地域のみんなで考え進める「かかわりしろ」がポイント/2024年度「大阪ええまちアカデミー報告会」レポート
2025年6月8日
「大阪ええまちアカデミー」は、主体的に地域や自分の未来を想像し、必要だと思う活動を始める方法を仲間とともに考え、学ぶ場です。「実践報告会」では、これから地域活動を始めようと学んできた「大阪ええまちアカデミー2024実践編」の参加者・話題に関心のある方が集い、活動報告を行いました。

2024年12月15日 中間共有会 @ 泉北ラボ での集合写真
今回も、ナビゲーターの株式会社エンパブリック 広石拓司さん、アドバイザーの特定非営利活動法人SEIN 宝楽陸寛さんからのポイント解説とともに、当日の様子をダイジェストでお届けします。
INDEX
報告2:「助け合う心で一緒に楽しむ支え合う場所&地域作り」/渡具知 貴子さん
報告4:「高齢者と外国籍住民の交流による多文化共生」/奥本 佳世子さん
報告5:シニア活躍企業を探求し “シニアにとってのええ会社”を増やす/山本 哲史さん

株式会社エンパブリック 代表取締役
「思いのある誰もが動き出せ、新しい仕事を生み出せる社会」を目指し、ソーシャル・プロジェクト・プロデューサーとして、地域・企業・行政など多様な主体の協働による社会課題解決型事業の企画・立ち上げ・担い手育成・実行支援に多数携わる

特定非営利活動法人SEIN(サイン)/コミュニティLAB所長
プロジェクト型ファシリテーターとして大阪府南部(主に泉北ニュータウンなど)においてNPOや市民と企業・行政が協働で地域課題を解決し、人やまちが元気になるコミュニティづくりを進めている。
報告1:空き店舗“山田美容室”の有効活用/山田 高弘さん
生まれ育った地域の商店街で、子どもの頃にお世話になった恩返しをしたいと考えた山田さんは、実家の空き店舗を利用して地域の高齢者のための“集いの場”を作りたいと大阪ええまちアカデミーに手を挙げました。
チームメンバーと「内装工事をどうしよう?」、「長く使っていなかったので掃除もしなくては」といったことを話し合って進めつつ、他の地域の集いの調査や、「脳トレ」や「骨密度講習会」、「ちょい飲み会」などの見学を進めていきました。
しかしだんだん「この方向性でいいのかな」という気持ちも出て来たそうで、いったんプロジェクトとしては立ち止まって考え直してみることになったそうです。半年間で実際にサロンを開いて集うということまではたどり着きませんでしたが、仲間とともにあきらめずに今後に向けて練り直していくとのことでした。
広石さんコメント:「壁にぶつかった時、大切なことのヒントが見つかる」
誰かの家を居場所に活用したいという話は全国にありますが、誰かの想いの詰まった場所でもあるためうまくいかないことも多いものです。そんな時に、「他の場所でもいいのかな」「この場所じゃないとだめなのかな」といったことを考えるのが大切だと思います。壁にぶつかったときに、本当に大切なことのヒントがあると思います。短期間でよくがんばられたと思います。
宝楽さんコメント:「立ち止まって考えてこそ、いい企画になる」
最近は「住み開き」という言葉も一般的になってきましたが、いざ人をお迎えするとなると様々な設えも気になってしまいますよね。それだけでなく、仲間と一緒に「何をしたいのか」「どんな人に来てもらいたいのか」と幅広く考える必要もあるので、今回のように立ち止まるのはとてもいいことですし、夢を同じくする仲間が来てくれる企画になるといいですね。
報告2:「助け合う心で一緒に楽しむ支え合う場所&地域作り」/渡具知 貴子さん
ケアマネージャーをしていた渡具知さんは、高齢者宅訪問の際に「何のために生きているのかわからない」といった声を聞いていたことをきっかけに実践リーダーに立候補。調査フェーズで地域の高齢者に話を聞いてみたところ、既存のサービスや地域活動について「やらされている感があるから嫌」「自由に、好きなことだけやりたい」といった声があることが分かったそうです。
そこで、地域の高齢者たちが主体的に100歳体操をしながら地域交流する場にトライしたところ、順調に動き出せています。
ただこれらの取り組みに挑戦したことで、「資金をどうする?」「責任の所在は?」「保険は?」といった懸念も浮上しているそうで、地域の人と力を合わせて解決していきたいと語ってくれました。いまは地域の企業とコラボ企画なども話がまとまりつつあり、コーラス活動や体操といった他の活動とつなぐことで、顔の見える関係作りをしていきたいと話されました。
宝楽さんコメント:「自分が始めた“why”に立ち返ろう」
渡具知さんのプロジェクトは順調に広がっていっているということでしたが、それだけに資金や責任のことが気になって来たとのことでした。そんな時は、自分がなぜやろうと思ったのかという「why」の部分に立ち戻って考えて、希望を持って、ちょっとずつ試す、というくらいでもいいのでは、と思います。やりたいことと、責任のようなものとの間をもう少し行ったり来たりしてもいいのではと思います。
広石さんコメント:「トラブルが起こってもみんなで考えてもよい」
今回のアカデミーでは、渡具知さんのような福祉職の人が日常の仕事の流れの外で考えることができたというのは素敵な事だと思います。一方で、専門職の人はケアマネジメントして、サービス提供して、なるべくトラブルなくスムーズにいってほしい…と考えてしまいがちですが、自分がなんとかしてあげようとするのではなく、地域活動としてはどんなことでもみんなで取り組めばいいと思いますね。
報告3:世代間交流プロジェクト/澤村 康孝さん
これまで仕事としてコミュニティワークをしてきた澤村さんは、地域の中にハブとなるような居場所があれば、世代を超えた交流を通して生きがいにつながるのではないかと考えていました。
チームメンバーとのミーティングや調査を経て、当初はまちあるきを企画していましたが、今回の取組みに協力くださるある地区の自治会長や老人会会長といった地域の方々との対話を通じ、グラウンドゴルフを通じた世代間交流を展開することになりました。
すでに体験会を経て、3月には大学生を交えた大会を開催することになっています。1・2年後には、学生の長期休暇を活用した継続的な交流やSNSでの発信もできればと考えており、将来的にはゴミ出しの支援など地域の生活課題への展開も視野に入れていると話してくれました。
広石さんコメント:「みんなが乗り気になれることに柔軟に対応できたことが素敵」
まちあるき企画のはずがグラウンドゴルフになってしまっていましたが、これこそ「仕事じゃないから」できることですね。「みんなで一緒に楽しく生きていく」ということが最初の目的なので、みんなが乗り気になれることが見つかったら、スムーズにそちらに移っていけるというのは素敵なことだと思いました。
宝楽さんコメント:「求められるコーディネーターの役割は“調和”」
進路変更の柔軟ぶりや、地域の皆さんに寄り添っておられた様子が素晴らしいですね。あと資料の中でコーディネーターの重要性について再確認されていましたが、コーディネーターは調整という役割だけでなく、調和をもたらすという役割もとても重要なので、これはキーワードとして大切にしたいですね。
報告4:「高齢者と外国籍住民の交流による多文化共生」/奥本 佳世子さん
たくさんの外国ルーツの人が働く地域に住み、もともと国際交流に興味のあった奥本さんは、以前、コミュニティサロンの立ち上げについて相談した機関に「この地域は保守的だから無理」と言われてしまったことがあるそうです。しかし現状すでに様々な国の言葉が飛び交うまちであり、外国の人がいなくてはもはや社会が回らないということ、住み続けてもらえるまちになる必要があると考えていました。
ええまちアカデミーを知り、知り合いのベトナム人2人をチームメンバーに迎え、地域の高齢者が集まるサロンや識字・日本語学習、関連セミナーやシンポジウムに参加し、興味を持ってくれそうな人を探しました。そしてトライアルとして自宅を開放し、新春の集いやお茶会などの交流の場を開催したそうです。
今後も月に1度は交流会を行いたいと考えているそうで、地域サロンで出会った将棋好きの男性と、将棋ができるベトナムの人を繋いだり、外国人が多く入居するアパートの大家さんをサロンに招待したり、将来的には定期的な日本語学習会を開いたりなど、活動を広げていきたいと語ってくれました。
広石さん:「小さくてもできることを見つけて繋ぐことが大切」
アカデミーの途中段階で、奥本さんは「どうしたら高齢者の人が来てくれるんだろう」とおっしゃっていましたが、今回の発表では「●●さんを招待しようと思います」という具体的な表現に変化しておられました。こういう「コミュニティの感覚」があれば大丈夫だと思いますし、多文化交流会を2回開催できたことも大きな成果です。小さくてもできることを見つけていって繋いでいけば、何か突破できるように思います。いろんな外国の人とのストーリーを発信していける、いい繋ぎ手になってほしいですね。
宝楽さん:「“どんな場を作りたいのか”をもとにみんなと仲間として作ろう」
最初に相談した機関に「無理」と言われてしまったように、地域活動は面倒ごとのように捉えられがちです。関係性や繋がりができていくと、本当は楽しい企画に変えたりもできるのですね。だから自分たちがどんなコミュニティを作りたいのか、どんな場を作りたいのかということを持って、みんなと仲間になってそういう場を作っていってもいいのかなって思いました。メンバーのベトナム人たちの力も借りることができていて、奥本さんが彼らの困りごとや悩みなども代弁できる立場になっていると思うので、みんなの力をいっぱい引き出していくようなコーディネーターになってもらえたらと思います。
報告5: “シニアにとってのええ会社”とは?シニア活躍企業と活躍するシニアにインタビュー/山本 哲史さん
労働力人口の不足が懸念されるなか、定年後も働き続けたい人が多いにもかかわらず、企業側の受け入れは追い付いていません。こうしたギャップを埋め、高齢者の就労機会を広げるヒントを探るべく、山本さんは実際にシニアの人が活躍している企業や活躍しているシニアの人に着目しました。
今回のアカデミーをきっかけに、地元の企業にヒアリングして記事にしようと決め、ヒアリング項目の精査に力を入れ、各企業の取り組みのどんなところが「高齢者が活躍する」状態につながっているのか、どのような中間成果(アウトカム)が生まれているかを、対話の中で相手が気づいていくように設計しました。
何社かの企業にアポを取りつけインタビューを実施した経験から、山本さんは、AIを活用した記事化や質問リストの整備により、他地域や他企業にも展開可能だとしています。また、シニアの雇用について関心のある人・企業が参考に仕組みづくりができるような活動として、今後も仕事の合間に取材を続け、いつか100本の記事公開を目指せたら、と語りました。
広石さん:活動を簡単に共有するよい方法を教えてくれました
経営者だけでなく、働いている人の視点も含めて、シニアの従業員へのインタビューされた点が良かったですね。そしてAI活用の紹介もよかったです。地域の活動についてのインタビューは、共有されないままになりがちです。でもそれを簡単にできるとなったら、やってみたいという人が増えるかもしれませんね。一人でやることはなくて、複数の人でやってみて、100本の記事公開を目指してもいいかもしれませんね。
宝楽さん:「高齢者が活躍できる会社、という設定がよかった」
背景を整理しながら、高齢者が活躍できる会社というインパクト/アウトカムを設定したことはすごいことで、みんなが学べるツールだと思います。企業の経営者側にも、シニアになった自分がどう活躍できるのかに興味がある人にも、両方にイメージできるものになっていくといいですね。
広石さんと宝楽さんからの総評
広石さん:福祉などの専門分野でコーディネート職の人は、仕事モードでなくて個人モードになって接してみると、違うものが見えてくると思います。いろんなワークショップも、提供するばかりじゃなくてたまには参加する側になってみると、全然違う発見があったりします。逆に、他の仕事の人は、コーディネーターといった人たちと接することで、専門職の人が持っているスキルやノウハウを知ることができ、コーディネーター的視点を持って動き出せるようになります。そういう両方の良さが出たプロジェクトでした。
そしてみなさん、「とりあえず動く」という姿勢がよかったですね。完璧なチャンスなんてないので、動けるときに動いたら、次のチャンスを引き寄せてきます。
宝楽さん:そうですね。最善を求めがちなのですが、最善の状態だと他の人がかかわる余地がない。
僕も泉北ニュータウンで「茶山台団地再生プロジェクト」という取組みにかかわっていますが、いろんな人が楽しいからやっている。それぞれの人がやってみたいことがあって、一人では不安だから仲間を見つけて、チームが編成されて、壁打ちをしてプロジェクトが進んでいくというのはとても尊いことですよね。お金を払ってできることじゃない。
広石さん:ええまちっていうのは、行政が完璧で誰かが完璧にサポートしてくれて、自分は何もしなくても、安心安全で不自由なく生きていけるまちというわけではないんですよね。トラブルや困りごとにみんなで取り組むのが大事です。せっかく日本は長寿社会になっているのに、高齢期になればなるほど何もすることないとか、寂しい人が増えているのはリスクだと思います。
宝楽さん:はい。日本の高度経済成長時代のリーダーは答えを出す人という幻想があるかもしれないのですが、それは違う。ええ湯加減で、コミュニティに関わる人いろんな人が何か体験しながら学んでいく機会、みんなにかかわりしろ、伸びしろを作ることが必要だと思います。
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地域活動においては、人と人との関係性を大切にしながら、主体的に楽しめる人たちの輪を広げていくことが大切です。今回の5つのチームの取り組みは、ええまちアカデミーの取り組みを通じて、従来の支援する側・される側という関係性を超えた新しいコミュニティづくりの可能性を示唆しています。