ええまちづくりのええ話

大阪府内の地域団体の活動事例や、行政職員や生活支援コーディネーターの研修の発表も広く掲載。
団体の活動の参考にしたり、市町村の仕組みづくりに役立つ記事がたくさんです。

地域活動を立ち上げる際の重要なポイントがわかる-『チョイサポしのだ』のケースから:大阪ええまちアカデミー2022<入門編>第1回サマリー

2022年8月30日

大阪府の後期高齢者(75歳以上)の人口は、2015年から2025年の10年で1.4倍になることが予測されています。大阪府はこの急速な高齢化を受け、高齢者が主体的に地域活動に参加することで“支える側”に回る仕組みづくりが必要と考え、2017年から「大阪ええまちプロジェクト」を進めています。

2021年からは「大阪ええまちプロジェクト」で培った人脈や知見を活かし、地域活動の立ち上げや運営などのコツを伝授する「大阪ええまちアカデミー」を開講。

2022年の「大阪ええまちアカデミー」の<入門編>では、実際に地域で活動する先輩の事例を軸に、地域活動支援の専門家からその活動を解説する形で話を聞きました。

この記事では、「入門編」第1回のサマリーをお伝えします。

入門編に参加できなかった方・復習したい方はもちろん、新たな地域活動の立ち上げに取組みたい方や、9月から始まる大阪ええまちアカデミー実践編に向けても、心に留めておきたいことがたくさん詰まっていますので、ぜひ最後までお読みください。


大阪ええまちアカデミー2022入門編

第1回 地域活動の解体新書 「ほっとけない」気持ちの着実な広げ方(本記事)

・移動支援を行う「チョイサポしのだ」代表・藤原清伸さんのケース

解説:宝楽陸寛さん(特定非営利活動法人SEIN)

 

第2回 地域活動にもっと「それ、ええやん」を!

生活支援コーディネーターなど大阪府の地域課題をよく知る専門家とアイデアを出し合う


 

【各回ナビゲーター:広石拓司さん(株式会社エンパブリック)】
エンパブリック代表取締役、ソーシャル・プロジェクト・プロデューサー/大阪市出身。東京大学大学院薬学系修士課程修了。シンクタンク、NPO法人ETIC.を経て、2008年株式会社エンパブリックを創業。「思いのある誰もが動き出せ、新しい仕事を生み出せる社会」を目指し、ソーシャル・プロジェクト・プロデューサーとして、地域・企業・行政など多様な主体の協働による社会課題解決型事業の企画・立ち上げ・担い手育成・実行支援に多数携わる。

 

第1回 地域活動の解体新書 「ほっとけない」気持ちの着実な広げ方

(左)「チョイサポしのだ」代表・藤原清伸さん/(右)解説:宝楽陸寛さん(特定非営利活動法人SEIN
和泉市北部の信太(しのだ)中学校区は、人口約25,000人・高齢化率は市内でも高めの30%。この地域で高齢者などに移動送迎サービスを提供する「チョイサポしのだ」が誕生したのは、代表の藤原清伸さんが数年前に自治会長になって、地域のニーズを知ったことがきっかけだったと言います。

自治会長になったことをきっかけに、困りごとの支援を検討

各町会の自治会会長、民生委員、各種ボランティア団体などが集まり、地域の福祉課題について話し合ったことを機に、藤原さんは小学校区に住む高齢者のゴミ出しや草抜きなどのちょっとした困りごとをご近所で助け合う「鶴山大北校区高齢者サポートセンター」を2016年4月に立ち上げます。

この助け合い活動をするなかで、免許返納する高齢者の増加、路線バスの運行の削減などで外出手段に困る高齢者が増えていると感じるようになり、藤原さんは2019年頃から「鶴山大北校区高齢者サポートセンター」を軸に移動支援のサービスを立ち上げられないか、と考えるようになりました。

いきなり移動支援事業を始めようとするのではなく、声が集まるしくみとして「鶴山大北校区高齢者サポートセンター」という“地域の困りごとが集まる器”を作っていかれたのがポイントですね。

 

「大阪ええまちプロジェクト」を通して先輩団体に相談

移動支援と言っても、何をどう始めればよいかわからないもの。

そこで、住民主体の地域活動にかかわる人たちが集まる「大阪ええまちプロジェクト」の大交流会に参加したり、既に移動サービスについて取り組んでいる先輩団体に視察に行ったりして、先輩たちからアドバイスを受けたことで自分たちの地域がやらないといけないことが見えてきたと言います。

いきなり活動を始めないで、少しずつ先輩の話を聞いていくのもいいですね。この「大阪ええまちプロジェクト」のホームページにたくさんの活動団体のアーカイブがあるので見てみてください。

元々あった“挨拶できる関係”のなかで少しずつ仲間が増えていった

とはいえ、当時から藤原さん自身も仕事をしていて、時間を充分には取れない状態。そこで地域包括支援センターのケアマネージャーさんにその想いや状況を伝えると、校区社協会長などにつながり、協議会として月1回集まり、防災なども含めたさまざまな問題を勉強したり話し合ったりする時間を持つようになりました。

すると、“1つの小学校区ではドライバー集めも大変”ということで、町会・自治会の連合会長やコミュニティソーシャルワーカー、和泉市福祉部高齢介護室の担当者などにもやってみたい思いがつながり、3つの小学校区で移動支援をやっていこうという話になっていきました。

地区社協校区福祉委員会の活動団体さんや、市役所の方、そして社会福祉協議会の社会福祉士の方といった方々と、何か困ったときに相談し合えるようなネットワークを日ごろから作ってこられていて、そこで少しずつ仲間が増えていたのもポイントですね。

ニーズ調査で必要性を再確認

勉強会を重ねる中で、実際の移動支援団体立ち上げを後押ししたのは、ニーズ把握のためのアンケートを実施したことだと藤原さんは言います。

2020年夏、地域に約6,000枚の調査票を配布。町内会経由の回収だけではなく、スーパーや病院などにも回収箱を設置し、1,012枚の回答を集めました。

ふたを開けてみると、「そんな移動支援があるなら、今すぐ利用したい」という希望者が198人もいたのです。

このようなアンケートでは、統計的なニーズ把握の機能だけでなく、「こういうことをやろうと思っている」という広報機能も持っているので、調査を実施することがコミュニケーションのきっかけになることもありますね。

 

「自分たちは“ほっとけない”と思っているが、それを実際に“必要”と感じている人が地域にどれくらいいるのか?」という検証ができているのがとてもいいですね。
また、こういったアンケートでは、ニーズ把握以外にも「あなたは何ができますか」という設問をつくることで担い手候補の把握も可能です。

 

まずは100人限定でスタート。「意識して背伸びしない」

「今すぐ利用したい」という人が198人いることはわかりましたが、ドライバーとなるボランティアが足りず、順番待ちリストができる状態でした。しかし地域活動は民間企業のサービスではないので、地域にいる人ができる範囲でやっていくしかありません。

そこで、2020年2月、まずは全戸にチラシを配布し「100名限定」で利用会員募集を始めたのです。

 

「100人限定」と現実的な運営の限界を自分たちで決めて、無理しすぎないところが良いですね。
困っている人をほっといていいという意味ではなく、滅私奉公したり全部抱え込みすぎたりしないで、社会福祉協議会や地域包括支援センター、役所など、いろんなところに相談してほしいです。

 

ふだん様々な民間のサービス業に触れていると、地域活動を始める前にもリスク管理してプレミアムなサービスを提供しなければ・・・という思いに陥ってしまいがちですが、地域の人が使いやすい環境作りには、限界があります。
民間企業ではないので、自分たちのキャパシティについて「意識して背伸びしない」でスタートさせるというのも大切です。

移動支援はドライバーだけではない。できる人ができることを

移動支援というと、“利用者とドライバー”だけを想像してしまいそうですが、その裏側には様々な方が関わります。藤原さんが普段からいろんなおつきあいをされてきた関係性の中で、ボランティアのドライバーや受付をしてくださる方を募っていきました。また、その人たちからも、さらにその知り合いに「一緒にやってくれへんか」という形で、かかわる人が増えてきたと言います。

業務量の増加に伴い、コーディネーターやIT担当を置くなど、現場以外の関係者も増えていきました。業務プロセスの整理とツール開発の必要性が出てきたフェーズでは、大阪ええまちプロジェクトのプロボノの力を借りたと言います。※1

これまでに地域で勉強会をして問題意識を共有していたからこそ、メンバーの人のなかからも「あの人、これができるんちゃう?」と主体的に考え、声掛けしてもらえたのかもしれませんね。
意見交換会など、気軽にまず集まる場を作り、勉強会をするプロセスを取っているところが多いと思います。

 

地域活動を始めるとき、「早くせな」と思いがちなんですが、まずは「挨拶できるような関係」がやっぱり大事です。「お願いされたが最後、嫌でもやらんとあかん」という空気はどんどん重さを作ってしまいますから。
気楽に「無理のない範囲で、この役割ちょっとやってくれへん?」と声をかければ、相手も気楽に「いや、うちいいわ」と断ることができるから、すごく大事ですね。
自分が関心ある領域や、自分が役立つ領域があるなら関わってみたいという人はけっこういると思います。

「事故の時どうするんや?」自己負担を減らす解決策

住民主体の移動支援事業と聞くと、多くの方が「(ボランティアが運転して)事故が起こったらどうするんや」と心配されますが、チョイサポしのだでは先輩たちのアドバイスや勉強会を受けて、ドライバーには各自のマイカー保険に加えて、チョイサポしのだとして社会福祉協議会の傷害保険にも入ってもらっています。利用者さんには入会時にそのこともちゃんと説明して了解してもらっていると言います。

また、緊急事態宣言が発令されたときは、ドライバーの中に家族の介護をしている方がいたこともあり、いったんは活動を停止しました。しかし、そうはいっても通院や買い物は必要です。長い間活動を止めるわけにはいかないので、ボランティアさんから「コロナ禍でもやってもいいよ」という方を募り、やっていただいたそう。

助け合いの中にでもちゃんと全部自己負担にならないような工夫をされています。
ボランティアさんの自己選択・自己決定を尊重していますね。

まずは話してみることが大切

“こういうサービスを待っている人は、絶対たくさんいるんです。本当に待ってはります。各地で、できる範囲でいいので、ぜひこういう地域活動を始めてほしいなと思います”と話す藤原さん。

“自分がしたいと思ったことを周りの方にとりあえず話してみる。発信する。「こんなんやってみたい」と言っていくと、じゃあ協力しようかという人が必ず出てきます。やりたいって言うてたら誰が助けてくれて、広がってくると思います”と、参加者に激励のメッセージを送りました。

 

まずは言ってみないと、できるかできないかも含めて、何もわかりません。
私や誰かの「ほっとけない」から、こういう地域の支え合いができていくんだと思います。

 


入門編の最後には、地域活動のキーとなる「仲間を集めるコツ」を広石さんと宝楽さんがお話しくださいました。

 

広石さん&宝楽さんが伝授!①「仲間を集めるコミュニケーション」

広石さん:

地域活動を始めるときって、会場借りて、何かちゃんと広報して…というよりは、喫茶店で4,5人でお茶飲みながら「私こういうことを考えてんねんけど、どう?」って声かけてみるとか、Facebookとかにさらっと載せてみて、反応してくれた人で、ちょっとしゃべってみるとかでいいんですよね。

いきなり本気で“私の思い全開”で喋る、みたいなことはあんまりしない方がいいかなと思ってて。ちらっと「最近、子ども食堂とかテレビで見るよね」みたいなことを言ってみて、(相手が)「私も気になる」なのか「ふーん」なのか、ちょっと様子見てこの人やったらいけるかな、という人を見つけることなどがけっこう大事なことだと思っています。

宝楽さん:

僕は半径500mの歩いて行ける圏内で一度自分の足で歩いてみて、いろんな話を「聞く」から始まるのかなと思います。

「自分の思ってることを聞いてほしい」ではなく、対話。自分からも行くし相手からも返ってくるコミュニケーションがあるからこそ、自分の声が形になる。

「いきなり話聞いて」じゃなくて、キャッチボールするってのがすごく大事です。だから最初の「一歩踏み出す」は、「歩いてみる」っていうことかなと思います。

 

広石さん&宝楽さんが伝授!②「地域活動に興味のある仲間の見つけ方」

広石さん:

例えば子ども食堂についての勉強会や、関連の講座、子育て講座のような場所に行ってみて、「私こういうことをやってみたいんです」というのも出会える確率がすごく高くなるかもしれません。自分と似たようなことを考えてそうな人が集まってる場所に行くのも大事ですね。

宝楽さん:

そのために「大阪ええまちアカデミー」があるんです!

このあとの<実践編>では、仮想理事会や仮想ボードミーティングができて、自分のアイデアをどこまで形にできるんかな、など、実際リアルに地域でやるときどうするかが試せるので、ぜひ活用してほしいです。

 


入門編第1回「地域活動の解体新書」動画

参考:チョイサポしのだができるまで

※1:大阪ええまちプロジェクトでの「チョイサポしのだ」プロボノ支援

>>入門編第2回は、生活支援コーディネーターなど大阪府の地域課題をよく知る専門家からの情報共有を元にアイデアを出しあいました。詳しくはこちら


 

あなたも大阪府の地域活動立ち上げにかかわってみませんか?

大阪ええまちアカデミーの<実践編>では、大阪の各地域で地域活動の立ち上げに挑戦します。<入門編>を受講した方のなかから、「実践リーダー」として“やってみたい!”と声の上がった4つのプロジェクトについて、これからの地域活動の立ち上げにともにチャレンジする「実践メンバー」を募集します。
先輩団体や専門家からの伴走支援もありますので、ぜひ実践テーマ共有会にご参加ください。

 


実践メンバーを募集する2022年実践編のテーマ

テーマ:シニアと学生をつなぐ助け合いコミュニティ(茨木市)
キーワード : 高齢者、学生、施設、公園、介護予防、認知予防、コミュニティデザイン

テーマ:『地域が実家』地域の人・場所・物をフル活用!!地域みんなで家族(吹田市)
キーワード : 多世代交流・共感共有・居場所づくり・地域フル活用・大学連携・シニアの生きがいづくり・子育て応援・ワークシェア

テーマ:健康クラブ「つるみご近所さん」(大阪市鶴見区)
キーワード : 通いの場・健康・いきがい・楽しみ・有償ボランティア・社会貢献

テーマ:誰でも気軽に立ち寄れる居場所作り(大阪狭山市)
キーワード : だれかが誰かのために、ひとり一人が役立ち社会貢献へとつながる。


 

実践テーマ共有会 ご案内【こんな方のご参加をお待ちしています】

・地域活動を新たに取り組む実践リーダーと一緒に活動の具体化に向けて考えたい

・いずれ自分も活動を起こしたいと思っているが、まずは実践リーダーと一緒に取り組んで学びたい

・実践リーダーが提案する地域活動のプランを聞いてみたい

【開催概要】

日時:2022年9月4日(日)14:00〜16:00

開催方法:オンライン(Zoom)

プログラム(予定):

・大阪ええまちアカデミー実践編の説明

・実践メンバーへの立候補に関する案内

・実践リーダーによるプレゼンテーションと質疑応答

・ナビゲーター、アドバイザーによる講評

 

▽実践テーマ共有会へのお申込みはこちら

https://form.servicegrant.or.jp/eemachi-academy0904

 

 

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