住民の気持ちを聞いて、確かめて、寄り添いながら進める自立的な居場所づくり(東京都文京区)/大阪ええまち公開講座「生活支援コーディネーターの地域づくり事例紹介」
2019年8月23日
2019年6月6日、I-siteなんば(大阪市浪速区)にて、地域づくりに役立つ実践的ノウハウの紹介を目的に、「大阪ええまち公開講座」を開催しました。
「生活支援コーディネーターの地域づくり事例紹介」にご登壇いただいた東京都文京区の浦田 愛さんによる事例紹介をお伝えします。
浦田 愛さん 文京区社会福祉協議会 地域福祉推進係 地域連携ステーションフミコム係長 人口約220,000人の東京都文京区。その中の駒込地区で、住民ニーズに応え、住民の自主的な活動を支援する「地域福祉コーディネーター」として平成24年に配置される。 町会連合会、ボランティア・NPO、民生委員、大学を巻き込み、月の利用者が300~400人、子どもから高齢者まで多世代がつながる「こまじいのうち」を立ち上げ、運営にも関わる。 |
東京の文京区は端から端まで自転車で行けるほどのエリアですが、東京ドームがあり、大学も多く、東京大学・お茶の水大学など19校あります。マンションが増え、人口は約22万人で右肩上がりに増えています。
私が文京区の社会福祉協議会に入職した10年前は、常勤は8名とコンパクトな組織でした。今は常勤25名になり、地域の中に入り、国の施策である「我が事・丸ごと事業」など多くの事業を行政の方と一緒にやっています。
文京区では、地域福祉コーディネーターが、生活支援コーディネーターを兼務しています。役割は重なる部分もありますが、個別支援と地域支援の両方をやっているのが特色です。
地域支援は3つのプロセスに分類されます。地域との関係づくりをする「関係支援」、事業づくりをサポートする「立ち上げ支援」、そして役割分担ができた段階からの「運営支援」になります。
個別支援では個人から制度の狭間のご相談を多く受けていて、寄り添いながら課題整理をし、必要な資源や制度につなげていったり、つながり先がない場合は新たにつなげ先をつくっていくような動きをしています。
さまざまなネットワークとの連携ということでは、個人支援ではフォーマルな専門職とのやりとりが多くなり、地域支援ではボランティアや住民の方との関係性が濃くなります。
生活支援コーディネーターとしては、どちらかといえば地域支援を主としてやっていくという感じですね。関係者とは、個別に協議の場をつくり、そこで地域の課題を拾っていきます。
そのなかで、文京区として代表的な取り組みが「居場所づくり」です。
週に3〜4日オープンする「こまじいのうち」のような常設型居場所が増えています
「こまじいのうち」は一軒の空き家がスタートでした。
文京区は昔から町会が地域福祉を担ってきましたが、担いきれなくなってきたので、ふらっと集まれて、なにかと相談できる場が住民から求められていました。
町会の会議で「居場所をつくろう」という話が出て、皆で集まって協議の場をつくり、この地域に必要なプログラムは何かを話し合いながら詰めていきました。
地縁関係の方々だけでなく、ボランティアやNPOの方も入って40名くらいで実行委員会をつくり、コンセプトはどうするか、名前をどうするか、誰を対象にするのか、財源をどうやって確保するかなど、すべてを協議しながら進めました。
「こまじいのうち」は参加者数が多い月で500人くらい。地域のさまざまな人材、孤立した人がつながる場になりました。
やってくる人も赤ちゃんから高齢者まで幅が広く、子ども食堂、学習支援、ベビーサロン、バザーなどいろいろなプログラムが行われています。
相談もいろいろと入ってきますが、住民同士で解決が難しいものは地域福祉コーディネーターが拾い上げて、行政や専門機関へつなぎます。
文京区にはさまざまな居場所が続々と登場しています。大きく分けると多機能型・中機能型・単機能型で、それぞれに補助金を付けて運営してします。
多機能型は、「こまじいのうち」のように週3〜4回ひらかれている常設の居場所。
中機能型は、介護予防「かよい〜の」・子ども食堂などで、週1回、月2〜3回程度ひらかれる居場所。
単機能型は、月1回程度ひらかれる子ども食堂やふれあいサロンです。
文京区社会福祉協議会では、「福祉という看板では来ない方々」と積極的につながり、そういう人たちの力を地域のなかに注ぎ込むことが課題と考え、「フミコム」という中間支援の相談窓口をひらきました。
ここには週3回、NPO関係の相談支援ができる「コミュニティマイスター」と呼ばれる方に来てもらっています。
Q.「こまじいのうち」を立ち上げる時の協議の場には、地縁の方だけではなく、いろんな方が約40名集まったということですが、人を集め、とりまとめていく場面での何かエピソードはありますか?
人探しをする上で、総合事業も一つのツールという考え方をしています。サロンや子ども食堂、なんの補助金のない枠組みなど、いろんなツールがあります。
常にアンテナを立てて、一人一人に会うときに「この地域には何が足りていないんだろう?」と私たちも考えた上で地域に入っていって、一人一人が何をしたいと思っているのかを確かめていきます。
いろんな活動の事例を出してみたりして、反応を見ていきます。
また、いろんな場に一緒に行って「こういうイメージで合ってる?」みたいなやりとりをしながら、その人がやりたいものを形作っていきます。
言葉で話しているだけでは、その方がどういう活動や場をイメージしているのか分からないので、一緒にいろんな居場所を見にいくと「あ、これではないな」という方もいるし、「ここまではいかないけど、これくらいの活動をしたい」とかそういうイメージづくりを最初の段階では丁寧にやっていきます。
Q.居場所づくりで、ここだけは押さえておきたいと心がけていることを教えてください。
こちらがやりたいことで進めていくと、うまくいかないことが多いですね。
住民の皆さんに聞きながら、丁寧に合意形成をしていきます。暗闇のなかを手探りで進んでいく感じですね。「この方法でいいですか?」と常に確認しながらやっていきます。
住民の皆さんが進行中の取り組みをどういうふうに感触として受けとめているのかをこまめに探っています。
ザラザラした感じになっていないか、ということをいつも気にかけています。住民のなかに「負担だわ」「ここまでは私、できない」という気持ちが湧いてくるとそれがハードルになり、ザラザラした感じが出てきます。
病気と一緒で、そういうザラザラを早めにキャッチして、早めに対処するということを、いつも心がけています。
Q.居場所の立ち上げを支援し、その後に住民の方に運営を渡し、ご自身が引いていかれると思いますが、それはどのようにやられているのでしょうか?
とくに立ち上げ時は非常に気をつかいます。どういうプロセスで運営を住民に渡していくか、その場に私がいなくても回っていくようになるのかを、丁寧に察知していくことが大切です。
「こまじいのうち」の立ち上げ時は、ほぼ毎日、「こまじいのうち」に出勤していましたが、仕事をだんだん細分化して、やれる人に振っていきました。
時々私が行かないようにしてうまく回ったか様子を見ます。うまくいかない時は役割の偏りがあったりするので、そこを調整していきます。
一人一人ができるようになるまで、自動車教習所の教官のように寄り添います。「今日は路上に出れましたね!次は高速道路ですね」というふうに。
そして、行かない日を増やしていきます。だんだん引いていき、うまくいくようになると本気で「すごいですね!」と一緒に喜びます。
その後は、壁に当たっていないか、という確認に行くようにします。
「このごろ顔を出してくれないね」と言われることもありますが、「私も活動が大変なんですよ!あっちもこっちも立ち上げで」と言うと、住民の方が私の立場、思いを理解してくださいます。
「こまじいのうち」は半年で、私がいないときでも、ボランティアさん同士が話し合いながらスムーズな運営ができるようになりました。
まず、運営の業務を自分でやってみます。自分でやらないと「この部分が大変なんだ」ということが分からないですから。
ただし、月に1回とか、週に1回といった活動は、やり方をお伝えして最初の1回目だけ一緒にやって、あとはお任せします。
そうしないと、月1週1くらいの活動はお任せしづらくなります。
Q.役割分担、細分化とは、具体的にはどのようなことなんでしょうか?
例えば「こまじいのうち」ではスタッフの調整役がいませんでした。カレンダーにシフトを書いてくれる人はいたんですが、「行けなくなった」なんて言われたりすると私が他の人に電話していました。
それを、スケジュールに穴が空いている日を確認する人、そんな時にやってくれそうな人を把握している人が電話をする。そんなふうに作業を分担します。
Q.行政とのコミュニケーションをうまくとり、スムーズな合意形成を得るために心がけていることは?
月に1回、生活支援コーディネーター会議を開いていて、高齢福祉課、社協の所管の福祉政策課、保険健康推進課などなど行政と社協の関係各部署が集まる会議体をつくっています。
そこで関係者間のすり合わせをするのですが、まずこちらから「この活動をモデルにしていきたい」というものを提示して、それがなぜモデルになるのかという要素を示します。
そして、私たちの方で介護予防の活動者のアンケートをとって、例えば「月1回の活動を週1回にするには何がハードルになっているのか」ということを明らかにして、「通いの場にこれがあれば前進できる」という根拠を出し、そこから一緒に施策をつくっていくということをやっています。
Q.男性の利用者を定着させるために、どのようなことをやっていますか?
コミュニティサロンは一般的には女性の利用者が圧倒的に多いですが、「こまじいのうち」は女性1,251人に対し、男性が877人。比較的、男性の利用者が多くなっています。
男性は役割がはっきりしたものなら参加していただきやすいですね。組織をつくるのも得意な方が多い。ですから、リーダーになっていただくとか、会計などを担当していただきます。
「こまじいのうち」で会計を担当していただいているのは、過去、職業として経理をやっておられて、とても安心感のある方です。
今ではすごい量の仕事をこなされていますが、最初は役割をはっきりさせるというところから始めました。
「こまじいのうち」では100円の入場料をとっているのですが、集まった入場料を何日かに一度郵便局に行ってお金を口座に入れてきてもらう、という仕事のお願いからしました。
また、「こまじいのうち」に一歩入るハードルを低くするために、いろんな会議を「こまじいのうち」で行なったりもしました。
Q.運営費をどうされているのか、についてお聞かせください。
「かよい〜の」は区と調整して通いの場用の補助金を活用しています。これは介護保険を財源としているものです。
あとは行政からの補助金や歳末の募金などを財源として、社協で助成金を作っています
常設型はお金がかかるので、一つ一つのプログラムに助成金を活用できるようにしています。
「こまじいのうち」は東京都から町会連合会を対象とした年間100万円くらいの助成を運営費として受けています。
今年度から我が事・丸ごとの予算を使って、一定の条件をクリアした常設型の居場所に対しては、家賃補償を無期限でつけるという補助金をスタートさせています。
Q.地域福祉とは別の切り口で活動している方々の相談支援をおこなう「フミコム」のお話は印象的でしたが、そこから何か地域支援につながっていったというケースはありますか?
「商店街の元気がなくっているので、もっと明るくしたい」というご相談があり、学生が商店街を取材して、その記事を広報紙に載せていくという、直接福祉とは関係ないような関わりがありました。
その地域で居場所づくりをやろうという時に、商店街の方に協力してもらい「何かをしたい若いお母さんとか、いませんかね?」と問いかけてキーパーソン探しの情報提供をお願いできました。
Q.「こまじいのうち」に立ち寄られる若い方は、こまじいのうちでどんな過ごし方をされていますか?
色々です。
若いお母さんはお昼をもって子どもを遊ばせにきますし、ママ友同士で来ておしゃべりしています。
中学生は友達連れでおやつを食べに来ます。
大学生はボランティアに来たり、夕方から来ておじさんたちと飲むこともあります。
企業に勤めている人でこういう活動に関心がある人は、お休みの時に「レコード日和」というプログラムを開催し、レコードを聴きながら昼間からおじいさんたちと飲んでいます。
人それぞれの過ごし方ですね。このような「ゆるさ」が居場所では重要です。ぜひ機会があったら「ゆるさ」を感じに来てくださいね。
Q.最後に、これからの地域づくりにめざすことをお聞かせください。
多機能の居場所を中心とした地域づくりを進めていきたいです。
常設型の居場所があることで、その周囲にある週1回、月1回の活動と互いに助け合いながら地域づくりを進めていくという方向性です。一方で男性の社会参画はまだまだ課題なので、男性が仕事として関わりたくなるような事業開発を今年やっていこうとしています。
男性の方たちと一緒に企画チームをつくってやっていきます。