。

 

回答:

さわやか福祉財団さんの「助け合い体験ゲーム」のカードを使っていますが、ルールはホームページ掲載の内容と少し違います。

 

主眼としているのは、以下になります。

  • 支え合い活動の大切さに対する気づきを促し、具体的な互助活動につながるきっかけを作ること
  • 地域の担い手の発掘

 

ゲームは以下の内容で実施しています。

  • 5名程度のグループをつくる
  • 各自、カードの山から「困っていること」が書かれているカードを3枚程度選ぶ
  • カードを選んだ理由を1枚ずつ順番に発表。他のメンバーは、自分が助けてあげられそうなカードだったら、そのカードをもらう。カードをもらう人が誰もいない場合は、そのカードを一か所にためていく。
  • 最終的に、手元にカードがたくさんある人が「助け上手」、少ない若しくは無い人は「助けられ上手」となり、全員から拍手をもらって終了。
    もらう人がなく一か所にためられたカードは、そのグループで解決できない生活課題としてメンバーで別の解決方法を考える

 

 

 

大阪ええまちプロジェクトでは、SASAE愛太子の「高齢化の話題こそ、若い人たちにも関わってほしい。だからこそ始める、SNS活用。」を応援しています。

 

太子町の生活支援コーディネーターを担当されている貝長さんのインタビュー記事はこちら

 

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