オンライン会議ツール「Zoom(ズーム)」を活用したラジオ体操参加者4割が高齢者!ICTを活用した地域づくりの事例/NPO法人きんきうぇぶ(富田林市)へのインタビュー
2020年5月22日
ICTを活用した地域づくりを推進する「NPO法人きんきうぇぶ」(以下、きんきうぇぶ)
社会的距離を保ちつつ、「つながり」「交流」を生み出すため、高齢者であってもYoutubeで動画をみたり、ZoomやLINEなどのオンラインツールを活用できるような取組を推進しています。
オンラインを活用した地域づくりにハードルを高く感じる方も多いと思います。
具体的にどのように立ち上げ運営しているのか、参加者はスムーズに使えているのか、どのような反応・変化があるのかをきんきうぇぶの事務局 寺田誠氏に話を伺いました。(2020年5月19日 Zoomを活用したオンライン取材)
Q:コロナ禍における活動状況を教えてください
きんきうぇぶが実施している街かどデイハウスや認知症予防教室、パソコン教室などは休止。公共施設を活用していたパソコン教室・スマホ教室も会場が休止しているので延期・中止になっています。富田林市から運営を受託している市民公益活動支援センター(以下、センター)は、時間短縮の上で開館しており、相談を受けたり、印刷などに活用いただくことはできる状況です。
地域団体・NPOの皆さんが集まれなくなっているので、ひとが集まるのが当たり前となっていた公益活動や介護予防事業、居場所づくりをこれからどうしていくかが最大の課題になっていますし、ZoomやYoutubeなどICTを使った取組も必要になってきていますが、高齢者のICT環境をどのように整えていくのかも課題です。
Q:高齢者のICT環境を整えることについて今どのようなことを考えていて、実践されているのでしょうか?
スマートフォンを持っているか、持っていないか、で分かれるのですが、スマートフォンを持っている人に向けては準備を進めていて、きんきうぇぶのLINE公式アカウントでの発信で、Youtubeの告知や、Zoomも定期的に使うようにしています。
発信内容に興味を持って「参加したい」などの反応をもらえたら、方法としてはアナログになるのですが電話でフォローするなどして使い方のレクチャーをしています。
ただ、一番大きな課題は、スマートフォンを持っていない人への取組です。
高齢者だけではなく、子どももオンライン環境の有無で教育格差ができてしまっている状況について、きんきうぇぶが運営している子ども食堂の中で見えてきています。
子どもや高齢者など、つながりを必要としている方に対して、ハード面での環境整備によるセイフティネットづくりとして、Wi-Fi環境の準備や、通信機器の貸出をできるよう寄付等で資金調達するといった議論もはじめていて、現在検討中です。
Q:既に取り組まれているYoutube、Zoom、LINEを活用しての新しい活動について教えてください
こういった事態になる前から、センターとしてYoutubeチャンネル開設の必要性を感じて準備をしていました。
そこに新型コロナウイルス感染拡大の状況になったことで、4月からは主に富田林市内の方に向けて地域情報をYoutubeで発信しています。現在のチャンネル登録者数は、112人。FacebookとLINE公式アカウントを使って、こまめに発信をして登録者を増やしてきました。
富田林市市民公益活動支援センターのYoutubeチャンネルはこちら
Youtubeの企画・出演・撮影・編集は、理事長・事務局職員の2人でやっています。
左が事務局職員、右が理事長
混乱した状況の中でも、早くYoutubeを始められた理由としては、理事長が以前から「Youtubeで動画配信をやりたい」と言っていたことと、楽しみながらやっているところが大きいかもしれません。
情報発信の内容も、公益活動・団体のことだけに寄ったものではなく、時には社会福祉協議会の職員の方にも出演してもらって給付金の話をするなど、幅広い内容で発信できていると思っています。
ゲストからの専門的なお話では、市民に知ってもらいたいことを幅広く取り上げる
また、出演する2人が漫才形式で必要な情報を発信するという企画もあり見る方も「知っている人が分かりやすく話している」と楽しく視聴くださっているようで、再生回数も他のものより多く、この形式はシリーズ化しています。シリーズ2回目では、オンライン会議について漫才で情報を伝えました。
漫才形式の掛け合いのQ&Aで、分かりやすく伝えるように工夫も
Q:現在、Youtubeでは何本の動画を公開されているのでしょうか?
4月にはじめてから約50日で計22本です。つまり2・3日に1本のペースですね。そう考えると結構な数ですが、動画編集は理事長・事務局職員の2人でやっていますし、編集にも時間をかけていません。もともと2人ともスマートフォン・パソコンを使いこなしていたので、編集もそれほど困っている様子はないです。
Youtube自体も以前と比べて、動画をアップロードしやすくなるなど、より多くの人に使ってもらいやすく変わってきているようです。
スマートフォンで動画編集もできますし、ハードルはそれほど高くない印象です。
Q: 楽しんで取り組まれている様子が伝わってきます。続いてZoomを活用した交流会について教えてください
集まることができず活動ができない団体がほとんどだったので、取組や課題、アイデアを交流する会を持つのはどうだろうか、と声をかけたところから始めました。Zoomでの交流会はこれまでに2回開催して、各回10名程度の方が参加して「こんな時だからこそできること」のアイデア出しをしました。
その中の意見で出た「こうやって、集まって話ができる機会があるだけで、安心する、つながっている感じがする」という声をきっかけに、「Zoomを活用したオンラインラジオ体操」を始めることになりました。
交流会の参加者数名も一緒になって企画を考え、5月1日から週1回やっています。
Zoomを介して集合した参加者とラジオ体操をした後、「Zoom in ひろとん」の決めポーズ
今は、金曜日のラジオ体操だけですが、理想としては、別の曜日は落語をするなど「毎日、この曜日のこの時間にZoomにつないだら誰かがいる」となればと思って検討中です。いろんな活動をしていきたいので、Zoomでの交流は「ラジオ体操」と言わずに「Zoom in (ズームイン)ひろとん」という名前にしています。
年1回の富田林市内で活動する地域団体の集まり「ひろとん」をZoomでやる・つながる意味にして、内容は体操に限らず「つながるための場」となることを狙っています。
Q: どんな方が体操に参加しているのでしょうか?
センターに登録している色んな団体や、高齢者の方など、各回30〜50名が参加してくれています。高齢者は約4割ほどです。
体操をする・体を動かすのはもちろん大事なことですが、それに加えて、決まった時間に予定ができて生活のリズムができることや、オンラインとはいえ多数の参加者同士でコミュニケーションが取れること、そして、そのコミュニケーションから地域の絆づくりや介護予防にもつながっていくと思いますし、今後は高齢者にももっと参加して欲しいです。
FacebookやLINE、Youtubeで、オンラインラジオ体操の予定を発信すると「Zoomってどうやってやるの?」と問合せがあるので、電話等を通じて接続方法をお伝えしています。
「(外出自粛になり)ずっと家に一人でいるだけではあかんな、と思って」と考えておられる高齢者の方は多いと思います。
Q: 準備をするのも大変だと思うのですが、この企画を「やってみよう!」と思われたポイントはどこでしょうか?
オンラインであってもつながることが大事という考えから、当初は「体操やりませんか?」と話していました。ただし「体操」を15分となるとどういった体操にするのか考えるのも大変です。そこで「ラジオ体操」であれば誰でも知っているし、目的は「体操」でなく、「つながり」ということで、できるだけハードルを下げて実施する方向になりました。
また、オンラインを活用しての情報発信は団体としても難しいことではなかったこと、そして大きなことは、Zoomでの交流会をやってみて、協力をしてくれそうな団体や人がいることが見えてきたので、一歩踏み出せました。
Q: LINE公式アカウントの取組もお聞かせください
もともとは、センターから所属団体の方や市民への広報(イベントの告知など)として使っていました。今は休止になっている街かどデイハウスや認知症予防教室に参加していた高齢者等に届くように情報発信をしています。
情報の内容は、YoutubeやZoomなどの告知だったり、スタッフの近況などのアットホームな内容です。
他には、街かどデイハウスの時に関わってくださったヨガの先生がつくってくださった40分ほどの体操動画や、富田林市内の農家さんを応援するために、きんきうぇぶ事務所では野菜の販売もしているのですが、野菜が届く時間や内容などをお伝えしています。
受け取った方からの返信で、暮らしの様子が分かることも
情報発信の量も増えて、それと同時に返信率も増えています。LINEというオンラインのツールですが、返信してくださる方がいるということは、高齢者の方もつながりを必要としていると実感しています。
今は、広報というより「コミュニケーション」としての情報発信に使っているので、それで反応が違っているように思います。1週間に2・3回くらいのペースで発信しています。
Q:LINEは1週間に2・3回の発信、Youtubeは2・3日に1本の動画公開、Zoomでは週1回の交流会と、かなりの情報発信量と思うのですが、スタッフの皆さんが負担に感じることはありませんか?
LINEについては、それほど負担感はない様子です。以前に「おはよう伝言板」という取組をしていて、登録している高齢者へ毎朝メール発信し、返信のない方へは電話をかけて安否確認をしていました。
メールを送るときには「おはよう」だけでなく、ちょっとした小噺や今日の出来事など内容を考えて365日毎日発信していました。その時の経験も活きているのか文面を考える負担感はそこまでではない様子です。
また、Zoomもラジオ体操が主体なので、開催するといっても僕が司会をするくらいで、ラジオ体操に絞ってやっているので負担は大きくないです。体操を誘導してくれるリーダーは1人決めていて、その方にお手本をやってもらっています。
Youtubeは制作側も楽しくやっている様子ですし、センターとしては、今までの活動が出来なくなっているので、その分、今は時間をかけることができています。
Q:オンラインでの取組について、参加者や利用者の反応はいかがですか?
これまでICTを使ったことのない人にも好評で受け入れられていると感じます。
Youtubeでは「知っている人が話している動画」を楽しみにしてくださっていたり、Zoomでのラジオ体操にしても「予定が入る」というのが、生活の充実につながっているようです。LINEを使ってのコミュニケーションでは、他者とのつながりを感じてもらえているという反応があります。
オンラインを活用する年齢も関係ないと思います。年代が若いからやり始めるというわけではないようです。スマホ講座でも、70代を越えても熱心な方はいらしてました。
Q:先日、大阪ええまちプロジェクトで実施した調査(※)では、ICTに多くの方が興味を持っていることがわかった一方で、いざ取り組もうとしても「不安」やハードルを感じている人も多くいることが分かりました。最後に、地域の中でこういったICTを活用していこうとしている方に向けてメッセージやアドバイスをお願いします
現状は、地域活動としてICTの活用は不可欠になっていて、特に高齢者に対しての必要性を感じています。
もともとこういった状況になる前から、団体としてICTは高齢者が使えた方が良いもの、と考えて事業の中でも取り組んできました。
状況が変わりこれまで通りに活動できなくなって、皆さんがより強くオンラインを使ってでもつながることへ必要性を感じている今が活用を始めるチャンスだと思っています。
ICTを団体で活用すること、利用者に活用してもらうことは簡単ではないかもしれませんが、地域やコミュニティのために、ぜひ頑張って欲しいです。僕たちきんきうぇぶができることは協力したいと思います。
(※)【調査報告】新型コロナウィルス情勢下における府内地域活動団体の活動状況
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大阪ええまちプロジェクトでは、大阪府下の協議体、生活支援コーディネーター、地域団体の皆様からのご相談も受け付けております。
本記事を読まれて、きんきうぇぶの取組をより深く知りたい場合や相談をしたい場合は、大阪ええまちプロジェクトの「先輩団体への相談」をご活用ください。
また、大阪ええまちプロジェクトでは、きんきうぇぶとプロボノワーカーが協働し、「高齢者にとって分かりやすくやさしく取組めるZoom利用手引書」を作成しました。