ええまちづくりのええ話

インタビュー
「地域福祉推進計画」をしっかり実現。阪南市の行政・社協担当者が語る「住民主体」を形成するプロセスと体制とは

新型コロナウイルス感染を防止しながらも、地域のつながりを維持し続ける「新しい『ツナガリ』プロジェクト」、小学生が高齢者支援の担い手になる「子ども福祉委員」、全国初・少年院での地域ボランティア団体設立など、阪南市の地域づくりの取り組みは興味深いものがたくさんあります。

 

様々な市町村で「地域福祉推進計画」は策定されていますが、計画を推進する担い手不足に悩む地域も少なくありません。そんななか、なぜ阪南市は住民主体の新しい取組を次々と生み出すことができるのでしょう?

「地域づくりは土壌づくり」とよく言われますが、その秘訣はどこにあるのか―阪南市健康部の吉田さん・岩本さんと、阪南市社会福祉協議会(以下、社協)の猪俣さんを訪ね、お話を伺いました。(取材日:2020年12月3日)

左から阪南市健康部の吉田さん・阪南市社協の猪俣さん・阪南市健康部の岩本さん

 

阪南市の地域づくりの歴史は「阪南市の鉄の掟」を大切にして生まれた

阪南市の第1期「地域福祉推進計画」は平成11年~12年に作られたものですが、すでにこの頃から公民協働の計画であり、小学校区別の福祉計画が組み込まれていたといいます。12の地区ごとに住民たちが作った5ヶ年計画が計画冊子に一体的に入っているのが特徴です。

 

その背景には、平成10年の介護保険法施行にあたり実施したニーズ調査がありました。

「それまで“市全体”で捉えていた課題を、12ある小学校校区ごとに分けてみたところ、各地域で世帯構成や課題、住民の意識が異なるということがわかってきたんです」と岩本さん。

 

「出てきた声のうち、各地域でできることはそれぞれの地域の住民さんたちでやっていかれます。複数の地域で共通した課題について、“こういうふうにやっていきたい”と決めたことが、市と社協が一緒に作る合同計画にも反映されたということです」。

 

各校区の計画は、校区福祉委員会が中心になりながら、一人暮らしの高齢者を座談会に招いて意見を聞く機会を持ったり、障がい者の作業所で障がいのある若者たちの自立を地域でどう支えるかを考える座談会を催したりなど、関連する当事者や有志を巻き込みながら作ってきたのだそう。

 

「12校区もあると、社協や市は意見交換の場をコーディネートするだけでも大変では? どんなふうに関わり、進めているのですか」と伺うと、猪俣さんは「阪南市には鉄の掟があるんです」と笑いました。

その掟とは、「住民の主体形成」。

地域が違えば、そこに住む人も出てくる課題も異なります。ある地域でうまくいった解決策が他の地域にもハマるとは限りません。

 

だからこそ、アンケート実施ひとつとっても、市や社協だけでアンケートを作成するのではなく、課題の抽出からアンケートの素案作成まで、必ず住民と丁寧に話をしながら行うのだそう。

アンケート結果を分析する際も、単純集計までは社協がしたとしても、どの設問とどの設問の数値をクロス集計するかなど、結果をどう掘り下げて検討するかは地域住民に繰り返し共有しながら、一緒に分析することが大切とのこと。地域に住む人たちで自分ごととしてとらえられるよう、計画の前段階から“合意形成”を大切にしていました。

 

「“地域福祉推進計画をつくる”からといって、何か特別なことをするわけではありません。普段からやっていることの延長なんです。住民懇談会、地区ごとの計画を作るための話し合いといった会を何回も重ねる。その際に、例えば一人暮らし高齢者の人や発達障がいの子どもたちといった当事者もこういう場に参加をしながら、いろんな声が集まっていく…そんなやり方をしています」と猪俣さんは熱く話してくれました。

 

「阪南市は活動してくれる住民がもともと多い」?「阪南市だからできること」?

阪南市で次々と生まれる住民主体の地域活動の事例を聞くと、「阪南市はいいなぁ、活動してくれる住民が多くて…」「阪南市だからできることであって、うちでは難しい…」と口にする他市の担当者や住民も多いそう。

 

確かに計画の実行段階は住民主体ですが、それを可能にしている社協の伴走のあり方・行政の人事体制には、他市も参考になるヒントがありそうです。

 

社協の重要な役割は「基盤となる人たちの組織化」

猪俣さんは、「主体的に動ける住民は、どの地域にも必ずいます」と断言。そのうえで「地域活動支援は職人技と言われがちですが、実はそうではありません。踏まえるべきプロセスと、コミュニティワーカー(※)としての介入・機能ポイントがあるんです」と話します。

(※)阪南市では厚生労働省の地域共生のモデル事業を受けており、共生の地域づくりを進めるコミュニティワーカーと第2層生活支援コーディネーターを兼務で配置しています。

 

地域で何気なく話されることの中で、ふと出てくるさまざまな課題や住民の意欲。それを見逃すことなく、様々な情報やヒントを提供しながら、人と人をつなぐ機会を提供すること、この「組織化」の役割がとても大切なんだそう。

 

「高齢者の居場所がないよねえ…」という話題が出てきたら、例えば「他市では空き家を使ってサロンをやっている地域がありますよ」と事例を紹介する、何かの活動に賛同する人たちで集まる機会があると聞けば、自治会とか福祉委員会、民生委員にも声をかける…そのように様々な情報を提供したり、組織化のお手伝いをして、地域活動の基盤づくりのお手伝いをするのだといいます。

これまでの数々の事例ができあがってきたプロセスを体系化した経験からも、「基盤となる組織を作っていくことがスタート」と話してくださいました。

 

住民主体活動の伴走時に気をつけていることは、社協やコミュニティワーカーから「提案」や「否定」をしないことだといいます。「あれやこれやと住民が検討する中で出てきたアイデアには、それがどんなものであろうと徹底的に寄り添い続けるのがコミュニティワーカーの役割です」と猪俣さんは言います。

 

もしも社協やコミュニティワーカーが提案して進めたことで失敗すると「〇〇の言うとおりにしたら失敗した」「失敗したぞ、次はどうしたらいいんだ」と他責になりがちですが、自分たちが考えたことなら、たとえ失敗しても自分たちで課題を見つめなおし、次の手を考えられます。それこそが育むべき「住民の主体性」なのでしょう。

阪南市の住民主体の活動は、スムーズにスピーディーに生まれているように見えますが、「どれもだいたい、スタートから4~6年くらいはかかっているんですよ」と「あきらめず寄り添うこと」の重要性についてお話ししてくださいました。

 

阪南市の人事の特徴は「行政担当者の専門職採用とローテーション人事」

そして岩本さんは阪南市の行政職員人事の特徴として「福祉や健康関連部署の専門職採用とローテーション人事」を挙げました。

 

阪南市は一般採用職と福祉職があり、福祉の専門職は社会福祉士、精神保健福祉士、保健師といった資格を持つ人を採用、専門職採用された人は、福祉や健康関連の部署に配属され、その後もその部署間での異動が多いのだそう。

 

岩本さん自身、前任者が地域の共生・地域作りの担当になったこともあり、前任者が新しい仕事で培っていくネットワークに対しても声掛けてくれていて助かった経験もあったとのこと。

 

即戦力となる地域福祉へ理解ある人材の採用、専門職職員のスキルやネットワークを生かして、それぞれの知見や人間関係がより深まるようなローテーションといった工夫が阪南市の職員人事にはありました。

 

社協と行政の関係は、共通の目的を達成するための「パートナーシップ」

住民主体活動を生み出すには社協と行政のバックアップがあってこそ、とはいうものの、行政は公金を使う事業として、数値で目標を立て、結果を数値化して報告する必要があります。それに対しより現場に近い社協は、数値化が難しい地域活動の価値を伝えるのに苦心しがちです。その難しさがある中で、阪南市の行政と社協はどのような関係性で地域づくりに取り組んでいるのでしょうか。

 

猪俣さんがその関係性について「ボールの打ち合いのように、常に意見交換していますね」と表現すると、吉田さんも「そうですね、パートナーですから。遠慮があってもいけないし。時に言い合いみたいになることもありますよ」とほほ笑む。

例えば、住民主体型サービスB(以下、サービスB)が阪南市に現在4つ。行政担当者が「全12校区に1つずつサービスBをおきたい」という案を出すと、社協側は「現在、サービスBの補助金を使わずにそれに近しい活動されている団体もあるのに、それらに対して市が税金を使って補助金を出すことにしていいんですか? 補助金を受けない自主的な活動も生活支援体制整備の活動作りの実績として、もう少し広く捉えていただきたい」と意見。それに対し行政側も「住民主体のサービスが徐々に増えてきていることが励みになっている住民さんもいらっしゃるという側面もある。どちらも増えていけばいいと思うが、実態と目標は数字で書いておきたい」と主張…

と丁々発止のやりとりが繰り広げられるなど、地域の課題を共通認識として、どうあるべきで、どう進めるべきなのかについて常々議論されている様子が伺えました。

 

全国でも珍しい「第三層生活支援コーディネーター」の配置と育成

様々な住民主体活動が広がれば広がるほど、それらの活動まとめる人、そして利用者の意見や要望を取りまとめる窓口の役割はとても大切。そこで、阪南市では全国でも珍しく「第三層生活支援コーディネーター」を置き、育成しています。

 

年に2回、介護保険や阪南市の地域課題について学ぶ「第三層生活支援コーディネーター養成研修」を実施し、総合事業をしたいと考える団体の関係者や高齢者の介護や活動に興味のある人に参加してもらっています。

 

阪南市の地域課題を踏まえたオリジナルのカリキュラムで、2日間みっちりの講義が行われ、

修了した方には修了証を発行。修了者の半数くらいは、サービスBの対象団体で活動している方々です。団体として活動に取り組む中で住民と直接の接点が多いため、様々な申し込みの受付や利用調査のための訪問、住民からのニーズを誰に相談すればいいかを案内するなどきめ細やかな地域の調整を担っています。

ときに地域包括支援センター等とも連携しながら、地域のたいせつな調整役になっているそうです。

チラシでは、ヘルパー養成講座と混同されないよう、到達点をわかりやすく見出しにしているそう

 

そんな第三層生活支援コーディネーターが数多く生まれるのはとてもよいことですが、住民同士をつなぐ地域活動では、数ある点をつないで面にしていくことが大切。

その工夫のひとつとして、「第三層生活支援コーディネーター養成研修の修了者同士の情報交換がスムーズになるよう、新たな出会いの機会の提供や、修了者の交流会を企画していきたい」と岩本さんはいきいきと語ってくれました。

 

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大阪ええまちプロジェクトでは、大阪府下の協議体、生活支援コーディネーター、地域団体の皆様からのご相談を受け付けております。

 

本記事を読まれて、阪南市の取組をより深く知りたい場合や相談をしたい場合は、大阪ええまちプロジェクトへご連絡ください。

 

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