住民の取り組みをサポートする行政の役割とは?(枚方市の事例紹介)
2018年11月30日
住民主体型サービスの基盤整備や、ネットワークづくりにおける生活支援コーディネーターの役割を改めて考える機会として開催された生活支援コーディネーター養成研修。
枚方市の事例紹介では、「元気作り・地域プロジェクト」(協議体)の体制作りに初期から中心的に携わってきた枚方市長寿社会部 地域包括ケア推進課 中井さおりさんに体制づくりのプロセスをお話頂きました。
枚方市の概要
枚方市の人口は約40万人。そのうち65歳以上の高齢者が約11万人で高齢化率は27%を超えています。中核市ということで人口も多く、日常生活圏域は13あります。地域包括支援センターもそれに合わせて13カ所同あります。
サービスの内容を決める意見交換会は座席の配置も大事
枚方市には、すでに様々な組織が活動されています。介護保険の事業所についても、ケアマネージャーの連絡会、サービスの連絡会、ヘルパーの連絡会などいろんな連絡会があるので声を掛けさせていただきました。その他、シルバー人材センターやNPO法人、ボランティア団体、社会福祉協議会も一緒になって、まずはサービスをどうしていくのか考えるための意見交換会を平成27年5月に設置しました。
まず考えたのは意見交換会で何を決めるか。サービス内容を決めていきたかったので、そのための全6回の工程を考えました。メンバーが多岐にわたりスケジュール調整が難しいため、初回に日程と場所を決定させていただき、必ず来てくださいねとお願いしました。
意見交換会でサービスの形ができてきたので、この段階で地域活動団体に声をかけました。地域の組織についても枚方は既にできていたので、⺠生委員児童委員協議会、老人クラブ連合会、コミュニティ連絡協議会、校区福祉委員会協議会に声をかけさせてもらって、会議に参加してほしいとお願いしました。意見交換会の構成団体と地域活動団体を合わせて第1層協議体としました。
サービスの形が決まったので、次はそれに沿ってどういうことをやっていくのかを決めるために、第1層協議体で平成27年11月に集まりました。集まったのですが、実は総合事業やコーディネーターの話をしませんでした。私自身、今までは専門職ばかりを経験してきたので、地域の方にたくさん入っていただく会議というのが初めてでした。1回目の会議の時はほぼほぼ司会進行する間も無く、地域の方々がお互いの思いを言い合っているうちに時間が来てしまいました。1回目の会議で失敗したのが座席の配置。ロの字型のレイアウトで自由に座ってもらったところ、住民同士が向かい合ってしまいました。そのせいか対決っぽくなってしまったのです。2回目以降は席を固定して横1列に並べました。すると進行がスムーズになりました。
枚方市の基本方針
プロのサービスはそのまま移行。ヘルパーの人材不足や高齢化もあり、多様な人材を活用できるような生活支援サービスの整備・創設。生活の中で介護予防の取り組みができるように地域の中でできる介護予防をやっていこう。見守り・支え合いは、地域の中で作っていってもらわないと行政ではできないことだから一緒にやってほしい。これらを基本方針として進めてきました。
第1層?第2層?ネーミングはわかりやすく
もともと最初は第1層協議体、第2層協議体と言っていたのですが、地域の方から「第1層、第2層って何なの?意味がよく分からない」と言葉の部分で拒否反応を示されました。
では、どのような言葉であれば分かりやすいでしょうかと協議を重ねていく中で「枚方市は何がしたいの?」と言われたので「元気な高齢者をたくさん作りたい!そういう方々が地域の中でいきいきと活動できる地域を作っていきたいんです」と言ったところ、じゃあ「元気作り、地域づくりプロジェクト」でいいじゃないか、ということでプロジェクト名も決まりました。
住民さんが自ら決めた第2層協議体のエリア
第1層協議体はサービス事業所や住民も含めて、市が運営しています。第2層協議体はもともと地域包括支援センターが日常生活圏域ごとにあったので、それを第2層協議体に置き換えていけば、既に形はあるので楽にできるかなと思っていました。
ただ、この話をした時に地域の方から、行政や地域包括支援センターが「24時間地域住民を見守れるのか」「何かあった時に助けに来てくれるのか」「それができるのは地域住民である自分たちだ」と。そこに対して自分たちが主役で行政は脇役だと言われました。
もちろんそれはそうです。だから地域住民の活動を支援していきたいんです、と伝えると日常生活圏域は市が勝手に決めたエリアであり、このエリアではできないということで、コミュニティが枚方市の場合、小学校区で出来上がっているので小学校区でやっていくと。そこの小学校区ごとで仲良しの小学校区が2つや3つまとまってやっていくのは自分たちで決めるから、と言われました。
結果的に第2層協議体に関してはもともと13の予定が45となりました。
ケアマネージャーを第3層の生活支援コーディネーターに
第1層、第2層という形を作った後に、個別サービスのマッチングというところで、第3層のコーディネーターをどうしようかと考えた時。総合事業や自立支援という部分で一人一人のサービスをマッチングしているケアマネージャー、要支援であろうが要介護であろうが高齢者のサポートをしているケアマネージャーさんが、そのひとだけでなく、支援している人の周り、地域も含めてみる目を養ってほしい。
そう思ったので、枚方市ではあえて第3層の生活支援コーディネーターを介護支援専門員という位置付けをしております。
3つのサービスを新たに設けました
実際のサービスとしては多様なものを作っていきました。シルバー人材センターなどいろんな団体が活動している内容はそのまま事業に移行。
デイサービスの位置付けは、多様なサービスと国は言っていますし、多様なものとは思うのですが、今のデイサービス自体が既に多様化されていて、いろんなニーズに合わせたサービスになっていますのでそれをさらに分割することに意味があるのか?と思い、教室型の通所事業として、スポーツ施設に自ら通ってもらってというサービスを新たに位置付けさせてもらいました。
それとデイサービスに行って機能訓練をして状態が良くなったけども、そこにずっと通う。要はそこが馴染みの場所になっているから、という現状があったので、きちんと改善したら次のステップにいける仕組みを作りたいと思い、リハ職訪問通所指導事業、リハ職行為評価事業、栄養士派遣指導事業の3つのサービスを新設しました。
既存の法人(団体)の活動から事業として実施した事業には生活援助訪問事業があります。これは新たな担い手ということで高齢者の就労を目的に作っていまして、高齢者の方に研修に参加いただき、活動してもらっています。
平成27年4月からは自立支援型地域ケア会議というのを開始していまして、ここでは実際の事例をみんなで検討することによってどういったものが必要かと話してきた。ここからリハ職行為評価事業、教室型通所事業、栄養士派遣指導事業、リハ職訪問通所指導事業ができあがっていきました。サービスの内容は資料を見ていただけたらと思います。
合わせて、身近な場所で続けられる介護予防を考えた時に、枚方もご当地体操を作ろうとなり、「ひらかた元気くらわんか体操」を作りまして、29年度に枚方は総合事業を始めたのですが、その時には一定の体制が整っているように27年度からモデル事業として実施しました。
実際にサービス事業と介護予防事業を組み合わせて、状態に合わせてステップアップするときに、まったく違う物だと取り組みにくいので同じ場所でできるとか、同じツールを使うけれど違うものといった組み立てをしました。
サービスや介護予防は市のほうで絵が描けるのでやりやすい。一方で、地域づくりとなった時には行政が主体ではないので、住民の皆さんをその気にさせるというのが大変でした。27年9月から事業の説明に回らせて頂きました。
行くとだいたいこんな風に言われます。「うちは自治会館ないから作ってよ」「いきいきサロンに行きたくても行けない人もいるから市役所が車を出してよ」と。そんな時にはこう伝えました。
「集まる場所がないから公民館が欲しい」それなら第2層で本当に必要かどうか話し合いましょうよ。空いている場所がないか地域のみなさんに聞きましょうよ。それでもなければ公民館を作りましょうよ、と。
車についても、他の地域ではデイサービスなど事業所の送迎車が昼間は空いているので、送迎しますよという声があり、そういったことやっている地域もありますよと伝えたりしました。
簡単な資料でわかりやすく。粘り強く
実際に話をするときに、総合事業の国のガイドラインを見せても住民の人たちには伝わりません。
枚方市でもすごく簡単な資料にさせていただいて、言いたいのは「元気な高齢者がたくさんいる枚方市を作りたい。そのためには何をしたらいいか。行く場所が必要ですよね、やることが必要ですよね」という話をさせていただいて、そういう取り組みを何か一つでも多く作りたい。ということを言わせて頂きました。
あえて「居場所を作ってください」「サービスを作ってください」とは言っていいません。「元気な高齢者をこの地域でたくさん作ってほしい」それだけしか言わなかった。最初はわからないとも言われたが、ひたすら言い続けて、「元気な高齢者を作るために、何がいるのか」ということを考えてもらいたかったのであえてそうさせてもらいました。
実際にじゃあどういうことをするの?と言われたら、何が必要か、地域に何があるか。それを受けて、今やっている活動の中で何が今大変ですか?それに対して何らかの解決策を誰か出ますか?ということで話をしていきましょうということをさせてもらっている。
枚二校区の事例
これは行政ではなく校区の中で第2層協議体として自分たちはこういう取り組みをやっていくと決定されました。体力づくり・元気づくりということで体操をやっていく、居場所を作っていくということの計画を立てて下さった。計画を立てて、こういう構成メンバーでやっていくと。企業や介護保険事業所を入れてほしいが、最初からは必要ない。地域の中で判断した上で必要があれば助けを求めるから、行政はそこのサポートをしてくれたらいい、と地域の方が中心となってやっておられます。
楠葉西校区の事例
樟葉⻄校区コミュニティ協議会で目的と具体的な内容を計画として自分たちで立てていただいてやっていくということになっています。ここは構成員が多く、多すぎるので減らそうとしています。
今現在、それぞれの協議体がどのような取り組みを行っているのかについては、半期に一度報告をもらっています。こちらからお願いしているわけではないですが、居場所作りに取り組むところが多いです。居場所づくりを実際にやっていく中で、地域の人が感じているのは、居場所に来た人はいきいきサロンのようなお世話型のものではなく、ここから次の活動、例えば「電球変えてほしい」「ゴミ出しがしんどくなっている人がいる」等のちょっとした助け合いの活動につながるような居場所にしていきたいと目標にされています。そのために人を集めて、常設の場所を作ろうと考えおられます。
地域の資源をどう活かしていくかが行政の役割
ここから発展していくと、暮らしのサポート、助け合いやちょっとした手助けができる活動につながっていくのかなと思います。まだまだ始まったばかりなのでこれから活動が膨らんでいくとは思うが、地域の人たちが、自分たちが主体となってやっていこうという取り組みです。
そのため、たまに後退することもありますが、こちらも後ろから押すのでなく、前に進もうとされた時にサポートできるようにしたいと思っています。総合事業に携わってみると、地域には素材がたくさんあるんですね。
地域で活動をやりたい方、介護保険の事業所、医療機関、いろんな素材がたくさんあるので、どう料理していくか。それが、コーディネーターや行政の役割なのかなと思います。地域包括支援センターの職員にも言うのですが、体制を作るために組織を作っても意味がない。何がやりたいのか、それに対する手段やツールが第1層協議体、第2層協議体なのかなと考えています。
「第2層協議体を作りたいです!」と、作ることが目的になってしまうと、住民や関係機関にも伝わらないので、何がしたいから第2層を作るのか、をきちん発信していけば、伝わるのではないかと思います。
行政としては、第2層協議体の取り組み、地域包括支援センターや第3層の生活支援コーディネーターが集めてきた情報などを、インターネットの中に入れさせていただいて、校区ごとの活動を参照できるものとして「暮らし丸ごと便利ネット」というのを作っています。ここに居場所がある、医療機関があるとか、ここにベンチがあるから休憩できるよ、とか地域に密着した情報を発信していきたいと思っています。
行政ができること、地域包括支援センターができること、社協ができること、地域住民ができること、それぞれ違うと思いますので、それを調理して最後にきれいな形で出来上がったらいいのかと思います。
(質疑応答)
Q)協議会のプロセスは参考になった。会議の開き方について教えて欲しい。いろんな団体でまとまりにくいと思うが、孤独死なども気にしているが、その場では盛り上がるがその後が続きにくい。続くコツはあるのか。
A)第二層は開催頻度を任せている。毎月もあれば半年に一回の校区もある。そこに地域包括センターが事務局として入っている。ので、日々の仕事の中で関係があるので続けられているのかなと。第二層に関しては、会議の議事録を作るのが大変ということだったので事務的なことは包括が担っている。司会などは会によって議長を決めているところ、包括がやるところ、社協がやるところそれぞれです。
Q)住民さんがやろうと思った時に支えられる支援をしたい。行政はつなぎ役だと思っているが、地域の方にその気になってもらうのが大変。その気が見えてこない。具体的にどういうしたら良いでしょうか。
A)コミュニティと校区福祉委員会の仲が良くなくて、競い合っているところがありました。「コミュニティさんはすごくやる気だったんですよね」というと校区福祉委員会の方も「コミュニティがやるならこっちもやらないとあかん!」と。相乗効果でうまくいきました。