生活支援コーディネーターと協議体の役割とは?(公益財団法人さわやか福祉財団 戦略アドバイザー土屋幸己氏講演:後編)
2018年7月9日
住民主体型サービスの基盤整備や組織・ネットワークづくりにおける生活支援コーディネーターの役割を改めて考える機会をつくることを目的に、生活支援コーディネーター養成研修が開催されました。
本編では2018年1月26日に開催された研修の中から、公益財団法人さわやか福祉財団 戦略アドバイザー 土屋幸己氏の講演の様子(後編)をお伝えします。
後半は、2年半ほど前からスタートしている南アルプス市の取り組みをご紹介します。
第1層生活支援コーディネーターである斉藤節子さん作られた資料と、私がそれをプロセスにまとめたものを示しながら進めていきます。
南アルプス市は平成27年4月に生活支援総合事業に移行。同時に生活支援体制整備事業にも着手しました。当初、コーディネーターは介護予防担当というところに置かれていたのですが、現在は高齢者福祉担当として、高齢者全体の施策のポジションに移っています。
コーディネーターとして地域をまわってみると、いろんな人がいます。
この人(写真)は80歳を過ぎているのですが、近所の93歳のおばあちゃんのリハビリのために手芸の材料とかを作ってくれています。83歳の人が93歳のおばあちゃんのリハビリの道具を作っています。
社会資源調査をやろうと思って色々やったのですが、一人での調査には限界がある。住民同士で行われている支えあいの活動は地域の人たちでないとわからないよね、という疑問を感じていました。
気づいたことは、介護サービス・総合事業だけで「自分らしく暮らす」は難しいということ。
総合事業はABCDしかありません。それではとても地域で暮らすことは難しい。
一人ひとりみんな違う[生活暦]「生活の価値観」。
心に残るのは「もし◯◯があったら」「こんなことができたら」地域をまわってみると、たくさんのニーズを発見できました。
そこで南アルプス市では協議体、コーディネーターの仕組みを作っていこうとなりました。
そこでスタートなのですが、第1歩目のプロセスに「規範的統合」 と書きましたが、これは生活支援体制整備事業の目的の共有です。
なぜこの事業をやるのかということが、関係者で共有できていないとどうしようもない。関係者とは誰かというと、行政、社協、包括支援センター。この三者というのは生活支援体制整備事業の目的を理解していないといけないです。
社協さんは今まで自分たちは地域福祉を推進してきた、コミュニティソーシャルワーカー地区担当がいて、地域をつくってきた。それなのに、なぜ介護保険制度で生活支援コーディネーターなんていうものをまた作ったり、地区社協という組織があるのに協議体という別の仕組みを作ったりするのか。
「冗談じゃないよ」と最初は言っておられるのですよね。
全国を見ても、そういうところが多いです。
そういう人たちに本事業の目的を理解してもらう。これはサービスとして事業を作り出していくのではなくて、支え合いを作り出していく。ここが重要です。生活支援コーディネーターやB型を作ってくださいとはっきり仕様書に書いている行政もあります。
だけど生活支援コーディネーターはB型をつくるためじゃないですよね。支え合い・助け合いを推進するためですよね。そういうことをスタートの前に行政とか社協とか、受託を受けていく包括支援センターがしっかり理解していくことが大切です。
そして行政はこの事業で何をやるのか。住民主体と言うものの、これは介護保険の事業ですから、行政は予算をとって仕組みをつくって最後は要項を作ったりしなければなりません。
社協は何をやるのか。今までやってきた事業と何が違うのか。
包括の役割、包括はもともと地域づくりなどをやっていましたから、そことどう関わるのか。
生活支援コーディネーターとコミュニティソーシャルワーカーの違い。
包括支援センターと生活支援コーディネーターの連携をどうすればいいのか。
こういうことをまずはしっかりと理解を持たないで住民にフォーラムを仕掛けたりすると、住民の方から質問があった時に行政、社協がバラバラの答えをして、なんだよっていう話になってしまいます。だからここは非常に重要です。
南アルプス市が何をやったかというと、内部の規範的な統合をしようということで、はじめは福祉部局で、そして社協も交えて平成28年2月〜8月に毎月1回(全7回)、特に2層を担ってほしい社協とはコミュニティソーシャルワーカーと生活支援コーディネーターの役割、機能について話し合いや勉強会を重ねました。
最初に行政と話したら社協の悪口ばかりを言っていました。それから社協と話すと行政の批判をいっぱいしていました。もう背中合わせになってしまっているわけです。
それじゃダメだということで、いろんな勉強会をやりました。
その時に例えば、南アルプス市の課題はなんだろうか。協議体と社協との関係性はなんだろうか。コミュニティソーシャルワーカーと生活支援コーディネーターの役割の違いはなんだろうか。目的型ボランティアと支えあいとの違いはなんだろうか。
一つ一つ丁寧に議論していきました。それから協議体の目的はなんだろうか。今後の具体的な取り組みはどうしようか。こんなことを7回に分けてしっかりと勉強会を進めてきました。
それから南アルプス市では2層の設定に関しても、6町村が合併した市だったので、行政は当初、旧町村単位6地区での2層の圏域を考えていました。
でも、行政が決めるものではないということで、住民とワークショップをやってみると「住民の地域性がちがう」など、いろんな意見が出てきました。
すでに社協が4年前から福祉小委員会(いわゆる地区社協みたいな組織)を小学校区ごとに15作っていたので、最終的には15の小学校区を2層として、そこにコーディネーターと協議体を設置しようという話になりました。これも行政が勝手に決めるのではなく、勉強会や住民の意見を聞きながら進めていったわけです。
行政、社協、包括が規範的統合、理念の一致ができたので、初めてここで住民への周知を行いました。
皆さんの地域はどうでしょうか?この事業のことを住民の皆さんは知っていますか?限られた協議体の人や社協さんくらいしか知らなくて、一般の住民の人がちゃんと知っているという地域は少ないですよね。
ここで初めて、住民主体なのだから住民に周知をしようとなりました。生活支援体制整備事業の目的を伝えて理解を促す。だって住民が協力してくれなければ地域での支え合い・助け合いはできません。そのために地域住民や活動団体、自治会役員、介護事業者、民生・児童委員等広く呼び掛けてフォーラムをやっていこうとなりました。
フォーラムのプログラムの1つがこの事業の目的を理解するための基調講演。
これは重要です。この事業はこういうものですよ。先ほどお示しした資料、これどんどん使っていただいて構いませんので、できるだけわかりやすい資料で住民が「うん」って納得して、これは行政からやらされるのではない、このまま放っておいたら自分たちの地域が大変なことになる。「よし一肌脱ぐか」と思えるようなお話をしないといけません。
もう1つが、支え合い活動を行っていく団体の事例報告やシンポジウムです。
みなさんご存知ないかもしれませんが、私たちの地域でもこういう活動が始まっています。「すごいね」「そうか私もできるね」という思いを伝えていきます。
ここで重要なのが、フォーラムのアンケートで 今後協議体設置に向けての勉強会を開催しますので、今日来ていただいた方で勉強会に参加してみたいなと思う人はアンケートの下に連絡先を書いてくださいとお願いするのです。
だいたいどこの自治体でも参加者の3割くらいは名簿に名前を書いてくれます。その人たちを集めて地域ごとに分けてワークショップなどをやっていくわけです。これをやらないとフォーラム聞いて、「ああ素晴らしい」と思っても1時間後には90%くらい忘れてしまいます。だから忘れないように勉強会を継続していくということです。
南アルプス市では平成28年4月から勉強会を始めて、8月になって住民のフォーラムを開きました。人口7万人ちょっとの町ですが、180名が集まりました。そこで基調講演と事例発表をして当日参加者180名、協議体設置に向けた勉強会への参加希望者は59名、ちょうど3割ほどの人が集まりました。
これはフォーラム後のアンケートですね。今まで福祉に一切興味のなかった方がフォーラムに出て、上の60代の方は、現在は1層の協議体のメンバーとして中心となって活躍してくれています。下の60代男性も1層の協議体に残ってくれて、地域代表として頑張ってくれています。
アンケートで勉強会に参加したいという人がいたので、間髪入れずに住民ワークショップをやっていきます。これは地域ごとに生活支援コーディネーターや協議体を選出し、支え合いを推進しなければなりません。
参加者はフォーラムのアンケートに勉強会への参加の意思表示をした人、その他希望者。今回60名くらいの人がここで集まって11の地域に分かれました。15のうち3地域くらいは誰もこないところもありましたが、そこでワークショップをやりました。ワークショップでは地域のニーズ把握と必要な支援は何か、具体的な取り組みの企画と必要な人材探し、協議体構成員の選出などを3回かけてやりました。フォーラム終了後から1か月以内に第1回目を開催。そのあとも毎月3ヶ月で3回ワークショップをやりました。これはワークショップの様子ですね。
地域ごとに分かれていますから、地域の課題がリアルに出てきます。
「居場所が欲しいね」「居場所をやるとしたらあなたなら何ができる?」「私こんなことできる」「でもここにいる人たちじゃできないことは、誰に協力してもらったらいいだろうか」「JAの◯◯さんがいいね」「青年会議所の◯◯さんがいいね」
具体的な固有名詞が出てきます。そういう人が協議体の構成員の候補者になってくるわけです。そんなことをやりながら協議体作りをして行きました。
60人の参加で11の地域に分かれていたのですが、地域ごとに見ているとこの人は第1層協議体のリーダーになれるな、という人がいますので、そういう人を3回のワークショップの時にチェックしておいて一本釣りします。その人たちに2層のエリアから1層の協議体のメンバーになってもらうような働きかけをしました。
勉強会では居場所、移動支援、見守り・声かけ、生活支援ということがほとんどの地域で出てきましたので、こういうことがそれぞれの地域、また南アルプス市の課題だというわけですね。
そしていよいよ第1層の協議体の選出をしていきますが、様々なワークショップで「この人いいね」という人をチェックしていますので、行政、社協、包括、住民、活動団体・企業に参加いただいて第1層協議体を選出していきました。
地域ごとのワークショップで出てきた6名。活動団体、企業等から候補者を選出。活動団体・企業からどう選ぶかというと、ワークショップをやっているとJA、青年会議所、消防団、郵便局も入って欲しいと、どの地域でも出てきます。
それを集計しました。そうするとJA、老人クラブ、民協、郵便局などはベスト5くらいに出てきますから、そういうところに声をかけます。
実は皆さんはこれからこういう仕組みを作るのですが、住民のワークショップをやったら皆さんに対する協力依頼がすごく多かった、だから協議体に入ってくれませんか?と声をかけます。
フォーラムや勉強会に参加していない候補者には行政、生活支援コーディネーター等が丁寧に協議体の目的を説明に回りました。でないと、協議体を集めて発会式やった時に「なんで自分はここにいるのかな」という話になってしまいますよね。
そうならないように選ばれた理由、期待すること、協議体というのはこういう役割だということを丁寧に説明したました。そして合意を得られた候補者を協議体メンバーに決定する。
構成員は、必要最小限から始めて必要に応じて増員することも可能です。いっぱい選んでしまうと、しまったと思ってもやめさせることができません。最初は小さく必要な人でやって、後で増やしていけばいいのです。
南アルプス市では1番から6番までがワークショップで得られた住民代表、そして下の様々な組織企業等がワークショップの中で参加して欲しいという順位が高かった人です。
そうすると6人は地域の15ある2層を6ブロックごとに分けるとこの人たちが2、3ブロックずつ担当していますから、自分たちの担当地域のニーズを拾い上げて1層に議題としてあげていきますので、ちゃんと1層と2層が繋がった協議体組織ができているということになります。
いよいよ一昨年の12月、初めて第1層協議体が設置されました。
ほとんどのメンバーが勉強会に参加していた方、また事前に個別で説明に出向いていたため、協議体の発会式の時は、参加者が全て自分たちは何をやるか理解してくれていたので非常にスムーズに発会することができました。
そうじゃない地域は、各団体の長に依頼して協議体になっていただいて発会式をやりますから勉強会に来てくださいといって制度説明をすると「初めて聞いたよ」とか、「自分たちはそんなつもりでここに来ているわけじゃないよ」ということになって、崩壊します。だからこれは失敗事例ですが、そういうところもいっぱいあるわけです。
協議体はすでに2ヶ月に1回くらいは集まって、自分たちが協議体で何をしていけばいいのかという議論をしていきました。この時も会議をやっているわけではなくて、グループワークをやって自分たちがこれから何をすればいいのかというのを協議体の人たちが自分たちで考えなら議論を進めていっています。ほとんど行政は出てきていません。出てきてはいますが、表には出てきていません。案内通知を出して、議事録をまとめる程度。あとは生活支援コーディネーターと協議体の皆さんが進めているということになります。
協議を重ねる中で、第1層の役割ってなんだろう?移動支援は自分たちでできない、じゃあ1層でやってくれ、というニーズが上がってくるのですが、実際に2層ごとにニーズが違うので、そのニーズがわからなければ1層で協議することができません。
ではまず2層をしっかりと立ち上げよう、そして2層でニーズ調査をやってもらうように仕掛けていこうと考えました。これは協議体の議論の中で気づいたことです。
いよいよ2層協議体の選出に入っていきます。
ポイントは第2層の協議体構成員設置に向けの戦略を立てる。これは1層の協議体で戦略を立てました。コアメンバーがいる場合。コアメンバーというのは勉強会やワークショップに参加してくれてめぼしい人がいる地域です。そういうところで構成員候補者(コアメンバー)になり得る人がいる地域ではその人に協力を依頼する。その人たちに2層作りを広げてもらおうという戦略ですよね。
するとその人たちが仲間を集めて勉強会をやって「あなた協議体になってくれる?」といって作り出していく。
コアメンバーがいない場合。フォーラムにも勉強会にも参加してない地域は、ゼロからやるしかない。
地域で勉強会を開催しようということで1層のメンバーが地域を回って勉強会をやります。南アルプスの麓の人口600人もいないところで働きかけたら40人も50人も住民が集まってくれました。そこで勉強会を開いて協力するよという人をコアメンバーにして組織化していきます。
これも1層が2層を作るための仕掛けてとして動きました。最終的に2層がどんどん出来ていきました。
コアメンバーがいる場合の仕掛け方は、誰が何を担当するのかというところまで、みんなで協議をして決めていきました。コアメンバーがいない場合もプロセスを決めてやっていきました。これも協議体やコーディネーターが全部企画していったものです。
2層のある地域では、どうやって呼びかけようかということを2層の協議体の構成員が、まず自治会長、民脇代表、1層生活支援コーディネーター、社協で打ち合わせをしよう。そのあとに民生委員会議、自治会で説明をしよう、住民向けのチラシを全戸配布しよう、これは回覧ではダメだから手渡しで説明してこよう。そして第2層で支え合い協議体説明会をやろう。こんなことを住民主体で取り組んで決めていきました。
櫛形西地区というところでは老若男女80名に集まっていただきました。
小さな地域ですが、その後の勉強会にも30名の参加者が集まり、グループごとに話し合いを行いました。そして地域の支え合い活動をどう作っていくか、住民主体の活動が始まっています。
すでに6つの地域(もうすぐ7つ目が出来るのですが)では、第2層が立ち上がり始めているということです。平成30年度中には15か所設置していこうということです。
その中の一つの八田地区というところでは、この地域は協議体の構成員が勉強会を始めていったら自分たちしか知らないじゃないか、私たちの地域誰も知らないぞということで第2層の小学校区でフォーラムを開きました。市全体で180名だったのに、ここでは第2層の小学校区だけで180名が集まりました。そしてその中で勉強会に手をあげてもらったら何十人も集まってくれました。このような活動もすでに始まっています。
SC若草南地区では、名刺大の紙に自分たちの助け合い活動はこういう動きをしていますということが書いてあって、こういう名刺を持った協議体の皆さんが地域を回りながら支え合い活動を進めていっているわけです。
ある地域では第1層、第2層は小学校区だけど、やっていくうちに小学校区でも広すぎるから自治会ごとに第3層を作ろうという協議も始まっています。すごいですよね。自主的に気づいて「小学校区でもやっぱり広い。自治会ごとで勉強会をやって第3層を作っていこう」と。
新興住宅地の桃の丘団地では、協議体の構成員が中心となりながら地域の支え合いマップを作っていこうという活動も出てきています。
甲西落合地区というところでは、買い物で困っている人がいるから、社協のバスを借りて買い物ツアーを開催することに。これもアンケート調査をしっかりやった結果です。
このような形で1層、2層の協議体作りがどんどん進んでいます。
これはプロセスではありませんが、協議体選出の留意点です。
これまでお伝えしたのは、1層から2層づくりに落ちていきましたけど、2層から1層に上げていく方法もあります。これが地域の実情に応じてやってくださいということです。
一つのプロセス例示なので同じようにやりましょうということではないのですが、社協と行政の勉強会をきちんとやらないで住民ワークショップをやると「なんで俺たちにこんなことやらせるのか」「行政がやればいいんだ」と必ずなってきますので、一つの目安としてこんなプロセスで進んでいるところは比較的スムーズに進んでいます。
ちょうど今このプロセスを使いながら幾つかの自治体で進めているのですが、1年経つとコーディネーターと協議体2層設置くらいまではスムーズに動いていくということになってきます。
私の方では、地域支援事業の理解と生活支援コーディネーターと協議体の役割、プロセスをどう進めていくかという点でお話しさせていただきました。
生活支援コーディネーターと協議体の役割とは?(公益財団法人さわやか福祉財団 戦略アドバイザー土屋幸己氏講演:前編)