コロナ禍における地域活動の工夫とは?/2020年度 生活支援コーディネーター養成研修 大阪市東成区・大正区 事例紹介
2021年4月7日
地域の活動事例を学び、参加者同士の情報共有を通して今後の活動に活かすことを目的に、2021年1月19日に「生活支援コーディネーター養成研修」(初任者向け・フォローアップ編)をオンライン開催しました。
前回(2020年7月実施)の「生活支援コーディネーター養成研修(初任者向け・基礎編)」を踏まえたフォローアップ研修としての位置づけです。
はじめに制度説明として、さわやか福祉財団の新地域支援事業 大阪府担当リーダーでもあり、群馬県高崎市の第一層生活支援コーディネーターでもある目崎氏から、「生活支援体制整備事業の推進に向けて」と題して10分間の講義がありました。
その中では、地域住民が中心となって自由な情報共有ができる場を作り、そこで出た情報やアイデアをもとに多様な地域の関係者とネットワークを組んでいくこと、そしてまずは取り組みやすい小さなことから課題解決して積み上げていくことが大切と語られました。
その後、生活支援コーディネーターとして5年目になる大阪市東成区の島岡繁希さん、そして1年目の初任者になる大阪市⼤正区の崎⼭雄平さんによる事例共有とグループディスカッションという形で進めました。
本レポートでは、島岡さん、崎山さんの事例を中心にご紹介します。
大阪市東成区の事例:コロナ禍でも、地域の基盤づくりを停止させない
大阪市東成区は、面積が4.54㎡・人口約8万人のコンパクトで人口密度の高い街。
区全体の高齢化率としては25.2%ですが、町会加入率が75%という古くからの繋がりが残る地域もあれば、マンションが建ち並び、町会未加入世帯が増えつつある地域もあり、区の人口は増加傾向にあります。
そんな東成区で生活支援コーディネーターとして5年目となった島岡さんに、コロナ禍における地域活動について事例共有いただきました。
島岡繁希さん プロフィール 平成28年4月に⼤阪市東成区社会福祉協議会(以下、東成区社協)に入職、9月に第一層生活支援コーディネーターに。生活支援コーディネーターとして5年目。 |
地域住民が気付いた困りごとを専門職に伝える「地域ケアネットワーク連絡会」
東成区の体制の特徴は、第二層生活支援コーディネーターのような役割を担う「地域福祉活動サポーター」の配置、そして第二層協議体のような役割を果たす「地域ケアネットワーク連絡会」の設置にあります。
地域福祉活動サポーターさんたちは、東成区からの委託で社協が実施している「おまもりネット事業」を活用した高齢者・障がい者等支援ネットワーク強化事業の一環として全小学校区に配置されています。有給の住民福祉ワーカーとして各地域の会館に日中常駐しています。
東成区にある東中本地域は人口約1万人で、高齢化率25.5%、町会加入率は55%程度。昔ながらの町並みがあるエリアもあれば、マンション・お店があるエリアもあり、住民の地域への関わり方にはかなりの差があります。
この地域では3ヶ所・8種類の地域サロンが運営されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月には全ての活動が中止となりました。
高齢者の生活が活発でなくなること、またそれにより活動者のモチベーションが低下することが懸念されました。
そこで「コロナ禍でもできることを」と地域福祉活動サポーターさんたちは、安否確認、安全な体操の方法のレクチャーなど、様々な取り組みを模索しました。
生活支援コーディネーターである島岡さんも、「ちょっと寄ったので…」「状況どうですか、どんな困りごとを聞いておられますか」などと、地域のサポーターさんやキーパーソンの人たちと会話・対話を繰り返すことで地域の基盤を作ってこられました。
そして7月になりようやく住民主体の話し合いの場である「地域ケアネットワーク連絡会」を再開することができました。
参加メンバーは、地域住民の皆さんや地域福祉活動サポーターさん、女性団体協議会、民生委員児童委員会、区保健福祉センター・地域包括支援センターなどの専門職、生活支援コーディネーター、そして社協です。
議題は3点で、一つ目は地域で活動する住民の方々が、活動や普段の暮らしの中で把握した個別の困りごとの共有をします。ここには専門職もいるので専門職が把握しているニーズも重ね合わせて、地域課題を普遍化しています。
二つ目にこれからの地域福祉活動についての話、最後は、その他区役所・社協・地域からの情報提供・情報交換です。
この地域ケアネットワーク連絡会は、住民が気付いた困りごとを専門職に伝える場。専門職はあくまで受け止める側で、専門職から伝える場ではないということを大切にしているとのことでした。
また、その困りごとをもとに、これからの地域福祉活動を考える場にもなっています。
コロナ禍での活動継続の工夫、Zoomで密を避けた「介護予防教室」
この地域では、これまで2階建ての地域会館を使って介護予防教室を開催してきました。
各フロアはあまり広いスペースではなく、いつもどちらかのフロアが高齢者でいっぱいになっていたため、9月からは1階と2階に分かれ、2階にいる講師の映像を1階のスクリーンにZoomでつなぎ、密の回避を図りました。
初回は生活支援コーディネーターである島岡さんがZoomの機材担当、区の保健師が「距離を取りましょう」と呼びかける環境担当、地域包括支援センター担当者が高齢者の困りごとの相談をお伺いするという体制を取り、高齢者18人の参加が実現。無事介護予防教室が再開できました。
コロナ禍で新しい活動を開始、フリースクール(通信制併設)の「東中本おれんじ大学」
東中本地域では、コロナ禍を受けて新しい活動にも挑戦。認知症予防教室を開催したのです。週に2回の開講日を設けて、その日は出入り自由のフリースクール形式を取りました。
参加者のペースや取り組む場所のニーズに合わせて、1日3課題までの問題プリントを配布するという取組です。その場で取り組んでもよいですし、家で取り組んでも構いません。
いわゆる「三密」を回避した方法を取ったことで、44名の高齢者の参加がありました。
感染対策防止の狙いでしたが、結果的に参加のハードルが低くなったよい取り組みだと好評です。
参加のきっかけについて後日お話を聞くと、「認知症予防に興味があったから」という回答以外にも、「コロナ禍でも定期的に外出する機会を作りたかった」といった声が聞かれました。
その後アンケート結果についても、地域ケアネットワーク連絡会で共有。
次回からは女性会が共催してくださることになったり、民生委員長さんは「外出のきっかけができたという声もあり、たいへん良かったと思う」と言ってくれたりなど、好感触でした。
「地域ケアネットワーク連絡会」が誕生した経緯
東成区で地域ケアネットワーク連絡会が実施されるようになったのは平成21年から。
それまでは、福祉専門職や区役所職員が新しい事業や窓口の案内を地域の会合で説明すると、会の終了後に住民の皆さんからいつも列ができるほどの相談を受けていました。
対応できる相談の数にも限りがあり、地域の皆さんの日々の気づきを早期にキャッチ・対応できていないと感じたことから、専門職が積極的に地域に出向く必要があると判断。地域の役員さん、地域住民の皆さん、専門職が一緒に会議をする場として始まりました。
個別の困りごとの共有だけではなく。みんなで知恵を出し合い、困りごとを早期発見するために地域で何ができるかという話し合いを普段から進めています。
「地域ネットワーク連絡会」の参加者全員に役割と専門性がある
地域住民は、暮らしの主体者として地域の専門性があるため、地域に馴染む活動もなじまない活動も、地域の人が決めることができます。地域包括支援センターは総合相談の機能があり、寄せられる相談の傾向を把握していて、認知症や介護のケアの専門的な知識も持っています。
生活支援コーディネーターは、参加者が発言しやすいよう、初めての方には「運動会どうでしたか」「敬老会はどうでしたか」などと話しやすそうな話題から始めることを心掛けています。だんだん地域の人同士の空気が温まり、発言しやすい雰囲気づくりができてきています。
最後に、島岡さんは、地域住民からの困りごとを機に、専門職、関係機関、地域住民で対応を考える場を運営するには、「住民任せ」ではなく、「みんなで助け合う地域を作っていく」という視点と姿勢が大事だと語られました。
大阪市大正区の事例:時間差で密回避、対話を減らす、屋外開催などで活動続行
続いて、大阪市大正区の事例共有をいただきました。
大正区は面積が 9.43k㎡・人口約6.5万人の街。高齢化率としては30%越えと、市全体の平均より高めです。
令和2年度から大阪市大正区第一層生活支援コーディネーターに着任した崎山雄平さんが、どんな事例に関わってこられたのかをお話しされました。
崎山雄平さん プロフィール 大阪市大正区社会福祉協議会に所属。令和2年4月に⼤阪市⼤正区の第一層生活支援コーディネーターに着任。 |
事前にワークシート配布・記入の形で、協議体での密な対話を回避
2年前に実施した地域へのアンケート(約720人対象)をもとに前任者が取りまとめた結果、今年の協議体では ①居場所 ②移動支援 ③ちょっとした困りごと の3つをテーマにしていこうと決定していました。
協議体は今年の7月にケアマネジャー、ボランティア委員長、地域包括支援センター、見守り推進員、区役所などから20名ほどの委員を決めて開催しました。
感染拡大防止を考えるとグループワークはまだ難しいため、開催前に上記3つのテーマに関するワークシート作り、委員に配布→記入→意見を集約し、協議体開催時に共有し意見を募る形を取りました。
コロナ禍における各活動の工夫
1.デイサービスのスペースを借りて書字サロンを実施。利用者との接触なしに
“デジタルツールの普及で、文字を書く機会が減ってしまった。文字を書く機会を持ちたい”という声が地域の方から上がってきたことを受け、昨年度あるデイサービスのスペースをお借りできる手筈になっていました。
しかしコロナの感染が拡大し始めたため、開催は一旦見送りになりました。
「生活支援コーディネーターだより」で「興味のある方はご連絡ください」と募ったところ、住民の方から“やってみたい”という問合せがあり、デイサービス施設の責任者の方に伝えたところ、住民のニーズがあるならばと実現に向けて検討してくださり、感染者が出たときの対応の取り決めに関する調整に苦労しつつも、11月の開催にこぎつけました。
本来は住民とデイサービス利用者が交流できることが理想でしたが、感染拡大防止に努めるため、デイサービスの利用者がいない時間・タイミングで接触をなくした開催としました。
2.喫茶サロンのかわりとして「おやじカフェ練習会」を実施
この「おやじカフェ」も3月から中止となってしまいましたが、居場所としてどうにか再開できないか、マスターと相談しながら、感染症予防対策を検討しました。
マスターがコーヒーを淹れてふるまうのではなく、コーヒーを淹れる練習会として自分が淹れたコーヒーを自分で飲むという形を取りました。20名程度が参加し、マスターが集まる機会を維持することができました。
3.独居男性高齢者の居場所「かもめの会」は屋外実施
しかし去年の2月ぐらいから、調理を伴う集いは中止になりました。参加者の皆さんの意見交換の結果、公園で一緒にお弁当を食べるなど、屋外での実施の形に落ち着いてきました。
会がなくなってしまわないよう、生活支援コーディネーターとして活動継続する方法をともに考えましょう、と意識して働きかけています。
活動再開して集まった際に、高齢男性の方々は仲間に会えた嬉しさがにじみ出た笑顔が見られました。
4.移動支援・買い物支援について
移動支援・買い物支援は昨年の協議体で検討を重ねてきました。
2つの地域をモデルに、買い物支援としてボランティアの方が自転車で商品を買いに行って届ける形と、ボランティアの方が車の運転をして、住民の方を乗せてスーパーまで行って家まで往復するという活動について、法律・補償・保険や担い手の募集、告知方法の検討をしました。現在は移動スーパーの招致なども検討しています。
==
今回、島岡さん、崎山さんからの2つの事例共有を受けて、参加者からはZoomを使った繋がりづくりや、地域資源の掘り起こし方といった具体的なアイデアが参考になったという声はもちろん、コミュニケーションや協議の場の運営の際の心構えとして「自分に足りないことが何かわかった」といった声も上がりました。
また、コロナ禍で活動をあきらめるのではなく、ニーズ調査や継続できる活動の見直し、実現のための体制づくりや広報、ICTツールの活用といったことに挑戦していきたいという声もたくさんいただきました。