ええまちづくりのええ話

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制度ありきではなく、地域とのコミュニケーションが原動力。住民主体サービスの生まれ方、育ち方/2019年度 行政職員向け研修 高松市事例紹介

2020年2月10日

019年10月28日、國民會館(大阪市中央区)にて大阪ええまちプロジェクト「行政職員向け研修」を開催しました

本レポートでは、香川県高松市による取組事例紹介をお伝えします。

登壇者:
香川県高松市健康福祉局長寿福祉部 長寿福祉課(地域包括ケア推進担当)
主幹 徳重 貴子氏

高松市社会福祉協議会地域共生社会推進室
副主任 山口 由美氏(生活支援コーディネーター)

コメンテーター:
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 社会政策部長 主席研究員 岩名礼介氏

(以下、敬称は略しています。)

 

生活支援コーディネーターは専任10人。地域の担い手を確保してきた体制とは

香川県高松市健康福祉局長寿福祉部 長寿福祉課(地域包括ケア推進担当) 主幹 徳重 貴子氏

 

松市は四国の北東部、香川県の中央に位置しています。古くから四国の玄関口として栄えてきました。人口は約42万人で県人口の約4割を占める中核市。65歳以上の人口は、11万7千人、高齢化率は27.6%です。(平成31年4月1日現在)

高松市での地域包括ケアシステムを推進する体制を紹介します。

平成27年、長寿福祉課内に地域包括ケア推進室を設置し、生活支援体制整備事業や医療介護連携推進事業等の取組を始めました。

また、地域住民が自主的に住みよい地域コミュニティを作っていくことを支えるコミュニティ推進課との連携、情報共有なども進めています。

さらに、令和元年度からは、地域共生社会の実現を目指すために設置した地域共生社会推進室において、生活支援体制整備事業に取り組んでいます。

 

 

これまで地域包括ケアシステムを推進してきた基本的な方針は次の5つです。

 

  • 生活支援体制整備事業を社協に委託する。
  • 生活支援コーディネーターは専任とする。
  • 第2層協議体(地域福祉ネットワーク会議)は概ね小学校単位の44地区とする。
  • 住民による支え合いサービスの普及を図る。
  • 地域包括ケア推進室、地域包括支援センター、社会福祉協議会(以下、社協)は連携を密にし、協議しながら進める。

などです。

 

これを進めるに当たり、平成27年度に市の職員が社協に出向するなど、連携を強化しながら進めてきました。

 

現在、地域福祉ネットワーク会議で、協議・検討の結果、ゴミ出しや草抜き、買い物代行といった訪問型サービス B は22地区、体操、運動、趣味活動などの通所型サービス B は 6地区7ヶ所で実施しています。

その他、総合事業対象者以外も利用できる訪問サービスや 移動・買い物支援、会員制助け合いサービスを実施しています。

 

どの地区も住民の皆さんが主体となってサービスを立ち上げています。

取組を啓発するためのチラシをそれぞれの地区で独自に作ってこられました。それぞれの地区で工夫して活動に取り組まれていることがわかると思います。

 

 

こうした主体的に活動する支え合いの地域づくりを推進してきたのは、市が誇るチームワーク抜群の生活支援コーディネーターの皆さん。

高松市では、きめ細やかに対応するため、専任の第2層生活支援コーディネーター10名が、「明るく元気に 前進あるのみ」をモットーに、2人で一つの地区を担当し、活動しています。

 

 

住民とともに「わが町」を見つめるところから始める地域づくり

高松市社会福祉協議会地域共生社会推進室 副主任 山口 由美氏(写真右)

 

「地域福祉ネットワーク会議(以下、ネットワーク会議)」は平成27年度から始まり、地域の皆様のご協力のおかげで、現在まで44地区のうち39地区で設置されています。

ネットワーク会議で出てきた現状と課題をまとめると、どの地区も同じように一人暮らし高齢者や認知症高齢者が増加していること。また、交通手段が限られ、買い物に不便を感じているなど様々な課題がありました。

 

 

こういった課題を解決するためには、地域資源を把握することが必要になります。

自分たちの地区にある社会資源を把握・整理して、委員間で情報共有。地域の問題や資源の見える化をしていきました。

この時に活用したのが「わが町こんなとこシート」です。

 

 

たくさんの項目がありますが、まず生活支援コーディネーターが事前に調べて記入したものを元に会議で話し合いを行うことからはじめています。

地域の人でないと知り得ない小さな商店や、新しい店、高齢者の集まる居場所みたいな場などいろんな話がでました。ネットワーク会議でこれを修正・加筆して、「わが町こんなとこシート」を創り上げていきます。

次に「わが町ええとこ・いかんとこ」というワークショップを行い、その後、「こんなんあったらええなぁ」と地域の課題を整理していきます。この時に、ネットワーク会議の委員全員が参加・発言できるようにKJ法(ポストイット)を用いて意見を出し合い、多くの課題の中から「できることから始めよう」というスタンスで課題の絞り込みや順位付けを行っていきます。

 

 

取り組む課題が決まったら、解決方法やニーズの実現方法を検討し、実施する事業等を更に具体化していきます。この時には、市と連携しながら、住民の思いを私たちコーディネーターがパイプ役となってとりまとめ、地域にフィードバックするということは心掛けてきました。

次に「いつから、何をするのか」という住民や当事者による組織化に取り組み、実際に活動が始まります。

こちらの図は、ネットワーク会議の立ち上げから支えあいサービスの提供を行うまでのプロセスです。

 

 

運営の進め方や進捗状況は地域によって様々ですが、最初にネットワーク会議を設置していただくことは共通しています。

ステップ3では、地域の課題解決に向けて、ネットワーク会議を約1ヶ月に1回開催し、重点的に取り組む内容の検討や情報交換、課題の解決方法を話し合います。

このように、まずは、地域のニーズや課題をつかんでいきつつ、問題解決に向けた検討する中で、サービスBが必要となればサービスを立ち上げるということになります。

そして新たな課題が見つかれば、ステップ3にまた戻って、新たに考えていきます。

「ウチの地区では、サービスBではなく、移動支援をやりたい」、「今は、見守り活動を先にやっていきたい」といった声を拾いながら、地域に寄り添った取組を進めていきました。

また、ネットワーク会議の担い手さんたちの交流会も実施しています。

ある時は、それぞれの地区に壇上に上がっていただいて自分たちの活動をアピールしていただきました。

住民さんが集まるので、堅苦しい会ではなく、お茶やお菓子を食べながらおしゃべりしながら気軽に参加いただき情報交換や仲間作りを目的に実施しています。

 

一人ひとりが生きがいをもって暮らせる地域を目指して

徳重:これまでの本市の生活支援体制整備事業のあゆみをご紹介しました。

事業が始まって今年度で5年目になります。2025年まであと6年。どこまで支え体制づくりが進められるかが課題です。

地域独自の支えあいサービスの取組をどう支援していくのか、行政としても考えていかなければなりません。やればやるほど新たな課題が見えてきて、ぶつかりながら進めていっています。

最後に、地域のみんなで目指す地域共生社会のイメージを説明させていただきます。

 

 

支援が必要な人と支援の担い手が、受け手・支え手と分かれることなく、住民のネットワークでつながって、ネットワーク会議などの協議の場で地域の生活課題に取り組みます。

そして、図の下側にあるような制度分野を超えた様々な多機関協働のネットワークを作ること。この二つの実現により、一人一人が生きがいをもって暮らす地域を、共に創っていく社会を目指していきたいと考えています。

この地域共生社会の実現に向けた各種の取組は、これからの福祉のあり方を根本的に変えていく大きな改革です。

5年後、10年後を見据えながら、行政による取組とともに、「他人事から我が事へ」という地域の力が欠かせないと考えているところです。

 

大波小波に揺れながら、確実に前進する地域福祉のありかたとは?

岩名:ありがとうございました。参考になることがいろいろあったと思います。

ただ、ここまでのお話を聞くと「えっ、そんなに簡単にできるの?」と思ってしまいますよね。44地区が、みんな足並み揃ってできるんだったら苦労はなかったと思いますが、そうはなっていないと思います。

ぜひ、これは大変だった、という経験を聞かせてください。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 社会政策部長 主席研究員 岩名礼介氏

 

山口:はじめての地域への説明が、主に、住民型サービスBに取り組んでほしい内容であったため、地域への押し付けととられ、反発を招き「知らんものが入ってきて、これしろ、あれしろ、言うのか」と言われたことが、すごくショックだったこと、今でも覚えています。

それでも、何度も何度も地域に出向きました。行く度に顔を合わすと向こうの方から、「もう、こんでええ。」とも言われたこともありました。

生活支援コーディネーターは、地域のことを知らないと受け入れてもらえないので、地域のお祭りや居場所など、様々な行事や場所に顔を出していきました。

 

岩名:ネットワーク会議や説明会の回数を見て今、手元で計算したのですが、生活支援コーディネーター2人が一つの地区を担当しているということは、29年度では、週3、4回、地域に出ているということ。生活支援コーディネーターが担当する地域に出ていって、住民の皆さんに一回お話ししたら地域の仕組みができました、という簡単な話では全然ないということですね。

 

 

住民が考えるプロセスにアプローチする

岩名:地域には、最初にどういうメッセージを伝えましたか?

 

山口:始めは、やはり、支えあい体制づくりと、訪問サービスBの枠組みを持っていってしまって…

 

岩名:撃沈ですよね。

 

山口:撃沈でした。そういった説明をすると「雲をつかむような状況や」って皆さん言われました。

そこで、もっと身近なところから始められるように、「「わが町こんなとこシート」に自分たち地域の課題を見つけて、自分たちができて、本当に必要なものからはじめましょう」と、説明の仕方を変えていきました。

そうすると「あ、考えていかなあかんねやなぁー」いう形で、受け取っていただけるようになった部分もあったと思います。

 

岩名:シートの1枚目は市で手に入るデータを生活支援コーディネーターが記載して、あとは地域のみなさんで書いてもらうということでしょうか?

 

山口:そうですね。これを見本にしてもらいつつ、商業施設や病院など、どんどん出していってもらいます。グループワークをして、それをメモしてまとめるのは私たちです。

地域によって商業施設だったり、お店がない地域も、病院がない地域もありますし、これで、自分の地域にあるもの、ないもの、不足しているものが、視覚化できるようにしていきます。

 

岩名: すごくいいなと思うのは、ちゃんと実数が出てるところですね。たとえば、寝たきりの高齢者数。

この町内で何パーセントではなく、実数で10人だったら、これならなんとかなるかもと実感してもらえるのが、すごく重要です。

例えば、認知症の人が地区の中に何人いるかを答えられないのに、認知症を支えるまちづくりしましょうと言っても響きません。

大きな街、大規模都市ほど小さく切るべきだと思います。

 

生活支援体制整備事業は、サービスBを作ることではない

岩名:ネットワーク会議(全体交流会)の写真を見せていただくと200人くらい集まっているんですよね。

 

 

40万都市の0.05%。

44地区で割るとほぼ一つの地区で5人くらい。どういう人が参加しているのかを考えると、住民が3人ずつ出て、行政の人が加わって合計5人程度。

そのくらいの人数が出てきているっていうことですよね。

まだまだ他にも地域には住民がいるわけですから、一つの地区でそのくらいの人数が動いてるということで、新しいものが生まれてくる可能性があると思うんですよね。

目指しているゴールのイメージや規模、範囲を考えておくことは大切です。

地域が変わってきたな、と感じるのに必要な人数はどれくらいなのか。それを考えて地区分けを考えるのは、行政の仕事だと思います。

 

徳重:ひとつ反省するところは、全ての地域ではありませんが、住民主体サービスBを実施することが、ネットワーク会議での目的になってしまい、それをやれば終わりになっている地域があることです。

その軌道修正については、生活支援コーディネーターもすごく苦労されているところ。

その中で、地域に寄り添いながら、地域の課題解決に取り組んでいるのが現状です。

 

岩名:今、大切なことをおっしゃったと思います。

「生活支援体制整備事業=サービスB 作り」ではないことに気づかれたこと。

それともう一つのポイントは皆さんが経験して、活動しながら「住民主体のサービス提供体制構築のプロセス」を描いたということです。

最初にこれを作って地域に見せていたら、また違う話になったかもしれませんが、これまで何百もの会議を重ねられてくる中で、うまくいかなかったり、全然違う方向にいったところもあるけれど、それらの経験から、このプロセスができたということですね。

 

 

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