通所Cから生活支援体制整備の取組の開始に向けて/2020年度 行政職員向け研修 寝屋川市事例紹介
2021年2月9日
2020年10月23日、大阪ええまちプロジェクト「行政職員向け研修」を実施しました。
(当日は、会場参加=27名、オンライン参加=69名の参加者数でした。)
※感染症予防の観点から、会場現地での参加者数を制限したため、登壇者はオンライン会議システムZoomを使用しての講演となりました。
本レポートでは、寝屋川市による取組事例紹介をお伝えします。
登壇者:
寝屋川市福祉部 高齢介護室 地域支援事業・総合事業担当 (写真右) 係長 瀬戸 健太 氏
寝屋川市社会福祉協議会 地域福祉課 (写真左) 係長 浅尾 和弘 氏
コメンテーター (基調講演ゲスト):
株式会社エンパブリック 代表取締役 広石 拓司 氏
(以下、敬称は略しています)
■寝屋川市の概要(令和2年4月1日):
面積 24.73㎢・人口 231,189人 (人口密度9,349人/㎢)
2019年4月に中核市に移行
65歳以上人口68,779人(高齢化率29.8%)
先行する「通所型サービスC」に連動して「元の生活を取り戻す」ためにつなげる住民主体型サービス 位置づけを分かりやすく表現
(瀬戸)
寝屋川市は、短期集中通所型サービスC(以下「通所C」と表記)の取組を2~3年にわたって進めてきました。3か月間の運動機能の向上・栄養改善・口腔機能向上プログラムの実施により、約3割の方が生活機能を改善し、結果として介護保険サービスを卒業して、活動量の多い「元の生活を取り戻す」ことができました。
今年度から、より多くの高齢者が、活動量の多い生活や社会参加の促進につながるよう、生活支援体制整備の取組との連動を始めたところです。
生活支援体制整備事業の目指すところは、社会参加の継続です。通所Cの利用により、機能の改善をすることで、生活の中での活動量が増え、地域のスポーツ教室でも通いの場でも仕事でも、自分の好きなことについて活動できるようになることを目指しています。
生活支援コーディネーターは、第1層に社会福祉協議会(以下、「社協」と表記)職員が2人、NPOが1人、第2層に社協職員が3人の体制です。寝屋川市では生活支援コーディネーターを「地域支え合い推進員」と呼んでいます。
生活支援体制整備事業とは、「高齢者の生活支援体制の整備、そのためのネットワークの充実、地域活動の充実など」とありますが、重要性は理解されても、具体的な取組が見えづらいと感じています。
そこで、従来から市の重点的な取組であった通所Cと連動させることによって、周囲からの理解も得られやすくなり、地域支え合い推進員も活動しやすくなるのではと考えています。
寝屋川市が通所Cの中でもっとも重要視した点は、利用者の「セルフマネジメント」です。利用者が自分自身に興味をもち、自立的な生活の可能性に気づくことにより、生活(機能)や社会参加に対し、不安よりも自信を大きくしてもらうような関わりです。この考えを共通認識として、社協と理解しながら事業を進めています。
寝屋川市での地域支え合い推進員(生活支援コーディネーター)の3つの取組み
1つ目は「通所C後の地域活動サポート」です。
専門職の一定期間の介入で機能が改善し、買い物など、日常的な外出を促進しながら、元の生活を取り戻してもらいます。その後、活動的な高齢者には、地域社会で活躍の場を増やしてもらうことで長期的な介護予防につながると考えています。
寝屋川市では、総合事業に移行した平成29年度以降、毎年、総合事業の運用を変更しています。
平成29年度:自立支援型地域ケア会議を中心に、専門職の多職種連携をはかる内容で推進
平成30年度:通所Cのモデル事業を実施
令和元年度:前年の結果を踏まえ、通所Cの利用料を無料とし、新規要支援者は原則は通所Cにつながるよう、リハビリ専門職による訪問指導に注力
令和2年度は、当初4月から運用変更予定でしたが、新型コロナ感染症の影響により、11月に延期して運用を変更します。
専門職を配置ているのはもともとのデイサービスやデイケアでも同じです。
通所Cがこれらと異なるのは、利用者自身の「セルフマネジメント」力の向上を目指すという点です。週1~2時間のサービス提供時間だけでなく、利用しない日の活動量を増やし、3か月の利用期間終了後に活動量の多い生活が継続できるよう、「いいね、いいね!」と励ます等のメンタルサポートを実施し、生活機能の低下によって失った自信を取り戻していきます。
具体的な流れですが、新たに要支援1、2の認定を受けた方に対し、新たに訪問型か通所型サービス利用が必要になった際、担当ケアマネとリハ職が同行で訪問します。これを訪問指導と呼んでいます。
令和元年度には、訪問指導実施件数616件。このうち、6割の366人に通所Cの利用が提案され、全体の約半数294人のプランに組み込まれました。
その結果、生活機能が改善し、介護保険からの卒業が30.1%、機能は改善したが、今すぐサービス終了はむずかしい「卒業見込み」が12.5%という実績です。
「卒業見込み」の多くは、サービスを継続しています。この要因として、生活への不安感が大きいこと、介護保険サービス外の社会参加の意欲はありながら近くに活動の場がないなどの理由がありました。これには、地域支え合い支援員がうまく関わることで解決できると考えています。
通所Cを利用している方に対し、地域支え合い支援員は以下のように関わっていくことを想定しています。
- サービス利用により得た知識や情報を教えてもらうことや、褒めることで自信をもってもらう
- どんなことに自信がついたかを発信してもらう
- 個人の強みを共有して、生活支援サービスの担い手になってもらう
実際、これまでに通所Cの利用により生活機能が改善した人の中で、施設ボランティアや移動支援の運転ボランティアとして活躍している人もいます。
社協の地域資源情報やネットワークを活かして、よりいっそうおせっかいな取組として、高齢者の夢をかなえる取組ができたらいいなと思います。
基調講演にもあったように、専門職からの指示でなく、対話を重視して取り組んでいく必要があると思っています。
2つ目は「元気アップ体操などの通いの場、自主活動の立ち上げサポート」です。
寝屋川市独自の「元気アップ体操」を地域で広める市民サポーターを養成するため、年2回講座を実施しました。この講座を修了した人の活動立ち上げを支援するものです。地域の方と関わることが多い社協の方にとっては、取り組みやすい分野でもあり、今後は住民だけでなく、民間企業とも連携して通いの場を立ち上げていきたいと考えています。
3つ目は「これらの個別の取組から把握できたニーズ、資源の整理」です。
生活支援体制整備事業として、仕組み化していくうえで、個別課題に対する解決に向けての取組をコーディネートしていくことが重要だと考えます。
協議体についての考え方も同じで、定例のネットワーク会議、情報共有会議は既存の会議で十分と考えています。寝屋川市では、協議体を兼ねた地域ケア会議で市全域や生活圏域の課題を共有するほか、個別事例の解決のためのプロジェクトチームとして、課題ごとに解決に向けて結成することを協議体のイメージとしています。
ニーズ・資源を見える化するシステムを導入予定 地域支え合い推進員(生活支援コーディネーター)の活動を後押し
とくにこの3つ目については、これらの取組の結果を踏まえて、市では、さらなる支援のため以下に取り組む予定です。
- 通いの場補助
1団体につき上限5万円/年(令和2年度は2.5万円)金銭負担がなくなって活動しやすくなります。 - 専門家派遣
通いの場補助対象団体に対し、リハビリ専門職や管理栄養士、歯科栄養士の派遣によって、継続運営を支援するものです。 - 地域資源情報管理システム
通いの場、ボランティア団体など、エリアごとの地域資源情報の管理システムを11月から導入予定です。関係者のみが情報共有するクローズドサイトです。
地域活動の中には、特定エリアの住民のみ利用できるものや、非公開の活動もあるため、市内800件の地域資源を把握、共有します。活動内容はGoogleマップ上にピンで表示できるため、半径何メートル以内にどんな活動をしているところがあるのかを把握できます。この情報を元に、地域で不足していそうな資源などについて、自治会や校区福祉委員会、地域住民と話すきっかけになると考えています。
場所や参加基準が明確になることにより、ケアプランにも位置付けやすくなると考えています。
資源ごとに関わりを記録することもできるので、例えば、「通いの場に地域支え合い推進員が訪問し、補助金について情報提供した」とか、「運営上こんなことを課題だと言っていた」と共有することができます。
生活支援体制整備の取組が今年度から本格的に実施することもあって、地域支え合い推進員が対応しやすいように機能整備しているところです。
今後の取組としては、先ほどの3つの役割の次の段階として
- 高齢者が元の生活を取り戻すための支援を、地域支え合い推進員との連携で実施
- 通所Cの受け皿としての通いの場を充実させること
- 地域資源情報を関係者間で共有、ニーズ応じた資源の活用、マッチング
を据えています。
コロナ禍でも、さまざまな形で資源・ニーズを把握 888もの活動がわが町に
(浅尾)
今年度から第1層の地域支え合い推進員となった社協の浅尾です。
社協の地域支え合い推進員は、第1層2名、第2層3名の計5名です。取組内容をお伝えします。
1つは、利用者が通所C利用後に生きがいをもって生活できるようになるため、関わりの中でニーズを聴きながら、通いの場や社会資源につなげていきます。現在はモデル的に実施しており、3事業所から1名ずつ利用者を選定してもらい、第2層の地域支え合い推進員が担当になって関わっています。通所Cに関わった職員、セラピストさんに聞くと、サービス終了後の利用者の状況が気になっていたため、地域支え合い推進員(生活支援コーディネーター)の関わりがありがたいというお声をいただいています。
ニーズの把握については、令和元年度、高齢者等の見守り活動の実施に関する実態調査を、校区福祉委員等を対象に行いました。また、市内の社会資源を調査し、現在888の社会資源を把握しています。。令和2年度は、システム導入によってこれらの資源を活用できるように意見交換を重ねています。
加えて、一人暮らし高齢者の困りごとや強みを把握するためアンケート調査を行いました。校区福祉委員会が把握している見守り対象者2,500名に発送し、600以上の返信がありました。
また、新型コロナ感染症の緊急事態宣言後、状況が少し落ち着いたときに、地域包括支援センターの皆様にヒアリングをしました。ニーズや、センターが実施してきたことなどです。その中で、市の高齢介護室から打診いただき、通所C後の地域活動サポート、元気アップ体操など自主活動の立ち上げサポートの主な2点に基づいて活動していきます。
第2層の地域支え合い推進員からは、アンケートにはない、生の高齢者のニーズに触れることができました。本人の目標や今後について身体の状況をみながら丁寧に繊細に関わっていきたいと感じたとの声がありました。
コメンテーターからのサマリー・質疑応答
(広石)
通所Cからの連動で大切なのは、要介護・要支援者のセルフマネジメント。自分で自分の状況を良くしたくなる動機って大事ですね。あきらめている気持ちがあったり、何をしたらいいかわからなかったりすると、不安ですよね。そうならないよう自信のほうを大きくなるようにしたいですね。
自分自身に興味を持つことにより「もっと自分もできるんじゃないか、生活機能が多少落ちても楽しく過ごしていけるんじゃないか」と、そんな気持ちを盛り立てるのが実は一連の活動のベースにあると思います。寝屋川市は、機能訓練の後、地域支え合い推進員さん(生活支援コーディネーター)がそうされていますね。
地域のことは、最初は他人ごと。自分が地域に関わっていくと、「こんな人がいるんだな、いろんな人がおせっかいするっていいことなんだな、みんなでやったらええやん」と、広がりができていくんじゃないかなと楽しみになります。
Q:ケア会議を兼ねた協議体では、ケースと地域づくりが混在した話題になりませんか?
地域ケア会議は5種類。
1)市全域の地域ケア会議
2)圏域の地域ケア会議
(協議体をかねての情報共有、課題把握のための会議)
と
3)ネットワーク型
(民生委員・支援センターが主体となり、ケアマネ・
4)課題解決型(個別課題型)
5)自立支援会議(
===================
具体的には、上記3、4、5の会議では個別ケースの課題に対し、
Q:これからの取組について、教えてください.
(瀬戸)
専門職派遣について:
10月から開始事業なので実績はこれからです。派遣する職種は理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、歯科衛生士を想定。通いの場の人たちから地域包括支援センターにに要請があれば、通いの場1か所あたり年一回、調整して派遣します。報酬は市から出すことにしました。
通いの場の補助金要件について:
初めての取組なので、要件を迷いながら実施しました。これから柔軟に変更も考えていきたいです。
通所C事業所について:
事業者に手を挙げていただいて、指定基準を満たしたところに実施してもらっています。平成29年度から、利用者数を見て、必要キャパに応じて指定の門をひろげています。現在、同時に100名が利用可能で、まわっているのは80人ぐらいです。増やしていきたい思いはあります。指定事業者所間での連携をつくることによって柔軟に対応しています。
Q:通所Cにつなげるには?
(瀬戸)
要支援認定を受けて、訪問型または通所型サービスが必要となれば、訪問指導に行き、通所Cの利用を提案したあとに、多くの方が利用します。
訪問指導に行った時、必要な場合はまず医療管理が要るかを見ます。セルフマネジメントの力が高まったところで、専門職が必要になるかもしれないし、それ以外の支援が必要になる可能性があります。訪問看護、医療的ケアへの提案が中心になります。
活動性が低い場合、片足立ちなど、生活機能を測定します。機能測定できる方は通所Cを提案します。要支援者についてはIADL(手段的日常生活動作)を保たれている方が多く、ほとんどの方に通所Cを提案し、約半数がサービスを受けられます。
Q:通所C への地域支え合い推進員(生活支援コーディネーター)の関わりについて、生活機能は上がっても、社会参加につながらない場合、どこまで継続的に関わっているのか?
(浅尾)
ケースバイケースだが、地域支え合い推進員はケースワーカーではないと考えています。つきっきりになるかというと、そうではない。個別でニーズを把握しながら進めていくものだと思っています。ニーズを見て、ある程度できたかなというところでいったん終了と考えています。
(広石)訪問ツリーの図は、「こういう人を見つけたら、フローにしたがってこう対応していこう」と見える化しているのが強いですね。「この人大丈夫?」ということがあっても、何をどういう順番で、どのようにつなげていくかの共有が大事ですね。
機能回復はある程度プログラムしやすく、専門職がサポートしていけるところがある。 回復した後は、地域支え合い推進員さんがコミュニケーションを取りながら社会資源を紹介していくんでしょうね。通いの場などに参加→専門的サポートや住民に手伝ってもらいながらより回復していく→地域とつながり活躍によって還元していくという、らせん階段のようにぐるっと一緒に回るように、いろんな人と関わりながら、地域につながっていけば新しいですね。
伴走は、つれていくというより、あくまでも対話しながら「伴走」。今後の発展が楽しみです。専門家派遣がはじまると違うニーズも見えてくるんじゃないかと思いました。期待ですね!